May 5 〜 May 11 2024

Met Gala, Starbucks, New Gamble...
METガラ、スターバックス転落、カジュアル・ギャンブル…


今週月曜に行われたのが毎年恒例のメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートへの寄付を募るMETガラ。ファッション界のオスカーともスーパーボウルとも呼ばれるこのイベントの 今回のチケット価格はインフレを反映してか、昨年の1枚5万ドルから 7万5000ドルにアップ。とは言ってもこの代金が払えるだけでは出席できないのがMETガラで、400人のゲストは チェアウーマンであるヴォーグ編集長、アナ・ウィンターの承認無くしてはゲストリストに名前が載ることが無いのは毎年のこと。
コスチューム・インスティテュートは、当初は別施設の博物館としてスタートしたものの、1946年にメトロポリタン美術館の一部となり、その時の条件が自力で集めた寄附金による運営であったことから、 年に1度のMETガラは コスチューム・インスティテュートにとっては年間運営費を集める大切なイベント。 コスチューム・インスティテュートがメトロポリタン美術館の地下に位置してしており、その日の目を見ないロケーションが示す通り、ファッションは美術館にとって 「アートとしての価値が疑わしい」と見なされてきた存在。 しかしメトロポリタン美術館で最も入館者を集めた歴代トップ10エキジビジョンのうち3つが、2011年のアレクザンダー・マックィーン展を含むコスチューム・インスティテュートのイベント。 加えてMETガラが美術館に多大なパブリシティをもたらすとあって、今では美術館側が冷遇出来ない存在になってきたのがコスチューム・インスティテュート。
昨年には一晩で2200万ドルの寄付を集めているけれど、今年はチケット代が上がっているのに加えて、メイン・スポンサーとして出資しているのは現在アメリカ国内で存続の危機にあるソーシャル・メディア、TikTok。 米国議会は、少し前にTikTokに対し、「アメリカ企業に身売りをしなければ、アプリ閉鎖」を強制するアンチTikTok法を可決しており、今週TikTokにはそれを不服として訴訟を起こしたばかり。 METガラのスポンサーシップは、そんなTikTokが アメリカ国内のリッチ&フェイモスからのサポートを獲得するための恰好のイベントで、 アナ・ウィンターは近年、TikTokに限らず IT業界とファッション界のパイプを太くするために METガラを巧みに利用していることが指摘されるのだった。



業績悪化のスターバックスが来店客を失う理由


先週発表された2024年第1四半期の業績で、売り上げ不振を露呈した結果、株価が1日に12%下落したのがスターバックス。
業績不振の理由の1つはイスラエルVS.ハマス戦争に関するソーシャル・メディア投稿を巡って、親パレスチナ派の人々からのボイコット運動にあっていること。 特に親パレスチナ派の抗議活動が激化する大学キャンパス内の店舗は、学生客離れで大打撃を受けているのだった。
またスターバックスでは近年、組合が結成される店舗が増えたけれど、本社からの妨害工作と闘った末に結成された労働組合、スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドが、 昨年11月のレッドカップ・デイに行ったのがストライキ。 レッドカップ・デイは毎年ホリデイ企画のスペシャル・ドリンクをオーダーした来店客にリユーザブルのホリデイ・カップをプレゼントする日で、年間売り上げが最も高い日。 この日をあえて選んでストが行われたのは、スターバックスがコンスタントに労働基準法に違反するブラック企業であることを訴えるためで、 そんな労組の活動、パレスチナ問題は確実にスターバックスのイメージダウンをもたらしているのだった。
加えて 世の中はインフレの影響で生活費が嵩んでいるので、庶民にとって スターバックスは贅沢品。 さらには自宅とオフィスでのハイブリッド勤務が増えた影響で、自宅でグルメ・コーヒー・マシンを購入し、オフィスに出勤する際には自宅で淹れたコーヒーを スタンレー・カップに入れて持ち歩く人々が増加。 その結果スターバックスは、2024年第1四半期に客足を7%失っており、これはライバルであるダンキン、マクドナルド、ティム・ホートンといったチェーンの平均3%減に比べると2倍以上。 スターバックス離れをした人々がライバル・チェーンに移行する傾向も顕著なのだった。

そんな中、メディア、ソーシャル・メディア、スターバックス元CEOのハワード・シュルツらが批判したのが、モバイル・アプリを通じてスペシャル・ドリンクやカスタム・トッピングのオーダーが簡単に出来るようになった結果、 待ち時間がとんでもなく長くなったストア・オペレーションの問題点。 現在のスターバックスでは、アイスコーヒー1杯をオーダーする場合でも、自分の前の来店客が”アイス・ラヴェンダー・クリーム・オートミルク・抹茶”や、”オレアト・ゴールデン・フォーム・アイスシェイク・エスプレッソ with トフィーナッツ&エクストラ・クリーム・トッピング”をオーダーすれば20分待ちは当たり前。 それに嫌気が差したTikTokerが、「スターバックスもスーパーのレジのように、シンプルなオーダーの来店客のためにエクスプレス・ラインを設けるべき」と抗議をして ヴァイラルになったばかり。ちなみにスーパーのレジのエクスプレス・ラインは、通常10アイテム以下の購入客を対象に、会計をスピーディーに行うシステム。
若い世代が、アプリを使って裏メニューを含む複雑で、高カロリー、高糖分のドリンクをオーダーし、それをデザート感覚で味わう様子がTikTok等のソーシャル・メディア上でもてはやされる中、 今もスターバックスの売り上げの半分が集中するのが午前中、特に朝の通勤時。そしてその時間の客層が、アイスコーヒーやラテなど単価が低いオーダーでも、その後のランチタイムや午後の休憩時等、1日複数回足を運んで 売り上げを支えて来たのが従来のスターバックス。 現在のスターバックスの経営不振は、そんな本来の顧客をないがしろにして、ソーシャル・メディアでバズをクリエイトするジェンZの複雑なオーダーやエクストラ・トッピングを優遇した結果の失策と見られており、 2024年3月現在、アメリカ国内に1万7068店舗を抱えるスターバックスの業績維持のためには、成長を支えて来た顧客層の取り戻しは不可欠なのだった。
ちなみにアメリカのスターバックス・ファンが最も羨ましがるスペシャル・ドリンク・メニューのラインナップを揃えているのが、他ならぬ日本のスターバックス。 ジェンZ世代の間では「日本に旅行したら絶対にスターバックスに行く!」という声も聞かれるほどで、 日本のバリスタの方が手際良く複雑なドリンクが作れるせいか、事前のアプリオーダー無しでも 待ち時間がアメリカよりずっと短いようなのだった。



ゲーム・センター・レストラン、デイブ&バスターズが、カジュアル・ギャンブルをスタート!


レストラン兼ゲームセンターであり、スポーツ・バーとしての側面も持つ Dave & Buster's/デイブ&バスターズは、2024年1月の段階で全米に161店舗を構えるチェーン。全店舗の13%に当たる21店舗がカリフォルニアに集中しており、2022年には前年比出50.6%アップの20億ドルを売り上げる躍進中の企業。 特に若い世代の間で絶大な支持を集めているのだった。
そのデイブ&バスターズが先週発表したのが、来店客が店内の人気のゲーム機でギャンブルが出来るようになるという新展開。 来店客はデイブ&バスターズのモバイル・アプリを通じて、人気のバスケットボール・ゲーム「ホットショット」や「スキーボール」などのアーケード・ゲーム(ゲームセンター用に開発されたゲーム)で、 5ドルを賭けることが出来るようになるとのこと。 アプリは 今後数か月以内にiOSとアンドロイドでリリースされ、ゲーミフィケーション・ソフトウェア企業の Lucra/ルクラがテクノロジー面でのパートナーになっているのだった。
アメリカでは2018年5月14日に連邦最高裁判所がスポーツ・ギャンブルを合法化したのに始まり、パンデミック中にはロビンフッドのアプリを通じたMemeストックへの投資で 若い世代のギャンブル熱が急速に高まり、クリプトカレンシーの世界でもMemeコインの爆上げで若きミリオネアが続々と誕生。またアメリカのメガ・ミリオン、パワー・ボールといった宝くじは なかなか当選者が出ないようにルールを改定した結果、繰り越しになる賞金額が課税前で10億ドルを超えるケースが珍しくない状況。 そのため一攫千金のギャンブル・メンタリティが特に若い男性を中心にどんどん高まって来たのが近年。 ハイリスクの投資やリスキーなギャンブルにスリルを感じる様子は、かつて若い世代がバンジー・ジャンピングやエクストリーム・スポーツに見出していたのと 同等の「スリル・シーキングのメンタリティ」とも解釈されるのだった。
そんなご時世を受けてデイブ&バスターズが、少額とは言えアーケード・ゲームでのギャンブルを可能にしたのは、 「常連客に対して 最先端のテクノロジーを通じて、リアルタイムで他にないゲーム体験を提供し、顧客体験を向上させるため」だそうで、 デイブ&バスターズにとって この「顧客体験向上」はチェーン拡大と業績アップを担って来たスローガン。
常連客のためにフード&ドリンクの無料提供やディスカウントを提供するリワード・アプリを通じて、既に500万人のロイヤルティ・メンバーを擁するデイブ&バスターズは、 新たなギャンブル・アプリによって、これまでは来店客がプレー料金を一方的に支払うだけだったゲーム・センター・ビジネスを、 よりエキサイティングかつフレンドリーな社交場に進化させ、 ギャンブルに付きまとう汚名を返上する目標を掲げているのだった。



一般人のスポーツもギャンブルにするルクラ



一方、パートナーのルクラは、ピア・トゥ・ピア、すなわち個人間で行われるゲームやスポーツのレクリエーション・ギャンブルを150以上擁するプラットフォームで、5万人を超えるアクティブ・プレーヤーを抱える企業。 そのうちキャッシュが賭けられるのは18歳以上の成人を対象にした44のゲームで、ルクラでは、それをギャンブルとは呼ばず「リアルマネー・コンテスト」、「リアルマネー・チャレンジ」と呼んで、 「賭け」や「賭け金」という用語を使用しないように配慮しているのだった。
その理由はルクラが行っているのが ゴルフやテニスなどの力量を競う「スキル・ベース」のゲームに対する賭けで、 ルーレットやスロットマシンのような可能性に賭ける”チャンス・ゲーム”とは異なるため。同じギャンブルでも、スキル・ゲームとチャンス・ゲームでは法律的な規制が異なるとのことなのだった。
ルクラは、スタンフォード経営大学院卒の同級生で、共にゴールドマン・サックスに勤めたディラン・ロビンスとマイケル・マディングによって2019年に設立されたスタートアップ。 デイブ&バスターズとのパートナーシップ契約を締結する以前に、複数の投資会社やVC(ヴェンチャー・キャピタル)から約1,400万ドルの資金調達をしており、 その投資家の中には、2018年のスーパーボウルでフィラデルフィア・イーグルスの一員としてチャンピオンに輝いたNFLプレーヤー、ザック・アーツ、 彼の妻でプロサッカー選手のジュリー・アーツも名を連ねているとのこと。
昨今ではスポーツ選手にとって 将来性のあるスタートアップへの投資は、エンドースメント(企業広告への出演)よりも遥かに美味しいビジネス話。 そもそも企業広告が集中するのは一流エージェントが付くトッププレーヤーのみ。成績とイメージを保つプレッシャーや、20%のエージェント料の支払い等を 考慮すると、「輝かしいキャリアでは無くても 高額年俸が稼げるうちに、それをスタートアップに投資をした方が、楽に裕福なリタイアメント生活が送れる」 というのが現在のスポーツ界での一般認識。
大きな視点で捉えると、様々なレベルでマネーゲームが行われていることに気付くけれど、底辺で動くキャッシュはワンプレイ 5ドルと極めて少額。 しかし上層部で動くのは100万ドル単位の投資で、こちらの方が勝率が高く、税制でもプロテクトされる分、好条件のマネーゲームと言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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