Mar. Week 1 2026
Tipping is not bad at all
日本は、外国人旅行者からチップを受け取るべきでは?


いつもサイトを愛読しております。アメリカではありませんが海外在住です。
私は日本人のクライアント相手に、ある専門分野を中心にガイドや通訳をしてきました。 クライアントは口コミの紹介が殆どで、専門分野に関してはある程度の知識や、情報のアップデートも不可欠なので、 実際にクライアントと対面している時間以外にも、リサーチや準備には時間が掛かります。
ですが2年ほど前から、日本のクライアントにフィーについて嫌味を言われることが多くなってきました。 決まり文句は、「この程度の仕事量は、日本だったら時給XX円で引き受けてもらえる」というようなもので、 日本のクライアントは、仕事のための裏の努力を考慮しないだけでなく、こちらでは日本よりレントから食費まで、贅沢せずに普通に暮らして行くためにどれだけお金が掛かるかを全く理解していません。 酷い人だと予めフィーを決めて仕事を受けているのに値切って来ますし、仕事に関係ない世話を押し付けて来ることも多くて、今でも昭和時代の”お客様は神様”をやっている人が凄く多いです。
モヤモヤしていた時に、アメリカ人と結婚した日本人女性のカップルのために仕事をしたところ、仕事に直接関係が無いサポートに対して、 夫のアメリカ人が凄く感謝してくれて、フィーに結構な金額のエクストラを乗せて支払ってくれました。チップのつもりなのだと思うのですが、 収入が増えたのもさることながら、久々に自分のしたことが報われたような気持ちになって、本当に嬉しく、幸せな気持ちになりました。
日本人女性によれば、「夫は日本に行くと、店員さんがすごく良いサービスに感謝の気持ちを示したくてもチップを受け取ってもらえなくて、もどかしい思いをすることが多い」のだそうで、 別れ際に改めてチップが嬉しかったこと、仕事が評価されたような幸福感が味わえたと伝えたところ、ご夫妻で凄く喜んでくれて、 こういう人と人とのインターアクションの大切さを改めて実感しました。

それで本題なのですが、私は日本も外国人旅行者からだけでも、チップを払いたい人からは受け取るべきではないかと思うようになりました。 日本は飲食店を始め、時給が安いですし、値上げすると消費者にすぐ文句を言われるようですから、きっとこの先も時給がそう簡単に上がることは無いと思います。
良いサービスに対して口でお礼を言われるだけでも嬉しいですが、それにチップが加わると、本当に自分が評価や感謝されているのが実感出来て、 金額に関わらず幸福感が味わえるので、モチベーションも上がると思うのです。
秋山さんはアメリカにお住まいなので、アメリカ人のチップの習慣について私よりずっとご存知だと思うのですが、 私の考えにてどう思われますか? アドバイスというより、お考えを聞かせて貰えると嬉しいです。
これからも応援しています。

ー K -


アメリカ社会でのチップの意味合い


結論から申し上げると、私も日本でチップを支払いたいと思う外国人から受け取ることには賛成です。ですがチップ制度は アメリカ人のメンタリティに限って上手く回るというイメージが無きにしもあらずです。
Kさんが書いて下さったように、アメリカ人には「良いサービスを提供してくれた人をねぎらうためにチップを払いたい」という人は多いのです。 従業員組合が結成されたアップル・ストアでチップが導入されたのも、アップル製品購入に際してのアドバイスや修理、トラブルの対応をしてくれるスタッフに「チップを払いたい」という来店客が 多かったためと言われます。まともなアメリカ人ほど こうした傾向は強く、チップが渡せないのなら せめて良いレビューを書くなど、 アメリカ人できちんとした人は、時に日本人以上に義理堅く、真面目で、フェアネスの意識を強く持っています。チップはそのフェアネスの意識を満たすイコライザーでもあります。 そしてSさんが書いてくださったように、チップを受け取った側が感謝の気持ちを示すことで、更に気分を良くするのがアメリカ人ですから、 そうしたやり取りは移民の国アメリカでは非常に大切ですし、お金に代えられない幸福感を双方にもたらします。
私自身、年末には住んでいるビルのスタッフにクリスマス・チップを渡しますが、キャッシュを封筒に詰めて、1人1人にお礼のメッセージを書くのは、忙しいホリデイ・シーズンには面倒に感じることもあります。 でも受け取ったスタッフがとても喜んでくれて、後から手書きのメッセージにも感謝してくれるので、そんなリアクションを見る度に心から「渡して良かった」という気持になります。 日頃から口頭でお礼は言いますが、時にそれ以上の形で感謝を示すことはとても大切だと思いますし、返って来るリアクションで自分も気分が良くなるので、 直ぐに元が取れる出費だと思っています。

要するにチップとは、強制されて嫌々支払うサービスに対する対価ではなく、感謝や思いやりの気持ちを示すものです。 人は自分の価値観に見合った額のチップを支払うものなので、よほどのケチでない限りは、裕福な人々ほど自分に出来ないことをして貰った時、窮地を救って貰った時、 幸せな気分になれた時の感謝のチップの額が大きくなります。
私がかつて通っていたテニス・クラブでは、アルバイトのヒッター(テニスの相手)のフィーは1時間で50ドル程度でしたが、彼らは100ドルのチップを受け取ることは珍しくありませんでした。 そうなるのはヒッターは大学生など若い世代で、雇う側はお金のある人々。なので彼らの生活を応援したいという意図もあれば、彼らを若い世代の話し相手として気に入っていて、 自分の依頼のために毎回優先的に時間を割いて欲しいという意図も含めてのチップでした。
そうかと思えば閉店間際のビューティーサロンに駆け込んだ女性が、10分でヘアをアップにして欲しいと依頼し、80ドルの料金に対して200ドルのチップを支払ったケースもありますが、 これは自分の窮地を救って貰ったことに対する感謝の対価です。 また知人の弟が学生時代に高額レストランでサーバーのアルバイトをしていた際、お客の前でドリンクをひっくり返してしまい、必死で謝罪と片付けをして、落ち込みながら働いていたところ、 帰り際にそのお客が「これからも頑張れ」と言って50ドル札を握らせてくれて、気持ちが明るくなったと話していたことがあります。 さらにアメリカでは、苦学生や高齢者のレストラン・サーバーのためにコミュニティで募金をして多額のチップをプレゼントするといったことも頻繁に行われます。
NYではパンデミック前にグラマシー・タヴァーン等の人気レストランを傘下に収めるユニオンスクエア・ホスピタリティ・グループがチップ制を廃止して、 料理の価格にサービス代を含めたことがありましたが、これはあっという間に不成功に終わりました。 来店客にとっては料理に幾ら支払っているかを把握し、サービスに応じて自分でチップを決める方が透明性がある会計だったこともありますが、 お客側は前述のように「良いサービスにはチップでねぎらいたい」と考えるので、ノーチップ制は来店客側に不評だったようです。
要するにチップというのは、少なくともアメリカ社会では言葉以上に有効なコミュニケーションの手段ですし、 裕福な人々にその財力に応じたエクストラを気持ち好く支払ってもらうための民主的な手法でもあるとも私は考えています。



日本の奥ゆかしさや奉仕の代償

アメリカの飲食業、サービス業の人々の間では、欧州からの旅行者は ”チップを渋る”というイメージが定着していますが、要するにチップというのはその国々のカルチャーなのだと思います。 同時にチップには財力だけでなく、人柄が現れます。さほど豊かではない人でも見栄を張りたい時は、サービスの良し悪しに関わらずチップをはずむことがありますが、 人間的に図々しい人、感謝の気持ちが無い人はチープ・チッパーである場合が殆どです。
日本を訪れた外国人旅行者がチップを喜んで支払ってくれるかについては、今から5年前のパンデミック直後に「自主的に支払われるチップを受け取る」制度を導入していれば、かなりの金額が受け取れたように思います。 というのも欧米の富裕層の間での日本旅行ブームのピークは2022~2024年春頃だったと言われるためで、この頃の方がチップを喜んで支払う旅行者が来ていたように思います。 それ以降はオーバーツーリズムの影響で、外国人旅行者は増えて居ていても、富裕層の割合は減ってしまいました。
近年では、欧米のYouTuberが「日本では店員が自分のことをセレブみたいに扱ってくれて、食事は安くて美味しく、しかもチップはゼロ」というような投稿をし続け、 同時に円安が進んだ結果、日本がお金を節約したい外国人旅行者の安価なデスティネーションになってしまったのは周知の事実です。 私は経済力が人間性や知能レベルを示すとは決して思いませんが、もしYouTubeで指摘されているように 日本にやって来る外国人旅行者の質が悪くなったとすれば、それは日本旅行の経済的ハードルが低くなったためだと考えます。
例えば経済力がなければ 高級ブランド店では萎縮してしまい、落ち着いて商品を眺めることさえ出来ません。ですが同じ人が安価で大衆的なストアに出掛けると、商品に気軽に触れて、気に入らないことがあれば店員に文句を言い、ストアに対するレスペクトがゼロになります。逆にそうした大衆的なストアに、裕福な人々は足を踏み入れないのが欧米です。

その日本も、2026年からは観光名所や一部のレストランで外国人旅行者と日本人で料金に格差をつけるデュアル・プライシングが導入され、出国税もこれまでの1000円から3000円に値上げされました。 でも料金を上げても、現場でサービスを担当するスタッフの給与がアップすることは無いように見受けられます。
日本が誇る「おもてなし」の文化や伝統は大切だと思いますし、「お金を貰うためにサービスしている訳ではない」と、”心”を強調してチップを断るホスピタリティも考えようによっては立派だと思うのですが、 ビジネスとして誇りを持って行っているのであれば、タダで提供するよりも それに対する金銭的な評価は喜んで受け取るべきというのが私の考えです。 外国人が「これだけ美味しいものを、こんなに良いサービスで味わえた」と喜んで、チップで感謝を示そうとしてくれた場合、「ご遠慮します」と断るより、 喜んで受け取って、それに感謝の気持ちを伝える方が喜ばれるのです。逆にそれを断り続けていたら、最初から払う気が無い、感謝の気持ちを抱かない人ばかりを引き寄せてしまいます。
外国に長く暮らしてから日本のカルチャーに目を向けると、誇りや体裁、大義名分、そして伝統を重視することによって、無料奉仕や利益の放棄を強いられたり、「言っていることは正しくても、世の中はそうは行かない」という正論否定など、合理的でない部分が多々あることに気付きます。 そしてそれらは、女性、若い世代、貧困層など社会的に弱い側の負担になるケースが多いのもまた事実だと思います。

Yoko Akiyama



このセクションへのご質問は、ここをクリックしてお寄せください

プライベート・セッションはこちらからお申し込みください

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行

Q&Adv, Yoko Akiyama, 秋山曜子, Q&ADV プライベート・セッション

★ 書籍出版のお知らせ ★





当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2026.

PAGE TOP