Aug Week 1, 2023
“Oppenheimercore?”
オッペンハイマーコア


パンデミック以前から映画館に足を運ばなくなっていた私が、何年ぶりかで IMaxシアターで観たのがこの夏の話題作「オッペンハイマー」。 3時間もの間、迫力のある大画面を観続けたので 正直なところドップリ疲れてしまったけれど、「オッペンハイマー」は ”原爆の父”と呼ばれる量子物理学者で、原爆開発の「マンハッタン・プロジェクト」を率いたJ.ロバート・オッペンハイマーを描いたクリストファー・ノーラン監督作品。
クリストファー・ノーランは私にとっては好きだか 嫌いだか分からない映画監督で、個人的に彼の作品で最もインパクトが強かったのは2000年公開の「メメント」。 これは記憶が持続しない男性が、妻を殺した犯人を捜し出すために、その手掛かりを自分の身体にタトゥーで入れながら犯人に迫っていくというストーリー。 その他にも「インセプション」、「インターステラ―」等、ストーリーとダイナミックな映像に惹かれて映画館で観た作品の方が多い監督。 でも見終わった後に、何か不完全燃焼的な感覚を残す作品が多く、 「オッペンハイマー」についても世界唯一の被爆国で生まれた立場としては、「言いたい事が一杯ある」というのが観終わった直後の正直な感想。 でもその気持ちは映画のコアのメッセージについて語ったクリストファー・ノーランのインタビュー記事を読んで改めることになったのだった。




「オッペンハイマー」は、この夏のもう1本の話題作「バービー」と同じ7月21日に封切られたことから、世の中ではその2本をくっつけた「バーベンハイマー」がトレンディング。 「バーベンハイマー」Tシャツは、この夏最大のトレンド・アイテムで、映画館でも街中でも「バーベンハイマー」Tシャツを着用する男性を特に沢山見かけたのだった。
当初クリストファー・ノーラン監督は「バービー」と同じ封切り日を嫌ったと伝えられるものの、蓋を開ければ「バーベンハイマー」のトレンドが 双方の作品にとって興行売上の相乗効果になるという意外な展開をもたらしたのは周知の通り。 タイアップ企業が100社を超える「バービー」がトレンディングになるのは当然である反面、 原爆を扱った3時間に渡るシリアスな作品 「オッペンハイマー」がこれだけの商業的サクセスを収めたのは、ハリウッド関係者にとってもサプライズと言われるもの。
そうなる理由の1つは、現在ポップカルチャー・トレンドを担うジェネレーションZが、これまでの世代よりも遥かにポリティカルであること。 学校で避難訓練と言えば火災ではなく、銃乱射事件に備えての訓練であったこの世代は、銃規制や自分達の将来を脅かす気象変動等、 様々な社会問題やそれを左右する政治に興味を持つ世代。 「オッペンハイマー」のストーリーは、ロバート・オッペンハイマーがマンハッタン・プロジェクトに関わる様子から始まり、原爆投下の9年後に当たる1954年に行われた安全保障公聴会、 その場でオッペンハイマーを個人的な確執から陥れる米国原子力委員会のルイス・ストラウス委員長、後にそのストラウスが商務長官に任命された時の承認公聴会で 暴かれる真実等、当時の政治と軍事のドロドロした人間模様が描かれる歴史的ポリティカル・ドラマで、その側面が意外にも若い世代を含む一般大衆にアピールしていたようなのだった。
その分 原爆の恐怖や、その投下の是非についてのツメの甘さは否めないのと、投下地を広島と長崎に決めるプロセスも実際よりも 遥かに割愛されて描かれていたので、映画では そのメッセージとは裏腹に、比較的安易に核兵器使用に踏み切った印象を与えていたのだった。




私が今まで生きて来た人生で唯一後悔しているのが、「学生時代の脳みそが柔らかい時にもっと勉強していれば良かった」という事。 特に世界史については、「もっと史実を知っていたら人生は変わらなくても、世界を見る目が変っていたはず」と思うことが多いけれど、 被爆国に生まれたとは言え、私が”マンハッタン計画”という存在を知ったのはアメリカに来てから。 マンハッタン計画は、ヒットラーによるユダヤ人迫害を逃れてアメリカにやって来た優秀なユダヤ系科学者、量子物理学者達によって、ドイツより先に原爆を 開発するためにニュー・メキシコ州のロスアラモスで行われた極秘プロジェクト。アメリカでは精鋭を集めたチームによる取り組みを「マンハッタン・プロジェクト」と表現することが多いので、 私は歴史の観点からではなく、英会話のたとえとしてその存在を学ぶことになったのだった。
「マンハッタン計画」は世界とその歴史に多大かつ致命的な影響を及ぼす発明であることを知りながら、世界を救う目的を掲げて行われたパンドラの箱のようなプロジェクト。 映画のネタバレではなく あくまで史実として書かせて頂くと、原爆が仕上がる前にドイツは降伏。 ロスアラモスで行われたトリニティと呼ばれる原爆実験が成功したのはポツダム会談の直前。科学者達は日本の降伏も時間の問題であるとして原爆使用に反対したものの、 当時の大統領ハリー・S・トルーマンが原爆投下を命令。第二次大戦を終焉させて一躍”時の人”になったオッペンハイマーであるけれど、 計り知れない罪悪感に苦しみ、 その後 ソ連との冷戦下で政府が進める更なる核開発、水爆開発に徹底して反対の立場を取ることに…。結局「世界を救う」ためのプロジェクトが、 「世界を破壊しうる火種」になったのは歴史が示す通り。
クリストファー・ノーランは「オッペンハイマー」のコアなメッセージは「Consequences / コンシークエンシス」であると語っていて、これは日本語には適切な訳が見当たらない単語の1つ。 原因があって結果があるというような、因果関係にある出来事の連鎖を差す言葉。 ノーラン自身は「オッペンハイマー」が現在のシリコンヴァレーに対する警告でもある とも語っていて、彼が意味するのは もちろんAIの開発。
私自身は Consequencesが 映画のフォーカスであるということを理解してから、原爆被害の無機質な描かれ方について 共感はしなくても理解は示せるようになったのだった。




こんなシリアスな映画でありながらファッション業界は、映画の中で主演のキリアン・マーフィーが着用した1940年代のジャケット丈が長めのレトロなスーツや、映画の主要キャラクターでマット・デイモンが演じる米国陸軍レスリー・グローブス将軍が着用したユニフォームを彷彿させるアーミー・グリーンのジャンプスーツ等を ”オッペンハイマーコア”のトレンドとしてプロモートし始めたところ。 でもそれよりも大きくブレークすると見込まれるのが女性版”オッペンハイマーコア”。 主演のキリアン・マーフィーが映画の中で被り続けていたフェドーラ・ハットは これからの秋冬シーズンにトレンド・アイテムとしてカムバックする見込みで、 これまでオーバーサイズのシルエットでトレンディングだったメンズ・スーツやコートも、 もっとスリムなシルエットでトレンディングになるようなのだった。 これはバービーコアのトレンドでピンクのフェミニン・ファッションが人気を博した反動という声もあれば、仕立ての良さやシックなイメージが ”ステルスウェルス” のトレンドの延長とも言われるもの。
映画の中でオッペンハイマーの妻を演じたエイミー・ブラントや愛人を演じたフローレンス・プーが着用した1940年代のレトロ・ファッションよりも フェドーラ・ハットとメンズ・スーツに女性達が惹かれ、男性の目からも そちらの方が女性がセクシーに見えるというのは、 時代の価値感だけでなく、女性に対するエクスペクテーションが変ってきたことを感じさせるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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