Feb. 18 〜 Feb. 24 2018

”Americans Do Marie Kondo”
ネットフリックスのシリーズ人気で名前が動詞になった
マリエ・コンドーの片付けカルチャー現象



今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、ドラマ「エンパイア」に出演中のアフリカ系アメリカ人俳優で ゲイであることをオープンにしているジェシー・スモレットが 2人の友人を雇い、自分に対するヘイト・クライムを偽装した容疑で逮捕されたニュース。
最初に報じられた直後から数多くの不審点が指摘されていたのがこの事件であるけれど、その現場となったシカゴは 街中にビジネス&プライベートを含めて3万2000台の監視カメラのネットワークが張り巡らされ、 アメリカ最先端のセキュリティ・システムを誇る都市。 それだけに今週の逮捕の時点では 容疑者として浮上したスモレットの友人2人の映像が タイムラインの動かぬ証拠として提出されているのだった。
その動機は1エピソード当たり約700万円と言われるスモレットのギャラの値上げ交渉を有利に進めようとしたためと言われ、 事件の2週間前に自分に対する殺人予告の脅迫状を番組に2通送り付けたものの それがプロデューサーに無視されたことから、 ヘイトクライムを偽装したという極めて短絡的なもの。事件直後に彼にサポートのメッセージを寄せたファンやセレブリティ、番組のキャスト達も彼が逮捕された時点では そのツイートやメッセージを削除しているのだった。
当初の意図とは違った形で 多大なパブリシティを獲得したスモレットは、もし裁判で有罪が確定すれば最高で3年の禁固刑。 それを待たずして、現在撮影中の「エンパイア」のエピソードからは彼のキャラクターが抹消されつつあることが報じられているのだった。




さて私がこのコラムを書いている2月24日はアカデミー賞授賞式が行われるオスカー・サンデー。 そのオスカーに芸能番組「アクセス・ハリウッド」のゲストとして招かれていたのが アメリカでも”オーガナイズ・グル”として人気のマリエ・コンドー。
2014年に その著書「The Life-Changing Magic of Tidying Up」がアメリカでベストセラーになって以来、一段落していた彼女の人気と知名度が 再度大ブレークしたきっかけとなったのは ネットフリックスが1月1日から放映をスタートした「Tidy Up with Marie Kondo」のシリーズ。 これは著書で説明されていた”コンマリ・メソッド” を アメリカ人家庭で実演する様子を捉えたリアリティTV。 それがべストセラー著書より 広いオーディエンス、それもミレニアル世代を中心としたよりヒップな層にアピールした結果、 1月からトレンディングになっているのが 彼女がシリーズの中で連発する「Sparks Joy」というフレーズ。
また「I Marie Kondoed my apartment」 というように、彼女の名前を「物を捨てて片付ける」という意味の動詞として使う人も ソーシャル・メディア上には多く、”コンマリ・メソッド”という言葉よりもそちらの方が遥かに定着しているのだった。

当然のことながらメイン・ストリート・メディアでも彼女が大きく取り上げられており、 HBOが放映するVICEニュースで2月上旬に放映されたのが、コンマリ・メソッドのサーティファイド・オーガナイザーになるためのセミナーの様子。 番組収録が行われたのは 2018年4月にアメリカで行われたセミナーで費用は3日間で2000ドル。 同セミナーに加えて折り紙のセッション、衣類のたたみのセッションをこなして、 フィールド・トレーニングをすれば、 時給70ドルをチャージして仕事が出来るとのこと。
VICEニュースでは、この時に全員女性の約80人の受講者と共に セミナーを受けた男性レポーターが、 番組に協力した女性宅で コンマリ・メソッドのオーガナイザーとして初めて実践をこなす様子が収録されていたけれど、 彼曰く、 家の中の物についてのクライアントの話を聞くセラピストとしての役割がオーガナイザーの仕事のとても重要な部分。 番組ではサービスが無料で行われたものの、1日目が終了した時点でその本来の料金は540ドル。 全ての片づけが終了するまでには3日を要しており、女性のアパートからは大きなビニール袋約20個分の衣類や品物が処分されていたのだった。

それに象徴される通り 「Tidy Up with Marie Kondo」に触発された人々が行うのは、自分にとって 「Sparks Joy」しないものをどんどん捨てること。 それをパロディにしたのが アメリカの夜のトークショー「レイト・レイト・ショー・ウィズ・ジェームス・コーデン」。 ゲストにアクション・スター、ジャン・クロード・ヴァンダムを迎えたエピソードで、 「Sparks Joy」しないものをどんどん破壊するコメディ・スケッチが以下のように展開されているのだった。






また1月後半から女性メディアを中心に盛り上がってきたのが「Tidy Up with Marie Kondo」を人間関係に持ち込んだ解釈。 すなわち 家の片づけに際して「これが自分にスパークをもたらすか?」と自問自答するうちに、 自分の周囲の人間にもそのセオリーを拡大解釈する女性が増えているのだった。
特にその矛先が向けられるのが夫やボーイフレンドで、家の中で自分にスパークをもたらさないものが ことごとく夫やボーイフレンドの持ち物であることに気付いた女性が、 実はその所有者も自分にスパークをもたらさないことに 気付き始めた結果、 ソーシャル・メディアに飛びかうようになったのが「マリエ・コンドーが言った通り、スパークをもたらさないなら夫もゴミ箱行き!」というような意見。
アメリカという国は「平等の意識」が表面上行き渡っていることから 「1つのセオリーが何事にも同じように適用されるべき」という概念が強い社会。 そのため状況に応じて繊細に対応する日本の”ケース・バイ・ケース”のカルチャーとは異なり、 ”一事が万事” というシンプルな受け入れがされるのが通常。 もちろん日本にも役立たずの伴侶を ”粗大ゴミ”扱いをする風潮があるものの、捨てる訳に行かないからゴミ扱いする日本とは異なり、 離婚大国アメリカにおいての ”一事が万事” の”ゴミ箱行き” の解釈は極めてシビア。 そのため「何故マリエ・コンドーは女性に対して ”もし夫がスパークをもたらさないのなら、感謝してから捨ててしまえ”と言わないのか?」と、 物だけに限って 自分のフィロソフィーを貫くマリエ・コンドーに対して疑問を投げかける意見さえ聞かれるのだった。
さらにはそのセオリーを政治家にまで発展させて、「スパークをもたらさない政治家もOut!」という意見もあるけれど、 世の中には捨てたら代わりを見つけなければならないものも沢山ある訳で、 そういうものほど簡単に捨てる訳にはいかないもの。 「すっきりと片付いた空間で幸せに暮らしたい」という意識は世界共通とは言え、 そこから発展する思考や見解については カルチャーの違いを垣間見る思いなのだった。




それとは別にアメリカでちょっとした憶測を呼んでいたのが、ネットフリックスが「Tidy Up with Marie Kondo」を公開したタイミング。 年が明けてアメリカ人がニューイヤー・レゾルーソン(新年の決心)を 掲げるタイミングでのシリーズ公開であるけれど、 そのアメリカでは 中古品をチャリティに寄付した場合、確定申告の際にそのバリューを課税額から差し引くことが出来るというルール。 でもその額に上限があることから 年が明けるのを待って 次の年の減税分を寄付する人々が多く、 新年は寄付を受け付けるチャリティがそもそも忙しい時期。 ところが今年は「Tidy Up with Marie Kondo」のシリーズのせいで例年に無い量の寄付が寄せられて、 マンハッタンのチャリティの関係者が 「マリエ・コンドーの名前は二度と聞きたくない」とボヤくほど 大量の寄付の受付に追われる状況が伝えられているのだった。
そんな大量の寄付を歓迎しているのはハリケーンや洪水等の被害に見舞われながらも チャリティ物資が行き渡らないエリアで、 その中には昨年秋の山火事で大被害を受けたロサンジェルスのコミュニティも含まれているとのこと。 近年では自然災害が頻繁に起こり過ぎているのに加えて、災害時に律儀に寄付をするミドルクラス以下の 生活が苦しくなっているとあって、寄付金の集まりが悪くなっている状況。 そのため お金で集まらない寄付を 物で掻き集めるのに役立っている居ると言われるのが「Tidy Up with Marie Kondo」のシリーズ。
さらにコンスピラシー・セオリー(陰謀説)として囁かれているのは 今年中、もしくは2020年に再び2008年のようなファイナンシャル・クラシスが起こった場合に、 「Tidy Up with Marie Kondo」のお陰で差し押さえになった家の競売を簡単かつ、低予算で行うことが出来るということ。 写真上は 2008年のサブプライム・ローンの焦げ付きで差し押さえになった家のガレージであるけれど、アメリカ人に出て行こうとする家の掃除を期待するのは不可能を通り越して 論外。 そのため家を競売に掛けるに当たって当時大儲けしたのが片付け屋。 でも「Tidy Up with Marie Kondo」に触発されて住人達が 家が差し押さえになる前に 片付け屋の仕事をやってくれるのは願ったり叶ったりな訳で、 ”次なるリセッションの下準備プロパガンダ” の役割を果たしていると指摘されているのだった。
そうかと思えば、低所得者層が「そもそも家に物が無いからマリエ・コンドーが出来ない」と嘆きのツイートをしたり、 後になってから処分したものを後悔して「I overdone Marie Kondo」と愚痴りながら買い直す人も居るようだけれど、 やはりネットフリックスのシリーズは一般大衆に広くアピールする分、本をしっかり読んだ人のようにマリエ・コンドーのメッセージをフィロソフィーとして捉える人が殆ど居ないのは仕方がないところ。
そのため片付けやオーガナイズを人生全般に反映させたライフスタイルとして実践するよりも、 「スパークをもたらさない物は全て捨てる」というアクティビティだけが 一人歩きしてトレンディングになってしまったのが現在のアメリカと言えるのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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