私はこれまでCUBE New Yorkで一番長く書いてきたのが2000年にCUBE New Yorkの設立と共にスタートした「Catch of the week」のコラム。この頃には未だ「ブログ」という言葉さえ無くて、
NY在住日本人のブログ的な意味合いで始めたけれど、その後、徐々に「Catch…」がアメリカのニュースとその考察的な内容になったのは、世の中にブログを書く人が溢れた一方で、
カルチャー・バックグラウンド含めたニュースの考察は、長くNYに住んでいなければ書けないと思ったため。
でもそれを続けてきた結果、自分のウェブサイトで 自分が書きたいことがなかなか書けないフォーマットが出来上がってしまったので、
書きたいことを 書きたい時に 書くために、「NYダイアログ」のコラムをスタートすることにしました。
その第1回目として書こうと思ったのが、NY以外に住んでいる友達と連絡を取った際に、かなりの高頻度で尋ねられる「今のNYってどうなの?」という質問について。
景気は?、インフレは?、治安は?、ホームレスは増えて居る? 等、様々な意味合いで尋ねられるけれど、
アメリカ自体が広大な領土の多民族国家で 一括りに出来ないのと同様、人種の坩堝であるNYもそう簡単には語れないというのが私の意見。
NYの何処に住んで、どんな仕事をして、どんな経済レベルの人と日頃付き合っているかで景気の印象は全く異なるし、
治安や街の雰囲気にしても、どのメディアからニュースを得て、何時からNYに住んでいるかで見方が異なると思うのだった。
ちなみに私は1989年からNY在住であるけれど、今のNYは当時とは比較にならないほど安全で、米国内の他都市と比べても然り。
逆に銃の普及率が高く、人口密度が低い郊外や田舎町の方が遥かにリスクが高いと考えているのだった。
景気については、NYでは小規模店舗の撤退が近年増加したけれど、閉店後のテナントが埋まらなかった場所が、気付くとさら地になって、その直後からビル建設が始まるのはマンハッタンやブルックリンでは
ありがちな光景。要するに再開発でリースが更新されないための店舗撤退もかなりある訳で、実際に過去4年連続で米国内の新築物件数のトップを維持しているのがNY市。
2024年には3万2000戸以上、2025年にも3万戸以上の新物件が建設され、中でも都市圏の新築マンションの約4分の1が建設されているのがブルックリン。
それだけ新築物件が増えても、まだまだNYは住宅難。
というのも過去数年で貧富の差が開いた結果、マルチミリオネア、ビリオネアが新築、もしくは既存ビル内の複数の物件を統合して自宅スペースを拡大した結果、
約10万世帯が失われた計算になるのだった。
その住宅不足を受けて、今後はミッドタウンの古いオフィス・ビルが住居アパートにコンバートされるけれど、
建設ラッシュに加えて今のNYで大々的に行われているのが既存ビルの外壁修理。
私の自宅ビルも建物が大きいとあって昨年から始まった修理が未だ続いており、騒音もさることながら、
空気が埃っぽく、建物やファサードがプロテクション・ルーフやネットで覆われているので 街の景観は台無し。
中には5番街、57丁目のルイ・ヴィトンのように、改築中のビルを巨大なLVトランクに見立てたカバーでスタイリッシュに覆い隠すケースもあるけれど(写真下中央)、
今のNYは”フォトジェニック”とは程遠いコンディション。
でもパンデミック中から建設されていたハイライズ・ビルディングは次々に仕上がっていて、そのうちの1つが J.P.モルガン・チェースのパーク・アヴェニューのヘッドクォーター(写真下右)。
これは全電力がリニューアブル・エナジーで賄われているNY初のハイライズ。
そのJ.P.モルガン・チェースは、早くから従業員のRTO(リターン・トゥ・オフィス)を進めた企業でもあり、
今やNYは全米主要都市の中で、オフィス通勤者数がパンデミック前を上回った唯一の街。すなわち最もスムーズにRTOが実現しているのだった。
(ちなみに写真下左は、ピエール・ホテルの外壁修理の様子で、手前の白い簡易ルーフはアップル・ストアの名物、グラス・キューブを被うもの。デザインにこだわる故スティーブ・ジョブスが見たら
怒りそうな外観なのだった。)
2025年のNYの旅行者はトランプ政権の移民政策と関税措置の影響を受けて前年比17%減、観光収入は40億ドルを失う見込みであるけれど、
2024年のNYの観光収入は940億ドル。それが2025年に900億ドルになるというインパクトは、住んでいる側にはさほど感じられなくて、
今も旅行者は多い印象。
アメリカの他の街に住んでいる友達からは、NYのコンジェスション・プライスについてよく尋ねられるけれど、
これはマンハッタンの61丁目より南側に平日の午前5時から午後9時、週末は午前9時から午後9時に車で乗り入れると、
車種に応じた混雑料金が課せられるという、今年1月にスタートした新制度。イエロー・キャブなら2.5ドル、UberやLyftといったカーシェアリングなら2.75ドル、
自家用車だと9ドルがチャージされるとあって、導入直後は大不評。4月にはトランプ大統領がそれを止めさせると宣言してニューヨーカーの支持を得ようとしたけれど、
そのリアクションがポジティブに変わってきたのが昨今。
というのも渋滞は明らかに緩和され、交通騒音の苦情が減り、公共バスとスクール・バスが時間通りに運行されるようになった上に、不法駐車と交通事故が減少。
逆に増えたのが公共交通機関の利用者と、シティバイク(自転車シェア)の利用者。タイムズスクエアやビジネス街を訪れる人数も、この夏は昨年同期より増えているので、人の動きにも影響ナシと見られているのだった。
こうした数字やデータを見ていなくても、先入観無しに街を歩いているニューヨーカーは、
今のNYが特に良いとは思わなくても、アメリカの他都市よりは全然良いと感じているし、
本当のニューヨーカーであればあるほど、「NYは Best City in the World!」という決して揺らがない誇りや自信を持っているもの。
しかしながら FOXニュース、デイリー・メール、NYポストといった保守右派メディアや保守右派インフルエンサーは、ブルーステーツ、特にアンチ・トランプ派が多いNY、LA、シカゴ、サンフランシスコといった大都市を
必要以上に悪く報じ、それをネタに民主党州政府、市政府の政策を攻撃するのが常套手段。
そのためNYを始めとするブルーステーツの大都市をどう語るかで、その人がどんなメディアをニュースソースにしているかが はっきり分かるのが現在のアメリカ。
今後はAIがさらに大量に、感情を揺さぶる情報を流入させてくる上に、アルゴリズムが特定思想に導くようにデザインされるので、
情報と感情を切り離さなければ、精神の安定や真っ当な思考を保つのが難しくなるのは容易に想像がつくところ。
世の中は行ってみなければ分からない場所、会ってみなければ分からない人、遣ってみなければ分からない事など、
情報だけでは判断できない出来ないことで溢れている訳で、私がここに書く内容も、
SNSインフルエンサーの言い分や、メディア報道も、世の中の捉え方の1つに過ぎないことを理解した上で、必要な情報だけを有益に使うべきだと思うのだった。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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