Bad After Taste of Michelin-Starred
Chef’s Table at Brooklyn Fare

ミシュラン3つ星のシェフ解雇、閉店、裁判、
泥沼展開を見せたシェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェア

Published on 8/25/2022


2023年7月に人知れず閉店していたことが報じられたのがNYのミシュラン3つ星レストラン、シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェア。 13コースのテイスティング・メニューがチップ、課税前で$430ドルという高額レストランは、店内に18席しかないことから、最も予約が取り難いと言われた存在。
7月にロンドンや台湾からはるばるやって来た旅行者は、事前の連絡が無かったことから、店に到着してから閉店を知ったと言われ、 閉店について知らされていなかったのは、解雇が言い渡されていなかった同店の従業員もしかり。 従業員は来店客に「キッチンの安全性の問題でのクローズ」と説明する形で口裏を合わせていたとのことであるけれど、 閉店の引き金になったのは、レストランのオーナー、モ二ア・イッサがシェフのセサール・ラミレスを解雇したこと。 その理由はラミレスが3万ドルのロマネコンティのボトルを妻と共に私用に着服したのに加えて、店の備品や財産を運び出していたためと説明され、 イッサが警察に通報したことから、ラミレスが一時逮捕される事態が発生。 彼は後に釈放され、今度はイッサとレストランの持ち株会社、マンハッタン・フェア・コーポレーションに対して、未払い賃金、名誉毀損、損害賠償請求で訴訟を起こし、 加えて解雇についても「恣意的」だった抗議。
一方イッサ側は、昨年レストランのパートナーに昇格したラミレスが主張する未払いの賃金は、「パートナーとしてのシェアで支払われている」と反論。 「ラミレスのレストランでの態度や、従業員に対する接し方が虐待的」であるとして、 双方が弁護士を雇って遣り合う法廷闘争が繰り広げられていたのだった。



瞬く間に3つ星を獲得した天才シェフ


ブルックリン・フェアは、イスラエル生まれ、ブルックリン育ちの モ二ア・イッサが2009年にオープンしたグルメ食料品店。同店で扱う食材の優秀さをアピールするために、 店に併設したレストランでその食材を使ったグルメ・キュジーヌを提供することを思いついたイッサは、イノベイティブで食材の持ち味が生かせる若手シェフを探すうちに巡り合ったのが、 メキシコ生まれ、シカゴ育ちの当時の新進気鋭シェフ、セサール・ラミレス。
当時彼は、1990年代にNYのトップ・フレンチ・シェフとして君臨したデヴィッド・ブーレーのトライベッカのレストラン、”ブーレー”を辞めて、ウエスト・ヴィレッジに”バー・ブラン”をオープンしたばかり。 独学で料理を習得し、一流店に努めるに至ったラミレスの、研究熱心かつ独創的の料理に惚れ込んだイッサは彼をシェフとして雇い、店内に設けた小さなカウンターで、 北海道のウニ、中国のカルーガ・クイーン・キャビアなど、高級シーフードを使ったテイスティング・メニューをサーヴィングするレストランをスタート。 これがシェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアの誕生のストーリー。
やがて口コミでその評判が広まった同店が、世界に138軒しかないミシュラン3つ星レストランの 1つになったのは2011年のこと。2016年には、それまでブルックリンにあった店舗をマンハッタンに移転。 ニューヨークで最も評価の高いレストランの1つに数えられてきた同店は、2023年世界ベスト・レストラン 50のランキングでも、米国レストランの最高位にランクイン。 アメリカ国内はもとより、世界で認められるレストランになって久しい存在。 2022年にはラミレスがレストランのパートナーに昇格。
しかしその頃から徐々に不協和音が聞こえて来たのが過去14年に渡ってオーナー&シェフとして良好な関係を築いてきたイッサとラミレスの関係。
そもそも一流レストランのキッチンと言えば、軍隊レベルの規律を持って運営され、シェフは神格化された存在。 ラミレスはワンマン、几帳面、気難しい完璧主義者が多い有名シェフの中でも、特に横暴で短気と言われる人物。 その彼がパートナーになったことで、ビジネスに対するコントロール意欲が益々高まり、 それが僅か1年の間にイッサとのエゴの闘いに発展していたのだった。



ラミレスの偏執的パラノイアの側面


多くの才能あるシェフが人間的に歪んでいるのは前述のとおりであるけれど、そのために批判を受けるだけでなく、訴訟まで起こされてきたのがラミレス。
そのうちの1つは彼のアジア人差別に対する従業員による集団訴訟。常にアジア人の来店客に一番悪いカットの肉をサービングしていたラミレスは、アジア人客を「Shit People」と呼ぶ等の 差別発言をしていたとのこと。これに対してラミレスは「85%の食材がアジアから来ているのだから、自分はアジア人差別などしていない」と、人と食材の区別がつかないような弁明をしていたのだった。
またレシピやアイデアを盗まれることを極度に嫌ったラミレスは、フード・クリティックがメモを取っていても、スタッフが新しいメニューの説明ポイントについてのメモを取っていても怒鳴りつけることで知られ、 自分の日常生活についても店内にスパイが居ると疑うパラノイアぶり。 加えてキッチン・ガジェットやシルバー・ウェイアがスタッフに盗まれることを極度に嫌っていたことから、神経質なまでに頻繁に在庫のチェックが行われていたとのこと。 更に従業員からは チップや残業代の支払いを拒んだことでも集団訴訟を起こされており、訴訟はいずれも示談で解決しているのだった。
そんなナルシストでパラノイアのワンマン・シェフの下で働いたスタッフのリアクションは、両極端。 ブルックリン・フェアは客単価が高いとあって、給与が全般的に安いレストラン業界にあって 年収が10万ドルを超えるスタッフも居たようで、 そうした高給取りのスタッフは、ラミレスの才能を高く評価し、「彼から多くを学んだ上に、経歴に箔が付いた」とポジティブなリアクション。
しかしそうした声はマイノリティで、多くの従業員は「常に緊張でピリピリしていなければならない職場」、「ラミレスほど仕事がしづらい人間は居ない」と猛批判するのだった。 例えば、ラミレスは「自分の料理は、運ばれてきた途端に味わうべき」という考えの持ち主で、サーバーに対して固く禁じているのが、料理を運んだ後に 来店客と話しをするなど、その場に居座ること。 しかしある時、常連客が顔見知りのサーバーと話をしたがったことから、サーバーが通常以上に常連客のところに居座ることになってしまい、それに腹を立てたラミレスは 厨房が来店客に一望出来るオープン・キッチンでの中で、壁を殴って怒りをぶちまけたことが伝えられるのだった。
そんなラミレスの口癖は「いい加減な仕事がしたいなら、パー・セで働け」というもので、同じ三ツ星でも、衛生面から料理のクリエーションまでのツメが甘いと言われる同業者への攻撃も怠らない口の悪さ。 昨年公開された、離島のグルメ・レストランを描いた「The Menu」に登場する完璧主義のシェフを、コペンハーゲンの世界No.1レストラン、Nomaのシェフ、レネ・レゼピをモデルにしたという声が多い中、 シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアの元従業員は、「このモデルがラミレスでも驚かない」と口々に語っているのだった。 ちなみにこの作品は美食家カルチャー、フード・メディア、一流シェフとそのキッチン・スタッフの異様な主従関係や、富裕層のスノビズム等をシニカルに描くホラー・コメディ。 シェフに扮するのはレイフ・ファインズで、他にアニア・テイラー・ジョイ、ニコラス・ホルトが出演しているのだった。



新たなビジネスの展開


悪評が多いラミレスであるものの、これまで彼の理解者であり、彼を擁護し、支えて来たのがイッサ。 その背景には、もちろんシェフとしてのラミレスを信頼していたことが大きいものの、2人は共に子供時代は孤児で、当初から不思議な絆で結ばれた仲であったとのこと。 また、イッサもラミレスも共にレストランで一切仕事をしていない自分達の妻を従業員として登録。1週間に2000ドルの給与を支払うという 公私混同ぶりを行っていたことも伝えられるのだった。
7月に閉店したシェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアは予約の段階で200ドルのデポジットを支払う必要があることから、閉店の時点で返却した予約金は総額23万7000ドル。 高級レストランは赤字ギリギリの経営が多い中、シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアは、年間500万ドルの利益を上げる珍しい存在。 その秘訣はレントが比較的安価なエリアにある、キャパシティ18人のこじんまりしたオープン・キッチンの店舗で、装飾費用やメンテナンス・フィーも掛からず、いわばキッチンで料理をサーヴィングしているようなセッティング。 そのためキッチン・スタッフ、ワイン担当者、フロント・スタッフ、サーバーを含め僅か24人で効率良く運営されているのだった。 それが同じ三つ星でもイレブン・マディソン・パークになると、一等地の大きな店舗で100人以上のスタッフを抱えての運営であることから、レントから人件費までの固定費用が膨れ上がっているのだった。
しかしそんなコスト・パフォーマンスが良いシェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアでも1日クローズすることによって4万5000〜5万ドルを失う計算。 その上に、イッサとラミレスはお互いのエゴの闘いのために多額の弁護士費用を支払っていたけれど、当初から確実であったのは2人がもう元の鞘には戻れないこと。 そのため現在はお互いに、新たな道を模索することで合意していると伝えられるのだった。
シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアは、今年10月に再オープンする予定で、キッチンで新たな責任者となるのは 以前ラミレスの下で働いていたマックス・ナットメスニヒとマルコ・プリンス。 新しいチームになってからも 従来の13コースのテイスティング・メニューの形式を維持するとのことで、以前よりアットホームで温かみがある店づくりを目指すとのこと。
一方のラミレスは、解雇された直後にマンハッタン・ダウンタウンの333ハドソン・ストリートの賃貸契約を交わしたと伝えられるものの、 果たしてそれが彼の次のレストランのための契約かは定かではないとのこと。
今後は、シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェアがラミレス無しでもこれまで通りの集客と評判を維持出来るか、そしてラミレスがこれから自力でレストランをオープンするのか、 それとも彼に新たなバッカーやマネージメント会社がついての再出発になるのかが見守られるところ。 しかしただでさえ扱い難いシェフNo.1と言われたラミレスは、今回の泥沼劇で更にビジネスがし難いイメージを高めており、果たしてバッカーやマネージメントが簡単に見つかるかは微妙なところなのだった。


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