Aug. 22 〜 Aug. 28 2022

"Battle, Shortage, Misery, Etc."
スローンズ VS.リングス、教師不足、独身男性の悲劇、消費変化


先週日曜にHBO/Maxでプレミアを迎えたのが2019年に終了した大ヒット・シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のプリクエル、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」。 ビューワーが殺到してストリーミングがダウンする人気を見せただけに、プレミアの4日後である今週木曜には早くもシーズン2の製作が決定しているけれど、 この秋エンターテイメント界が注目するのが「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」と9月2日にアマゾン・プライム・ビデオで公開がスタートする「ロード・オブ・ザ・リングス」のスピンオフ、 「ザ・リングス・オブ・パワー」の対決。
TV史上最高の製作費でも争っているこの2シリーズは、HBO/Maxが「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」のシーズン1に1億ドル以上を投じたのに対して、 「ザ・リングス・オブ・パワー」にはアマゾンが5シーズンの製作費として10億ドルを投じているのだった。
それと共に密かに注目されるのが、この対決が つい最近世界最大のストリーミング・サービスになったばかりのディズニー+バンドルのビューワー数にどう影響し、ネットフリックスの業績をどこまで追い詰めるか。 インフレで家計が苦しくなっているとあって、今年に入ってからは複数のストリーミングをサブスクライブしてきた人々の60%以上がその数を絞っており、 サブスクライバーがサービスを利用するポイントは「自分の観たいコンテンツがサービスに含まれているか」。 すなわち「ビューワーが望むコンテンツを話題を煽る規模で発信すること」がストリーミング戦争の勝者を決めると見られているのだった。
アメリカでは2022年7月に、ストリーミングのビューワー数が遂に史上初めてTVを上回ったことが明らかになっており、 これまで多くの人々がTVで観ていたニュースやスポーツも 今ではストリーミングで視聴する傾向が顕著。 これを受けて3大ネットワークの1つであるNBCは午後10時台のドラマを廃止し、その代わりに1時間のニュース番組を放映することにより、 浮いた製作費でストリーミングに力を入れる新しい経営方針を今週打ち出しているのだった。



空前の教師不足に対応する苦肉の策


新学年がスタートしたアメリカで大きな問題になっているのが空前の教師不足。 アメリカでは学校教師は給与が安い上に、負担が大きいとあって割が合わない仕事の代表格。 そのため毎年新学期を迎える段階で どの学区域でも平均10〜15の教員ポストが埋まらないことがレポートされてきたけれど、今年はその数が50〜60に増えていることが伝えられるのだった。
それもそのはずでアメリカでは2020年1月以降、パンデミックの影響もあって60万人の学校教師が辞職、もしくは早期リタイアをしている状況。 そのため全米の学区域で教員不足のへの対応が迫られており、 フロリダ州では教員資格も経験もない軍隊経験者が教員を務めていることに賛否の声が上がっていた一方で、 幾つもの学区域で試験的にスタートしたのが週休3日制。 これについても賛否が大きく分かれており、賛成派は教員の給与が上げられない分、 休みを増やすことで待遇改善になる上に 学校の運営費が節約できると主張。 反対派は 授業時間が短くなる分、週休2日制の子供達との学力の差が開くこと、 また週末以外の子供の休日に親達が仕事を休んだり、チャイルド・ケアをアレンジしなければならないことを指摘。 アメリカには州ごとに定められた「ホーム・アローン・ルール」というものがあって、一定年齢未満の子供を保護者無しで放置することが違法なケースがあるのだった。
その一方で現在急速に導入が増えているのが、子供達は従来通り学校に通い 教員のみがリモートで授業を行うシステム。 このリモート・ティーチング・システムの会社に登録する教師の数は過去1年で3倍に増えており、 教員は自宅に居ながらにして、全米どの州の授業でも担当出来るので、従来なら車で1日2時間掛かっていた通勤時間とそのガソリン代が節約でき、 その分 教えるクラスの数が増えて収入がアップするのに加え、時差がある州のクラスを担当することによって勤務時間がフレキシブルになる等、良いこと尽くめ。 そして何より学校のポリシーやカリキュラムに口を出す煩わしい親達と関わる必要が無いとあって、教師達が生活向上や家族と過ごす時間を増やす手段として リモート・ティーチングを選ぶようになってきているとのこと。
もちろんこれにも賛否両論の声があるものの、子供達はパンデミック中に自宅で受けるリモート授業を経験しているだけに、通学して友達と一緒にクラスルームで学ぶ リモート授業にはさほど抵抗が無いのが実情。子供達にしてみれば、自分が好きな教師には同じ教室内で教えて欲しいという気持ちがあるものの、 嫌いな教師だったらリモートの方が我慢できると感じているようで、同じことは大人達もリモート・ワークを通じた職場の人間関係で実感しているのだった。



シングル&チャイルドレス女性の幸福度が最高=独身男性の悲劇


8月2週目に近年ない程のリアクションをソーシャル・メディアで巻き起こしたのが8月9日に「サイコロジー・トゥデイ」に掲載された ”The Rise of Lonely Single Men” という記事。 執筆者は心理学博士のグレッグ・マトスで、その内容はへテロセクシャルのシングル男性が結婚出来る可能性がどんどん低くなっていること、 そして男性側は女性との健全な関係を構築するためのスキルを磨く必要があるというもの。
記事によれば独身男性を孤独にしている要因の1つがデート・アプリ。アメリカではデート・アプリの利用者の62%が男性。 男性がイニシアティブを握って女性にフェイス・トゥ・フェイスでアプローチするというオールド・ファッションな出会いが減る一方で、 プロフィールやライフスタイル、そして政治観で選別されてからメッセージを送り合うデート・アプリの影響で、女性が相手を選ぶ基準のハードルを上げてきたと言われるのが過去数年。 これは決して収入や学歴といった昔ながらの基準ではなく 「自分を理解してくれる」、「自分と同じ趣味や価値観を持っている」、「コミュニケーション力に長けている(会話が楽しめる)」といったもので、 無理なく人生がシェア出来て、自分らしく生きられる相手を選ぼうとする傾向が顕著になっているのだった。
そうなったのは 男性が結婚するだけで幸福度が高まるのに対して、「結婚した女性の幸福度はその結婚生活のクォリティによって決まる」という認識が徐々に浸透してきたため。 その結果「一緒に居ても自分が幸せになれない相手に時間や労力を無駄にするよりも、キャリアを高めるべき」といった意識が高まり、 女性達が結婚意外の様々な人生の選択肢に目覚めたのが過去4年ほどの傾向。 アメリカでは女性の人口が多いにも関わらず、デート・アプリの62%のユーザーが男性というアンバランスが生じているのは、 女性達が無理にパートナー探しをしなくなっているためなのだった。

2021年のアメリカのシングル人口は離婚経験者、伴侶と死別したケースを含めて過去最多の1億2200万人で、全人口の48.2%。 1970年にはシングル人口が3800万人であったことを思うと、いかにアメリカ人のシングル志向が時代と共に高まってきたが分かるけれど、 その増加の内訳は自分の意志で特に結婚したいと思わない女性と自分の意志に反して結婚できない男性。 そんなご時世でデート相手探しが完全に不利になったのは、これまで女性達が「男らしくて、自分をリードしてくれる」と誤解して結婚していた身勝手な男性や、 「女性に優しい言葉が掛けられない不器用な男性」と美化されてきたコミュニケーション力に劣る男性を始めとする所謂アルファ・メールと呼ばれる 「強い男性像」。
それとは別にPEWリサーチによる2021年のアンケート調査によれば、「人生に満足感、幸福感、充実感をもたらすもの」として 「伴侶、恋人、結婚生活」を挙げた人々は全体の9%で、2017年の20%から半分以下にダウン。 でもこれは日本を含む先進16カ国の中では最高の数値。 それよりも人生に満足感、幸福感、充実感をもたらすのは、「自由」、「ゆとり」、「コントロール(自分の人生を自分で決められる)」、 「自立していること」で、独身男女と既婚男性にとっては時間や行動、決断の自由は極めて重要なものと見なされているのだった。
女性達の間で結婚願望が急激に衰えたのは、#Me Tooムーブメントが高まった2018年を前後してのことと言われるけれど、 最新の調査で遂に既婚男性を抜いて 最も幸福度が高くなったのが「子供が居ない独身女性」。 社会が独身女性に対して「猫を飼って 自宅アパートで孤独死をする」といったレッテルを貼りたがるのに反して、幸福度と健康レベルが高く、長生きの傾向が認められているのが「子供が居ない独身女性」であることが データによって立証されてきたのが昨今。
一方、政治観の二極化が顕著な現在、デート・アプリだけでなく、ありとあらゆるソーシャル・メディアのアルゴリズムでマッチングされないのが 民主党リベラル派と共和党保守派。 共和党保守派の女性は2020年の段階で女性全体の42%であるけれど、その半分以上が50歳以上。 すなわち単純計算をすればデート・アプリを利用する保守派の独身男性は、ただでさえ38%しかいない女性ユーザーの21%以下としかマッチングが成り立たないということ。 「複数のデート・アプリを駆使したところで、デート相手には巡り合える確率は極めて低い」と指摘されるのだった。



マテリアルからエクスペリエンスの消費へ


先週発表された2022年第2四半期の業績で、 営業利益が前年同期の25億ドルから3億2100万ドルへ、87%も下落したのが大衆小売りチェーンのターゲット。 その業績の足を引っ張ったのが 大量に抱えた在庫で、これはターゲットに限ったことではなく、 ウォルマートを含む全米の小売りチェーンが、物流チェーン問題による物不足を懸念して多めの在庫を抱えたものの、消費が伸びなかったことが伝えられているのだった。
この小売りの不振と先週のこのコラムでもお伝えしたディズニーのテーマパークの業績好調、 そしてプレパンデミック・レベルに戻った旅行者数を受けて、指摘され始めたのがアメリカの消費が 「マテリアル=物」から「エクスペリエンス=経験」にシフトしてきた傾向。 そのシフトは、インフレの影響で 年金などの限られた収入で生活するベビーブーマーが先行きを案じて消費を控える一方で、 ジェネレーションZやミレニアル世代の消費がダイナミックになってきたことにも影響されており、 ブーマー世代が物質至上主義であったのに対して、若い世代ほど物への執着が希薄であることが指摘されるのだった。
ジェネレーションZやミレニアル世代にとっては旅行、コンサート、スポーツ等、参加や体験といったアクティビティの方が魅力ある消費対象で、 同じコンサートでも都市部のアリーナを会場とするよりも 郊外でのミュージック・フェスティバルの方が魅力的。 体験型のイベントにしても、誰もが同じ経験をするものよりも、その都度異なる経験が出来るものをリピートする傾向があり、 そんな体験型消費を煽るお手本と言われて久しいのが ディズニーのテーマパーク ”Star Wars: Galaxy's Edge / スターウォーズ:ギャラクシー・エッジ”。
ディズニー・ランドを含め多くのテーマパークが 来場客が迷わないように目的地に誘導するスタイルでデザインされているのに対して、ギャラクシー・エッジは あえて来場客が様々な場所に迷い込むようにデザインされ、物販にもカスタムメイドという体験オプションを取り入れたり、 ライドにも異なる展開が用意されている等、毎回異なる発見や楽しみ方が出来るコンセプト。 ディズニーがここまで大規模なテーマパークをクリエイトしたのは、一足先にユニヴァーサル・オーランドにオープンした ”The Wizarding World of Harry Potter/ザ・ウィーザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター”が テーマパーク全体を ハリー・ポッターの世界に仕立て上げたコンセプトに衝撃を受けたためで、 こんな大規模な体験型施設が提供できるのはディズニーやユニヴァーサルのバジェットがあってからこそ。
でもメタヴァースであれば、そんな大規模な体験型施設を実際に建設することなしに実現出来る訳で、世の中の消費が物から体験にシフトする傾向は メタヴァースのお膳立てとも言われるメンタリティの変化。
ブーマー世代を中心にメタヴァース内の土地や物件など、VRの世界にしか存在しない物やデジタル・アセットの価値を否定する意見は少なくないけれど、 ジェネレーションZやミレニアル世代が 実世界では味わえないような体験やエンターテイメントを求めて メタヴァースを消費活動の拠点にするのは未だ少し先とは言え時間の問題。 二酸化炭素を排出せずに何処にでも移動が出来、生産する必要のないブランド物を着用できるのがメタヴァースの世界で、 その実現は最も確実に環境問題を改善する手段とも言われるのだった。

来週のこのコーナーはレイバーデイ・ウィークエンドにつき、勝手ながらお休みをいただきます。 次回更新は9月11日となります。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行


★ 書籍出版のお知らせ ★



当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2022.

PAGE TOP