Aug. 26 〜 Sep. 1 2019

”Fried Chicken Sandwich Frenzy!”
ポパイが火をつけたフライドチキン・サンドウィッチ戦争!?


今週のアメリカで週半ばから超大型ハリケーン、ドリアンの報道で持ち切りだったけれど、そんな中で報じられたのが 既に新学期がスタートしているニュージャージーの小学校で、親が20ドル以上給食費を滞納している子供達に その目印になるブレスレットをつけさせて、支払いのプレッシャーをかけるという措置。
アメリカでは貧困層の親達による給食費滞納のせいで学校側が抱える負債が膨らんでおり、 何とか親達に支払いをさせたい学校側が様々な試みを実践している状況。 つい最近には 親が給食費を滞納している子供にはピーナッツバターのサンドウィッチしか与えない方針を打ち出した学校が 批判を浴びており、こうした親による給食費滞納の恥を子供に押し付ける措置は ”ランチ・シェイム” と呼ばれて、 メディアでもソーシャル・メディアでも非難を呼んでいるもの。 とは言っても学校側は金策に追われる立場。親達は支払能力がないために滞納せざるを得ない訳で、 この問題がアメリカ各地の公立小学校で深刻化したのは メディアが ”歴史上空前の好景気”と報じる状況下でのこと。 要するに政府が発表する景気動向には低所得者層の実態が 全く反映されていないということなのだった。




さて、今週アメリカのメディアで発表されたのが、アメリカ人のファストフード&チェーン・レストランのロイヤルティ調査結果で、 過去何年もNo.1の座を保ってきたスターバックスを破って新たにトップの座を獲得したのが フライドチキン・サンドウィッチで知られるファストフードの ”Chick fill-A / チックフィレ” (写真上左)。
ここ数年、ミレニアル世代を中心にスターバックス離れが顕著であったのは周知の事実であるけれど、 アフリカ系アメリカ人の来店客を冷遇した人種差別問題に加えて、昨今では ”ケミカルでカフェインの量を増やしている不健康コーヒー” というネガティブなレッテルが貼られているのがスターバックスで、 アメリカ人の不眠症、精神不安定ぶりを スターバックスの過剰なカフェインのせいにする声もあるほど。
その一方で ”Chick fill-A / チックフィレ” はオーナーが同性婚に反対し、人工中絶廃止の活動グループに資金を提供していることが報じられ、 リベラル派の間ではボイコット運動が頻繁に起こる存在。 冷凍保存をしない、グレードAのフレッシュな鶏肉のみを使用することを謳うチックフィレは、”Chick fill-A” のAの文字で鶏肉のクォリティをアピールしているのだった。 1967年にスタートし、現在全米47州でフランチャイズを展開するチックフィレは、アメリカでここ数年続く フライドチキン・サンドウィッチのブームをもたらした存在。 シェイクシャックやウェンディーズなどが フライドチキン・サンドウィッチをメニューに加えても、 味の評価と売上で 大きく水を開けているのがチックフィレなのだった。

でもそのチックフィレの名物サンドウィッチを脅かす存在として 8月半ばに発売されたのが、 ポパイ・ルイジアナ・キッチンのフライドチキン・サンドウィッチ(このページのトップの写真)。 ポパイはマンハッタン内には12店舗程度しかないものの、南部スタイルのフライドチキン・チェーンの中では 最も衣が分厚く、しかもそれがクランチー。その衣が脂を十分に吸いこんでいるので高脂肪かつ高カロリーで、 ”中毒性がある” と言われるほど一部にファンが多いチェーンでもあるのだった。
ポパイが売り出したフライドチキン・サンドウィッチは、 分厚い衣のフライドチキンをピクルスと一緒にバンズに挟んだシンプルなスタイルで、チックフィレのシグニチャー・サンドウィッチに非常に近いもの。 それが売り出しと同時に大ヒットとなり、全米のチェーンで連日ソールドアウトが続出。 ストアでは30分待ちが当たり前の大行列。ドライブスルーでも車が大行列する有り様で、 散々待った挙句、サンドウィッチの完売を告げられた来店客が 店員を罵倒する事態も発生。 もちろんソーシャル・メディア上でも大センセーションを巻き起こしていたのだった。






ライバルであるポパイのフライドチキン・サンドウィッチの大人気ぶりは、チックフィレ側も当然のことながら察知しており、 それに対して「Bun + Chicken + Pickles = all the Love for the original.」 (写真上左) というツイートで、 フライドチキン・サンドウィッチのオリジナルが自社であることをアピールしたのがチックフィレ。 これがツイートされたのは8月19日午前8時15分のことで、それがポパイのマーケティング・エグゼクティブ に リツイートされたのは同じ日の午後1時43分。 その直後からマイアミのポパイ本社で行われたのがハイスピード・ブレーンストーミング。 そして15分後の1時58分に ポパイのオフィシャル・ツイッター・アカウントから @Chick fill-A に対して ツイートされたのが “... y’all good? (「みんな元気?」 もしくは 「君たち大丈夫?」という意味の南部的センテンス)” という 宣戦布告のメッセージ。
これがきっかけでソーシャル・メディア上で嵐を巻き起こしたのが ポパイ VS. チックフィレのフライドチキン・サンドウィッチ戦争。 少なくとも現時点では、いかにもアメリカ人好みハイカロリーかつ不健康なポパイのサンドウィッチを評価する声が多く、 ソーシャル・メディア上には写真上中央のような、ポパイがチックフィレを打ちのめしているメームが溢れているのだった。 でも程なくそこに割り込んできたのが チックフィレのオーナーが打ち出す ゲイ差別を含むキリスト教右派思想とトランプ政権支持に対する批判の数々。 それまでは政治思想には反発しても、チックフィレのフライドチキン・サンドウィッチの魅力に負けて食べ続けていた人々が、 政治思想が絡まないポパイのベター・バージョンを見つけたことから、容赦なしにサンドウィッチと政治思想を抱き合わせにしたチックフィレ攻撃を始めたのだった。
でもチックフィレが攻撃されればされるほど、キリスト教右派+トランプ・サポーターは益々チックフィレに肩入れする訳で、 僅か15分足らずのブレーンストーミングから生まれたツイートが火をつけたフライドチキン・サンドウィッチ戦争はどんどん加熱。 お陰でポパイは 新商品発売から15日間で、日本円にして約70億円の広告効果に値するパブリシティを獲得しているのだった。




ところで、アメリカ人と言うとステーキやハンバーガーを好むイメージが未だに強いので、 牛肉ばかり食べていると思われがちであるけれど、実際にはアメリカ人が最も食べている肉はチキン。 2019年のスーパーボウルの日に消費されたチキン・ウィングの本数だけでも13億8000本。 フライドチキン・サンドウィッチやチキン・ナゲット等、アメリカ人が好むメニューのバラエティも多く、 特に南部や中西部では、ステーキよりフライドチキンを好む傾向が圧倒的に強いのだった。
近年のアメリカではヴィーガンやヴェジタリアンが増えている印象があるけれど、 昨年2018年にはアメリカ国民1人当たりの肉の消費量が 史上最高記録を更新。 その量は年間100.8キロで、これは1日に280グラムを食べている計算。政府が健康のために奨励する2倍の量。
逆に近年のアメリカで肉の消費量が下がったのは前回のリセッションの際。10%以上の減少が伝えられたけれど、 にも関わらずリセッション時に売り上げと株価を上昇させていたのがファストフード・チェーン。 2019年に入ってからはマクドナルドが21%、ウェンディーズが35%、それぞれ株価をアップさせているだけに、 そんな数字からも「リセッションは間近」という予測が聞かれているのだった。
肉の消費が上昇トレンドである一方で、2019年に入ってからのアメリカでは ビヨンド・ミート、インポッシブル・バーガーといった プラント・ベースのオルタナ・ミートが大人気になっているのは以前のこのコーナーでもお伝えした通り。 今週にはこれらのオルタナ・ミートに対して、元ホールフーズのCEO、ジョン・マッケイが 「ケミカルを大量に使った不健康な加工食品」と痛烈な批判を展開してニュースになっていたのだった。 でも全米7000店舗のバーガーキングでは、そのインポッシブル・バーガーのパティを使ったインポッシブル・ワッパーが 6ドルという高額にも関わらず飛ぶように売れており、ヴィーガンやヴェジタリアンだけでなく、肉食の来店客までもがオーダーしている状況。
これを受けてバーガーキングの親会社、レストラン・グループの株価は 2019年に入ってから何と46%の上昇を見せているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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