
2025年にはダイアン・キートンが死去してしまったので、年末に久々に観たのが1977年公開で、キートンがオスカーを受賞したウッディ・アレン監督・脚本作品、「アニー・ホール」。
その中に登場したのが、主演のキートン&アレンを含む2カップルがリヴィング・ルームで、まるで食後にブランデーを楽しむかのようにコカインをテーブルに取り出し、
その際にアレン扮するアルヴィーがクシャミをしたことで、当時の価格で千ドルは下らない量のコカインが煙のように吹き飛んでしまうシーン。
これは約50年前の映画にも関わらず、検索で簡単に見つかるほど有名なシーンで、映画公開前の試写ではテスト・オーディエンスの大爆笑がなかなか収まらず、
ウッディ・アレンは次のシーンへの切り替えまでの時間を伸ばしたほど。
要するにテスト・オーディエンスの誰もがコカインの市場価値を理解し、ドラッグを社会悪と捉えることなく、そのシーンをジョークとして笑い飛ばしていた訳だけれど、
マリファナを含むドラッグは、アメリカ社会において極めてファジーなポジションにあるもの。
マリファナについては2025年末にトランプ大統領が、ヘロイン等の最も危険度が高い”スケジュール1ドラッグ”から、スケジュール3に格下げしたけれど、2025年の段階で
全米50州中、医療用マリファナ使用を認めているのは40州。そのうち24州がレクリエーショナルな使用を認めており、最初にレクリエーショナル用途を認可したのは2012年11月のコロラド州。
それまではマリファナは違法だったにも関わらず、アメリカではマリファナを一度も吸ったことが無いアメリカ人を探すのは極めて困難。
もしアメリカ人が「学生時代に一度もマリファナを吸ったことが無い」と言えば、その人を「まとも」とか「真面目」と見なすより、「友達が居なかったんだろうなぁ…」と考えるのが通常。
オバマ元大統領も、レクリエーショナル・マリファナが違法だった大学時代にマリファナを常用していたのは有名な話で、
ベビーブーマー世代は年齢を重ねてからもマリファナを入眠剤替わりや精神のリラクセーションに使用するケースは全く珍しくないのだった。
TV版の「セックス・アンド・ザ・シティ」でも、サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーが、ポットヘッド(マリファナ常用者)のボーイフレンドからせしめた
マリファナをサマンサ、ミランダ、シャーロットと吸って楽しむラストシーンのエピソードがあったけれど、それくらい罪悪感無しに誰もが使用してきたのがマリファナ。
とは言ってもマイノリティ人種はマリファナを少量でも所持していれば逮捕され、その前科のせいで職に就けない人々が多かった一方で、
白人で弁護士が雇えれば、少量のコカインやマリファナ所持で前科がつくことはなかったのがアメリカ社会。
そのためマリファナが認可された州では、マリファナ所持の前科を持つ人々に対して優先的にマリファナ栽培や販売のライセンスを与えて、
過去に背負ったハンディキャップの埋め合わせをする配慮が取られていたのだった。
ジェネレーションZは、お酒を飲まない代わりにドラッグでハイになるのを好む世代として知られるけれど、
その理由はドラッグなら 2日酔いのような身体への影響が残らず、しかもコストパフォーマンスが良いという堅実(?)なもの。
ドラッグというと、貧困層の方が現実逃避のために手を出して中毒になるイメージを持つ人が多いけれど、
数年前の段階で、世界の富豪が邸宅を構えるマイアミのハイスクールでは、「高校3年にもなればクラス全員が少なくとも1回はコカインをトライしたことがある」と
友人の息子達が語っており、ウォールストリートではトレーダーが首から提げているIDカードで鼻から吸い込むコカインのラインを整えていたのは有名な話。
またマンハッタンのミートパッキング・ディストリクトにあるクラブのVIP用ユニセックス・バスルーム(=トイレ)は、ウォーター・タンクの上がコカインを取り出してラインにする
コーク・テーブルとしてデザインされていて、要するにクラブ側はドラッグの使用を奨励しているような状態。
今ではNYでもレクリエーショナル・マリファナが合法になって久しいけれど、そうなる前にごく普通の一般人がマリファナやコカインをどうやって手に入れていたかと言えば、
最も一般的なのはレストランやバーの従業員がディーラーで、その人物を通じて入手するケース。
そもそもドラッグ・ディーリングは不特定多数の人々が、キャッシュを持って出入りしても怪しまれない場所が一番安全と見なされる訳で、
誰もが知っているような有名レストランで必ずと言ってよいほど働いているのがディーラー。
私の友人のブロンド美女は、ルックスの良さを生かして NYのセレブやモデル、スポーツ選手御用達のレストランでメートルディとして働いたことがあるけれど、
その店のバーテンダーの1人がディーラーだったことはスタッフの間では公然の秘密。
レストラン側は大金持ちやセレブリティがドラッグ入手を兼ねて来店するのを分かっているだけに、ディーラーの仕事は黙認状態で、
店のスタッフも彼からドラッグを買っていたとのことなのだった。
ドラッグにもトレンドというものがあって、私がNYにやって来たばかりの1990年代にドラッグと言えば、もっぱらコカインとクラック。
クラックはコカインが高額であるために、化学に強い大学生が寮で混ぜ物を加えて安価に量産したのが始まりとのこと。
直ぐにハイになって、効果があっという間に消えるので中毒性が極めて高く、私にそれを教えてくれた友人も1度トライしてその危険性を悟り、「クラックだけは二度と手を出さないと誓った」と話していたのだった。
この友人の職業は弁護士で、法律とドラッグについていろいろ教えてもらったけれど、
彼自身は現時点でマリファナ使用歴が約40年。常用者であっても中毒ではなく、今も弁護士として普通に働いており、
そういう人々が多いことも 米国社会が違法時代からマリファナに寛容だった理由の1つ。
ちなみに1990年代は天才的シンガー、ホイットニー・ヒューストンが ドラッグを常用するR&Bシンガー、ボビー・ブラウンとの結婚以来、コカイン中毒になり、歌声を台無しにしただけでなく、精神錯乱、激やせといった
症状や、「クラックなんてチープだから、私はコカインしかやらない」といったコメントを通じて、億万長者のスーパースターがドラッグで身を持ち崩す様子をリアルライフ・ドラマとして演じていた時代。
その影響もあってか2000年を前後する頃から、ミュージシャンはツアーでジムがあるホテルに滞在し、ヨガ・インストラクターや健康的な食事プログラムを提供するプライベート・シェフをツアーに同行させるようなヘルシー志向への転換を見せていたのだった。
やがて2010代に入る頃には、1980年代にトレンディングだったエクスタシーが MDMA、モリーというネーミングでカムバック。錠剤のフォームで大流行したけれど、
それと同時進行していたのが合法の処方箋薬のトレンド。これによってドラッグ・ディーラーの役割を果たすドクターが急増したのがアメリカ。
マイケル・ジャクソンにしても、「フレンズ」の俳優、マシュー・ペリーにしても、薬を処方したドクターが彼等の死の責任を問われて訴追されたのは周知の事実。
「医師が処方するのだから安全」というイメージから、人々が気軽に摂取した処方箋ドラッグで特に有名なのは、まずADHA治療薬のRitalin/リタリン、 Adderall/アデラル。注意欠陥障害の治療薬とあって集中力が劇的にアップし、分厚い本を速読者のペースで読み終えてしまうなど、学習効率があり得ないほど向上するのがこれらのドラッグ。なので大学生やITエンジニアにもてはやされていたけれど、強い中枢興奮作用と精神依存性が警告されており、日本では違法の薬物。
でもそれよりアメリカ社会に深刻な被害をもたらしたのは OxyContin/オキシコンティン、Oxycodone/オキシコードンという強力かつ中毒性が高い鎮痛剤。
これを生産していたパーデュー・ファーマを経営するビリオネアのサックラー家は、NYの社交界から完全に追放され、メトロポリタン美術館を始めとする様々な機関が
サックラー家が払う巨額の寄附金を拒んだほど。私が知る限り、1990年代以降のアメリカで企業経営者に対して一般人が大々的な抗議活動を展開したのは、2025年にイーロン・マスクに対して行われた「Tesla Take Down」のデモ以外は、サックラー家が唯一の存在。
ごく普通の主婦や真面目に働くビジネスマン等、日頃ドラッグとは無縁の人々がこれらの服用を始めたのは歯科治療後や、外科手術後の痛み止めとして処方されたためで、
あっという間に中毒症状に見舞われた人々は 処方箋を求めて医者通いをするものの、保険でカバーされた場合も高額なのが米国の医療費と薬代。やがて処方箋薬を購入する経済力が無くなった人々が走るのが
ヘロイン等のストリート・ドラッグで、中毒者やオーバードースによる死者が激増しただけでなく、家庭崩壊や経済破綻等の余波も招いており、全米50州で集団訴訟が起こる異常事態が発生したのだった。
一見安全と思われたオキシコンティン、オキシコードンがもたらした悲惨な事態により、マリファナの鎮痛剤としての安全性を再認識する声は医療関係者や一般人の間で高まり、当時のメディカル・マリファナ認可拡大に
拍車をかけたのは紛れもない事実。医療用マリファナが限られた州でしか認可されていなかった時期には、マリファナを合法的に鎮痛剤として使用するため、認可されている州に
移住する人々も多かったのだった。
マリファナの合法化に伴い、マジック・マッシュルームがPTSDの治療に用いられるようになり、昨年にはイーロン・マスクがうつ病を理由にホワイトハウスで堂々とケタミンを服用しては、奇妙な振舞をしていた様子はオープンに報じられていたこと。
そのケタミンは強力で幻覚作用をもたらす解離性麻酔薬。医療現場では手術や疼痛管理で合法的に使用されるものの、レクリエーショナル用途は違法のドラッグ。前述の俳優マシュー・ペリーもマスク同様、治療の名目で使用してドラッグ中毒を再発させており、2023年10月の死亡時にはアシスタントが彼に27ショットを注射したと報じられているのだった。
大手金融機関や政府コントラクターが従業員を雇う際にドラッグ・テストをするアメリカでは、マリファナが合法化されてからは、マリファナ以外のドラッグがスクリーニングの対象になっているけれど、
マリファナ違法時代は 体内からの成分検出を防ぐために テスト前の2週間はマリファナ使用を控える必要があり、さらには 「テスト前にポピーシード(けしの種)・ベーグルを食べるな」というのが鉄則。
そうやって誰もがテストをクリアするので、よほどの中毒者でない限りは問題にならないのがドラッグ使用。
今ではイーロン・マスクのように様々な精神疾患や病名を訴え、時に医者と結託して症状をでっち上げることで 合法的なドラッグ入手が可能になり、その使用を批判するのが不可能なほど
精神疾患が社会問題になっているご時世なのだった。
その一方で、パンデミック前から問題視されてきたフェンタニルは 安価な上に、中国からオンラインで簡単にオーダー出来たことから、あっという間に市場を拡大。爪の先ほどの微量摂取でオーバードースになることから、ナルキャンというオーバードースをリバースするネイザル・スプレーがミュージック・フェスティバルやナイトクラブに常備されるようになって久しい状況。
2025年からは富裕層を中心にコカイン・ブームが再燃しており、
自分のサクセスの象徴としてコカインでハイになるという1970年代、1980年代を彷彿させるレトロ現象が起こっているのが今のアメリカ。
そのアメリカは、ドラッグを他国籍船を攻撃したり、関税引き上げの理由に利用する一方で、CDC(食品医薬品局)はオキシコンティン、オキシコードンのような中毒性のある鎮痛剤をあっさり認可し、
製薬会社は販売利益の10%程度の罰金を払うだけ。ドラッグが脳に及ぼす中毒性の研究は、食品会社のスナックやシリアルのケミカル配合に用いられた結果、その年間平均売り上げは1800億ドルに
達しており、それらを食べて肥満大国となったアメリカが糖尿病と心臓病の処方箋薬に支払う金額は2022年の段階で1400億ドル。
そしてその肥満から脱却するためのオゼンピックに代表されるGLP-1ドラッグにアメリカ人が2025年に投じたのは700億ドル。
結局のところアメリカは「富と力を持つものが勝利し、支配する」キャピタリズムと弱肉強食の薬漬け社会であり、
民主主義とはその富、力、薬でコントロール&誘導された民意を指す言葉なのだった。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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