今週のアメリカでは、初のアメリカ人法王が誕生したバチカンのコンクラーヴェ、インドとパキスタンのカシミールを巡る戦争状態、
30年前に運営コストが掛かり過ぎることから閉鎖されたサンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラス刑務所を復活させるとトランプ氏が語ったニュース、
不法移民をリビアの劣悪極まりないコンディションの刑務所に送り込む計画、それをリビアが否定し、裁判所がブロックしたニュース等、
引き続き目まぐるしい報道が行われていたけれど、国民の最大の関心事はやはり生活と直結するトランプ関税。
今週木曜にはイギリスと暫定的な合意に達し、ようやく中国と交渉の目途が立ったことを好感して、株からクリプトカレンシーまでの市場が高騰。
しかしトランプ氏は今週、新たに外国映画に対する関税を打ち出しており、これは既に世界市場で約70%のシェアを握る
ハリウッドにとっては大迷惑。カウンター関税が掛けられれば、パンデミックのダメージから脱却していない映画業界は確実に大被害を被るのだった。
目まぐるしいニュースでメディアが振り回される背景で、
起こっていたのがトランプ・ファミリーのえげつないまでのドル箱ディール。
まずトランプ氏の次男、エリック・トランプがドバイを訪れ、現地で2030~2031年の完成を目途に10億ドルを投じたトランプタワー建設を発表。
この資金面のパートナーとなるのがロンドンのダーグローバル社。
そのドバイがあるアラブ首長国連邦(UAE)の政府系ベンチャー・ファンドは、トランプ・ファミリーの暗号資産企業、ワールド・リバティ・ファイナンシャルがクリエイトした ステーブル・コイン(1コイン=1ドルの価格変動がないコイン)を用いて、
暗号資産取引所 バイナンスに20億ドルの投資を行うと発表。これによってトランプ・ファミリーのステーブル・コインの時価総額は世界第7位に急騰。
このUAEの投資とは表向きの肩書で、実質的にはトランプ・ファミリーに対する巨額の資金提供、すなわち賄賂。
それと引き換えにUAEが何を得るかといえば、UAEに対する エヌビディア半導体輸出規制を大幅に緩めることなのだった。
その一方で、トランプ大統領のミーム・コインの公式サイトは、「トランプ・コインに多額の投資をした上位220人を
トランプ氏とのプライベート・ディナーに招待し、さらに上位25人にはホワイトハウスVIPツアーを提供する」と発表。これを受けて、早速 世界的トラッキング会社が2000万ドル相当のトランプ・コインを購入したことが伝えられているのだった。
大統領が政治献金を募るのではなく、個人資産になる金融商品のプロモートを堂々と行うのは歴史上あり得ないことで、
さすがにホワイトハウス・ツアーの部分は後にサイトから削除されたものの、これも大統領に対する賄賂を集める行為。
昨年の大統領選挙で暗号通貨業界が、業界別で最高額の献金をトランプ氏に寄せたのは、クリプト・フレンドリーなトランプ政権のサポートを得て、ステーブル・コインを法定通貨にする規制法案を可決させるため。
しかしトランプ・ファミリーの金儲け主義によって、法案が握りつぶされるリスクが浮上しており、実際に今週下院で否決されたのが同法案。
逆に民主党側は大統領、議員、およびその家族による暗号資産の発行、推奨、またはスポンサー行為を禁止する提案を纏めて提出しているのだった。
その一方でドナルド・トランプJr と、トランプ政権のクリプトカレンシー責任者のデヴィッド・サックスは、ワシントンDCのかつてのトランプ・ホテルを
”エグゼクティブ・ブランチ”というプライベート・クラブにコンバート。メンバーシップ・フィーが50万ドルという
”貧乏人お断りクラブ”に参加するメリットは、この2人の顔ぶれから クリプトカレンシーのインサイダー・インフォメーションが得られることだと噂される状況。
先週にはドバイで、世界中のクリプト富豪が集まる大イベントが行われたけれど、現在 UAEの投資会社IHCとADQは、ファースト・アブダビ・バンクと手を組んでデジタル・バージョンのUAE通貨となるステーブル・コインをクリエイトしている真最中。
最終的に中央銀行に承認される必要があるとは言え、この中東、アメリカでのステーブル・コインを巡る動きは、法規制さえクリアすれば新しい通貨の誕生を意味するもの。
「暗号資産には投資をしないので関係ない」などと考えていると、時代に取り残される可能性があるのだった。
法規制が進めば、2030年には暗号通貨がキャッシュに取って代わるとも言われるけれど、
その頃には 絶滅の危機に瀕していると予測されるのが現代人の必需品、スマートフォン。
IT業界でこの予測に反発しているのはアップルのティム・クックくらいで、
多くは持ち歩く必要や、置き忘れるリスクのないウェアラブル、すなわち身に着けるディバイスになるという見解なのだった。
イーロン・マスクは自らが経営するニューラ・リンクのチップが「やがて人間頭脳とAIを繋ぐ」と主張してきたけれど、
テスラの自動運転さえ実現していないことから 信憑性が薄いのに加えて、「マスクが作った物を体内に入れるなんて」という声は圧倒的。
しかし体内にデジタル・チップを埋め込み、それをIDにしたり、鍵の開閉等を行うのは既にスウェーデンで実用化されているテクノロジー。
一方のマーク・ザッカーバーグは、既にMETAが開発しているAR(拡張現実)グラスが電話、テキストメッセージの送付、ビデオ閲覧といったスマートフォンの全ての機能に取って代わるというポジション。
ビル・ゲイツは、ケオティック・ムーンが開発した”エレクトリック・タトゥー”がスマートフォンに替わると見込んで投資をしており、
これはタトゥーというのは名ばかりで、実際には肌に貼り付けるパッチ。このパッチには電気エネルギーを蓄える受動電子部品がフィーチャーされ、既にヘルスケアのモニタリング・ディバイスとして実用化されているもの。
現時点ではこれにコミュニケーション機能を加えるテクノロジーが開発中なのだった。
アップルのティム・クックは、AIやARの機能がアイフォンに加わって行くと主張し、あくまでスマートフォンがセンター・ハブであると主張するけれど、
AIが予想を上回る普及と進化を見せていることは認めざるを得ないポジション。
今週、アップルは Safariブラウザでの検索数が2025年4月に初めて減少した」と発表。
その原因はチャットGPTやPerplexity AI等などの AIツールを使用する人々が増えたため。
そもそもチャットGPTが登場した直後からグーグルを始めとする検索機能がやがて不要になることが指摘されてきたけれど、
こんなに早くその現象が現れたことで、グーグル株は今週8%値を下げていたのだった。
スティーブ・ジョブスがアイフォンを発表したのは2007年、2013年には「セルフィー(自撮り)」という言葉が一般的に使われるようになり、ソーシャル・メディア・ポストから
オンライン・ショッピングまでがスマートフォンで行われるようになったのがその直後。
そして今ではAIがテクノロジーの進化を更に早めていることから、2030年前後、6Gの到来と共にスマートフォンに取って替わるディバイスの時代がやって来るという見方は有力。
どのディバイスが登場した場合でも、AIが絡む限りは膨大な電力が必要。そもそも同じことを調べるにも、AIの質問回答に要する電力はGoogle検索の10倍。
それに対応して3件の原子力プロジェクトに投資をしていることが報じられたのが他ならぬGoogle。
世界規模で原子力開発が進めば、その煽りを受けるのが産油国で、現在中東諸国が進めているのが石油以外の収入源確保。
その1つが観光収入で、先週カタール政府はトランプ・エンタープライズのためにゴルフ・リゾート開発のための一等地を提供。
そして今週、ディズニーはアブダビに新テーマパークのオープンを発表。ディズニーが新パークをオープンするのは15年ぶりのことで、
テクノロジー開発だけでなく、世の中の様々なことがスピードアップしているのだった。
先週トランプ大統領がアラバマ大学の卒業式でのスピーチで語ったのが、以下のセンテンス。
「最初の任期では、インターネット・ピープル(IT大手)は皆、自分を憎んでいた。だがどうだ、今や"They're kissing my ass. All of them."(彼らは私の尻にキスをしている。全員だ)」。
卒業スピーチというより選挙キャンペーンのような演説をしたトランプ氏に対しては、公の場での言葉遣いが乱雑になっている批判も寄せられたけれど、
誰もが認めたのが、トランプ氏が第二期政権でIT大手に対して完全にマウントを取っている様子。
ITのエグゼクティブは、トランプ氏の就任式に多額の寄付をし、一等席で就任式を見守り、
トランプ氏に擦り寄る姿勢を見せたものの、さほど恩恵は受けておらず、
Googleは現在、ウェブ広告と検索エンジンという2つの部門で独占禁止法のターゲットになっている真最中。
今週には「グーグルがオンライン広告技術市場を違法に支配していた」との判決が下り、グーグル傘下の
デジタル広告のマーケットプレイス「AdX」と、ウェブ広告の管理・配信プラットフォーム「DFP」の売却が司法省から提案されたばかり。
検索関連の裁判では、恐らくGoogleがウェブ・ブラウザ、クロームを手放すことになると見込まれ、「ネット上での健全な競争回復」を理由に、
大きくなり過ぎたグーグル解体が着々と進んでいるのだった。
独禁法による解体はフェイスブック(META)も直面している真最中。同社はインスタグラムとWhatsAppの買収を巡って、FTC(連邦取引委員会)に訴えられており、
マーク・ザッカーバーグはトランプ氏に取り入って、何とか裁判取り消しに持ち込もうとしたものの、それに失敗。
アマゾン会長のジェフ・ベゾスは、トランプ氏をこの夏イタリアで行う彼の結婚式に超VIP待遇で招待していることが伝えられ、
メラニア夫人に対して彼女のドキュメンタリー制作のために破格の4000万ドルを支払っただけでなく、
夫人にプロデューサーの権限まで与え、夫人の長編プロモーション・ビデオをアマゾン・プライムで放映予定。
しかしトランプ関税によるアマゾンへの打撃は大きく、アマゾンがウェブサイトで商品価格に関税額を併記することを発表した途端、ホワイトハウスは
「敵対的政治行為」と猛非難。それをトランプ氏からの電話1本でベゾスが取り消したことで、トランプ氏からお誉めの言葉を授かったばかり。
アップルは、2月に今後4年間でアメリカ国内に5億ドルの投資を約束したことで、トランプ氏に中国への関税対象からスマートフォン、コンピューター、半導体を除外してもらうことに成功。
しかしそれ以外の関税で、今四半期だけで9億ドルの損失を被る可能性が大。
ちなみにアップルが国内投資で計画しているのはロボット・アームがコンピューターやアイフォンを組み立てる無人ファクトリーの建設。
したがって製造業はアメリカに戻っても、それが雇用を生み出す訳ではなく、レッドステーツの労働者にとっては、これまで中国に奪われていた仕事が、今度はAIやロボットに奪われるだけの話なのだった。
イーロン・マスクについては、昨年の大統領選で2億8000万ドル、今年のウィスコンシン州の選挙で更に2000万ドルを投じたとあって、
トランプ政権からはコントラクターとして更なる恩恵を受けているけれど、DOGEで好き勝手にやらかしたことで国民からは猛バッシングの対象。アンチ・マスクのムーブメントは
イギリス、ドイツ、オーストラリア等、海外にも広がり、テスラが経営危機に瀕する状況になったのは周知の事実。
現時点で、ビジネスが堅調と言えるIT大手はネットフリックスで、リセッションになって多くの人々が外出やショッピングを控えたとしても、
ネットフリックスは唯一の楽しみとしてキープすることが見込まれているのだった。
来週からの3週間、筆者旅行中につきこのコーナーをお休みさせて頂きます。再開は6月1週目からになります。
今回は期間が長いので、コラムの替わりに「Covid 19 NYダイアリー」を3回に分けて公開させて頂くことにしています。
コラム同様にご一読いただけたら嬉しい限りです。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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