Feb. 10 〜 Feb. 16 2020

”VC or Big Philanthropy?”
VC もしくはフィランソロピー?、世の中の限られた人々に許される錬金術


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのが、トランプ大統領の長年のアドバイザーで現在 偽証罪を含む2つの罪で有罪が確定している ロジャー・ストーンに対する検察側の7〜9年の拘留刑の求刑を、トランプ氏の怒りのツイートを受けて司法省が覆したニュース。 これに抗議して同裁判を担当していた4人の検察官が全員裁判から身を引いただけでなく、 そのうちの1人は司法省まで辞めてしまう前代未聞の事態が発生。 週末には 同じくトランプ政権で国防アドバイザーを務め、偽証罪で有罪を認めたマイケル・フリンの求刑に対しても、 ウィリアム・バー司法長官が減刑の指示をプライベートに行っていたことが明らかになっているのだった。
その一方で 金曜には元FBIディレクターで頻繁にトラン大統領の攻撃対象になっていたアンドリュー・マケイビーが、 彼が指示した トランプ氏ロシア疑惑捜査には不正が無かったとして不起訴処分になっているけれど、こちらは 「本来起訴されるはずがない容疑に対して司法省が必要以上に判断を引き伸ばした」と批判されるもの。 そのため今週は本来なら分立していなければいけない司法と行政が1つのパワーで牛耳られている様子を 強く印象付けていたのだった。




さて1月26日にヘリコプター事故でNBAスーパースター、コビー・ブライアントが死去した際に、 彼の功績の一部として大きく報じられたのが彼が如何に優れたビジネスマンであったか。 多くのメディアは彼が出版した児童書をショート・フィルムにしてオスカーを受賞したことや、全米で展開する 青少年のためのスポーツ・チャリティ・プログラム ”マンバ・アカデミー” にフォーカスしていたけれど、 実際には彼をデミ・ビリオネア(個人資産5億円ドル以上でビリオネアには及ばない存在)にした要因の1つがそのインヴェストメント。
コビー・ブライアントは2014年にエナジー・ドリンク、ボディ・アーマー(写真上左)の株式10%を600万ドルで買い取っており、 2019年には同社にコカ・コーラも出資をしたことから、その価値が2千万ドルに跳ね上がっているのだった。 また2016年にはアントレプレナー・インヴェスターとして知られるジェフ・スティベルと共に、1億ドルの資金で”ブライアント・スティベル”というヴェンチャー・キャピタル(以下VC)を設立。 これまでVCの恩恵を受けるチャンスが少なかったアフリカ系アメリカ人によるスタートアップを中心に投資を行って大成功を収めており、 同じくNBAのケヴィン・デュランやウィル・スミスといった黒人セレブやアスリートの間で、同様のVCを設立するトレンドをクリエイトしているのだった。
そもそもプロフェッショナル・アスリートはキャリアが短いとあって、その後のファイナンシャル・プランに現役中からシリアスに取り組むケースが多いけれど、 同様のVC企業、”Serena Venture / セリーナ・ヴェンチャー” で サクセスを収めているのがプロテニスのセリーナ・ウィリアムス。 セリーナはアパレルを含む自らのブランド等を手掛け、広告出演料等の収入も多いものの、彼女が2014年から極秘でスタートしたVCは 元J.P.モーガン・チェイスのアセット・マネージャーが運営。その存在を公にしたのは2019年春のことで、 投資先はセリーナがインストラクターとして登場しているオンライン・レクチャーの”マスター・クラス”、 オーガニック・ベビーフードの”リトル・スプーン”等、現在約30社。中でも最もリターンが大きいと見込まれているのが クリプトカレンシー最大手取引所の1つ、コインベースへの投資なのだった。
昨年引退したプロテニスのアンディ・マーレーも、引退前からVCをスタートして イギリスの数々のスタートアップに投資をしており、 そのポートフォリオに含まれるのはヘルシー食材を用いたサラダバー・スタイルのフード・チェーン ”Tossed / トスット”、 オンライン・ストアをAR(Augmented Reality)、もしくはVR(Vertual Reality)ストアに替えるテクノロジーを提供する”Trillenium / トリレニアム”、スマート照明機具の”Den / デン”等。 加えてソフトウェア開発企業に早期段階で投資を行うヴェンチャー・キャピタルにも資金を投入しているのだった。
でもアスリートでもセレブリティでもVCの前に先ず設立するのがチャリティ。 それによって様々なエクスペンスをチャリティの運営資金として落とすことが出来るだけでなく、 家族をチャリティのエグゼクティブ にして高額給与を支払い、自分の稼ぎを自分のチャリティに寄付することによって 税金対策にするのが常。アメリカではミリオネアが支払う所得税率が約40%、投資で得たキャピタル・ゲインに対する税率はその約半分になっているけれど、 税金自体を逃れるのに大いに役立つのがチャリティの設立なのだった。




2019年春のUberの株式公開時には、グウィネス・パルトロー、ジャレット・レト、オリヴィア・マン、ジェイZ、ビヨンセ、ランス・アームストロング、エドワード・ノートン等、 思わぬセレブリティの名前がIPOで利益を上げるインヴェスターとして浮上して人々を驚かせていたけれど、 その中の1人、レオナルド・ディカプリオもハリウッドでは手広く投資を行うことで知られる存在。
そのポートフォリオには、環境問題へのこだわりを反映させてグァテマラのソーラー・パワー企業の Kingo / キンゴ、 自らの主演映画「ブラック・ダイヤモンド」でアフリカ諸国の非人道的なダイヤ発掘ビジネスに抗議をしたこともあり、 サンフランシスコの人工ダイヤ・ラボ、”Diamond Foundry / ダイヤモンド・ファウンドリー” などが含まれ 、 他に彼の友人であるトビー・マグワイアやマルーン5のアダム・レヴィーンも投資をしているマットレスの”Casper / キャスパー”、 スイスのスタートアップで顔の表情をVRで再現する”MindMaze / マインドメイズ” など約20社ほどのラインナップ。 昨年にはCUBE New Yorkでも扱っているシリコン・ヴァレーのIt シューズ、オールバーズ のサイレント・インヴェスターであったことも明らかになっているのだった。彼の場合、投資もさることながら 環境問題を中心に取り組む自らのチャリティ、レオナルド・ディカプリオ・ファンデーションが 時代の煽りを受けて年々規模とパワーを拡大していることが伝えられるのだった。

ハリウッドで最もサクセスフルなインヴェスターであると同時に、シリコンヴァレーのトップ・インヴェスターの1人になっているのは、 今ではすっかり俳優業から遠ざかり VCがメインの収入源でありキャリアになってしまったアシュトン・クッチャー。
その最もサクセスフルな投資として知られるのは 初期のUberに投じた50万ドルが5000万ドルに膨れ上がったことで、 彼が自らのVC、”A-グレード・インヴェストメント”を設立したのは2011年。そのパートナーはビリオネア、 ロン・バークルと、マドンやU2を始めとする多くのスーパースターのエージェントを務めたギー・オルセイ(写真上右、左側)。 そのファンドには元グーグルのエリック・シュミット、ビリオネア・ミュージック・プロデューサーのデヴィッド・ゲッフィンらが出資しており、 Uber以外にもスポティファイ、フォー・スクエア、エアb'n'b、ピンタレスト、眼鏡のワービー・パーカー、フリップボード、WeWork等、今では誰もが知る シリコン・ヴァレー10億ドル企業への初期投資でメガサクセスを収めているのだった。
そのアシュトン・クッチャーは ツイッターを情報発信手段にした最初のセレブでもあり、 史上初めて100万人フォロワーを突破したユーザー。 なので彼のツイッター・アカウントは 投資をした企業の広告塔の役割を果たしているけれど、ツイッター自体は彼にとって「投資をするチャンスが無かった」と言われる企業なのだった。
A-グレード・インヴェストメントが僅か6年で 3000万ドルのファンドを2億5000万ドルに拡大したサクセスを受けて、 アシュトンとギー・オルセイは2016年に 企業投資家から募った資金で 更に大規模な投資をするVC ”サウンド・ヴェンチャー” をスタート。 こちらも現在約40社に投資を行っているのだった。
アシュトン・クッチャーの個人資産は現時点では未だデミ・ビリオネアには届かない2億ドル。しかしその90%以上を過去9年の投資で稼ぎ出しており、 これはヴェンチャー・キャピタリストとしては極めて優秀と見なされる実績なのだった。




その一方でメグジットで年明け早々話題を提供したハリー王子&メーガン・マークル夫妻は、先週にはJ.P.モーガン・チェイスがマイアミで行った ビリオネア・サミットでスピーチを行い、ギャラとして100万ドルを支払われたという噂が物議を醸したけれど、 今週に入ってさらにバッキンガム宮殿が眉を吊り上げたのが、 夫妻がゴールドマン・サックスが主宰するトークス・アットGSのイベントでも スピーカーを務めるというニュース。
このイベント出演は昨年11月に夫妻がカナダで休暇を過ごしていた時点で ゴールドマン側からアプローチを受けて交渉が進んでいたとのことで、 出演にフィーは支払われないものの、その後のビジネスにおいてスピーカーに様々な恩恵をもたらすと言われるもの。 過去にはデヴィッド・ベッカムやグウィネス・パルトローらがスピーカーを引き受けており、「トークス・アットGSへの出演は ゴールドマン・サックスとのゴールデン・ハンドシェイクを意味する」とも言われるのだった。
ハリー王子夫妻側はこれについて「将来のチャリティの展開のため」と説明しているものの、ゴールドマンはイギリスでも物議を醸す存在であることから 難色を示しているのがメディアと世論。 中にはこの報道と共に 前回のファイナンシャル・クライシスにおけるゴールドマン・サックスの役割やそのベイルアウトの金額、 その後のインサイダー取引、マレーシアの1MDBファンドのスキャンダル等に言及して、 ゴールドマンの依頼を受けたハリー王子夫妻を批判する英国メディアもあったほど。
PRの専門家はハリー王子夫妻が自らのチャリティ・ファンド設立に際して、2社の大手銀行との関わりを明らかにしたことで ハリー&メーガン夫妻がフィランソロピスト(慈善家)・ビリオネアの道を模索していると指摘していたけれど、 少なくともこれまでは チャリティ・ファンドの運営で 弱者救済を打ち出せば打ち出すほど 大きな利益を得てきたのがフィランソロピスト・ビリオネア。 というのはフィランソロピスト・ビリオネアは前述のように税金逃れが出来る一方で、チャリティによる問題解決とその問題をクリエイトするビジネスの双方に 資金を投じているのがそのからくり。さらにチャリティは匿名で政治活動に資金を投入できることから、 政治家や選挙広告を通じて世論を動かす力を持つ一方で、その慈善家のイメージのお陰で人々からの尊敬を集め、社会に影響力を持ち、歴史にも その通りに名前と功績が刻まれるようにデザインされているのだった。
今ではフィラントロピスト・ビリオネアを一括りにして”ビッグ・フィラントロピスト”という言葉がメディアで頻繁に使われるけれど、 ここへきて 突如その化けの皮が剥がれてきたのが「弱者を救い、世の中を変える」と謳っては自分達の財力と政治力を拡大してきた ”ビッグ・フィラントロピスト”。 そのきっかけになったのが 「Winners Take All / ウィナーズ・テイク・オール(勝者達の独占状態)」というタイトルで、 そのからくりを明かしたアナンド・ギリドハラダスの著書。 この1冊の本が注目を集めたお陰で、ビリオネア慈善家たちに対する疑いや批判の声が急速に高まってきたのが現在のアメリカ。 その対象には財力によって最高裁の判決にまで影響を及ぼすようになったビル・ゲイツや、彼同様に慈善活動に熱心なウォーレン・バフェットらも含まれているのだった。
したがってハリー&メーガン夫妻はその波に乗り遅れたイメージが無きにしもあらずだけれど、 ”ビッグ・フィラントロピスト” になれなかったとしても、ヴェンチャー・キャピタルの世界にはまだまだ一般人には決してアクセスできない 好リターンの投資話が溢れているのは事実。 ハリー&メーガン夫妻は ”トロフィー・インヴェスター” が欲しいスタートアップやヴェンチャー・キャピタルには極めて有益な存在と見なされるので、 どちらに転んでも 夫妻が豊かな生活に困らないだけの十分な収入が得られると見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。


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