Jan 1 〜 Jan 7 2024

End of D.E.I?
2024年は D.E.I 存続が問われる?


新年を迎えた直後から、毎年のようにアメリカのメディアでまず始まるのが、”ニューイヤー・レゾルーション(新年の決心/目標)”の特集。 ニューイヤー・レゾルーションの不動のトップ3と言えば 「体重を落とす」、「貯金を増やす」、「タバコを止める」。 それに関連して「健康的な食生活をする」、「エクササイズを続ける」、「借金を減らす」、「お酒を控える」といったレゾルーションを掲げる人も多いけれど、 昨年大ヒットした処方箋ダイエット薬、オゼンピックの影響か、今年は体重や食生活についての目標を掲げる人よりも、 「嫌いな人間との付き合いを断つ」、「時間を有効に使う」、「家の中を毎日少しずつ片付ける」、「1日に1回は人助けや人への親切をする」、 「新しいことを学ぶ」等、その内容が多様化。加えて目標倒れにならない実現性のあるレゾルーションを掲げる人が増えているとのこと。 これにはパンデミックをきっかけに自宅とオフィスのハイブリッド勤務になったことも少なからず影響しているようなのだった。
それと共にこの時期のメディアに見られるのが、新年の展望についての考察や特集。 特に2023年は、多くのアメリカ人が新時代に移行する前の中継地点と位置付けていただけに、 2024年に何が起こり、人々がそれをどう捉えて、どう過ごすかは、この先の時代に大きな影響を与えると見込まれるのだった。



ハーバード学長辞任の背後で動いたのは?


そんな2024年第一週目のアメリカでも、日本の地震や飛行機事故のニュースが大きく報じられたけれど、特に飛行機事故のニュースに関しては”明日は我が身”という報道。 というのも2023年に航空業界で大問題になっていたのが、空港管制官不足。少ない管制官が激務を続けた結果、アメリカでは昨年ニアミスが相次いでおり、 フライトの遅れの原因にもなっているだけに、益々旅行者が増える2024年にその対応が急がれているのだった。
それと共に今週、大きく報じられたのは ハーバード大学長、クロディーン・ゲイ辞任のニュース。 その原因は イスラエルVS.ハマス戦争をきっかけに大学内で起こった学生達の反イスラエル・デモに積極的な対策を講じなかったことを不服とした ハーバード卒のユダヤ系ビジネス界の大御所が その責任を追及して、政界にまで圧力を掛けたこと。同じ理由で昨年12月にはアイヴィーリーグ名門校ペンシルヴァニア大学の学長も辞任したばかり。 クロディーン・ゲイは一時はポジションを守ったかのように思われたものの、その後も止まらぬ政財界からの圧力に屈した形になっており、 彼女はハーバード史上2人目の女性学長であり、史上初の黒人女性学長。2023年7月に学長に就任したばかりなのだった。
しかしこの辞任劇は「反ユダヤ活動への対応不足」を口実に、一部の実力者が大金と政治力に物を言わせた”コーディネート・アタック”であったという見方は多く、 そのことはクロディーン・ゲイ自身もNYタイムズ紙に寄せたエッセイで認めていたこと。 そんな ”コーディネート・アタック”の背景にあると言われるのが、政財界の保守派が過去約10年に渡る高等教育の左傾化を嫌って、その象徴であるD.E.I.潰しを狙っていたシナリオ。 D.E.IとはDiversity, Equity & Inclusionのことで、人種(民族)やバックグラウンド、性別、宗教、文化、障害などが理由で、歴史的に過小評価や差別を受けて来たグループを幅広く平等に受け入れること。 多様性、公正性、包括性という3つの概念を D.E.Iというフレームワークで制度化する取り組みを指す言葉で、 D.E.Iは様々な企業研修に盛り込まれ、学界、学校、病院等、ありとあらゆる組織で導入されて久しいポリシー。
特に2016年にメキシコ人差別、女性蔑視発言を繰り返しながらもトランプ政権が誕生し、その後に#MeTooムーブメントが起こり、パンデミック中には Black Lives Matterの大抗議運動が起こったことで、 2019年以降は多くの企業や教育機関が、積極的に D.E.Iに取り組み、差別やハラスメントに対するバッシングが社会的に高まる風潮を生み出したのは周知の事実なのだった。



保守右派の逆襲と最高裁判決のインパクト


しかしながら、そんな世の中の左路線が進む間に ラディカライズ(急進化)されたのが保守派のメガリッチ層。特に#MeTooムーブメントによって実力者が次々と過去の過ちで失脚に追い込まれる事態は、 彼らにとってウェイクアップ・コールであったようで、イーロン・マスクやかつてのリベラル・トークショー・ホスト、ビル・マーらが保守に大きく傾倒したのは#MeTooを境にしてと言われるもの。 そして保守派メガリッチが メディアの影響力を使って生み出したのが D.E.Iを重んじる風潮を ”WOKEカルチャー”として蔑むトレンド。 それには#MeTooムーブメントで戦々恐々としていた保守派男尊女卑思考の人々が一気に同調。また時を同じくして、フロリダ州ではロン・ディサンティス知事が 政策という名目でLGBTQ+への差別を復活。LGBTQ+をサポートするディズニーから税制優遇措置を奪い去り、真っ向から対立。 また最高裁が人工妊娠中絶合憲を覆したのを受けて、共和党保守派が政権を握るレッドステーツでは、胎児を守るという名目で進んだのが女性の社会進出を阻むための人工中絶撤廃への動き。
すなわち過去2年間に保守派が D.E.Iに対して猛烈な巻き返しを図ってきた訳だけれど、そんな最中にアメリカの高等教育の頂点と言えるバーバード大学の学長に、 D.E.Iの象徴のように就任したのがククロディーン・ゲイ。 彼女は イスラエルVS.ハマス戦争に端を発した抗議活動が起こっていなかったとしても、保守右派の実力者たちからは D.E.Iと共に消えて然るべき存在と見なされていたのだった。
また2023年に最高裁が下したアファーマティブ・アクション廃止の判決も、ここまで社会に広まったD.E.Iを大きく衰退させるもの。 アファーマティブ・アクションとは、大学や企業において幅広い人種やバックグラウンドを受け入れる枠を設ける規定で、これを最初に大統領令として発動したのがジョン・F・ケネディ。 ケネディ大統領は雇用における差別撤廃を謳ったけれど、それが大学や企業で人種の採用枠という形で実践されたのはずっと後のこと。 マイノリティの受け入れ枠が設けられたことで、幅広い人種にチャンスが与えらた一方で、自分より実力が無いマイノリティ人種が採用や入学で優遇されることを嫌う風潮は強く、 それを不服としてハーバード大学に対して訴訟を起こしたのが Students for Fair Admissions。これは人種枠のせいで入学出来なかった優秀なアジア人、ピンポイントで言えば中国人学生とその家族が結成した団体。 白人至上主義者にとっては、自分達の立場では言えない本音を、アジア人がマイノリティとして主張してくれる有難い存在。この団体が起こしたのは ハーバード側がアジア人の入学枠をあえて小さく設定していることを不服とした裁判で、決してアファーマティブ・アクション撤廃を求めた訳では無かったけれど、 昨年最高裁で審議された段階ではアファーマティブ・アクションの是非を問うものになっており、D.E.Iの元祖と言える法令が 全米の大学で廃止される判決が下りたのが昨年のこと。 2024年にはその余波が企業にも及ぶと見込まれ、メディアの中には「D.E.Iの終焉」を予測する声さえ聞かれるのだった。



エプスティーン・スキャンダル再び


そして2024年は言うまでもなく、大統領選挙の年。 年明け早々メディアがバイデン大統領を例えたのが1945年〜53年まで政権を握ったハリー・トゥルーマン大統領。 トゥルーマン氏はバイデン大統領同様にインフレに見舞われながらも、多くの雇用を生み出し、経済面では至って安定していたけれど、国民には不人気だった存在。 特にイスラエルVS.ハマス戦争勃発以降、イスラエルをサポートして若い層の支持を失っているバイデン氏は、年末に「ドナルド・トランプが立候補しなければ、自分が再選を目指すことは無かった」とコメントしていたけれど、 「ドナルド・トランプが立候補しなければ、自分達もバイデンには投票する必要はない」というのが民主党支持者&リベラル派の本音。
その一方で、大統領選挙は候補者同士の戦いというより、”D.E.I VS. アンチ WOKE”、”リベラル VS.保守”の闘いと見る声も多いけれど、 大統領選の思わぬ地雷になり得ると見られ始めているのが、未成年の少女達を世界中のVIPにあてがっていたセックス・トラフィッカー、ジェフリー・エプスティーン絡みの問題。 2019年に拘留中のNYの刑務所で自殺したことになっているエプスティーンの裁判資料は、これまで非公開のままであったけれど、昨年末にNY判事が公開を指示。 今週にはその200以上の書類の一部がメディアで公開されたけれど、当初から見込まれていた 英国王室アンドリュー王子、ビル・クリントン元大統領、トランプ前大統領、トランプ氏の著名有力弁護士アラン・ダーショウィッツらに加えて、 スティーブン・ホーキング博士、マイケル・ジャクソン、マジシャンのデヴィット・カパーフィールド等、既に数多くの著名人の名前が浮上しており、 同時に以前からの噂通り エプスティーンが イスラエルのインテリジェント組織、モサドのスパイであったこと、そして著名人に少女達をあてがって弱みを握っては、彼らに対して英語で言う”ブラックメール”、 すなわち脅迫行為をしていたことは、もはや憶測ではなく事実と認定されつつあるのが現在。
裁判書類の中には、エプスティーンがアンドリュー王子を「使い勝手の良い馬鹿」と語っていた様子も記載されているというけれど、今後はその程度の恥では済まないことが予想されるのがアンドリュー王子。 さらには2016年にジェフリー・エプスティーンが「自分が持っているクリントンとトランプの情報を公開したら、大統領選はキャンセルになる」と弟に語っていたことも明らかになり、 現在公開されている裁判資料が、エプスティーンのセックス・トラフィッキングの氷山の一角であることは明らか。 しかもそれらは”ゆすり”のネタとして、ビデオを含む証拠が残されていることは明らかで、史上最大のスキャンダルになる可能性を秘めているもの。 ここでもユダヤ系富豪の保守派が大金と政治力で握り潰しに掛かるかが見守られるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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