Oct. Week 2, 2022
“Gustav Klimt: Gold in Motion”
グスタフ・クリムト:ゴールド・イン・モーション


私が好きな画家として、必ず名前を挙げるのがグスタフ・クリムト。
クリムトの最も有名な作品と言えば「Kiss / 接吻(写真下左)」であるけれど、 最も高額な絵画と言えば1990年代初頭に描かれ、2006年にコスメティックで知られるエスティ―・ローダー家の一員、ロナルド・ローダーによって1億3500万ドルで 購入された「アデル・ブロック・バウワーの肖像1(写真下右)」。これは当時、絵画の史上最高額で、以来「アデルの肖像」はロナルド・ローダーがNYに所有する Neue Galerieで、彼の税金対策の役割も果たしながら展示されてきたのだった。
マンハッタンのアッパー・イーストサイドにあるこのギャラリーは、「アデルの肖像」以外は見るべきところが無いスポット。 でもクリムトが大好きな私は20ドルを支払ってこの1枚を見るために足を運んだけれど、 私のリアクションは 写真写りが良い俳優の実物の姿を見た時に近いもの。 実物のオーラやそれなりのパワーは感じたものの、期待したほどのインパクトが無く 「こんな物か…」と思ったのが正直なところ。 加えてNeue Galerieはアートを楽しむスペースとは思えないもので、「どんなにクリムトが見たくなっても ここにだけは戻らない」と心に誓ったのを覚えているのだった。






そんなクリムトの作品が実物ではなく、ダイナミックな空間で満喫できるのが9月からマンハッタン、市庁舎ビルに程近い インダストリアル・セイヴィング・バンク・ビルディングを会場に行われている ”グスタフ・クリムト:ゴールド・イン・モーション”。
このエキジビションは クリムトの絵画をモーション・ビデオ仕立てにして、会場全体をシネマ・スクリーンに見立てて、 音楽と共にプレゼンテーションするというもの。 そのコンセプトは絵画を鑑賞や閲覧ではなく、体感すること。 「絵画を空間として感じて その世界に入り込み、動きを感じることで、 よりセンシティブでエモーショナルなアート体験を約束する」のがこのエキジビション。
同じイベントは既にパリのL'Atelier des Lumières / ラトリエ・デュ・ルミネール で開催されていて、パリではそれ以外にもヴァン・ゴッホ、クロード・モネ、オーギュスト・ルノアールといった 巨匠の作品で同様のプレゼンテーションが行われているのだった。






上のビデオは ”グスタフ・クリムト:ゴールド・イン・モーション” のプレゼンテーションを収めたビデオ。 会場であるインダストリアル・セイヴィング・バンク・ビルディングは、ボザール建築のランドマークで、天井の高さは9.1メートル、床総面積が3065平方メートルの ダイナミックな空間。 抜群のサウンドシステムから流れる音楽と共に、その床、柱、壁全面にモーション・ビデオとして映し出されるのがクリムトの作品で、 上のビデオはかなり長いけれど、数分程度見ればその独特で 美しい世界が想像できると思うのだった。

アートの世界では賛否両論なのが このような絵画をモーション・ビデオに落とし込むプレゼンテーション。 しかしクリムトや前述のゴッホ、モネといった画家のエキジビションを行おうとすれば、世界中の美術館やプライベート・コレクションに点在する作品のレンタルをスケジュールし、 その搬送とセキュリティ、そして会場に作品を吊る作業まで、膨大な費用と人件費が掛かるのは言うまでもないこと。 またエキジビションの期間中もセキュリティや運営費に掛かるコスト、終了すれば作品を送り返す費用などが掛かる訳で、それを考慮すると 一度会場さえセットアップすれば、どんなアーティストの作品もデジタル画像の編集で行えるプレゼンテーションは コスト・コンシャスであり、サステイナブルであるとも言えるのだった。






絵画作品がこのような体験的エンターテイメントになって来ているのは時代を反映しての変化。 生まれたころからマルチメディアが当たり前のミレニアル世代やジェネレーションZは、美術館で絵画鑑賞しなくなってきていると言われるけれど、 そんな世代にもアピールするのが ”グスタフ・クリムト:ゴールド・イン・モーション” のプレゼンテーション。
こうした世代の好みやアクティビティの変化を見ていると、全てがヴァーチャルで体感できるメタバースの必然性を改めて感じるけれど、 実際にメタバースが実用化されれば、自宅に居ながらにして 楽しめるようになるのが ”ゴールド・イン・モーション”のような体験。

でもクリムトという画家についての知識が無い人が こうしたプレゼンテーションで初めて作品に触れた場合、エキジビションのスケールや音楽、ビデオ・モーションに関心を奪われて 画家としてのクリムトの魅力や作風はそっちのけになってしまうのは事実。加えてエキジビションのクリエーターが作り上げた世界の中のクリムト像にしか触れられないのも このタイプのプレゼンテーションの限界。
”実物だけが持つ魅力や本物の味わい” VS.”何でも体験できるヴァーチャルの世界” という価値観の対立は、この先メタバースが普及して行くプロセスでも大きな課題になって行くと思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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