Dec Week 2, 2023
“Elon Musk by Walter Isaacson”
イーロン・マスク By ウォルター・アイザックソン


私が久々にアマゾンのオーディオブック、オーディブルで読書ならぬ”聴書”したのが、 ウォルター・アイザックソンの著書で、アメリカで9月に発売された”イーロン・マスク”。
イーロン・マスクと言えば、様々な分野での活躍と、型破りで横柄な人柄が知られるだけでなく、今や世界一の大富豪。 人によって好き嫌いが大きく分かれる人物。
私もイーロン・マスクが関わる様々なプロジェクトには興味があるし、現代社会で最も関心を払わざるを得ない人物であることは認めるけれど、 人間的に好きか、嫌いかを尋ねられた場合の答えは 「嫌い」。 私の周囲も同様の人が殆どで、この本を耳で聞いた限りでは、ウォルター・アイザックソン自身もマスクについて同様に感じているように思えるのだった。 でもこの本はマスクが好きでも、嫌いでも、その好感度に影響を与えるものではなく、 彼が関わる様々な開発事業の舞台裏や、マスクが描く未来社会のビジョン等が リアルタイムの現代史としてアイザックソンによって見事に編集された一冊として仕上がっているのだった。




ウォルター・アイザックソンは元タイム誌等のジャーナリストで、近年ではバイオグラフィー作家の第一人者として知られる存在。 彼が過去にバイオグラフィーを執筆した著名人のラインナップは、ベンジャミン・フランクリン、アルバート・アインシュタイン、レオナルド・ダヴィンチ、 スティーブ・ジョブス等、歴史的に極めて大きな影響力と功績を持つ人物ばかり。
イーロン・マスクの前にアイザックソンが執筆を手掛けたのがスティーブ・ジョブスのバイオグラフィーで、 すい臓がんを患い、死期を悟ったジョブスが 彼の人生を描くバイオグラファーとして白羽の矢を立てたのがアイザックソン。 プライベート・パーソンで知られたスティーブ・ジョブスが、アイザックソンを自宅やラボに招き入れて、 自分の知られざる側面や様々なプロジェクトの背景について語り、執筆に全面協力をしたものの、 本の内容については アイザックソンの作品と割り切ってジョブスは一切の干渉はせず、唯一自分の意志で決めたいと主張したのがカバーのデザイン。
ふと思い出すと、私が前回オーディブルを利用したのはアイザックソンの ”スティーブ・ジョブス” を聴いた時で、 中でもアイポッド、アイチューン、アイフォン、アイパッドと立て続けに現代を変えるプロダクトを生み出した時期について書かれた部分は、 自分自身もその時代の生き証人であるだけに、非常に興味深かったことを記憶しているのだった。




イーロン・マスクも、スティーブ・ジョブス同様、過去3年間に渡ってアイザックソンの執筆に協力し、 時に彼を呼び出してまでオフレコの話をしていたほど。 そしてジョブスのバイオグラフィー同様、現代のイノベーションの背景がシリコンヴァレーの著名人とのコミュニケーションや駆け引きと共に描かれているけれど、 一見全く異分野に思える EVのテスラ、宇宙開発事業のスペースX、人体に埋め込むAIチップ開発のニューラリンク等が、 全てマスクの頭の中では「人類の救済、存続」というビジョンの一環であること、そしてメディアや人々が認識する遥か以前からマスクがそれらに取り組んできたことは 私にとって同書が最も興味深かった点。
環境問題への取り組みとしてのEV開発はもちろん、人工授精をしてまで 合計9人の子供を設けたことも出生率低下を危惧してのことのようで、それらと共に早くから彼が恐れて来たのが、 やがて進化したAIが人類を滅ぼすこと。またスペースXによる宇宙開発事業は、最悪の事態が起こった場合に人類を火星に移住させての存続を考えてのこと。
AIについては 開発をサポートしながらも、そのプロセスを監視する目的で 2012年、AIリサーチの第一人者、デミス・ハッサビスが共同設立したディープマインド社に500万ドルを出資。 時を同じくして、マスクは友人でグーグル創設者のラリー・ペイジにAIの進化とそれに伴う人類のリスクについて複数回に渡って訴えるも、全く聞く耳を持たなかったのがペイジ。 にも関わらず2013年末にグーグルがディープマインド買収に動いたことに愕然としたマスクは、AIテクノロジーをグーグルのような大手が独占することを恐れて買収を妨害。 しかしディープマインドはグーグル傘下のAI部門となり、その後の業界をリードする存在になったのは周知の事実。
そんなグーグル独走を阻む手段として、マスクがソフトウェア・アントレプレナー、サム・アルトマン(写真上、一番左)と共に、オープンソースのAIテクノロジーを開発する非利益団体として設立したのがオープンAI。 最新のテクノロジーをオープンソースにすることで、大手企業でなくともAI開発が行える環境をクリエイトすることにより、AIテクノロジーの中央集権化を防ぐ動きに出たのだった。
加えてマスクが AIテクノロジーの脅威を軽減する手段として考えたのが、ロボットを人間と密接に結び付けること。 独自の目標や意図を持つようになったAIが 人類の崩壊を招く暴走をしないようにするには、 「AIが人間の意志や考えに沿うべきと」と判断したマスクは、人間の脳とコンピュータ、AIをリンクするチップの開発を目指し、ディープマインドから引き抜いた 人材で設立したのが Neuralink/ニューラリンク。
やがて2018年になるとマスクは、「オープンAIはテスラの一部門になるべき」と主張し、アルトマンを含む経営陣と意見が分かれたことから同社と決別。 2023年に入ってからのチャットGPT、グーグルのBartの急速な普及や急ピッチのAI開発に危機感をつのらせたことから、後発でも自らAI開発をしようと決意をしてxAIを設立しているのだった。 優秀なAI開発の鍵を握るのは人間に関する大量の情報を学習させること。チャットGPTにはマイクロソフト社のソフトウェアを通じた情報、グーグルのBartにはGメール、グーグル検索等を通じた ありとあらゆるヒューマン・データが取りこまれている一方で、xAIにはツイッター設立時からの1兆を超える多岐に渡る内容のツイート、そしてテスラが収集するドライビング・レコードが大きな武器となっており、前者は毎年5億件のペースで時事情報を反映して増え続け、後者は来年からフォード、GMのEVもテスラのチャージング・ステーションを使用するようになることから、更に情報量が急速に増えることが見込まれるのだった。




現在マスクが経営しているのは、テスラ、スペースX、その傘下のスターリンク部門はサテライトでインターネット接続を提供しており、ウクライナ戦争、イスラエルVSハマス戦争で重要性が高まっている存在。 そして当初スターリンク傘下で設立され、後に独立したザ・ボーリング・カンパニーは地下交通システム実現に向けたトンネル掘削会社。 それらに加えてニューラリンク、xAIの合計6社。 これはスティーブ・ジョブス(アップル、ピクサー)の3倍のタスクで、 全てがマスクの人生同様に、未だ途中の段階。
そのため「今イーロン・マスクのバイオグラフィーを読むのは、第二次世界大戦中にヒットラーの自叙伝を読むようなもの」 という声も聞かれていたけれど、実際にこの本は ”エンディングの無いストーリー”という後味は否めないもの。 それでもマスクの桁外れに大きなビジョンや情熱、固執、歪んだ性格のお陰で、単なる英雄談とは異なる、エンターテイメント性が高い本に仕上がっているのは紛れもない事実。
前述のチャットGPTのCEOサム・アルトマンは、イーロン・マスクについて「彼は本当に人類を救いたいとを考えている。でも彼自身が救済者であることが前提条件」と語っていたけれど、 この本はその言葉の意味を裏付けるように エゴイスティックな人類救済者としてのマスクのエピソードがふんだんに盛り込まれているのだった。
ちなみに「イーロン・マスク」が出版されてから、アイザックソンの「スティーブ・ジョブス」の売れ行きが再びアップしたと言われていたけれど、 確かにマスクのバイオグラフィーを読んだ人がアイザックソンに興味を持って「スティーブ・ジョブス」を読んだ場合、後者にはもっとしっかりした完結性がある分、 より楽しめるように思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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