June 24 〜 June 30 2019

”Win or Lose Not By Policy But By...”
民主党大統領候補のディベートに見る
ルックス、話し方、ボディ・ランゲージ、イメージの損得



今週のアメリカの話題と報道が集中していたのは大阪で行われていたG20サミットではなく、水曜と木曜の二夜連続で行われた2020年民主党大統領候補のディベート。 24人の候補が立候補している民主党では、その支持率と寄付金の集まり具合から選んだ上位20人を ランダムに2つのグループに分け、それぞれ2時間、2回に分けて行ったのが今週のディベート。
そのグループ分けの結果、水曜に放映された1回目のディベートに登場した支持率5位内の候補者はエリザベス・ウォーレンのみ。 現時点でトップを走るジョー・バイデン元副大統領、彼を追うバーニー・サンダース、カマラ・ハリス、ピート・ブティジェッジという メディアの関心が高い顔ぶれが登場したのは木曜に放映された2回目のディベート。 それを反映して水曜の視聴者数は1530万人、木曜の視聴者は1810万人で、 ディベート内容も「木曜の方がエキサイティングで、見ごたえがあった」という意見が圧倒的なのだった。





ディベートを放映したのは、3大ネットワークの1つNBCと、その系列のヒスパニック系ネットワーク、テレムンド。 加えてディベートの舞台がヒスパニック系が多いマイアミとあって、選挙の行方に影響力を持つヒスパニック層にアピールするために、 複数の候補者がアメリカのセカンド・ランゲージと言われるスペイン語で有権者に語り掛けていたのだった。 ニューヨーク市長として立候補しているビル・デブラジオも、プレスカンファレンスの声明の一部をスペイン語で行うのが NY市長の慣例なので、その度に下手なスペイン語を披露しているけれど、 ディベートでスペイン語を話していた複数の候補者は完璧にネイティブ、もしくはネイティブ・レベル。 中でもフランス語、ノルウェイ語、スペイン語、イタリア語等、英語以外に7カ国語を話す 37歳の最年少候補、ピート・ブティジェッジに対してはテレムンドのアナウンサーが 彼の語学力を試すかのようにスペイン語で話しかけていたけれど、 アメリカ人の耳に最も洗練されたスペイン語に聞こえたのは、問いかけに応答しただけの短いセンテンスであったとは言え、 ブティジェッジが話したスペイン語。
これまではアメリカ政治において外国語が話せることは、ヒスパニック系が多いエリアの地方選挙でスペイン語が役立つ以外は さほどアドバンテージとは見なされなかったもの。しかしながら2020年の大統領選挙では3200万人の ヒスパニック層が投票権を持ち、白人以外のマイノリティでは最大の有権者層となるだけに 軽視すべきでないのがスペイン語のパワー。 昨今のアメリカでは これらのヒスパニック層のことを”Latinx / ラティンクス” と呼んでいて、 これはラテン系男性を指す ”Latino / ラティーノ” と 女性を指す ”Latina / ラティーナ” の 性別を取り除いた ジェンダー・ニュートラル名称。 2020年の大統領選挙のキーワードになると言われるのだった。




メディアではディベートの放映直後からアンケート調査が行われ、2回のディベートの勝者と敗者がで報じられていたけれど、 20人の候補者の男女比は女性6人に対して男性14人。各ディベートはそれぞれ女性3人、男性7人の構成。 ダークスーツを着用しなければならない男性に対して、やはりステージ上で目立つのはカラーが着用できる女性候補。
初日のディベート直後のアンケートで、サプライズ・ウィナーになっていたのはディベート前は全く無名だった ハワイ選出の下院議員でアメリカ軍出身のトゥルシ・ガッバード(写真上一番右)。2時間のディベート中 彼女が発言していたのは僅か6.6分。 10人の候補者中3番目に少ない発言時間にも関わらず、翌日のアンケート調査で 彼女がディベートのNo.1勝者に挙げられた理由の1つは、捲し立てるように話す他の候補者とは異なり はっきりとしたクリアな口調で端的な発言をしたこと、さらにタリバンとアルカイダの区別がつかないオハイオ州選出の下院議員、ティム・ライアンをやり込めて その存在感をアピールしたこと。
初回のディベートでは知名度に勝るエリザベス・ウォーレン(写真上右から2番目)にも多くの人々が軍配を上げていたけれど、 顔の表情が地味で、声にパワーが無い彼女はトゥルシ・ガッバードとは正反対のプレゼンス。頭脳や理論展開は別として、トランプ大統領の強烈さに 対抗できると考える有権者は少ないのだった。

でも2回目のディベートが終わってみれば 誰もが話題にし、2回のディベートを総合した勝者に挙げていたのが カリフォルニア選出の上院議員、カマラ・ハリス(写真上左から2番目)。 彼女は昨年秋に行われたブレット・キャバナー最高裁判事の承認公聴会の際、 人工中絶を違憲に導くことが予想される彼に対して「男性の身体を規制する法律はあるのですか?」 という厳しい一撃をして一躍スターになった存在で、母親がインド、父親がジャマイカ出身の現在54歳。 マイノリティ人種である彼女が 現時点のトップランナー、ジョー・バイデンをやり込めたのが、彼女が小学生の頃に実施された 学校における人種分離撤廃のためのバス通学に、当時既に政治家であったジョー・バイデン(76歳) が反対し、 人種分離を推進した2人の民主党政治家の政策を彼がサポートしていたという事実。
カマラ・ハリスはジョー・バイデンに対し「私はあなたが人種差別主義者とは思いませんが」と前置きしてから、 当時バス通学をしていたカリフォルニアの少女にとって その撤廃を求めていたバイデンの政治姿勢が許せなかったこと、 その少女が自分であったことを目を潤ませながらも力強い口調で語り、 驚きと戸惑いの反応を見せるバイデン氏の現在の人種観を正すやり取りを展開。 元カリフォルニア州司法長官を務めた雄弁さとシャープさを披露し、時間制限を理由に 彼女への抗弁を控えたバイデン氏を弱々しく見せていたのだった。

以来、ソーシャル・メディアやメインストリート・メディアでは 早くもカマラ・ハリスを大統領候補、 そのランニング・メイト(副大統領候補) に 頭脳明晰でスムースな語り口の初のLGBTQ候補者、 ピート・ブティジェッジ(写真上左)を挙げる声が聞かれる状況。 このカマラ・ハリス人気の急上昇には トランプ大統領も若干の危機感を覚えたのか、 それまで「IQが低い」と馬鹿にしていたバイデン氏をかばい、 カマラ・ハリスを攻撃する発言を週末に行っていたのだった。




現時点で支持率ではトップを走っているグランパ候補、ジョー・バイデンとバーニー・サンダース(写真上左)は、 今回のディベートで特に有権者にアピールしていないものの、支持基盤が固いだけに1回のディベートが支持率にはさほど影響しない候補者。
逆に意外な存在感をアピールしたのは2014年に39歳の最年少でオバマ政権入りを果たした元テキサス州サントニオ市長のジュリアン・カストロ(写真上左から2番目)。 1日目のディベートでスペイン語を交えながら メキシコとの国境での移民問題について熱弁を繰り広げて大きくポイントを稼いだのが彼。 逆に彼にやり込められたのが昨年11月のテキサス州上院議員選挙でテッド・クルーズに敗れしたベト・オルーク(写真上右から3番目)。 日頃から身振り手振りが不必要に多く、メッセージ伝達の妨げになると指摘される彼は、カストロとのやり取りで答弁力の無さを露呈。 1回目のディベートのアンケート調査で最下位の評価となっており、現在はそのダメージ・コントロールに追われている状況。 彼の場合、政治家の割には目力が無く、顔の下半分の表情がいつも弛んでいるので、 特に報道写真で ロバのようなルーザー・フェイスに写ることもマイナス要因なのだった。

その一方で初回のディベートの役者不足が幸いして、好印象を有権者に与えたのがニュージャージー州選出の上院議員、コリー・ブッカー(写真上一番右)。 独特のキャラクターで知られる彼は、つい最近女優のロザリオ・ドウソンとの交際を明らかにしたばかりで、そのロザリオ・ドウソンは 熱烈なバーニー・サンダースの支持者。2016年の民主党党大会の際にはヒラリー・クリントンに対する抗議デモに参加していたことで知られる存在なのだった。
2回目のディベートで最も影が薄かったと言われるのは、アメリカ国民18歳以上に一律1000ドルのユニバーサル・ベーシック・インカムを与えるプランをアピールするアンドリュー・ヤン(写真上右から2番目)。 ブラウン大学、コロンビア大学を出たエリートで、ハイテク・アントレプレナー兼フィラントロピスト(慈善事業家)である彼は、 今回のディベートに唯一ノータイで登場し、ベト・オルークと共に壇上でジャケットのボタンを留めていなかった候補者。 NBCのホスト・アナウンサーによる彼への質問は僅か4回で、他の候補者に比べて極めて少なかったのに加え、 彼の場合、語っていることはユニークで意味を成しても、人を惹きつけるパワーに欠くスピーカー。 大統領選挙にはポリシーや語りの内容よりも、カリスマ性やエンターテイメント性のあるスピーカーであることが重要なのは 2016年の大統領選挙が立証していること。しかし彼のユニバーサル・ベーシック・インカムのアイデアは一部の人々にアピールしたようで、 アンドリュー・ヤンはディベート後に最もツイッターのフォロワーを増やした候補者の1人になっているのだった。

多くの民主党の有権者が2020年の大統領候補の条件として真っ先に挙げるのは ”エレクタビリティ”、 すなわちトランプ大統領に勝てる候補者であるかということ。 そのトランプ氏とて、選挙の1年以上前は有力候補に見なされていなかったことを思えば 民主党の有力候補もこれから徐々に変わって行くことが見込まれるけれど、今週のディベートの 翌日にさほど話題を提供しなかった無名候補者は既に脱落組。 その見地から現時点での候補者数は半分の10人に絞られたと言われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行


★ 書籍出版のお知らせ ★


アマゾン・ドットコムからのご注文
楽天ブックスからのご注文

当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2019.

PAGE TOP