July 17 〜 July 23 2023

" RFK Jr, MAiD in Canada, Goldman, Etc."
RFK Jr.の陰謀説、安楽死の危険、ゴールドマン、 Etc.


今週のアメリカで、引き続き最大のニュースになっていたのが、異常気象、特に猛暑のニュース。 マイアミは今週金曜の段階で41日連続で華氏100度、摂氏にして37.78度以上を記録。テキサス州エル・パソもそれを追いかけて35日連続の摂氏37.78度以上を記録。 それを上回るのはアリゾナ州フェニックスで、7月19日には1974年に打ち立てた記録を更新して、19日間連続で華氏110度、摂氏43.3度以上の気温を記録。 現時点で最高気温は47.2度という殺人的な暑さ。全米各地で猛暑に加えて、大雨による洪水被害が頻発することから、子供達のサマー・キャンプのキャンセルが相次いでいるのだった。
異常気象は世界共通の問題で中国の洪水、ギリシャ、アテネの山火事等も大きく報じられている一方で、 イタリアの観光地では 地元の従業員があまりの暑さに仕事をボイコット。旅行者も熱中症を恐れてツアーをキャンセルする有り様。
南極の海氷面積が史上最低レベルを記録し、多くの国々で史上最高気温が更新され、フロリダ周辺の海水温度が温水並みに上昇した今月7月は19世紀に 気象観測がスタートして以来、最高気温の月。 この暑さが一段落してからも、上がり続けた海水温度の影響で見込まれるのが 史上最悪レベルのハリケーン・シーズン。 自然災害による復旧費用が多くの国々の財政を圧迫することは確実視されているのだった。



ロバート・ケネディ・ジュニアがもたらすホラー


今週トランプ前大統領が自らのソーシャル・メディアで明かしたのが、彼が2020年1月6日の議会乱入に際しての 新たな容疑で合計3度目となる刑事訴追の対象になっているというニュース。 トランプ氏が自らこれを公開したのは、寄付金集めが目的と見られているけれど、 共和党内で最も資金を集めているのが、最も支持率が高いトランプ氏で総額3500万ドル。
それに次ぐ支持率を獲得しているフロリダ州知事、ロン・ディサンティスは2500万ドルと言われるものの、 今週報じられたのが その大半を使い果たしてスタッフを解雇したニュース。 ディサンティス陣営は劣勢を否定しているものの、一向に支持率を伸ばせないディサンティス候補に対しては、 共和党の大口ドナーで、大手ヘッジファンド、シタデルCEO ケン・グリフィンがその支持の保留を発表したばかり。
一方の民主党は バイデン大統領が5000万ドルの献金を集めているとは言え、大口ドナーのほぼ全てが バイデン氏の80歳という年齢を危惧しており、他に候補が居ればシフトする様子を見せている状況。 民主党唯一の対立候補は、5月に出馬表明をしたロバート・F・ケネディ・ジュニア(写真上右)で、 彼はジョン・F・ケネディ大統領の甥でもある環境弁護士。5年ほど前からはAnti Vaxer、すなわちワクチン反対主義の旗印として知られる存在。 今週には彼が「Covid 19は白人と黒人をターゲットに、ユダヤ人と中国人によって生み出された生物兵器」という陰謀説を語るビデオが公開されたけれど、 他にも彼の主張は 「農薬が人々をトランスジェンダーにする」など常軌を逸したもので、民主党支持者でさえ「トランプより酷い」と評する陰謀論者。
週末にはジョン・F・ケネディ大統領の孫で、元国連大使 キャロライン・シュロスバーグの息子であるジャック・シュロスバーグ(写真上左から2番目)が、 「ケネディ家の名前を陰謀説の流布に使用するな」と釘を刺していたけれど、 ワクチンについては「自閉症、糖尿病、多発性硬化症、注意欠陥障害等、全ての病の原因である」という 彼の事実無根の主張が、ケネディという名前で信ぴょう性を高めて拡散された結果、ワクチン反対運動を大きく盛り上げることに成功しているのだった。
そんな彼の影響力が悲劇に繋がったのがサモア島。サモアでは麻疹(はしか)ワクチンはパウダー状のものが一般的で、それを本来は水で溶いて注射すべきところを、 ナースのミスにより筋肉弛緩薬が使われたことから 2人の子供が死亡。 その死亡原因は程無く解明されたものの、フェイスブックを通じて 「麻疹ワクチンを投与した途端に2人の子供が死亡した」と拡散したのがロバート・ケネディ・ジュニア。 彼は後にサモアを訪れ、現地でも麻疹ワクチンの危険性を訴えたことから、サモアの子供達のワクチン接種率は70%から30%に下落。その結果2019年には人口20万人のサモア島で5万7000人が麻疹に感染。 83人の死者の殆どが子供達で、その全員がワクチンを接種していなかったことが明らかになっているのだった。
そのため医療関係者を中心に恐れられているのが、ロバート・ケネディ・ジュニアが大統領に当選することは無くても、選挙活動を通じて 陰謀説やミスインフォメーション、ディスインフォメーションを撒き散らすことで、それが何等かの実害をもたらすこと。
ロバート・ケネディは、現時点で民主党支持者から12〜14%の支持を得ており、ツイッターの創設者のジャック・ドーシーを始めとするシリコンヴァレーのCEO、 「サンディフック小学校の銃乱射事件はクライシス・アクターの狂言」という陰謀説で多額の賠償金を支払ったアレックス・ジョーンズらがその支持を表明。イーロン・マスクも彼のキャンペーンをツイッター上でホスト。 さらにトランプ氏の参謀であるロジャー・ストーン、スティーブ・バノンは、分断した民主・共和の統一を謳って、ロバート・ケネディをトランプ氏の副大統領候補として考慮し始めたという噂が流れているのが現時点。 これは常識では有り得ないチョイスであるとは言え、かつては誰もが「まさか」と思っていたトランプ大統領誕生の実例があるだけに、 選挙においては国民に知られたラストネームを軽視すべきではないのだった。



カナダ、安楽死の実態


今週イギリスのメディアが報じたのが カナダでの安楽死件数が記録的な増加傾向にあり、2022年には前年比35%増に当たる約1万3500件が報告されるという見積り。 尊厳死が特に急増しているのはオンタリオ州、アルバータ州、ケベック州などの人口が多い州で、 特にケベック州では2021年に2,427件だった安楽死の数が 2022年には3,663件へと51%増加。これは同州の全死者数の7%に当たり、 がんと心臓病に次いで同州死因の第3位であることが伝えられるのだった。
カナダは「世界で最も寛容な安楽死制度を実施している」と言われて久しく、対象は 公共のヘルスケア・サービスを受ける権利を擁する18歳以上。判断力が備わった状態で、他からの圧力ではなく、自分の意志で死を望んだ場合に MAiD(Medical Assistance in Dying / メイド)と呼ばれる 致死注射による安楽死のサービスを受けることが可能になっているのだった。 
カナダでは2015年に最高裁判所が 「自殺幇助の違憲化は不適切」との判決を下して以来、安楽死容認が始まり、その翌年 2016年に成立したのが 一定条件を満たした18歳以上の安楽死と、その自殺幇助を合法化する法案。当初は死期が迫った病人や障害者が対象であったけれど、 後にこの法律は 末期の病気や障害を持たない人でも 死が選択できるように対象者が拡大。現在カナダの議会では 子供や精神障害者に対しても MAiDへのアクセスを拡大するかが検討されているという。
カナダ人の大半は「尊厳死や安楽死は 思いやり、苦しみや差別の終焉」という意見で、「個人の自主的欲求に基づいた選択」として政府主導による安楽死プログラムを支持。 今年5月の世論調査によれば、カナダ有権者の4分の1以上が、「貧困層やホームレスにも MAiDで人生を終える許可を与えるべき」と回答しているのだった。
既に MAiDは政府の医療制度の一部として 主要な医療機関全てにそのチームが存在しており、 医療機関を訪れる重篤な病気や長期の病、または障害を抱える成人にアプローチしては、死を望む意志があるかを尋ねるプロセスが勧誘のように行われているのが 近年カナダで安楽死が急増した要因。 要するに銀行ローンや保険の勧誘と同じ感覚で、安楽死、尊厳死がオファーされ、命の重さに対する感覚が麻痺しつつあるのが現在のMAiDを巡る状況。 専門家は 「MAiDによる勧誘が、病人、障害者、貧困者に対して 早期に命を終わらせるよう圧力をかけている」と主張。 「このまま行けば、大量安楽死への危険な道を進むことになる」と警告しているのだった。
これは見方を変えれば、低所得者層、病人、老人、ホームレス等に対して、「苦しみから逃れる最も簡単な解決策」として安楽死を提案することにより、 貧困問題、医療問題、高齢化社会問題等、様々な社会問題に対する政治的な取り組みをしないまま 致死注射で問題解決を図ろうとするもので、 行政の怠惰を招くと同時に、社会の弱者を安易に葬ることを容認する意識を国民に植え付けるリスクをはらんでいるのだった。
元カナダ軍兵士で パラリンピックにも出場し、2016年のインヴィクタス・ゲーム(退役軍人版のオリンピック)では室内ボート競技と重量級パワー・リフティングで金メダルを獲得した クリスティーヌ・ゴーティエ選手は、昨年「車椅子用リフトの自宅への設置が遅れている」とケースワーカーに軽く不満を漏らしただけで MAiDによる安楽死をオファーされたとのこと。 「ショックを受け、絶望した」とその時の気持ちをメディアに語っているけれど、これは障害者がクレームをしただけで「だったら死ねば?」と言っているようなもので、 やがてそれが「障害者や病人には生きる権利はない」という差別意識に変わっていくのは時間の問題。
また うつ病歴を持つ61歳の男性は、家族の判断で 「難聴を苦にした安楽死」のゴーサインが出されてしまったとのことで、、MAiDが家族の厄介払いの手段になるのも時間の問題。 更に今週には 「法改正によって自分もMAiDの対象になることを望んでいる」という体重40キロの拒食症の女性がニュースになっていたけれど、 彼女は長年の栄養不足で骨や筋肉が劣化し、日常生活に耐えられないほど弱体化したことから、摂食障害治療で苦しむよりも安楽死を望んでいるとのこと。
ヒットラーもユダヤ人の虐殺による人種浄化に動く前は、まずドイツ人の病人、障害者、精神疾患者の殺害を行った歴史があるだけに、 カナダの安楽死制度拡大を危険視する声は多く、「カナダ政府、及び国民は安楽死を常態化し、死を受け入れるのではなく、人生を肯定して生きられるためのケアを推進する必要がある」 というのがその意見。しかし既にMAiDはカナダ政府にとって安価で 確実な問題解決法になりつつあるのだった。



今週のマネー & AI ニュース


今週アップルが開発中であると伝えられたのがチャットGPT、グーグル・バードに対抗するチャット・ボット。現時点で開発者チームは”アップルGPT”と呼んでいるとのこと。
そのチャットGPTの能力は日進月歩かと思いきや、リサーチャーによれば数学を含む一部の能力は現時点で今年3月に比べて衰えているとのこと。 また今週、9000人の著者やジャーナリスト達が、チャットGPT、グーグル・バード等のAIのトレーニングに際して、自分達が著作権を持つ書物や記事を使用した場合、報酬の支払いを要求するレターを送付したことが伝えられ、今後はAIトレーニングが有料になる気配を感じさせているのだった。
その一方で今週にはグーグルが、ウォールストリート・ジャーナルやNYタイムズといった大手メディアに対して、記事執筆専門のAIテクノロジーを提案。現時点でのメディアからのリアクションは、 まだ技術的に信頼できないという声が多く、ジャーナリストのポジションは暫し安泰。そのグーグルのリクルーターによれば、チャットGPTを含むAIアプリが使いこなせるのは新規採用の重要な条件。 チャットGPT等を使って簡潔に編集したレジュメは好感が持たれるとのことなのだった。

アメリカでは金利が急激に上昇した結果、ローンを組むハードルが上がり、金融機関側の貸し渋りが顕著になっているけれど、 それが最も数値に表れているのが自動車ローン。かつては最も組み易かったのが自動車ローンで、2021年にはローンが組めなかったケースは僅か1%程度(上のグラフを参照)。 それに対して今年の6月は申請の14%が却下されているのだった。車の価格がアップしている上に、利率も上がっているので、車社会のアメリカとは言え、車はどんどどん手に入り難くなっており、 アメリカ人が車を所有する平均年数は2022年には記録を更新して12.2年。カー・ローンが特に組み難くなっている理由は、ローンの滞り件数が最も多いセクターであるためと言われるのだった。

今週発表された2023年第二四半期決算で、昨年同期の27億9000万ドルから58%ダウンの10億7000万ドルの利益を計上したのがゴールドマン・サックス。 減益の要因は本来ドル箱部門である M&Aがスランプなのに加えて、商業不動産投資の損失、2021年に22億ドルで買収した消費者向け貸付業、”グリーンスカイ”のビジネスが不振であるため。 グリーンスカイのビジネスは既に今年4月の段階でCEOのデヴィッド・ソロモンが長期展望で続ける意志がない「匙投げ状態」を明らかにしていたもの。
同様にゴールドマンが手を引きたがっているのがアップルとのパートナーシップで5月にスタートしたばかりのハイイールド・セイヴィング・アカウントのビジネス。 これは年利4.15%を提供する預貯金口座で、ゴールドマンはこのパートナーシップをアメリカン・エクスプレスに肩代わりしてもらうために動いている真最中。 今四半期はJPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティ・グループがいずれも順調な業績を発表していただけに、期待外れの業績に終わったゴールドマンでは、 更なるレイオフが見込まれているとのこと。ちなみにウォールストリートの大手バンクだけで今年上半期にレイオフされた従業員数は2万1000人になっているのだった。

来週のこのコーナーは都合でお休みをいただきます。次回更新は8月1週目となります。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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