今回は日本に一時帰国した際に、友人から最も訪ねられた質問、「何故ヒスパニック系や貧困層は自分達に不利な政治をするトランプ氏に投票したのか?」、
そして「トランプ氏に投票しなかった有権者は今どんな気持ちでいるのか?」ということについて、私が知るところを書かせて頂きます。
春先に、レッドステーツの農場に対してバイデン政権が約束した助成金をトランプ政権が打ち切り、地元の政府職員が大量解雇され、
生活保護や退役軍人補助といったレッドステーツ住人が受け取る政府助成金の打ち切りが相次いだ際、
YouTube上では、チャットGPTが分析した「レッド・ステーツの住人が トランプ氏に投票した理由」のショート・ビデオがヴァイラルになっていました。それによれば、
といった点が上げられていました。
さすがにAIは端的に要点を纏めているので、これに沿って説明を進めることにします。
1 の「トランプ氏のシンプルなメッセージは低学歴、低所得者が多いレッドステーツに大きくアピールする」についての例を挙げれば、
トランプ氏が選挙演説で語っていた決まり文句が「We're going to become so rich」。
それに加えて「もう何に使ったら良いか分からないくらいの金が入ってくる。やがて、”トランプ大統領、お金が在り過ぎです”と悲鳴を上げるだろう」と、
財源も示さずに高らかに宣言したトランプ氏に大熱狂していたのがレッドステーツの人々。それに対して対立候補のカマラ・ハリスが示したような「私の財政案では、
富裕層と大企業に対して増税を行い…」と具体的に財源を示したプランは退屈で聞いて居られないのが彼等。
トランプ氏の演説スタイルは選挙を戦うタクティックとは言え、「もう何に使ったら良いか分からないくらいの金が入ってくる」という、
実現するはずがない話を本気で信じてしまうのがレッドステーツの有権者。
2 の「レッド・ステーツの住人は、闘いが好きで、トランプ氏が自分達のために闘ってくれると信じている」に関しては、
アメリカは常に外敵を設定して国内政治を安定させてきた歴史があり、第二次大戦直後からはソ連、
ソ連崩壊直前からは、一時的に日本、その後は中国という形で、外敵がシフトしてきたのは周知の事実です。
トランプ氏がユニークな点は2015年に出馬を表明して以来、民主党・リベラル派を「社会主義者」、移民を「侵略者」という”国内の敵”に仕立てて 国を真二つに分断してしまったことです。
レッドステーツの人々は、そもそも格闘技を含む「闘い」を好む人々で、UFCなど格闘技リーグはレッドステーツの視聴者とファンに支えられています。
トランプ政権にはUFCのCEO、ダナ・ホワイトが深く関わっている他、WWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)の元CEO、リンダ・マクマホンは
トランプ政権がこれから閉鎖しようとしている教育省の長官を務めており、トランプ氏が度々格闘技イベントのリングサイドに登場し、会場がトランプ支持者で埋め尽くされている光景を見れば、MAGA勢力が
如何に敵を叩く憂さ晴らしを好んでいるかが見て取れるかと思いますが、同じ思いを”国内の敵”に対しても抱いています。
3 の「レッドステーツはFOXニュースしか観ず、偏った情報に頼る住人が多い」については、トランプ支持者は本当にFOXニュースしか観ていない、信じていないケースが多く、
そのFOXニュースは超保守、キリスト教右派をターゲットに設立されたネットワークなので、最初から公正な報道は謳っていません。
親会社はトランプ氏の友人でもあるメディア王、ルパート・マードックが経営するニューズ・コーポレーションで、
2015年のトランプ氏出馬以来、FOXニュースはトランプ氏のマウスピース・メディアの役割を果たしてきました。
難しいニュースや経済解説を嫌うレッドステーツの住人は、FOXニュースの分かり易く、エンターテイメント性を盛り込みながら、
感情を煽る報道を好むので、その洗脳効果は抜群で、同様の効果は 英語が簡単なFOXニュースから米国情報を得ている諸外国の右派にも顕著に表れています。
低学歴で、生活にゆとりがない人々は、聞いた情報を鵜呑みにして、感情的になる傾向が顕著と言われ、トランプ氏が教育省を閉鎖し、大学カリキュラムをコントロールしたがるのも、
扱い易い国民を増やすためと言われます。
4 の「トランプ氏の政策が自分達の生活にどう影響するかについて、深く考えていなかった」という点については、イーロン・マスク率いるDOGEが政府職員の大量解雇を行った際、
YouTubeのショート動画やX投稿には、「学費ローンで大学を出て、政府機関に務め、家を買ったばかりなのに解雇された。過去3回の選挙で全てトランプ大統領に投票したのだから助けてほしい」
といったMAGAの懇願が溢れていました。その一部は自分が解雇されるまでDOGEによる大量解雇をサポートしていた人々で、彼等は民主党リベラル派からは、「自分の身に降りかかるまで、世の中で何が起こっているかが分からない」と批判されていました。
実際に「移民を追い出せ!」と言っていたレッドステーツの人々にとって、不法移民の強制送還は「他人の不幸は蜜の味」的なエンターテイメント。しかしそのせいで自分や取引先の工場や店、農場が労働力不足で経営困難に陥った途端、
「こんなはずでは…」という声があまりにも多いのが現状。キューバからの不法移民が大勢暮らし、大金持ちの使用人、工事現場の労働、ホテルやレストランの仕事を安価で担っていたマイアミでも、
ICEによる大量の移民狩りが行われましたが、家族や友達を強制送還されたヒスパニック系の有権者が昨年の大統領選で票を投じたのがトランプ氏。
再三に渡って不法移民追放を謳っていたトランプ氏に投票した理由は、地元の共和党政治家が「強制送還されるのは犯罪者だけ、家族がいる労働者は決して強制送還されない」と勝手に保証し、それをあっさり鵜呑みにしていたため。
今ではその地元政治家は批判が集中したのを受けて、移民を守る姿勢に鞍替えしたと伝えられますが、当然のことながらトランプ政権からの圧力を受けています。
そして最後の「自分達の生活が苦しいのは移民や女性の社会進出のせいだと考え、リベラル派や民主党がその政策を推し進めたと信じており、
トランプ氏がキリスト教保守白人男性社会に戻すと信じている」については、
2000年以降、中国に奪われてしまった製造業を担ってきたのがレッドステーツ。工場閉鎖でさびれた町の復興は、
やがて小売り・サービス業、教育、医療といった異なる分野から行われ、それに伴って流入してきたのが高学歴の若い世代の移民たち。
2010年代半ばには、低学歴の白人層が、プライドだけは高くても 経済的には底辺に甘んじる状況に追い込まれており、
年々高まって来た彼等の怒りを代弁して登場したのがトランプ氏。
レッドステーツの白人層は、大企業が製造を中国に任せ、その分浮いた設備投資資金で株の買戻しや株主への配当に回し、マネーゲームで稼ぐ経営に切り換えたこと、
ドルの強さが輸入には有利でも、輸出には不利という経済構造を全く理解せず、
自分達が高額給与の職に就けないのは、学歴をつけた女性の社会進出と移民のせいだと考える傾向が極めて顕著。
若い世代も「女性が仕事などせず、家で子供を育てる社会が戻れば、自分も結婚して父親世代同様の生活ができる」と真剣に考えており、
そのことは南部、中世部の男性をターゲットにしたデート指南のポッドキャストが、男尊女卑を絵にかいたような主張で溢れていることからも見て取れる状況。
キリスト教保守右派の男性の間では、女性が銀行口座さえ開けなかった時代への回帰を望む声は多く、「それを叶えてくれる」と期待しているのがトランプ政権。
「Make America Great Again」というスローガンは、実際には「キリスト教保守白人男性至上主義への回帰」を謳うメッセージとしてデザインされています。
トランプ氏に投票しなかった人々は、大統領選挙直後は民主党に失望し、IT大手がこぞってトランプ氏にひれ伏したことを危惧していましたが、
イーロン・マスクとDOGEに対する反発がレッドステーツでも浮上し、「Tesla Take Down」抗議活動が春先から世界各国で大きく盛り上がったことで希望を繋いだ印象でした。
マスクが政権を去った後は、ICE(移民関税管理局)の移民狩りに対する反発が盛り上がり、6月14日のトランプ氏のバースデーに行われた”No King” の抗議活動が米国史上最大の市民ムーブメントになったのは大きく報じられた通りです。
それによってアンチ・トランプ派は来年の中間選挙に希望を持ち始めていますが、彼等の間で非常に根強いのが
昨年の選挙でトランプ氏に投票した人々に対する怒りの感情。
YouTubeを始めとするソーシャル・メディアに投稿される、子供と引き離されて強制送還される移民の悲惨な様子、ICEの人権を無視した身柄拘束の様子を捉えたビデオの書き込みに顕著なのが、
「こんなことが起こるアメリカに投票した奴を決して許さない!」といったメッセージで、それには数千、時に数万の「いいね」が付いています。
特に怒りの矛先が集中しているのは ”スリータイマー”と呼ばれる過去3回の選挙全てでトランプ氏に投票した人々。
今では不法移民の密告を奨励し、正式にトレーニングしていない民間業者や地方のシェリフにもICE同様の権限を与え始めた様子は「ナチス時代のゲシュタポを彷彿させる」と批判されており、
そんな状況を嫌う人々が異口同音に語るのが、「ドイツでヒットラー政権が生まれ、ナチスが悪事を働くに至った歴史が今なら理解できる」ということ。
それをトランプ氏の祖父がドイツからの移民で、トランプ氏がヒットラー死去の翌年に生まれていること、さらにはヒットラーの著書「我が闘争」がトランプ氏の枕元に置いてあったことなどと
結びつける人々も少なくありません。
さらには第一期トランプ政権は、トランプ氏のツイートに翻弄されながらも、国防長官を含む要職を 取り敢えずそれらが担える経験者が担当していましたが、
第二期政権では 関税を含む政策がクルクル変わること、そして元FOXニュース関係者が政権に23人起用されるなど、要職が
経験不足どころか、時に未経験のYesマンで占められ、彼等が常軌を逸した政府運営をする様子に アンチ・トランプ派が怒りと精神的ストレスを感じているのは紛れもない事実です。
その一方で、これまでは大統領令や緊急事態特例を連発し、「一度に沢山の政策を進めると、反対勢力も国民も それらに対応しきれない」という攪乱作戦が功を奏してきたのがトランプ政権。
しかしながら、アメリカ国内は春先から毎週のように竜巻や大洪水等、自然災害の大被害を受けており、その復旧に政府が動かない不満が高まる中、観測史上最悪が見込まれるハリケーン・シーズン、
歴史的猛暑と山火事のシーズンに突入しましたが、そうした自然災害被害と経済的ダメージが大きいのは言うまでもなくレッドステーツ。
また移民政策で 「公約通りの成果を上げていない」という批判と、人道的見地、及びビジネスへのダメージからの反発で MAGA勢力が分裂しつつある中、
起こったのがイスラエル・イラン戦争。 そこに選挙戦中訴え続けて来た公約を破って参戦したのがトランプ氏。
空爆2日後の月曜にはイスラエルとイランが停戦に入ったとトランプ氏が発表したものの、イランは停戦案など提示されていないというレスポンス。
イスラエルも無反応で、一国の大統領の宣言の信憑性が定かでなくなっているのが現在。
それだけに、今後はアンチ・トランプ派の動向よりも これまでトランプ氏を盲目的に支持してきた有権者がどうなるか、さらにはヴァンス副大統領、ルビオ総務長官等、
トランプ政権後の政治生命を考えなければならない顔ぶれが、徐々に独裁化する政権内でどういう立ち位置を取るのかが注目に値すると思っています。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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