Sep. 16 〜 Sep. 22 2019

”Generation Sober”
お酒を飲まないミレニアル&ジェンZ、
そのティートタリズムの背景は…



今週のアメリカで最大のニュースになっていたのは、 トランプ大統領がウクライナの大統領に対して、ジョー・バイデン前副大統領の息子、ハンター・バイデンが 取締役を務めていたウクライナのガス会社の不正捜査を強力にプッシュしていたことを国防問題として警鐘を鳴らしたホイッスル・ブローワーのニュース。 バイデン氏は現時点で2020年の大統領選挙でトランプ氏の対立候補と見込まれる存在で、ウクライナは アメリカが現在差し止めている軍事援助を頼りにする立場。対立候補の弱みを外国政府から国費と引き換えに入手しようとする行為が 事実であった場合には、明らかに大統領の職権乱用と見なされることから下院がその究明に動き始めているのだった。
さてそのトランプ大統領と言えば、お酒を飲まない"Teetotaler / ティートタラー"として有名であるけれど、 アメリカで現在増えて居るのが "Teetotalism/ティートタリズム" と呼ばれるお酒を飲まない主義。 お酒離れが顕著なのはミレニアル世代(1981〜1996年生まれ)で、それよりも更に飲まないと言われるのが センテニアルスとも呼ばれるジェネレーション Z (1997年以降生まれ、以下Gen Z / ジェンZ)。 一番年上が飲酒年齢に達したばかりのジェンZがミレニアルズよりお酒を飲まないことが何故分かるかと言えば、 この世代のティーンエイジャーの飲酒データが 既に減少傾向を辿っていたミレニアルズよりも更に少ないため。
ミレニアル世代の中には一時は普通にお酒を飲んでいたけれど途中からティートタラーになった人々が多いと言われ、 そのきっかけになっているのが ドライ・ジャニュアリー。 ドライ・ジャニュアリーは暴飲暴食が続いたホリデイシーズンを終えて、新年を迎えた途端に 1カ月間肝臓を休めるために行う禁酒ムーブメント。 ドライ・ジャニュアリーを実践する人はミレニアルに限らずベビーブーマーやジェネレーションX にも多いけれど、 それを継続するうちに体調の良さを実感するなどしてティートタラーになるケースが多いことが伝えられるのだった。




ミレニアル&ジェンZがアルコールを飲まない理由と言われるのは以下の通り。

確かに今やマンハッタンのバーやラウンジではカクテル1杯が20ドルは当たり前の時代。 しかもグラスが小さくても300〜600カロリー。 最もカロリーが少ないワインで1杯125カロリーであるけれど、 ワインやウィスキー等の落とし穴は消化に時間が掛からないエンプティ・カロリーなので、 脳が消化のためにリリースしたエンザイムが行き場を失って「消化する食べ物を送り込め」と言わんばかりに食欲を煽ること。 だからこそお酒と一緒に味わう食事が美味しい訳だけれど、 30代に入って体重を気にするようになったミレニアル世代の中には、 「お酒を止めただけで体重を落とした」というダイエットのサクセス例を誇らしげにソーシャル・メディアにポストするケースが多いのだった。
そのソーシャル・メディアも驚くほどミレニアル&ジェンZが飲酒を控える要因になっていて、 確かにソーシャル・メディアが無かった時代には、どんなに酔っ払って醜態をさらしてもせいぜい噂話止まり。 ところが今では酔っ払った様子の写真だけでなく、ビデオまでがインターネット上にポストされて、それが一生消えないことを 理解しているのがこの世代。 またアルコール中毒&依存症のアメリカ人が1500万人以上とあって、 家族や知り合いに中毒者が居ること、交通事故がほぼ無罪放免になる車社会アメリカで、 飲酒運転に限っては重犯罪扱いになることもミレニアル&ジェンZ世代をアルコールから遠ざけている要因。
さらには合法化が進むマリファナもアルコール消費に影響を与えていて、 ミレニアル&ジェンZ世代はアルコールよりもマリファナでハイになるのを好む世代。 というのもマリファナは快眠が得られる上に2日酔いになる心配がないので、 翌朝の目覚めがすっきりするだけでなく、コストパフォーマンスもアルコールより遥かにベター。 そのためお金を節約するヘルシー志向のミレニアル&ジェンZ世代は、圧倒的にアルコールよりマリファナを選ぶ傾向にあり、 それを反映してかマリファナ合法化がスタートして以来、アメリカ国内のアルコール消費量は12%も減少しているのだった。




今ではマンハッタンのレストランに出掛けると必ずと言って良いほど ノンアルコール・カクテルがドリンク・メニューにリストされているけれど、 ブラッディ・マリーのアルコール抜きをヴァージン・マリーと呼ぶように、 かつては”ヴァージン” と呼んでいたノンアルコール版のドリンクは、 ヴィーガン・ミートを”アルト・ミート”、”アルタナ・ミート”と呼ぶのと同様に、今では ”アルト・ドリンク”、”アルト・カクテル”という名称がすっかり普及。
私自身も一緒に出掛ける友人の年齢層が若い方がお酒を飲まない傾向を実感していて、 そういう時には私もリサーチを兼ねて”アルト・ドリンク”をトライするようにしているけれど、 レストランにとってアルト・ドリンクはリカー収入の減少を補う手段であり、店のアトラクション。 アルト・ドリンクは単にアルコールフリーなだけでなく、ヘルシー志向であるのも大切なポイントで、 キム・カダーシアンを含むセレブが2年ほど前から夢中のセロリ・ジュースを使ったものや、 ヴァージン・モヒートのようなミントはバジルをふんだんに使ったカクテル等が登場。 ミクソロジストの仕事はアルコールのミックスより、野菜ジュースのミックスになりそうな勢いなのだった。

菜食主義にもヴィーガンとヴェジタリアンがあるように、ティートタリズムにも お酒を一滴も飲まないティートタラーと、「日ごろは飲まないけれどソーシャル・オケージョンでは必要に応じて飲む」タイプに分かれていて、 デートシーンにおいてもティートタラーは 同様にお酒を飲まない人、もしくは極力アルコールを飲まない相手を望む傾向が顕著。 お酒好き同士が飲みながら意気投合するのと同様に ミレニアル世代のティートタラーの間では”飲まない人間同士のギルド”のようなものが成り立つ傾向にあり、 「飲まない人間の罪悪感」というものは、ミレニアル世代に限らず 突如アメリカ社会においてもどんどん消え行くコンセプトになりつつあるのだった。
レストランやバー業界にしてもティートタラーがアルコール・ドリンクと同等価格の アルト・ドリンクをオーダーしてくれる限りは文句はないようで、 近年のアルコールに対するスティグマも手伝って、今では アルコールを飲まない方が 「ヘルシー」、「キャリアにシリアス」、「セルフコントロールが出来る人間」といった 社会的エンブレムを獲得する傾向が高まってきているのだった。




そんなティータトリズムの影響で、過去5年間に通常のビールの売り上げが全く伸びていないのに対して、 4%セールスを伸ばしているのがノンアルコール・ビール。 それまでアメリカのビール会社がノンアルコール・ビールを積極的に売り込んでいたのは、 もっぱら飲酒の規制が厳しい中東諸国であったけれど、今ではそのターゲットがすっかり欧米に移っているとのこと。 その証拠に今やバーやレストランでビールをオーダーすると「アルコール入りかノン・アルコールか?」とチョイスを尋ねられることは少なくないのだった。
このアルト・ドリンク・ブームには多くのソフトドリンク企業も参入していて、 コカ・コーラも今年1月にドライ・エイジド・サイダーやジンジャー・ミュールを ビール・ボトルに詰めたBar None / バー・ノン(写真上左) というアルコール・フリー・ドリンクの発売を発表したばかり。
写真上のCeders / シーダーズ、Surendran and Bownes / サレンドラン・ボウンズ、Seedlip / シードリップは いずれも今トレンディングな ”アルト・ジン” (ノンアルコール・ジン)で1本約30〜45ドル。普通のジンと同等のお値段。 それでもパブリシティを獲得して、売上をどんどん伸ばしていることから、リカー会社が従来のアルコール・ドリンクよりも このところ開発費を注いでいるのがアルト・リカー。 このままだと飲酒人口がどんどん減っていくのは目に見えているだけに、リカー会社にとってアルト・リカーはサバイバルのための選択肢と言えるのだった。

かつてはイベントに付き物だったのがアルコール会社のスポンサーシップであるけれど、 今では若い層をターゲットにしたイベントほどアルト・ドリンクの企業スポンサーを探して、 アルコールフリー・イベントにする傾向が高まっているのが現在。
こうしたお酒を飲まないミレニアル世代に批判的なのがその親達であるベビー・ブーマー世代で、 ミレニアルズが結婚したがらない、子供を作らない、セックスをしたがらない、家を買わない、肉を食べない、 といったデータに加えてお酒まで飲まない様子に対して「一体この世代は何をやっているのか?」という疑問と侮蔑の目を向ける傾向にあるのが実情。
でも経済格差、環境破壊など金欲にまみれたベビーブーマー世代が築いた現代社会を考えるにつけ、 ミレニアルズやジェンZの価値観が彼らと大きく異なることは、逆に未来の社会に希望が持てることだと私は考えているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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