Feb 1 〜 Feb 7 2021

"Where was Money Going This Week"
今週アメリカのお金はどう動いたか?


今週のアメリカはスーパーボウルが行われるスーパーサンデーを控えたスーパー・ウィークであったけれど、 今回は例年に無くメディアのフォーカスが控えめ。最も報道時間が割かれていたのは引き続きコロナウィルスのワクチン投与のニュース。
今週末の段階でワクチン投与を最低1回受けたアメリカ国民の割合は8.7%。全世界では1億1900万ドースのワクチンが投与されているけれど、 現在のペースでは世界人口の75%にワクチンが投与され、世界レベルのハード・イミュニティ(集団免疫)に達するまでには7年が掛かるとのこと。 しかしアメリカは2022年の年明けまでにはハード・イミュニティに達する見込みで、今週には 効力が70%とは言え、超低温保存の必要が無く、1回の接種で済むジョンソン&ジョンソンのワクチンがFDAに対して緊急認可を申請したばかり。 週開けからは全米のドラッグストアでの投与に加えて、NFL、MLBのスタジアムがマス投与の会場として提供されることになっており、 バイデン政権が掲げた「発足から100日間に1億人への投与」の目標達成は決して不可能ではないとも言われるのだった。



ウォールストリートベッツのシルバー・ショートスクイーズのフォローアップ


さて 先週世界中で報じられたGame Stop株のニュースであるけれど、今週はその株価が89%下落。 メディアはそれを受けて、「ウォールストリートベッツを含むRedditのグループが 今も下落したゲームストップ株に固執する中、ヘッジファンドが36億ドルの利益を取り戻した」と報じていたけれど、 これは先週の200億ドルの損失と比べるとまだまだ小さいもの。 でもウォールストリートベッツに関しては先週末の段階で、その多くがGameStop株を利食い売りしており、 代わりに投資金の一部をシフトさせたのが 先週から呼び掛けられていたシルバー市場のショート・スクイーズ(空売りをしていた株や コモディティの値上がりを受けて、損失カバーのための購入を強いられること。詳細は先週のコラムを参照のこと)。
一部の金融関係者の中には「シルバーは空売りなんてされていない、どうやってショート・スクイーズに追い込むのか?」との声が聞かれていたけれど、 ウォールストリートベッツが狙っていたのは、これまでJ.P.モルガン・チェースを中心とした大手バンクが行ってきたシルバーのプライス・サプレッション(価格抑制)に世の中の目を向け、シルバー価格を正規ヴァリューに是正することにより、 これまで価格操作で多額の利益を上げてきたバンクを締め上げること。 このプロットをごく簡単に説明すると、 ゴールドとシルバーの現物の量的比率が1:8であるのに対して、その価格比率は1:70。シルバーの価格抑制は過去100年に渡って行われてきたもので、 1935〜70年までは政府によって、その後は先物市場で大手バンクが行ってきたもの。これまでアメリカの一般投資家がゴールド、シルバーより圧倒的に株式市場に投資をしてきたのは、 貴金属がインフレヘッジになったとしても資産が大きく増えなかったためで、例えばゴールドの価格が1オンス=1900ドルであっても(今週末の終値は1815ドル)、インフレ調整後では 1980年1月のピークである1オンス=850ドルを上回っていないのが実情。 特にシルバー市場では現物不足が続く中、その先物市場で2倍の量のペーパー・コントラクトが売られていることから、 まずは現物市場をクリーンアウトし、その後ペーパーコントラクトを購入して現物のデリバリーを要求した場合、バンクは需要の割に供給が少なすぎるシルバーを高額で買い戻さなければならないので大損害を被るというもの。
しかし1970年代後半から80年にかけて同様の試みが行われた際にはシルバー価格が6ドルから50ドルにアップしたものの、COMEX(先物市場)がその取引ルールを変更したことから パニック売りを招き、それを仕掛けた側が大損害を被った歴史があり、今週は現物のシルバー在庫をほぼ完売状態するほど買い漁ったところで、 一時休止の状態。 金曜の段階でシルバーのスポット価格は1オンス=27ドルであるけれど、現物市場での1オンス・コインの価格は40ドルを超えており、そのことは ウォールストリートベッツのメッセージボードでも指摘されていること。 金融メディアはアテンション・スパンが短いミレニアル世代の気まぐれ投資ごっこと軽視していたけれど、 金属市場の専門家やYouTuberの間では「これにはまだ続きがあるはず」という見方が濃厚なのだった。



ウォールストリートベッツの投資がDeFiに流入!?


シルバーと並んで 先週末からウォールストリートベッツの資金が大きく流れ込んだのがクリプトカレンシーのDoge Coin/ドッジコイン。 先週日曜の1月28日にはドッジコインの価格が一時800%以上アップするという飛んでもない爆上げぶりを見せていたのだった(グラフ上)。 ドッジコインは現在クリプトカレンシーのマーケットキャップ(時価総額)で12位にランクされているアルトコイン(ビットコイン以外のコイン)で、 柴犬のキャラクターをフィーチャーしたMemeコインとしてジョークで誕生したもの。NASCARにそのキャラクターをフィーチャーした車が登場している以外は、何のファンダメンタルもないコインであるけれど、 ブル相場においてはこんなお遊びコインが大相場を展開するのは珍しくないこと。今週はドッジコインのグーグル検索数がビットコインを上回っているのだった。
ドッジコインは過去に度々テスラCEOのイーロン・マスクがツイッターでサポートし、TikTok上でも「今はドッジコインが買い!ドッジコインの値段を上げよう!」というような ドッジコインが何で、どんな相場展開をしているかの説明さえ無いスローガン・ビデオがヴァイラルになって価格が上昇して久しい状況。 1月28日の爆上げの原因はウォールストリートベッツとTikTokerが 10セント未満だったドッジコインを「1ドルまで跳ね上げよう」と呼び掛けたためであったけれど、89セントでガス欠状態となり挫折。 しかし週明けには再びイーロン・マスクがドッジコインのサポート・ツイートを行い、それにロックバンド、キッスのジーン・シモンズ、スヌープドッグといったB級セレブが便乗して、価格は再び上昇。
またその流れで今週はウォールストリートベッツを含む若い世代の資金がアルトコイン市場に流れ込んだと言われ、毎日のように何十ものアルトコインが50〜100%アップを記録。 例えば金曜の時点で時価総額トップ100のクリプトカレンシーのうち、過去24時間で50%以上の上昇を見せたコインは25。そのうちの5つが100%以上の上昇で、 これはアルトコイン・ブームにおいては決して珍しくない状況。 前回の2017年のビットコインのブル相場の際にも、「200万円の元手を5億円にした」というようなクリプト投資家はもっぱらアルトコインで 大きな利益を上げていたのだった。

そのアルトコインの世界で昨年から話題になっているのはDeFi(Decentralized Finance)で、その中核になっているのはビットコインに次ぐNo.2コイン、イーサリアム(欧米での発音はイサーリアム)。 今週$1,756のATH(All Time High)を更新したイーサリアムは年内に5000〜1万ドルへの上昇が見込まれ、 現時点で1万の以上の企業がイーサリアムのブロックチェーン上で最新のプロジェクトやテクノロジーを開発している状況。
それを追随するのが数学者のチャールズ・ホスキンソンが設立したエイダ(カルダーノ)、PhDを持つガヴィン・ウッズが設立したポルカドットで、どちらもイーサリアムの開発・創設チームのメンバー。 テクノロジーではポルカドットが勝るとの声が多いけれど、エイダは遥かに徹底したDeFiコンセプトと強力なコミュニティ・ベースを持ち、私が知る限りTop10に入るメジャーなクリプトカレンシーの中で唯一日本企業が間接的に絡むコイン。 DeFiについては簡単な説明が不可能なので割愛するけれど、現在アルトコインの世界で3日間に100%アップというような急上昇を見せているのは、 そんなイーサリアム・チェーンやポルカドット・チェーンの上を走るDeFiテクノロジー、及びDeFiをサポートするテクノロジーのコイン。
前回のビットコインのブル相場の直後に訪れたアルトコイン・ブームは、ICO(イニシャル・コイン・オファーリング/コイン取引開始)のご祝儀相場が中心であったけれど、 今回はコカ・コーラ、マイクロソフト、グーグルといった大手企業が提携、もしくは導入するDeFiテクノロジーを開発する企業への投資ブームで、 流れ込んでいる資金の規模は前回とは桁違い。週末にはセントルイスのFRBがDeFiを詳細に解説したレポートを出したばかり。 それだけにテクノロジーや機能が劣る古いコンセプトのコインが 新しいテクノロジーのDeFiコインにどんどん追い越されていく結果、 クリプト・ランキングが向こう3〜6ヵ月で大きく入れ替わることが見込まれるけれど、 これは単なるランキングの問題ではなく、金融も確実にディセントラリゼーションに向かっていることを意味するのだった。



Good Bye, Banks!


今週、米国上院議会に提出されたのが ソーシャル・メディアに対してもSuspicious Transaction Activity Report(サスピシャス・トランズアクション・アクティビティ・レポート)の提出を求める法案。 これは既に金融業界で義務付けられているもので、金融においてはマネーロンダリングや、テロリストへの資金と思われる金銭のトランズアクションが見られた場合、 それを行った人物の身元情報を7日以内にレポートしなければならない規定。 1月6日の米国議会乱入テロや、先週のGame Stop株のRedditを通じた価格価操作を受けて、ソーシャル・メディアに対しても こうしたの計画を一早く察知してレポートを義務付けるというのが新たな法案。
もしこれが実現した場合には 言論の自由にセンサーが掛かるだけでなく、 YouTuberはもちろんのこと、ツイッターやフェイスブックのユーザーに至るまでがKYC(Know Your Customer/ID確認)の対象になるということ。 これに反発した人々の間ではソーシャル・メディアのディセントラリゼーション、すなわち政府規定の対象となるホストや管理者が不在で運営されるソーシャル・メディアの必要性が訴えられているのだった。

その一方で今週はバンク・オブ・アメリカの口座をクローズする人々が急増したけれど、その理由は同行がFBIの議会乱入テロ参加者の捜査に協力して、 同行が発行するクレジット・カード利用者のデータを提供していたことが明らかになったため。FBIはそれによってテロ直前にワシントンDC入りし 現地のホテル等でカードを使用した人々や トランプ氏のオンライン・サイトに寄付をした人々を中心に乱入者を割り出しており、他行も同様の協力をしていたかは定かでない状況。
それとは別にウォールストリートベッツの活動によって貴金属市場で いかにJ.P.モルガン・チェースが価格操作をしていたかを知らされたゴールド&シルバーに投資をしてきた人の間でも、 リベンジと抗議を兼ねてチェースの口座を閉める人が居たとのこと。 これを多くの国民が行った場合、銀行はフラクショナル・リザーブ・システムで運営されているので、 バンクが実際所有しているキャッシュの量は預金総額のごく一部。2016年のデータではJPモーガン・チェイスは預金額に対する準備金の割合は僅か1.74%、 ゴールドマン・サックスは1.24%で、 銀行が危機的状況に陥る以前に 98%の預金者が自分の財産を取り戻せない計算。 そもそもフラクショナル・リザーブ・バンキングでは、銀行は自分が持っていない資金をローンで貸し出すなどして多額の利益を上げている訳で、普通の人が行えば犯罪である行為も 銀行という組織が大規模に行うと合法でまかり通るというのが現在の中央銀行システム。
でも中国のデジタル人民元のようなCBDC(政府が発行するデジタル通貨)が普及すれば、 国民のデジタル口座と政府機関が直結する結果、国民すべての経済活動が政府によってモニターされるのは必至。すなわち何時、何処で何をして、何を買って、何を食べたかというデータを通じて、 政府が国民の行動半径、趣味から性癖までを把握する訳で、警察やFBIによる事件捜査も極めて簡単になる一方で、国民のプライバシーが無くなることを意味するのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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