アメリカ在住です。
昨日、日本人の大学院生の学生VISAが突然剥奪されて、国外退去を命じられたニュースをキューブさんで読んで、ショックを受けました。
(注釈:この男性は過去に1度逮捕されましたが、不起訴処分で罪は問われていません。現在は学生VISAが復活して、米国滞在が可能になりました。)
気になったので検索していたら、日本に住む日本人が、大学院生の男性のことを「一度でも逮捕されるようなことをしたのだから、国外追放されて当然」とSNSに投稿しているのを見て、
悲しい気持になりました。他の留学生達のVISAの取り消しが相次いでいるニュースについても、日本のSNSでは「どんどんやれ」、「日本でもやって欲しい」、「さすがトランプ」というリアクションがあって、
暗い気持ちになりました。
日本でも移民が増えて、国民感情が移民に否定的なのは分かりますが、アメリカでは繁栄の歴史を担って来たのが移民です。大体、アメリカは移民が建国した国です。
近年になってようやく移民受け入れを始めて、しかもその体制がずさんな日本と、移民が長い歴史の中で極めて重要な役割を果たしてきたアメリカを一緒にするのは無理があります。
日本はそういう書き込みをする人だけではないのは理解していますし、ネット民と呼ばれる人達が右寄りなのも分かっています。
ですが日本は英語圏でない島国の先進国というユニークなポジションだからでしょうか、
外国、特にアメリカを日本と同じ物差しで判断する傾向が強くて、モヤモヤしたのでご相談とは言えないメールをしてします。
私の夫は母国がEU圏ですが、EUを始め、他の国の人達は今のアメリカの移民にとても同情的で、一緒にトランプ政権に対して腹を立ててくれています。
なのに、何故か日本のSNSでは、不適切に出国を求められたのが日本人でも 移民が悪いと決めつけたり、興味本位のいい加減な書き込みがあることに不安や不快感を覚えます。
秋山さんはこれまで日本社会が、外国に住む日本人に冷たいと思ったことはありませんか。
私が住む西海岸では、農家が不法移民の労働者不足で倒産寸前になっている話をよく聞きます。
ワイナリーも今年は不法移民も、季節労働者も居なくなりそうなので、一体誰がブドウの収穫をやるのだろうと言われています。
こちらに住む日本人の中には、今年はイミグレーションのトラブルを恐れて一時帰国を見合わせる人もいます。
VISAの申請や更新が出来ないためにアメリカ生活を諦めた人も私の周りだけで複数居ますし、グリーンカードをギブアップしてまで母国に帰る人もいます。
今では アメリカ国籍やグリーンカードがあっても国外追放されてしまいますし、しかもどこに追放されるか分かりません。
友達の親戚は DOGEにいきなり解雇された政府職員の1人だそうで、突然明日は出勤しなくて良いというメールが来て、その2日後には20年間真面目に務め続けた職場をいきなり、理由も無しに解雇されたそうです。
政権が変わっただけで、アメリカという国とそこで暮らす人達の人生が こんなにも悪い形で激変したことがショックでたまりません。
変なメールになってしまいましたが、毎日のようにサイトをチェックしています。いつも幅広い情報をありがとうございます。これからもお身体に気を付けて頑張ってください。
ー K ー
Kさんのご相談は、タイムリーな話題でしたので、このタイミングで取り上げることにしました。
ユタ州の日本人の大学院生のニュースはショッキングでしたが、無事に学生VISAが復活されてようで良かったです。
トランプ政権は、僅か数週間で1000人の学生VISAをキャンセルし、そのうちの数人を移民留置所に送還して物議を醸していますが、
4月4週目にはそのVISAの剥奪処分の殆どが取り消されたことが報じられました。
アメリカには現在110万人の海外留学生が滞在していますが、アメリカの大学は一流校でなくても学費は4年間で平均25万ドルです。
海外留学生はそれをローンではなく、キャッシュで支払ってくれるだけでなく、米国経済に貢献する存在です。
学生VISA取得のサポートをする弁護士にとっても、彼等は多大な収入源です。
おそらく「どんどんやれ」、「日本でもやって欲しい」、という日本からのリアクションは、
日本でアルバイトをしても収入に課税されないなど、日本人学生よりも優遇される中国人留学生に腹を立てた人々のものかと思いますが、
この機会にアメリカの不法移民が他国と異なる点と、アメリカにおける逮捕が日本とは異なる点についてご説明したいと思います。
アメリカでは不法移民が建設・塗装業、農業・畜産業、ホテルやレストラン等のホスピタリティ・ビジネスにおける低賃金労働の約半分を担い、
中小企業や農家の人件費削減に大きく貢献しているだけでなく、彼ら無しでは多くの経営が成り立たちません。
またアメリカで就労している不法移民の殆どは税金を支払っています。不法移民からの年間税収は100億ドルを超えていて、日本円では現時点で1兆4000億円以上です。
彼等はパンデミックや経営不振に見舞われれば、何の保証も無しに真っ先に首を切られる存在にも関わらず、受け取ることが出来ない失業保険や社会保険料を払い続けているのです。
犯罪を犯す確率もアメリカ国籍者よりも60%以上低く、白人層よりも30%低いことがデータで証明されています。
またアメリカでは不法移民として入国して合法移民になるケースは数え切れません。不法移民が税金を払う理由の1つが、合法になった時に追徴金を支払いたくないためです。
イーロン・マスクのように学生VISAで合法に滞在しながら、労働許可が無いまま不法にアメリカでビジネスを始めたケースも多々あります。
合法でも不法でも移民はアメリカ社会・経済で役割を担う存在と認識され、だからこそ国勢調査でも「移民局には通報しない」との公約の上で
不法移民をカウントしてきた歴史があります。
逮捕について言えば、日本では逮捕されれば犯罪を犯したということを意味しますが、アメリカでは暴動の傍を通りかかっただけでも逮捕されることがあります。
交通違反で捕まったのがマイノリティ人種で、警官の虫の居所が悪ければ、それが逮捕に発展しても不思議ではありません。
また家に不審人物が居たので通報した住人が、たまたまヘビーメタル・バンドのメンバーで、その過激なルックスのせいで通報した本人が逮捕されてしまったという話もあります。
つい最近には、裁判所の判事が不法移民の移民局による不当逮捕を防ぐために、陪審員用の出口を使うよう指示したことでFBIに逮捕され、大規模な抗議運動が起こったばかりです。
要するに犯罪者でなくても逮捕されるのがアメリカでですので、「逮捕されるようなことをする方が悪い」というセオリーはアメリカでは成り立ちません。
アメリカで犯罪者と見なされるには、検察に起訴されて有罪を認めるか、裁判で争って有罪判決が下される必要があります。
ですから企業が従業員採用で 犯罪歴を尋ねる場合、 「Have you ever been arrested? (逮捕されたことはありますか?)」という質問は違法、もしくは法律上不適切と判断されます。
正しい質問は、「Have you ever been convicted of any crime other than a traffic violation?(交通違反以外で、何か犯罪を犯したことがありますか?)」となります。
国が変われば、移民事情から逮捕の概念までが異なるのは当然と言えば、当然なのです。
Kさんが指摘されていた「日本社会が、外国に住む日本人に冷たいか?」についてですが、これは私がアメリカにやって来たばかりの1990年代から、時折在米日本人が指摘することでした。
特に私が印象に残っているのは、1993年頃だと思うのですが日本で「イエロー・キャブ」という本がベストセラーになって、
これは日本人女性のことをニューヨークでは「イエロー・キャブ」と呼んで、売春婦扱いしているというような内容で、誰でも乗せてくれる黄色人種という意味で「イエロー・キャブ」と呼ばれるとのことでした。
ですがNYでは「イエロー・キャブ」と言えば、タクシー以外の意味はなく、そのイエロー・キャブは当時、黒人・ヒスパニック層に対する乗車拒否が大きな問題になっていたので全く事実とは異なっていました。
当時、NYの日本人はかなり反論しましたが、日本側が聞く耳を持たずに、面白がっているようなところがあって、その時にNYの日本人ライターが
「日本という安全圏に住んでいる日本人が、外国にいる日本人に対して優越感を伴う高みの見物のような意識を持って居る」と言っていたのを覚えています。
欧米の社会学者の間では、日本は集団の調和と伝統的な価値観を重視するあまり、他者への哀れみや 同情の意識が他の西側諸国と比べて希薄だという意見があります。
これは他人の不遇な境遇に理解を示すよりも、「ちゃんとしていない方が悪い」、「文句を言うなら、自力で人並のレベルに達してから」と考える厳しさのことのようです。
それとは別に、かなり前の話ですが台湾の学生が文化交流のために日本の学校を訪れて、ディスカッションを行った際のこと。台湾の学生は日本について自分達が知らないことを質問したのに対して、日本人の学生は「日本をどう思いますか?」、「好きな日本食は?」、「台湾で人気の日本アニメは何ですか?」と、日本のことばかりを尋ねていたそうで、そのことが「日本人学生は異文化に触れる機会が少ないため、異なる背景を持つ人々と関わるスキルを身につける機会がなかった」と分析されていました。また日本人は、異なる文化に触れた場合、好奇心や探求心を抱くよりも、「理解不能」、「自分とは無関係な世界」と考えて興味を失う傾向が強く、
その意識のせいで他国よりもナショナル・アイデンティティが強いとも分析されていました。
他国の事でも自分の国の物差しで判断するのはそのアイデンティティの強さとも言えますが、自国に対する誇りや愛国心が ある種の排他性に通じるのはアメリカやイギリス、フランスを始めとするどの先進国にも見られる傾向です。
でもアメリカ人の場合、ドイツに住もうとイギリスに住もうとアメリカ人であれば、同じアメリカ人と見なすのに対して、
日本はKさんがご指摘のように 言語で孤立し、陸続きの隣国も無いせいか、一度日本を出た日本人を、国内の日本人とは違う存在として捉える傾向は否定できないように思います。
帰国子女を含む海外在住者が日本に戻ると、日本人が当然として受け入れる社会の前提に疑問を抱くことが少なくないようですが、その様子も「外国かぶれ」、「外国で自己主張をしているうちに
自我が強くなった」と判断されることは かなり以前から指摘されていましたし、「留学経験がもてはやされるのは、日本社会から浮かない存在で英語が話せる場合」とも言われます。
外国から見ていると、日本で自民党政権がここまで長続きした背景には、変化を望まない日本のドメスティック志向が大きく影響しているように見受けられます。
国民の政治への関心が希薄で、「政治は政治家の仕事、国民は決まった事に従うだけ」の時代が長く続いた結果、
財政という名の搾取制度が築かれ、国民経済が悪化しましたが、そうなるまでは同じような価値観を持つ国民が、現状に満足しながら、安全かつ快適に過ごしていたのが日本社会だったと思います。
そのドメスティック志向のせいで、日本は海外進出のタイミングを逸すビジネス上のデメリットも経験したように思います。
例えばNYでタピオカのバブル・ティーが流行った時には、台湾の業者がNYに出店しましたが、
数年前に日本のスフレ・パンケーキ、スフレ・チーズケーキ、たい焼きアイスを流行らせたのは、日本人ではなくもっぱらコリアン・アメリカンがオープンしたビジネスでしたし、
今ではブームを超えて定着した抹茶にしても、アメリカ人がクリエイトしたブームでした。
学者の間では日本の集団の調和と伝統的な価値観を重視する国民性はグローバル時代の弱点になるという指摘が多いようですが、
その理由はインバウンド旅行者を嫌うような自国を守ろうする姿勢ではなく、むしろ諸外国からも日本のマナーの良さや文化、国の美しさは守るべきと言われます。
問題は外国に出て行く時に自国の物差しを持ち込んで、「郷に入れば郷に従え」的な柔軟性や理解が示せない、西洋的な正義感や慈悲の心が持てないことのようです。
実際に、日本人の間ではグローバル化を嫌う意見は他の先進国より多いように見受けられます。
アメリカに長く住んだ私の偏見かもしれませんが、アニメ・オタクとか、ストリート・ダンサーとか、日本で正統派から外れる人達の方が
欧米の若い世代と繋がるグローバル性を感じるのが正直なところです。
日本は資源も食糧も自給率が低い上に、人口動態を見ても海外と関わらない訳には行きません。
また若い世代ほど 従来の日本の型にはまれずに、苦しむ傾向が顕著になっているように思います。
若い世代が外国に出るべきと私が思うのは、どんな生き方や価値観にも幸福や存在意義があることを学んでほしいと考えるためで、
自分を解き放つ経験は 海外の方が効率良く得られるという考えは今も変わっていません。ただトランプ政権下のアメリカでそれを行うのはお薦めしないのもまた事実です。
以前からこのコーナーで触れて来た風の時代の到来や惑星の配置では、日本も遂に変わらなければいけないところに来ています。
安定を好む人々が変化に踏み切るのは、現状を続けてもダメだと悟った時ですので、その意味でも日本が変化の段階に差し掛かったと私は考える次第です。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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