Oct 16 〜 Oct 22 2023

Copycat, War @ College, AI Stock, Etc.
コピーキャット犯罪, 米国大学&ビジネス界でも戦争, AIが盛り上げる株式相場, Etc.


今週もアメリカでは、イスラエルとハマスの戦争のニュースに最も報道時間が割かれていたけれど、水曜にはバイデン大統領がイスラエルを訪問。それと共にヨルダン等周辺諸国のトップと事態鎮静化に向けたサミットが行われる予定であったものの、そのプランを台無しにしたのがガザ地区の病院爆撃のニュース。イスラエル側はハマスの砲撃失敗であると映像を証拠に訴えたものの、 怒りに火が付いたパレスチナ側は耳を貸さず、事実の究明も極めて難しいことからサミットは中止。バイデン氏は成果を上げることなくアメリカに帰国しているのだった。 今後レバノンを拠点とするイスラム教シーア派テロ組織、ヒズボラがハマスを支援する場合、アメリカ軍の出動もあり得ると言われる中、ハマスの背後にいるイランの存在感がどんどん増していたのが今週のこと。
その一方でエンターテイメントの世界では、シンガーのアリシア・キーズやモデルのジジ・ハディドといったパレスチナ系アメリカ人のセレブリティのソーシャル・メディア・ポストに対して、イスラエル系、及び保守派勢力が 過敏なまでに「アンチ・セメティック(反ユダヤ)」と反応して、叩く様子が見られていたけれど、ジジだけでなく父親で不動産富豪のモハメッド、妹でモデルのベラといったハディド一家に対しては今週殺害予告が寄せられていたとのこと。 ソーシャル・メディアの言動で叩かれるのは一般人も同様で、木曜にはシティ・バンクの25歳のパレスチナ系美女バンカーが、ガザ地区の病院爆撃のニュースに腹を立てて「だからヒットラーは(ユダヤ人を)全員排除しようとした」と投稿したことから、 「こんな社員を野放しにするのなら取引を止める」との抗議が殺到。その日のうちにシティ・バンクは女性を解雇しているのだった。
戦争のニュースばかりが報じられたアメリカで、それでも毎日のように報じ続けていたのがテイラー・スウィフトのニュース。 NFLスターのボーイフレンドとのロマンス、記録破りとなった映画「エラス・ツアー」の興行成績等が 連日伝えられた中、遂に戦争のニュースにまでテイラーの名前が登場。というのも エラス・ツアー中にテイラーのセキュリティ・ガードを務めた元イスラエル兵の男性が、 ハマスと闘うために再びイスラエル軍に入隊したことが報じられたため。この男性は若い頃のリッキー・マーティンを彷彿させる甘いルックスで、ツアー中にテイラーのファンの間ではヴァイラルになっており、 戦争とテイラーのクロスオーバー・ニュースのネタになっていたのだった。



的外れな報道が招くコピーキャット・クライム


イスラエルとハマスの戦争が始まった直後に私が住むNYのアパートのマネージメント・オフィスから送付されてきたのが、ビル内のセキュリティ強化の通達。
その中には、地元警察と連携した警戒体制に加えて、「入居者がドアマンの連絡に応じない場合、フード・デリバリーをアパートまで届けせない」等の新たなポリシーが記載されていたけれど、 そうした対策を講じる理由の1つは、恐らく近隣にマンハッタン最大のモスク(イスラム教の礼拝堂)があるため。
実際に戦争突入直後から NYPD(NY市警察)が警備に当たっていることが報じられたのが NY市内のユダヤ教のシナゴーグ(会堂)とモスク。これらに何かトラブルが起これば、 NYでも宗教闘争に発展することが目に見えているのだった。
街中ではタイムズスクエアを中心にイスラエル、パレスチナの双方への支持活動、抗議活動が行われる中、地下鉄内ではユダヤ系の女性が パレスチナ系男性に殴られる事件、逆にイスラム教の男性が頭のターバンを解かれる事件が起こっており、ドイツの ベルリンではナチスドイツ政権時代同様に、ユダヤ人住居の扉にダビデの星が描かれるヘイト・クライムが発生。
そしてシカゴで起こったのがイスラム系の親子が借家の家主(写真上右)に襲われ、母親は命を取り留めたものの、家主に26回ナイフで刺された6歳の少年(写真上中央)が死亡した事件。 ちなみに少年はアメリカで生まれた、れっきとしたアメリカ人。殺人とヘイト・クライムを含む複数の容疑で訴追された家主はユダヤ系ではないとのこと。 自宅建物の1階を彼らに貸し出していた家主の妻によれば、家主は以前から親子に家から出て行って欲しかったそうで、 理由は「パレスチナ系の母親が友人に声を掛けて、家主家族を襲いに来る」というパラノイア的な考えに捉われていたため。 家主は過去のハマスのヴァイオレンスやガザ地区での動向には一向に関心を払っておらず、彼が犯したのはヘイト・クライムではあるものの、今回の戦争とは無関係と言える犯罪。 しかしメディアやソーシャル・メディアでは、それがあたかも 現在の戦争報道に煽られた コピーキャット・クライム(真似事犯罪)であると決めつけた報道をしているのだった。
現在、NYPD、イスラム、アラブ、パレスチナ系のコミュニティ、及びユダヤ系コミュニティが最も恐れているのがこうしたコピーキャット・クライム。 パンデミック中には「COVID-19の感染源は中国」と責める当時のトランプ大統領や保守派の言い分を、「アジア人に対するヘイト・クライムへのGoサイン」と捉えた人々による 憂さ晴らし犯罪が急増したのは記憶に新しいけれど、コピーキャット・クライムはいわば犯罪の世界の”トレンディング”や”ヴァイラル”に当たるもの。
今回の戦争関連のコピーキャット・ヴァイオレンスで特に危惧されるは、アジア人だけがターゲットだったパンデミック時とは異なり、 パレスチナ系、ユダヤ系という対立する双方がターゲットになり、襲った側が反対勢力でなかったとしても 火に油を注ぐ状況になってしまうこと。
NYでは、今週水曜に女性が地下鉄ホームから突き落とされる事件が起こり、現場から逃走した犯人男性は翌日に逮捕されたけれど、 その事件のせいで地下鉄駅が閉鎖されていることを知らされた人々が まず頭に思い浮かべたのも、”パレスチナ/ユダヤ絡みのヘイト・クライムでは?”ということ。 こんなご時世だと、メディアだけでなく人々の意識も、何か事が起こる度に パレスチナVS.ユダヤに結び付けてしまうようなのだった。



米国大学&ビジネス界でのイスラエルVS.パレスチナ対決


アメリカ国内で、現在のイスラエルとハマスの戦争が最も大きな対立を生み出しているのが、アメリカの大学、それもハーバード、コロンビア、ペンシルヴァニア大学といったアイヴィーリーグやNYU(ニューヨーク大学)等の名門校。
これらのキャンパスではハマスのテロ行為にイスラエルが報復した直後から 学生達がパレスチナ支援の活動を始め、キャンパス内でユダヤ系学生との反目する様子が見られ、 数日前まで友人同士だった学生達が、会話もしなければ目も合わせない敵対関係になってしまったことにショックを受ける声も聞かれる状況。
最初に大きなパレスチナ支持活動がメディアで報じられたのは名門中の名門、ハーバード大学で、学生がキャンパス内で抗議活動をし、連名でイスラエル非難の書簡を提出。 ところがそれを受けてビリオネア・ヘッジファンド・マネージャーのビル・アックマンが「反ユダヤ、親パレスチナ発言をした学生を卒業後に雇う意志はない」という雇用拒否を宣言。 その途端に複数のヘッジファンド・マネージャーがアクマンの主張に同調しており、特にこれまでハーバード大学に3億ドル以上を寄付ししてきたヘッジファンド、シタデルのCEO ケン・グリフィンは、 反ユダヤ活動をした学生の雇用拒否だけでなく、それらの学生に対する批判声明を出すよう 大学幹部に圧力を掛けたことが報じられるのだった。
またJ.P.モルガン・チェースのジェイミー・ダイモン、ゴールドマン・サックスのデヴィド・ソロモン等、大手金融機関のCEOも、親パレスチナ学生の雇用にまでは言及しなくても、こぞって打ち出していたのがイスラエル支持。 一方、芸能、金融と並んでユダヤ系が圧倒的なパワーを持つ司法の世界でも、カリフォルニア大学バークレー校の法学教授、スティーブン・ダビドフ・ソロモンが、大手法律事務所に対して行ったのが 「反イスラエルを主張し、差別を実践する学生を雇用するべきではない」という働き掛け。その結果、NYやカリフォルニアの大手弁護士事務所がそれに同調する声明を出しているのだった。
こうした金融、司法の雇用拒否宣言に一部の親パレスチナ学生は怯んだようで、当初ハーバードでイスラエルへの抗議活動を扇動した1人として報じられたのが、ロンドンのパフューマリーで、その後ブランドをエスティ・ローダーに売却したジョー・マローンの息子、ジョシュ・ウィルコックス。 ジョー・マローン、及びエスティ・ローダーは、「ジョシュの個人的な主張とブランドは無関係」という声明でダメージ・コントロールに追われていたけれど、複数のヘッジファンドが雇用拒否を宣言した 2日後には、「ジョシュ・ウィルコックスには反イスラエル、親パレスチナの思想はない」という手のひら返しが 保守系メディアで報じられていたのだった。

しかし大学のキャンパスではその後も親パレスチナ活動が拡大。大学側はそれに対し「個人の思想、及び言論の自由」というポジションを取っていたことから、 業を煮やしたのが富豪のユダヤ系卒業生達。 アメリカの大学経営が裕福な卒業生による寄付によって支えられているのは周知の事実で、毎年のように大口の寄付を行う富豪ファミリーが、 親パレスチナの学生に対して 明確なポジションを示さない大学側に付きつけたのが寄附金打ち切りの通達。
そんな中、メディアとのインタビューに答えたハーバード大学学長で、クリントン政権時代に財務長官を務めたラリー・サマーズは、「親パレスチナの姿勢がハマス支持、反イスラエルを意味する訳ではない」という見解を表明。 彼の穏健な意見に同調する声も多く、イーグルスビュー・キャピタル・マネージメント社長のニール・バーガーのように「未だ18歳、19歳の学生が様々な異なる思想を抱くのは仕方がない」と、 多感な若者の将来を切り捨てる措置を行き過ぎと捉える意見も少なくないのも実情。 また司法の世界では「合衆国憲法で定められた言論、宗教、表現の自由を守るべき立場の法曹関係者が、それを実践している学生に脅しをかけるのは常軌を逸した行為」という批判も浮上してきているのだった。
IT業界では、毎年大手IT企業を集めて行われるテクノロジー・カンファレンス、”ウェブサミット” の創設者 パディ・コスグレイブが、イスラエルの報復攻撃について「イスラエルには自国を守る権利があるが、国際法を破る権利はない。たとえイスラエルが同盟国であっても、戦争犯罪は戦争犯罪として批判されるべき」とX(元ツイッター)上で投稿したことが、ユダヤ系のIT関係者の反感を買い、複数のIT企業から寄せられたのが 「ウェブサミットとは2度と関わらない」というバックラッシュ。これに対してコスグレイブは「イスラエルとガザでの多数の人命損失に打ちのめされている。平和と和解を望んでいる」という穏やかな対応をしたけれど、 これは奇しくも NYでイスラエル側、パレスチナ側に別れて抗議活動を行う双方の人々が語っていたメッセージ。
また意外なところでは、マクドナルドもこの戦争に巻き込まれている企業の1つ。というのも異なるフランチャイズが、それぞれにユダヤ、パレスチナの支援を打ち出していることから、マクドナルドというブランドがどっちつかずの ”美味しい所取り”をしているイメージになり、それが批判の対象になっているとのこと。 そして先週このコーナーで 「戦争が始まって以来、今まで以上に誤情報や過激映像、ヘイトスピーチの発信元になっている」とお伝えしたX(元ツイッター)は、 欧州のデジタル規制当局からの締め付けが厳しくなったことを受けて、イーロン・マスクが Xのヨーロッパ市場からの撤退を視野に入れていることが伝えられるのだった。



AIが拡大する株式市場


現在100兆ドルに達したと言われるのが世界の株式市場の総額。 今週には、「その額が2030年までに3倍になる」という強気の見解をアーク・インベストのCEOキャシー・ウッドが語っていたけれど、 彼女がそう述べる根拠は 今後AIへの投資がどんどん増えて行くため。
事実、様々な業界で現在進んでいるのが、広範な機能を備えた汎用人工知能(AGI)の開発と導入。 AI懐疑論者たちが警鐘を鳴らす中、投資家はAIにどんどん資金を投入する傾向にあり、2023年第3四半期だけでAIスタートアップへの投資は179億ドル。 それ以外の分野のスタートアップへの投資が減少傾向にあるのとは好対照になっているのだった。
それとは別に株式市場を盛り上げる要因と指摘されるのが、一般庶民の間で株式投資熱が盛り上がっていること。 すなわち英語でリテール・インベスターと呼ばれる一般投資家が増えているようで、今週連銀が発表した2022年のデータによれば、現在株式を所有しているアメリカ世帯は全体の58%。 これは2000年のドットコム・バブル、そして日本でリーマン・ショックと呼ばれる2008年のファイナンシャル・クライシスの直前に達した53%を上回る過去最高レベル。 特筆すべき点は、ファンドを通じてではなく、直接株式を購入する人々の割合が、2019年の15%から 2022年には21%にアップしていること。 これも過去最高レベルの変化で、そのことが意味するのは アクティブに株式トレードをする人々が増えて来たということ。
この増加分を担っていると言われるのが、スマートフォンのアプリを通じてトレードをする若い世代。パンデミック中に支給された政府補助金を使ってロビンフッドで投資を始め、 ソーシャル・メディアを通じてゲームストップ株に遊び半分、ギャンブル気分で投資を始めた世代が、 一過性のトレンドではなく、引き続き株式投資を続けている様子が明らかになっているのだった。
そして若い世代はジェネレーションZを中心に「職場やその人間関係に時間や精神を拘束されたくない」という意識が強いことから、 上のジェネレーションのように「裕福な老後のため」、「仕事以外の収入が必要」という現実的な目的よりも、 「自由な人生を謳歌するため」というのが投資をする理由。 加えてこの世代は 「どんな仕事に就こうと、直ぐにAIに奪われる」と考えており、「いずれは投資だけで生計を立てたい」と考える傾向も強いとのこと。
要するにAIが株式市場の拡大にいろいろな形で貢献する様子を窺わせているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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