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June 19 〜 June 25 2023

"Titan, Abortion, Japanese Millenials, Etc."
潜水艦タイタン、あれから1年、海外から見た日本のミレニアル世代, Etc.


今週のアメリカは週明けにブリンケン国務長官が中国を訪問し、シー・ジンピン主席と会見。昨今 ギクシャクする米中関係であるものの、 そこで強調されていたのが 経済的見地からディカップリングが出来ないことから友好関係を保とうとする両国の様子。しかしその直後にバイデン大統領がシー・ジンピン主席を非公式に「独裁者」と語ったことから 中国政府が抗議。バイデン氏はその主張を曲げないまま、木曜にはインドのモディ首相を国賓として迎え、インドが抱える数々の人権問題を無視しながら アメリカが中国よりインド寄りである様子を印象付けたのが今週。
アップルがアイフォン生産の7%をインドで行い、テスラのイーロン・マスクもインドでの生産を示唆するなど、このところビジネス界で着々と進んでいるのが中国離れ、インド寄りの姿勢。しかし アップルでさえその生産移行がスムースには進んでいない様子がレポートされる一方で、イーロン・マスクはフリー・スピーチの復活を掲げてツイッターを買収した割には、 インドにおけるモディ批判を取り締まるセンサーシップをツイッター上で強化したばかり。
そのモディ首相は訪米中に、2014年の首相就任以来 初めてプレスカンファレンスに応じ、記者から尋ねられた人権抑圧に関する質問に対して、 「人権が認められなければ民主主義はあり得ない。差別など入り込む余地は無い」とあっさり跳ねのける様子を見せていたのだった。



潜水艦タイタンに見る、エクストリーム・ツーリズムの悲劇


今週アメリカだけでなく、世界中で報道時間が割かれていたのが 1912年に沈没したタイタニックの残骸を観に行くツアーの潜水艦、タイタン遭難のニュース。 タイタンには、このツアーを数年前から主宰するオーシャン・ゲートのCEO ストックトン・ラッシュ、英国人ビリオネアのハーミッシュ・ハーディング(写真上右)、 パキスタン人富豪実業家 シャザダ・ダウッドと彼の19歳の息子 スレマン、個人資産15億ドルの退役フランス軍人で、タイタニックのエキスパートとして知られるポール・アンリ・ナルジョレという5人のミリオネアが乗船。 潜水艦内には椅子も無く、ジップロック・バッグをトイレ代わりにするという待遇ながらもツアー参加費用は25万ドル。 そのタイタンは、潜水艦専門家から 映画「タイタニック」監督、ジェームス・キャメロンまでもが、その安全性の問題を指摘する潜水艦で、2年前にはディスカバリー・チャンネルのレポーターが 乗船しながらの番組撮影を断るなど、遭難事故が起こっても決して不思議ではなかった存在。
6月18日、日曜に艦内の酸素量が96時間分しかない状態で連絡が途絶えたタイタンは、直後に水中で爆発音が探知されていたものの、 その後4日間に渡ってアメリカ、カナダ、フランス、イギリスの4カ国の湾岸警備隊によって捜索が行われ、酸素のタイムリミットを過ぎた木曜にカナダの深海ロボットがタイタンの破片を発見。 場所はタイタニックの残骸から僅か488メートルの位置、海面から3962メートルの海底で、この深さの水圧は海面の400倍と言われるのだった。
遭難事故原因は、過去に何度かツアーを行っていたタイタンの機体がその都度傷み、今回の水圧に耐えられなかったものと見られ、 現在は捜索に参加した4カ国のうち、どの国がタイタンの回収とその後の捜査を行い、その費用を負担するかが話し合われるとのこと。
この事件によって今週注目を浴びたのが 現在大成長を遂げている アドヴェンチャー・ツーリズム、エクストリーム・ツーリズムのビジネス。 特にパンデミックに見舞われ、人々の間で「生きているうちに冒険をしたい」という願望が高まったこともあり、2022年度のエクストリーム・ツーリズムの売上は3220億ドル、2030年には1兆ドルを超える見込み。 そのメイン・ターゲットは富裕層で、実際にビリオネアやセンティミリオネアに共通する趣味が大自然と触れ合うアウトドア。自らを冒険家と名乗るメガ・リッチは多く、 アマゾンの宇宙開発部門 ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックが、そんな大金持ちをターゲットに 宇宙旅行業をスタートしたのは周知の事実。 ヴァージン・ギャラクティックのスペース・ツアーには900人以上がウェイティング・リストに名前を連ねていることがレポートされているけれど、今回の犠牲者、ハーミッシュ・ハーディングは、 昨年夏にブルー・オリジンの10分間の宇宙旅行に参加したメンバーでもあり、エクストリーム・ツアーを通じてギネスブック世界記録を3つ保持することでも知られる存在。 彼のようなメガリッチ冒険家のニーズを満たすために、エベレスト登山から、スカイダイビング、世界の秘境巡りなど、どんどん規模とバラエティが拡大し、 それに連れて高額かつ、危険度が増しているのがエクストリーム・ツーリズムなのだった。
心理学者によれば、大富豪ほど自分の思い通りになる生活に退屈してスリルを求めており、自分を特別な存在と考えて、 「どんなチャレンジでも乗り越えられる、自分はサバイブできる」という自信を持っているとのこと。万一のトラブルの際にも「あり余る資産で対応できる」という保険の意識を持っており。 普通の人には金銭的にも、肉体的にも、時間的にも不可能な体験をエクストリーム・ツーリズムに求める傾向が強いという。 そして一度目標を達成すると、新たな危険なチャレンジを求める心理は、ドーパミン、テストステロン、ノルエピネフリン、アドレナリン、セロトニンといったホルモンが次々とリリースされる ドラッグ中毒の状態と同様と分析されるのだった。
もちろん、それに振り回される家族は大迷惑で、シャザダ・ダウッドの息子 スレマンは自らタイタンのリスクについてインターネットでリサーチをして、 ツアーへの参加を拒んでいたとのこと。しかしツアー直前に1人当たり10万ドルのディスカウント・オファーを受けた父親に説得され、 父親との絆を深めるために渋々参加していた様子が スレマンの伯母から語られていたのだった。
今回の事件を迷惑に感じているのは、タイタニックで死亡した1500人の遺族も同様で、「いい加減に失われた命とその現場をそっとしておいて欲しい」 との声が聞かれたけれど、オーシャン・ゲートのCEO ストックトン・ラッシュの妻、ウェンディは奇しくもそのタイタニック遺族の1人。 彼女はタイタニックによって親類の命が奪われた約100年後に、自分の夫の命がタイタニックに奪われる結果になっているのだった。



あれから1年…


連邦最高裁が人工中絶の合憲を覆す判断をした2022年6月24日から1年が経過したのが今週土曜日。 この判断により、以後の人工中絶は州ごとに定められた法律に従うこととなり、 その日のうちに 共和党が多数を占める9つのレッドステーツが、人工中絶の禁止に動いたのは記憶に新しいところ。 中には中絶に関わった医師に殺人罪を適用する法案を提出したレッドステーツも見られたけれど、 テキサス州ではティーンエイジャーのレイプ犠牲者が、州内のクリニックでは医師が厳しい法律を恐れて中絶を拒んだことから、 車で20時間以上を掛けてモンタナ州まで出向いて堕胎をしなければならず、ジョージア州では母体が危険にも関わらず 殺人罪を恐れる医師に中絶を拒まれ、 他州の病院に移動する間に母親が死にかける事態が起こっており、曖昧な基準と厳しい処分のせいで数多くの妊婦が犠牲になっていたのが過去1年。
加えて顕著になったのが、人工中絶違法を打ち出す州から、ただでさ減りつつあった産婦人科クリニックが撤退し、他州への移転が相次いだこと。 大手病院でも産婦人科医のレジデンシー希望者が激減。中でもジョージアは、州内のカウンティ(群)の半分以上が産婦人科医不在となり、 多くの女性達が車で100キロ以上を走らないとクリニックにアクセス出来ないとのこと。妊婦にとっては極めてリスキーな状況であるけれど、 女性達が定期健診を含む受診を望む場合も、距離の移動もさることながら、申し込みからアポイントまで3ヵ月を要するのが現時点。 要するに人工中絶を取り締まる州からは、女性が安全に出産をする権利、婦人科のケアを受ける権利までもが失われつつあるのだった。
そもそもアメリカは人工中絶合憲が覆される前から、妊婦の死亡率が後進国並みに高いことが問題視されていた国。 それを象徴するかのように、リオ・オリンピックでアメリカに金メダルをもたらした女子400メートルリレーのメンバー4人のうち、3人が経験したのが妊娠・出産時にタイムリーな医療サポートが受けられないトラブル。 そのうちの1人、トリー・ボウイは今年5月に妊娠8ヵ月で陣痛が始まり、適切な医療処置が受けられないまま 出産の合併症により、32歳の若さで死去したことが報じられたばかり。
最新のアンケート調査ではアメリカ国民の61%が昨年の最高裁判決を不服としており、人工中絶支持派は女性を中心に確実に増える傾向。 ロン・ディサンティスを含む共和党保守右派は、レイプや近親相姦の場合も、妊娠から6週間以降の人工中絶を違法とする厳しい法案を打ち出しており、 これが選挙において確実に民主党有利に働くことから、今週マイク・ペンス元副大統領候補は自らの選挙キャンペーン演説で、「共和党候補者は全員、 妊娠後13週間迄は中絶を認める方針で足並みを揃えるべき」と主張する一幕も見られていたのだった。
いずれにしても、今のアメリカは人工中絶禁止に躍起になるよりも、妊娠・出産が安全に行える環境を整える方が優先されるべき課題。 「胎児の命を守るべき」と中絶に反対したところで、妊娠・出産時に母親もろとも命を落とすのでは本末転倒であるけれど、 何故かそれを決して理解しないのが保守右派。そのため人工中絶違法化の本当の目的が、 保守的な男尊女卑社会の復活等、別のところにあると言われても仕方がないと思われるのだった。



日本のミレニアル世代、海外からの視点


ピュー・リサーチ・センターによればミレニアル世代とは1981年〜1996年生まれで、現在27〜42歳という年齢。 アメリカのミレニアル世代人口は7200万人、中国は何と4億人、そして日本は2700万人で国の人口の5分の1程度。
戦後で焼け野原になった日本が経済面で徐々に躍進を見せたのが60〜70年代。そして1986年からはバブル期に突入し、 それが崩壊したのが1991年〜1993年のこと。 アメリカのミレニアル世代が、2000年を前後してドットコム・バブルとその崩壊、その後迎えた住宅ローン・バブルと2008年のファイナンシャル・クライシス(日本で言うリーマンショック)、 その後再び好況を迎えた後のパンデミックと、度重なるアップ&ダウンを経験してきたのに対して、 日本のミレニアル世代は 物心がついてからというもの、ずっと日本の経済スランプの中を生き、その過程で東日本大震災という自然災害による経済的打撃を目の当たりにして来た世代。
その結果として海外メディアによって分析されていたのが 日本人であれば今更言われなくても分かっている以下の3点。

2022年に過去17年で最低を記録した日本の出生率は1.26。この数字は2020年の中国の出生率(1.28)とほぼ同じで、 世界一出生率が低い韓国の0.78(2022年段階)よりは高い数値。パンデミック中に低下した2021年のアメリカの出生率は1.7、 人口が中国を抜いて世界一になったインドの出生率は2020年の段階で2.05。2020年に世界最高を記録したナイジェリアの出生率は5.31であったけれど、 ナイジェリアの場合、平均寿命は52.89歳で至って短命なのだった。

この記事のテスティモニアルとして登場していた日本のミレニアル世代は、今後の日本経済にさほど明るい見通しを持っていない印象。 記事の内容も 生まれ育った時代の母国の経済状態が影響して、消費においても、キャリアや人生設計においてもダイナミックさを持たない日本のミレニアル世代が、 リスクを冒さず、手堅く、無理なく生きてこうとする姿勢にフォーカスしたものになっていたのだった。 これは私が日本に一時帰国した際に、私の世代が若い世代を語る内容と一致していたけれど、私自身は同年世代よりも若い世代に期待をかけていて、その理由の1つは 昨今日本人の英語力が確実に向上していること。加えて海外に一人旅をする若い世代が増え、外国を市場にする、外国で生活することを人生の選択肢にする人が増えてきていること。
日本人は自分で意識をしていなくても、社会に縛られて、様々な価値観を押し付けられている分、海外に出て自分を解き放った場合の変貌が大きく、 私の考えでは それが今の若い世代のXファクター。簡単に州外や海外に移住をするけれど、何処に暮らそうと人間性が殆ど変わらることがないアメリカ人とは異なり、日本人は 海外に出ることで これからまだまだ進化出来ることは、データや分析等には現れない可能性と言えるのだった。
また風の時代に入って、旅行を含む移動、流動性、情報、テクノロジーによって世の中が変わること、中央集権制が崩れ、物に対する価値観が変化することを考えると、 不動産や大企業での地位に固執しないのも時代の暗示通り。 違う国の、違う経済状態で育ったミレニアル世代やジェネレーションZにしても、異なる背景やプロセスを経て、やがては同じように風の時代の意識や価値観に到達することになるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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