June 13 〜 June 19, 2022

"Inflation Psychology, The Worst Verdict, Etc."
インフレ・サイコロジー、史上最悪の親権裁判判決、Etc.


今週のアメリカで最大の報道になっていたのは、イエローストーン国立公園を閉鎖に追い込む千年に1度の豪雨と大洪水の被害もさることながら、 水曜にFEDこと連邦準備制度理事会が金利を1994年以来の上げ幅である0.75%引き上げたニュース。 これはもちろん8.6%という1981年以来最速のペースで進むインフレを抑制するための手段で、 今週もガソリン価格は全米平均で5ドルを上回る中、株式市場はダウが3万ドルを切って今週の取引を終えて 完全にベア・マーケットのテリトリー。 S&P500も今週は5.8%下落という近年のワースト・ウィークを記録。アメリカの家系債務は過去最高の15兆8400億ドルに達する見通しで、 クレジット・カード債務も8410億ドルに膨らむことが見込まれるのが現在。
この金利引き上げにより住宅ローン、自動車ローン、学費ローン、ビジネス・ローンといった ありとあらゆるローンの年利がアップするけれど、特にクレジット・カードは低所得者ほど年利が高いものを持たざるを得ない状況。 そんなカードの中には2022年末の時点で19%の年利に達するものもあることから、経済専門家がメディアを通じて 「低金利プロモーションを行っているカード会社に 高金利のカード・ローンをトランスファーするように」と呼び掛けていたのが今週。 さらに家計を見直す際には「まず不必要なサブスクリプションをキャンセルするように」とアドバイスしており、実際に多くのアメリカ人が 時にサブスクライブしているのを忘れたり、値上がりに気付くことなく 毎月自動的に払っているのがこの出費。
インフレの継続は サブスクリプションのキャンセルが増え、新規の利用者が減ることを意味することから、 2021年12月に600ドル以上だった株価が今週末には175ドルになっている ネットフリックスを始めとするストリーミング・サーヴィスにとっては、厳しい時代の到来を予感させているのだった。



不動産市場とインフレーション・サイコロジー


前述のように今週金利が0.75%引き上げられたことで、米国のベンチマーク金利は1.5〜1.75%となったけれど、 今回の利上げは2022年に入って3度目のもの。来月7月にも見込まれるのが同等の利上げで、 年末にはベンチマーク金利が3.4%まで引き上げられるのが現在の見込み。
2022年に入ってからの金利引き上げの影響が最も大きく現れているのが不動産市場で、今週住宅ローン金利は5.78%にまで上昇。 これによって今年1月には3.3%だった30年固定金利が、今週には6.22%にアップ。 しかもアメリカの住宅の平均価格は、2021年第1四半期の36万9800ドルから 2022年第1四半期は42万8700ドルへと 16%も値上がりしている状況。 そんな金利上昇と住宅価格高騰のダブルパンチを受けて、アメリカの住宅ローンの月々の平均返済額は 2021年12月に比べて 現時点で40%もアップしているのだった。
さすがにここまで来ると 住宅購入を見合わせる人々が増えるのは当然の成り行きで、突如クールダウンが顕著になってきたのが米国不動産市場。 その証拠に今週には大手不動産会社2社が、それぞれ従業員の8%、10%という大量レイオフに踏み切っており、「突如市場が冷え込んだため、コストカットをしなければならない」と その理由を説明しているのだった。

このように不動産や自動車、高額家電商品といった俗に言うビッグ・チケット・アイテムの買い控えは、インフレーション・サイコロジーの典型的なパターン。 NBCのアンケート調査では、アメリカ国民の88%が「インフレを懸念する」と回答しているけれど、 逆にその懸念から「値段が上がる前に買っておかなければ」という消費に走るのもインフレーション・サイコロジー。 実際に同じアンケートでは38%の人々が「これ以上インフレが進む前に買っておきたいものを中心にお金を遣う」とも回答しており、 インフレ懸念が必ずしも消費を低下させる訳ではないことが指摘されていたのが今週。
実際にアメリカの5月の小売り成績は6729億ドルで、前月比から0.3%ダウンしたものの、前年比では8.1%の上昇。もちろん上昇の背景にはインフレによる価格アップがあるとは言え、 未だ消費力は衰えていないと言われるのが現在のアメリカ。 そんな中、インフレーション・サイコロジーによって売り上げを伸ばしているものの1つがフォーマルウェア。 これはパンデミックが終わり、結婚式を始めとするパーティーに出席する機会が出て来たためで、 パンデミック中に価値観やライフスタイルが変化し、手持ちのフォーマルが古臭く感じらるという理由も手伝って、 値上がる前に買っておこうという人が多いことが指摘されるのだった。
それ以外にも 買い溜めが効く消耗品、特にセールによる値引きの無い商品がインフレーション・サイコロジーによる 消費が見込まれるアイテム。
その一方で、前述のようにサブスクリプションをキャンセルする人々が増えることから、「ジムのメンバーシップのキャンセルも増えるのでは?」と思われがちであるけれど、 医療費が高額なアメリカではインフレ時代に健康を害する訳には行かないとあって、贅沢なジムを庶民的なジムに切り替えるような変化はあっても、 健康維持に関わる出費は継続する傾向が顕著なのだった。



史上最悪の親権裁判判決


今週、全米のニュース・メディアが注目したのがルイジアナ州の親権裁判のあり得ない判決。
この裁判を争っていたのは女児の母親、クリスタ・アベルセス(32歳)と2015年にDNA判定で父親であることが判明し、それ以来 子供の親権をシェアしてきたジョン・バーンズ(46歳)。 クリスタは16歳の時にバーンズによるレイプで妊娠。 当時パーティーに出掛けた彼女は、家に車で送ってくれるはずの友人が先に帰宅してしまったことから、兄の友人である当時30歳のバーンズの車で帰宅することになり、 酔っていた彼女を自宅に連れ込んでレイプしたのがバーンズ。クリスタはレイプについて誰にも告白することが出来ないまま妊娠に気付いたという。 そして父親が当時交際していたボーイフレンドだと思い込みたかったクリスタは、父親がバーンズかもしれない不安を掻き消して出産。 クリスタもバーンズも同じ小さな町に暮らしていたものの、暫しはお互いに会うことも無く、生まれた子供を育てる穏やかな日が続いたのだった。
しかしやがて2011年にバーンズはクリスタが女児を設けたことを知り、その4年後にDNA判定を要求。 その結果、彼が99%以上の確率で父親であることが明らかになったことから、親権を要求する裁判を起こしたのだった。

この時になって、クリスタはバーンズのレイプが未だ時効になっていないことを初めて知り、 警察に被害届を提出。通常10年が経過したレイプを立証するのはほぼ不可能であるものの、バーンズが娘の父親であることから 16歳のクリスタと彼が関係したのは動かぬ事実。 ルイジアナの州法では、17歳以下の少女との関係は例え合意があった場合でも例外なく レイプと見なされることから、 クリスタは被害届を提出することにより ジョーンズが重犯罪で逮捕され、親権が奪われることは無いと信じていたという。
しかし2015年に裁判所が下したのは彼に50%の親権を与える判決。 以来、ジョーンズは度重なる訴訟を起こしてはクリスタを精神的、経済的に苦しめ、親権を独占するための画策を続けて来たのだった。
そしてジョーズが数か月前に起こしたのが、クリスタが彼に無断で娘にスマートフォンを買い与えたという訴訟。 訴状では、スマートフォンの番号がジョーンズには知らされず、娘がボーイフレンドと年齢不適切なテキスト・メッセージの交換をしていたことから、母親の責任を追及するという 言いがかりのような主張を繰り広げており、裁判所がそれに取り合うこと自体も不思議であったけれど、 それに対する判決は常軌を逸しているという表現では足りない異常ぶり。
裁判官はジョーンズの訴えを認めて、娘の親権を100%ジョーンズに与えただけでなく、 クリスタに対して娘が成人するまで養育費をジョーンズに支払うように命じ、さらには裁判に掛かった費用の全額負担までをクリスタに言い渡したのだった。



史上最悪判決の背後にあるのは… 


この不当な判決を受けてクリスタの側についた初めての有力な助人がレイプ被害者のために闘うノンプロフィット・オーガニゼーション。 それまでのクリスタは 訴訟で既に財力が尽きていたことから、有力な弁護士を雇うことも出来ず、 訴訟だけでなく、日頃から様々な脅しや嫌がらせをしてくるバーンズに成す術が無かった状況。 一方のバーンズは、ルイジアナだけでなく、その周辺の複数の州でハンティング・ライセンスを所有し、地元の有力者との深い交流があり、 会社経営をする地元の名士。しかもバーンズの会社は地元警察のコントラクターで、シェリフとは親友の仲。そしてシェリフはルイジアナ州知事の幼馴染み。
彼はクリスタに「自分は警察と裁判所に顔が利くから、いつか娘を取り上げてやる」と頻繁に言い続けてきたそうで、 この判決を受けるまで、クリスタはそれが彼のハッタリだと思い込んでいたという。 しかし彼が警察に顔が利いたと思われるのは事実で、クリスタが2015年に申請したレイプの被害届は一切手付かずの状態で放置されたまま現在を迎えているのだった。

一方、司法関係者が「長く法律に関わってきたが、こんな判決は聞いた事が無い」と呆れる判断を法廷で下した裁判官、ジェフリー・キャッシュ(写真上右)は、 悪い意味で一躍時の人になってしまったけれど、ルイジアナ・ネイティブの彼が同州の家庭裁判所の裁判官になったのは2015年のこと。父親は地元で弁護士事務所を経営し、 父親の代からの共和党。妊娠中絶に反対し、判事指名獲得のキャンペーンの寄付を受け取る見返りに、親権裁判において不当な判決を下した過去がある人物。 その際に 彼の裁判官資格を剥奪する署名活動がインターネット上で行われたものの、この時は訴訟が注目を集めることは無く、十分な署名が集まらなかったことが伝えられるのだった。

要するにクリスタのケースは、警察と司法に顔が利くレイプ犯とお金で動く裁判官、レイプを犯罪として軽視する地元警察、 地域社会のコネと馴れ合いの中、レイプ事件と親権裁判の双方で公正な法の裁きが行われなかった最悪のケース。 しかしノンプロフィット・オーガニゼーションがクリスタに加担したことで、先ずメディアが動き、ソーシャル・メディアが反応し、世論の猛バッシングが始まったことから、 ルイジアナの司法長官が、ようやくバーンズの立件と親権裁判のやり直しについて言及したのが今週末の段階。 恐ろしいことには、バーンズは他の女性とも女児の親権を争っており、普通であればルイジアナ州の小さな町の親権裁判などは 誰の目にも留まることは無く お金とコネクション、義理や馴れ合いで全てが決められて、コネも資金も無い側は泣き寝入りを強いられてきたのがこれまで。
先週のこのコラムで書いたジョニー・デップVS.アンバー・ハードの名誉棄損訴訟は メディアとソーシャル・メディアの影響で、 本来の法的裁きのプロセスが脱線したケースであったけれど、クリスタの親権裁判においては ソーシャル・メディアの世の中だからこそ不正が正され、法廷の正当性が守られようとしているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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