Vol.11 Apr. 14 2026
What I Heard About It, Then
中川財務大臣酩酊会見、当時私がNYで聞いた話


つい最近日本のYouTubeコンテンツを観ていて気になったのが、2009年2月のG7サミットで酩酊と思しき状態でプレスカンファレンスを行ったことで辞任し、 後に自らこの世を去ったとされる中川財務大臣の夫人が、17年が経過した今、その事実解明を求めていた件。
2009年の会見は、その直後から一時的とは言え、大きく円安が大きく進んでビジネスの追い風になったことから 私も良く覚えていているニュースで、 この会見は当時NYの金融関係者の間で「ヤラセ」、「日本の財務省の汚い小細工」とオフレコで語られていたのだった。 「ヤラセ」の印象を与えたのは、同様の酩酊状態と思しき会見をサルコジ仏大統領が、その2年前、2007年にドイツで行われたG8サミットで行っていたため。 このサミットが行われたのは2007年6月6日~8日で、期間中に行われたプレスカンファレンスに 「プーチン大統領との会合が長引いた」と言い訳をしながら 大幅に遅刻してきたサルコジ氏の様子が明らかにおかしかったことから、飲酒が疑われたのがこの時。
しかしサルコジ氏の飲酒を疑う発言をしたベルギーのニュースキャスターは後に謝罪。 サルコジ氏の様子については、就任後の初の国際舞台でプーチン氏に対し、2006年にロンドンで起こった反政府勢力の元KGB工作員、アレクサンドル・リトビネンコがロンドンで放射性毒物投与により暗殺された事件について 苦言を呈したところ、逆にプーチン氏から冷徹な脅しを受け、取り乱していたという説も流れていたのだった。
この会見については、英語で検索すると多数の記事や当時のビデオも出て来るけれど、日本語で検索すると文献が殆ど無かったので、 「その程度にしか日本で報じられなかったから、アイデアをパクったのだろうか?」と勘ぐってしまったのだった。



日本企業に円安の膨大な利益がプレゼントされた?


サルコジ会見を多くの人々が覚えていた欧米では、その2年後、同じサミットの席で起こった同じ”酩酊”会見だっただけに、 「何か裏がある」という印象を与えていたけれど、当時は日本経済が年率換算で12.7%も縮小した統計が発表されて、円安傾向が見られ、 財務長官の手腕が問われたタイミング。その段階で起こった酩酊会見により「日本経済が信頼を失った」というのが、直後から始まった 大幅円安についての欧米メディアの説明なのだった。
「日本経済が信頼を失う」と聞くと、日本にとって悪い状況を想像するけれど、実際には円安は日本の大企業に多額の利益をもたらす経済の追い風。 それを実感したのが 当時NYで行われた日本人が集まるイベントでのこと。米国最大手の証券会社の日本部門のお偉いさんがスピーチを行った際、 その締めくくりに ジョークのネタのように持ち出したのが中川大臣の酩酊会見。 「これによってトヨタ、XXXX,XXXをはじめとする日本企業に、XX百X十億円の利益をプレゼントしました!」というセンテンスで終わったのがそのスピーチ。 トヨタ以外の企業名は覚えていないけれど、誰もが知る大企業で、金額についても「何百億もの利益」というようなどんぶり勘定ではない、 具体的な数値で、会場中がうなるほどの膨大な金額だったことを はっきり覚えているのだった。
私はその時に、金融関係の友人が「日本の汚い小細工」と言った理由を理解したように思ったけれど、 この円安騒ぎには当時のIMF(国際通貨基金)への融資も大きく絡んでいると言われるのだった。

IMFへの1億ドルの資金援助に日本が仮合意したのは 2008年11月のことで、当時の総理大臣は麻生氏。 正式合意はG7サミット終了後の2009年2月13日のことで、日本がリーマン・ショック以降の世界経済の安定化を支援する目的で、IMFに1千億ドルを融資する協定が締結。 ちなみに2009年2月末の時点での日本の外貨準備高は1兆93億5,400万ドルで、中国に次いで世界第2位の額。 その10%弱に当たる1000億ドルをIMFに融資したけれど、これは俗に言う「ばら蒔き外交」ではなく、 日本は対価として利子を受け取ることになっており、IMFが初めて利子付約束手形を発行したのがこの時。
日本としてはIMFに融資をすることで、貸し倒れを防ぎながら 国際経済に貢献することが出来、公平性のある支援をIMFに一任出来るのが利点。 さらには ただ保有しているだけの米ドル資産の有効活用というメリットもあったのだった。



結局はキャッシュ・ディスペンサーになった日本?


ここで外貨準備について一応ご説明すると、日本企業が主に輸出で得た外貨、これはもっぱら米ドルであるけれど、その利益を日本円で取り込むには、 ドルを売って円を買う必要があるのは言うまでもないこと。 しかし多額の貿易利益分の円を買おうとすれば、猛烈な円高/ドル安になり、日米だけでなく世界の為替市場が混乱することから、 日銀・財務省が 米国債などのドル建て資産を購入することで調整しているのが為替バランス。 すなわち、日本企業が輸出で儲ければ、儲けるほど 「外貨建て資産=外貨準備高が増える」という仕組み。
私は国際金融の専門家ではないので、当時の友人の説明を明確に理解していない可能性があるけれど、この時私が説明されたのは 「日本の大手輸出企業が突如の大幅円安による莫大なドル建て利益を換金にやって来れば、日本政府はそのドルを やがては利息がついて戻って来るIMFへの融資に回すだけで、 ドル建て資産を増やす必要が無い」ということ、「それと引き換えに日本企業はコンピューター上の数字で円建ての利益を受け取る」ことになり、 「そうした資金の流れを最終的に帳尻が合うように操作するのが財務省の仕事」というような内容だったと記憶しているのだった。

中川大臣が、2008年のG20サミットの際、「日本はアメリカのキャッシュ・ディスペンサーにはならない」と当時のジョージ・W・ブッシュ大統領に詰め寄ったことで 米国政府からマークされ、「アメリカに殺される」と語っていたストーリーについては、現在の日本のメディア報道で初めて知ったけれど、 中川氏が財務長官を務めていた2008~2009年は、世界中でビリオネアを激増させた”円キャリー・トレード”が リーマン・ショックの煽りを受けて一時的にストップしていた時期。 ゼロ金利、もしくはマイナス金利で日本円を借りて、それをグロース株や暗号通貨を含む海外のリスク・アセットに投資して大きく儲ける ”円キャリー・トレード”は、1999年から徐々に始まり、リーマン・ショックまでの間に一部の投資家グループを大儲けさせたのは グーグル検索でも出て来る事実。
それが再開したのが2013年のアベノミックスの際で、マイナス金利で借りた多額の日本円を使って 世界中の富豪が絶対儲かる投資を行い、稼ぎまくったのが2024年まで。 それ以降も規模こそは縮小したものの円キャリー・トレードは今も継続中。
その間 日本はアメリカだけでなく、世界の富豪のキャッシュ・ディスペンサーとなっており、 海外の経済専門家は「日本は自国通貨の強さを犠牲にして、世界の富豪の資産形成を助けている」と皮肉っていたほど。 これだけ長きに渡って、日本の通貨が国内のインフラ強化や設備投資など、国内需要を高める用途ではなく、海外のマネーゲームに流れて行ったにも関わらず、 日本では円キャリー・トレードの実態について知らない人が多いのは驚くべきこと。
海外資本家が円キャリー・トレードの恩恵を受ける中、 日本政府は低金利融資の恩恵を自国の中小企業に与えることは無く、派遣社員による人件費削減など、ビジネスを成長させるよりも、逆に小さく回していくための 政策や法整備を整えていったのは周知の通り。しかし国内で十分なお金が回っていなければ、給与が上がず、貧困化が進み、経済と働く意欲が同時に萎えて行くのは当然のシナリオ。
親日家の外国人ほど、「他の国だったら大々的な反政府運動が起こる状況なのに、日本国民は自分の生活を支えるのに精一杯で、その状況を招いた政治勢力を未だに支持している」 という印象を持っているけれど、それには私も同感なのだった。

Yoko Akiyama



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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