June 26 〜 July 2 2023

"Verdict, Cheating Customer, Summer Intern, Etc."
最高裁の爆弾判決、ごまかし客取り締まり、高給インターン, Etc.


今週のアメリカは来週火曜日に建国記念日を控えて、夏のバケーション・シーズン真っ只中という雰囲気。金曜1日だけでプレパンデミックを上回る280万人が空港を利用したけれど、 天候不順と人手不足の影響で、月曜から木曜の4日間で2万6000便の遅れと、6000便のキャンセルが伝えられ、 フライト・アテンダントに通常の3倍の給与をオファーして休日出勤の依頼をする航空会社も見られていたほど。
でも週明けから大報道になっていたのは、先週末のロシアで あわや市民戦争勃発直前まで達したエフゲニー・プリゴージン率いる2万5000人ものワグナー傭兵集団による モスクワに向けての進撃と、その突如の断念と撤退のニュース。プーチン大統領にとって過去23年間で最大の危機と言われたこの事態は、 ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介に入って収められたと説明され、その後に行われたスピーチで 最悪の事態を未然に防いだロシア軍の功績を讃えたのがプーチン大統領。 しかしアメリカの情報筋がメディアに明かしたところによれば、プリゴージン側は、セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ陸軍参謀長に対する不満と怒りが高まるロシア兵が、 ワグナー傭兵集団と共に蜂起することを期待しており、2人に対して恨みを持つロシア軍上層部のセルゲイ・スロビキンが既にその計画に加担していたとのこと。 しかし一度進撃がスタートすると、スロビキンは突如寝返り、ワーグナーの兵士に諦めるよう説得するビデオを投稿。またクレムリンにプリゴージン側の情報が漏れていたことも明らかになり、 結果的にはプーチン氏と個人的に親しかったプリゴージンが、プーチン氏の顔を立てる形での事態収拾に応じたという説が現時点では最も有力。全容が明らかになるのは未だ先と言われるものの、 西側情報筋によってロシア軍上層部に裏切り者が居ることを知らされたプーチン氏は、現在その割り出しに躍起になっている様子が報じられているのだった。



アファーマティブ・アクションの終焉


木曜に連邦最高裁が下したのが、大学入学選考に際して人種のバランスを配慮するよう定めたアファーマティブ・アクションを覆す爆弾判決。 昨年の人工中絶合憲の覆し同様に大きなインパクトを持つこの判決でも、中絶問題同様に保守派判事6人が覆しを支持。 この判決を大歓迎しているのは共和党で、猛反発しているのが民主党、及びリベラル派。 そして国民の60%以上が人工中絶を支持しているのと同様に、アファーマティブ・アクションについても 最新の世論調査で国民の53%が継続が妥当という意見。 加えて判決前には大手60社以上が最高裁に対して、「アファーマティブ・アクションの覆しが多人種が平等に働く職場環境構築の妨げになる」と警告していたこともレポートされているのだった。
同判決によって 今後は アジア人を除くマイノリティ人種の大学進学が難しくなることが見込まれるけれど、 この訴訟はハーバード大学、ノースキャロライナ大学という2つの名門大学を相手取ってそれぞれ起こされたもの。 特にハーバード大学は、「アファーマティブ・アクションに従って、米国人口におけるアジア人の割合を反映させた アジア人学生を受け入れている」としながらも、 成績以外の選考基準となる ”個人評価” において、アジア人学生には「好感度」、「前向きな姿勢」等で 他人種の志願者より遥かに低いスコアしか与えず、 どんなに成績が優秀でも アファーマティブ・アクションの枠内でしかアジア人学生を受け入れない姿勢を貫いてきた存在。 そのせいでアジア人より遥かに学力が劣る他人種志願者に入学資格が与えられることは、長きに渡ってアジア人社会、特にチャイニーズ・アメリカンの間で問題視されて来たこと。
実際に「学生は成績で評価するべき」と考えた場合、人種を選考要素に含めるアファーマティブアクションは 人種差別、もしくは人種優遇と解釈される行為。 しかし教育機会や経済レベルといったバックグラウンドを考慮した場合、不自由の無い裕福な白人学生が大学入学資格レベルの学力を身につけるのと、 貧困家庭に育った有色人種が 十分な教材や学習時間、時にインターネットのアクセスが無い状態で ほぼ同等の学力を身につけるのを比較すれば、後者の方が評価に値するのは多くの人々が認めるところ。 アファーマティブ・アクションとは、大学入学基準を満たした学生の中から、バックグラウンドや人種の多様性を盛り込むための選考基準として生まれたものなのだった。
そのお陰で、現在のアメリカの大学生や、20代〜40代のマイノリティ人種の中には、「家族の中で、大学に進学したのは自分が初めて」というケースが非常に多いけれど、 それが白人層であれば ごく平均的な収入の家庭に生まれさえすれば、大学進学は親の代からほぼ当たり前。 その学歴がやがては就職、そして生涯の収入や生活レベル、その子供世代の教育にも影響を及ぼして行く訳で、 アファーマティブ・アクション撤廃に向けてのアクションを起こしてきたのは 学力で評価されたいアジア人層よりもむしろ、白人至上主義的な保守右派。 そのことは、2014年に名門大学に対して 「アファーマティブ・アクションは 公民権法の平等保護条項に違反している」と訴えを起こしたのが、”Students for Fair Admissions”というネーミングで中立正義を強調した 保守右派の非営利団体であったことにも表れているけれど、そんな保守派の言い分は 「既に人種問題は過去のものであるから、アファーマティブ・アクションによるマイノリティ優遇措置に終止符を打つべき」というもの。
最高裁主任判事のジョン・ロバーツは、判決文で「ハーバード大学の アファーマティブ・アクションに沿った曖昧な受け入れ基準は不適切である」と批判。 撤廃を支持していたけれど、 見方を変えれば、この主張は ハーバード大学というアジア人学生を増やしたくない大学が、人種差別撤廃のルールに従って行っていた人種差別を批判しただけ。 判決によって人種差別撤廃のルールが排除されてしまえば、社会の根本に根強い人種不平等が野放しになる分、今後は学力優先という名の下で 弱者と恵まれた環境の強者の格差が益々開くのは目に見えている状況。 既にアメリカ国内にはアファーマティブ・アクションを廃止した大学もいくつか存在するけれど、それらの大学では判でついたようにマイノリティ学生の数が志願者の段階で激減しているのだった。
アファーマティブ・アクション撤廃はアジア人にとっても 長い目で見ると どの程度プラスであるかは定かでないと言われており、 その理由は今後、企業の雇用においても 人種バランスの考慮撤廃が求められるため。 既にカリフォルニア州で起こされているのがその訴訟で、「アジア人は優秀なので、人種の枠などが無い方が…」と考える人が居るかもしれないけれど、 現実社会においては”優秀=成績優秀”ではないのはもちろん、”実力=学業成績”ではないのも言うまでもないこと。
そのアメリカ社会は現在白人の高齢化、白人の出生率低下が顕著。したがって人口の見地からは白人優位が崩れるのは時間の問題。 しかしそれだけに保守右派が、人種間の経済格差助長によって白人優位を保つ方向に動いていると言われて久しい状況。
その一方で、現在のアメリカ社会は 無党派層を含むリベラル派が保守派を僅かに上回っており、それに比べると保守派6人、リベラル派3人の最高裁判事は近年で最も民意を反映していないバランス。 加えて保守派判事が共和党の多額ドナーから金銭的優遇や接待を受けている様子が明らかになっているだけに、 国民の間での最高裁支持率は、PBSが行った最新の世論調査では歴史的な低水準である39%に低下しているのだった。



ネットフリックスの次はコストコ、ごまかしカストマー取り締まり


アメリカでは5月からスタートしているのが、ネットフリックスのパスワード・シェアリングの取り締まり。 それまで離れて暮らしている家族でも パスワードのシェアにより 1つのアカウントで視聴が可能だったのがネットフリックス。 しかし”ネットフリックス・ムーチャー”と呼ばれる人々が、友人や全く知らない他人のパスワードを悪用して無料の視聴をしており、 その数は2023年1月現在 世界で1億人。そこでパスワード・シェアリングを同じIPアドレスのアカウントのみに認め、 世帯が異なる家族のためには新規アカウントを開くよりも安価なプランを用意した結果、売上を伸ばしたことが伝えられるのがネットフリックス。
同じように今週報じられたのが、コストコが メンバーシップカード・シェアリングの取り締まりに動き始めたニュース。 コストコは御存知の通り 年間のメンバーシップ・フィーを支払って、安価なショッピングができるウェアハウス。ところがセルフ・レジを導入した途端に 家族や知人のメンバーシップ・カードを借りてショッピングにやって来る人々が増えたそうで、今週から一部の店舗でセルフ・レジを使っている人に対して メンバーップ・カードとIDの提示が求められているのだった。 カードを借りたショッパーに対する措置、貸したメンバーに対する措置については報じられていないものの、 悪質なメンバーは資格剥奪になることは 規約に記載されている通り。
コストコは世界第3位の小売業で、過去1年の売上は44億ドル。 6900万世帯の1億2500万人がメンバーシップ・カードを所持しているけれど、大型店舗での安売りという 利益が上がり難いビジネス・モデルの関係で、 純利益の殆どを担うのがメンバーシップ・フィー。 従ってコストコがメンバーシップ・カードのシェア取り締まりに動くのは当然と言えるのだった。
こうした消費者側のごまかしで被害を被っているのは航空会社も同様。 航空チケットは国際線でも国内線でも、直行便より乗継便のチケットの方が安価なのは当然のこと。 昨今増えているのが、旅行の目的地で乗り継ぎをする航空チケットを購入して、飛行機代を節約しようとする人々。
これはTikTokなどのソーシャル・メディアで拡散された悪知恵で、例えばNYからオランダのアムステルダムに出掛ける場合、 6月末の直行便のチケットは約2800ドル。ところがNYからアムステルダム経由でロンドン行のチケットを購入すれば そのお値段は2100ドルで、 700ドルもお得。 そのためロンドン行の乗継便のチケットを購入し、利用するのは往復のNY〜アムステルダム間のみというのがこの節約法。 航空業界で ”skiplagging / スキップラギング”と呼ばれるこの ブッキングは、航空会社にとっては様々な不便が生じる大迷惑。 フリークエント・フライヤーで航空会社のメンバーになっている人に対しては、罰則を設けている航空会社もあるようで、 このように様々な節約の裏技がシェア&拡散されて、企業側に少なからぬ損失をもたらすのもソーシャル・メディア時代の弊害と言えるのだった。



金融インターンの高額給与


今週ウォールストリートで報じられたのが、2023年1月に3200人、5月末に250人のレイオフを発表したゴールドマン・サックスが新たに125人のマネージング・ディレクターを解雇するニュース。 金融業界は、ボーナス削減、レイオフで人件費減らしをする様子が顕著であるけれど、新たな有能な人材を獲得するための資金は出し惜しみしない様子を示したのが この夏のインターンに支払う高額の時給。
NYを始めとする多くの州で、法で定められた最低時給が15ドルである米国では、平均的な時給が 調査機関による推定値で25ドル〜28ドル。 金融よりも遥かに多くの従業員を昨年からレイオフし続けて来たIT業界が今年サマー・インターンに支払う時給は、グーグルが43.27ドル、アップルは58ドル、株価が急上昇している半導体メーカー、エヌビディアは74.25ドル。 これに対して、ウォールストリートの金融企業は、最高額を提示しているRadix Trading/ラディックス・トレーディングとVatic Investments/バティック・インヴェストメントで、サマー・インターンに支払う時給は150ドル。 すなわち米国平均時給の約6倍、一流IT企業の2〜3倍という高額ぶり。
150ドルの時給が支払われるということは、課税前の月額給与が約2万6000ドル。それだけでなく、ヴァティックNYオフィスの研究者インターンには住居と交通手当、ブレックファスト、ランチ、ディナーが無料で支給される好待遇。 すなわち生活費がほぼ全て賄われるので、インターンは給与全額を丸取りする計算。 一方のラディックスも、ソフトウェア・エンジニアのインターンには 2万5,000ドルの契約ボーナスが支払われ、インターン期間中は社員同様の福利厚生が与えられているのだった。
金融業界全体でも、昨年に比べてインターンの時給は19%アップしており、 大手ヘッジファンド、シタデルはインターンの平均時給を前年比25%アップの120ドルに引き上げたところ、6万9000件以上の応募が寄せられ、 その数は前年比65%アップであったことがブルームバーグ・ニュースによってレポートされているのだった。
したがって今年の夏は有能な学生エンジニアがこぞって、IT業界よりも金融業界のインターンとして働くことが見込まれるけれど、実際に7月から連銀の新しいデジタル送金システム、Fed Nowがスタートし 世界最大のアセットマネージメント会社、ブラックロックがビットコインのETF申請を発表するなど、金融業界に押し寄せているのがデジタル・ハイテク化の波。 この分野は若ければ若い程、テクノロジーやプログラミングに通じている上に、特に優秀なエンジニアになると 既に在学中に何等かのビジネスを始めているケースも多く、学生とは言え、即戦力並みの扱いになっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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