Nov. 18 〜 Nov. 24 2019

”Paying a Price Long Overdue...?”
英国王室の10年以上に渡る揉み消し努力を50分で
台無しにしたアンドリュー王子の大失態



今週のアメリカではトランプ大統領の弾劾公開証言が2週目を迎え、さらに8人の政府高官が証言を行ったけれど、 中でも爆弾証言と言われたのは 水曜にトランプ政権のEU大使、ゴードン・ソンランドが英語で「Quid Pro Quo」と表現される トランプ氏による職権乱用があったことを認めた証言。 このケースではウクライナの軍事援助と引き換えに、トランプ氏が2016年大統領選挙、およびバイデン副大統領の息子に関する不正捜査をウクライナ政府に要求していたこと。
翌日木曜にはさらに国務省職員が 「2016年の大統領選挙に介入したのがロシアではなく、ウクライナであった」というロシアが 書いた筋書きを トランプ大統領が事実として演出しようとしていた様子が証言され、 ウクライナ侵略のためにアメリカとの関係を悪化させたい ロシアの意向通りトランプ氏が動いている様子を示唆していたのだった。
メディアの中には クルド人を事実上裏切ったアメリカ軍のシリアからの撤退など、トランプ氏の極めてロシア寄りの政策を 改めて指摘する声も聞かれていたものの、「共和党、およびトランプ支持者はそれでも考えを改めないだろう」というのもまた共通した見解。 その一方で民主党の大統領候補、エリザベス・ウォーレンは トランプ氏の選挙戦と就任式に億円単位の寄付をしただけで、 外交経験ゼロのソンランド氏をEU大使の大役に任命したトランプ政権の ”お金で買い取られた人事” を痛烈に批判していたのだった。




今週のアメリカで弾劾公開証言同様の大ニュースになっていたのが、先週末にイギリスのBBCテレビとの独占インタビューに応じて、 ティーンエイジ・セックス・スレーブを世界中のVIPにあてがっていたジェフリー・エプスティーンとの交友関係、 および彼のアレンジでティーンエイジャーと関係した容疑について 初めて自らの言い分を語った英国王室アンドリュー王子に対する猛烈なバックラッシュ。
アンドリュー王子は、ジェフリー・エプスティーンのティーンエイジャー性的虐待行為が最初に取り沙汰された2000年代から トランプ大統領、クリントン元大統領らと共にエプスティーンとの親しい関係が報じられたパワフルな要人の1人。 王子がエプスティーンに出会ったのは、英国王室と深いコネクションがあるメディア発行人の娘、ジレイン・マックスウェルの紹介で1990年のこと。 ジレイン・マックスウェルはティーンエイジャーにモデルのキャリア等を持ち掛けては セックスの教育をし、性的虐待の一端を担っていたと言われる人物で、 写真上左で 「エプスティーンの仲介でティーンエイジャーの時にアンドリュー王子との3度の関係を強要された」と2011年にメディアに告白した ヴァージニア・ロバーツの右側に写っている女性。
ジェフリー・エプスティーンは2008年に 本来ならティーンエイジャーをセックス・スレーブとして世界各地に送り込んだ セックス・トラフィッキングで訴追されなければならないところを、「ティーンエイジャーはスレーブではなく娼婦」という弁護側の主張があっさり認められて 大幅な減刑が行われた結果、1日12時間以上の外出が許される16カ月の軟禁刑を受けただけに終わったのは当時から大きな物議をかもしていたこと。 有罪確定後もアンドリュー王子は彼との交友関係を続け、エプスティーンの70億円のNY邸に何日も滞在した様子は今年に入って 再びエプスティーンが逮捕されて以来、多くのメディアが報じてきたこと。 また2011年にヴァージニア・ロバーツの告白がスキャンダルになった際には、アンドリュー王子の元妻、”ファーギー”こと サラー・ファーガソンが抱えていた 借金を エプスティーンが肩代わりして支払っていたことも明らかになっており、 これを受けて同年にはアンドリュー王子が英国貿易使節を一時退任する事態になっていたのだった。
それもあって世界の要人やカソリック教会の青少年性的虐待容疑にフォーカスしたポッドキャストやYouTubeビデオでは、 「イギリス王室の”Pedophile (ペドファイル、いわゆるロリータ・コンプレックス)」として必ず名前が挙がっていたのがアンドリュー王子。 先週末のBBCのインタビューはそんな長年に渡るスキャンダル疑惑についてアンドリュー王子本人が初めて語ったもので、 もちろんその目的は容疑や疑惑を晴らして 問題に終止符を打つためのもの。
しかしながらメディア・サヴィーとは言い難いアンドリュー王子の時に傲慢と言える態度や、筋道が通らない言い分、 王室の一員として育ったからこそ許されてきた甘えや常識の無さを垣間見せた49分30秒のインタビューは、 過去10年以上に渡って英国王室が行ってきたスキャンダルの揉み消し努力や、FBI捜査を逃れるための根回しと言われた 今年6月のトランプ・ファミリー国賓招待の費用を全て台無しにするパブリシティ・ディズアスター(大災害)になっていたのだった。




欧米社会では「何を尋ねても良い」という条件で メディアとのスキャンダルの釈明インタビューに応じる場合、パブリシストや弁護士立ち合いの トレーニングやカメラ・リハーサルを行って、その言い分から表情、ボディ・ランゲージまでをしっかり習得してから臨むのが常。 しかしアンドリュー王子の場合、全くそうした準備などせずに不用意に臨んだとしか思えない言い分や表情で、 実際のところ王子の長年のパブリシストはインタビューの2週間前に王子と喧嘩をして辞任。その元パブリシストはインタビュー放映直後に、 アンドリュー王子がアフリカ諸国やサウジアラビアの要人に対して人種差別用語や人種差別ジョークを連発していたことを明かす有り様。 パブリシスト辞任後にBBCとのインタビューを王子に勧めたのは元妻のサラー・ファーガソンと噂されており、彼女は インタビュー直後に王子をサポートする声明を出した数少ない人物の1人なのだった。
しかし多くの英国民やメディア関係者はアンドリュー王子に対するバッシング・ツイートを行っており、 それを受けてあっという間にスポンサーが離れたのが王子が立ち上げたスタートアップ企業チャリティ、ピッチ@パレス。 ロイヤル・バレエ、ケンブリッジ大学を含む王子がパトロンになっている200以上のチャリティも 「王子との関わりと絶つ」、 もしくは「関わりを見直す」という声明を次々と発表。 エリザベス女王の誕生日である11月20日には、アンドリュー王子が英国王室の公務から身を引く声明を発表せざるを得ない状況に追い込まれており、 金曜にはバッキンガム宮殿内に設置されていた王子のプライベート・オフィスが閉鎖・立ち退き処分となっているのだった。
王室関係者はアンドリュー王子に対して「FBIに逮捕される可能性があるのでアメリカには旅行しないように」と警告していることが伝えられるけれど、 今週に入ってからはそんな王室関係者の間でも増えているのが「王子はFBIの捜査に応じるべき」という意見。 事実、アメリカで最も有力な弁護士で、前述のヴァージニア・ロバーツを含む9人の元エプスティーンのセックス・スレーブの弁護を担当するデヴィッド・ボイスは、 かなり以前からアンドリュー王子に対して事情聴取を申し込んでいるとのこと。 「王子は容疑者でなかったとしても証人、もしくは参考人としてFBI捜査に遅かれ早かれ応じることになる」という展望を示しているのだった。

一方、7月にニューヨークの刑務所で首吊り自殺をしたことになっているジェフリー・エプスティーンについては その検死結果に不信の声が高まっており、 つい最近FOXニュースに登場したゲストがライブ放映のコメントの最後に突然「ジェフリー・エプスティーンの死因は自殺じゃない」と語るなど、 殺害説がどんどん強くなっている状況。 今週には刑務所のガード2人が「30分置きのチェックを6時間以上に渡って怠った」ことを認めて有罪判決を受けているけれど、 そのうちの1人が「自分こそがこの事件の本当の被害者」と意味ありげな発言をしている通り、 自殺が報じられた直後には「見回りに行くなと指示を受けた」とメディアが伝えたのがガードの言い分なのだった。




今週にはアンドリュー王子のビリオネア並みのライフスタイルについても、何故海軍の恩給や年間約3300万円と言われる王室手当で 可能なのかという疑問が 今さらのように浮上していたけれど、アンドリュー王子がジェフリー・エプスティーンとの交友関係を続けた理由の1つと言われるのが 経済面のサポート。 また王室の一員というだけでイギリス国民さえ知らないほど多数の大学やチャリティのパトロンとなり、 イベントに姿を見せたり、名前と王室の称号を印刷物に使わせるだけでもかなりの収入になっていたのは言うまでもないこと。
アンドリュー王子は王室公務から身を引く声明を出した翌日に、ピッチ@パレスの寄付金集めのためにバーレーンに飛び立とうとしていたほどなので、 今回のスキャンダルでも数カ月後には公務に戻れるつもりでいることが伝えられる状況。 しかし多くの人々はこの事態を「現代の英国王室が迎えた最悪の危機」と指摘し、中には「王子からHRH(His Royal Highness)の称号をはく奪するべき」 との声も聞かれるのだった。

また今週に入ってから英国王室のインサイダーの間で囁かれているのが、この問題でチャールズ皇太子のパワーが増してきているということ。 そもそもエリザベス女王が弟のアンドリューびいきであることを幼い頃から疎ましく思ってきたチャールズ皇太子であるだけに、 現在王室が迎えているクライシスの責任がアンドリュー王子をかばい、甘やかしてきたエリザベス女王にあるというのが 皇太子が一貫して取り続けてきた態度で、今や王室関係者ほぼ全員が皇太子をサポートする側に回っているとのこと。
事実、アンドリュー王子はエプスティーン以外にも多数のスキャンダルに関わってきており、 1980年代に中絶が禁止されているカソリックのポルノ女優を妊娠させた問題に始まり、 数多くの女性関係が取り沙汰されては、それを王室が握り潰してきたのは周知の事実。 それだけに BBCとのインタビューで「自分はワイルドなパーティーには興じないし、人前で女性の身体に手をかけるようなことはしない」と アンドリュー王子が語った途端に、彼が数多くの女性の腰に手を回してパーティーを楽しむ姿、一緒にダンスに興じる姿などの写真がインターネット上に溢れる結果になっているのだった。

もう1つ興味深く見守られているのが、ここへきてハリー王子&メーガン・マークル夫妻が王室と距離を置く姿勢をさらに顕著にしていること。 クリスマスをエリザベス女王と過ごす王室のしきたりを破ってハリー王子&メーガン・マークル夫妻が ロサンジェルスでメーガンの母親と共に過ごすことを明らかにした際には、ハリー王子が認めた ウィリアム王子との確執が原因との見方が多かったものの、今週に入ってから高まっているのが「ハリー王子夫妻が本当に距離を置こうとしているのは アンドリュー王子のスキャンダルと、それをかばう王室」という説。 6月にトランプ大統領が訪れた際にハリー王子がトランプ氏の傍に寄らず会話をしなかったこと、 メーガンが一切のトランプ氏の国賓行事に出席しなかったことについても、もしトランプ一家の国賓待遇がFBI捜査の根回しのためであるのならば ハリー&メーガン夫妻の行動は アンドリュー王子をかばう王室とは一線を画したもの。特にメーガンは性的虐待被害者女性のための チャリティを運営しているだけに、アンドリュー王子をサポートする姿勢を見せれば偽善者扱いされても不思議ではないところ。 ハリー&メーガン夫妻のチャリティ基金は2020年に正式にスタートするけれど、それはバッキンガム宮殿とは距離を置いた個別の基金として設立されることになっているのだった。

ジェフリー・エプスティーンは20年以上に渡って世界中のVIPに対してティーンの美少女をあてがい、そんなVIPの性癖について フレンドリーなブラック・メール(脅迫行為)を行うことで ビリオネアになった人物であるけれど、 高卒の彼をマンハッタンの有名私立校の数学教師に雇ってハイソサエティとのコネクションを作らせたのは 現トランプ政権の司法長官、ウィリアム・バーの父親。エプスティーンが最初に投資顧問を務め、ただ同然で約10億円のマンハッタンのペントハウスを譲り受けたのが ヴィクトリアズ・シークレットの親会社のCEOであるレスリー・ウェクスナー。 エプスティーンはヴィクトリアズ・シークレット・モデルのキャスティングに力があることを謳って、多くのモデル志願のティーンエイジャーを セックス・スレーブに仕立ててきたことが伝えられるのだった。
今週にはそのヴィクトリアズ・シークレットが2005年から毎年行ってきたランウェイ・ショーのキャンセルを正式に発表。「#MeTooムーブメントを受けて スーパーモデルが男性に媚びるようなファッション・ショーが既にアピールしなくなっている」と説明したけれど、 実際にはその親会社が恐れているのはエプスティーン・スキャンダル捜査の矛先が向けられ、さらなるブランドのイメージダウンを招くこと。
もちろんショーのフォーマットがアピールしなくなっているのも事実で、昨年の視聴率は三大ネットワークのABCのプライムタイムに放映されたものの 僅か330万人。これはケーブル・チャンネル並みの惨憺たる数字なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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