Sep 21 ~ Sep 27 2025

2 Stocks Dumped, One Better than Nvidia
政府絡みで大暴落した株と、2025年にAIより大儲けするビジネス


今週、ビジネス界を騒然とさせたのがトランプ氏が先週金曜夜に署名したH-1B就労ビザの新規申請に1人当たり10万ドルの費用を請求する大統領令。 H-1Bビザは毎年6万5000人に発給され、米国大学卒業者用に2万人の別枠が設けられており、そのうちの約71%を占めるのがインド人、 約12%を占めるのが中国人で、毎年80%以上が有能なIT技術者。インドからのIT人材の数が、金融、AI、宇宙開発企業の業績を左右することは、 第二期トランプ政権発足時にイーロン・マスクも認めていた事実。
そもそもアメリカの人口は約3億5000万人。今年は移民政策と少子化で史上初めて人口減少が見込まれる中、コンピューター・サイエンスの学位を取得するのは毎年10万人程度。 一方インドと中国は人口が合わせて28億人。インドはアメリカの6~8倍、中国は10倍のITエンジニアを毎年輩出しており、人材レベルの高さは米国企業が最も熟知していること。 トランプ政権は高額申請費により、外国人技術者の米国内トレーニングが激減し、米国人エンジニアの雇用機会が増えると謳っているけれど、 実際には外国人レベルの米国籍エンジニアはこぞって高額給与の職に就いており、外国人エンジニアを投入しなければ業務がこなせないか、レベルが落ちるのが実情。
毎年1000件のH-1Bビザを申請するJPモルガンCEOのジェイミー・ダイモンはこの大統領令を「不意打ち」と語り、 著名ベンチャーキャピタリストは「自分が投資してきた優良企業の中に、この申請費が払える企業は1社たりとも無い」と猛反発。 事実、アップルやエヌビディアのような一兆ドル超えの企業でも数十億ドルの人件費を余分に支払うことになり、IPOを控える優良スタートアップは海外からの人材雇用は不可能。 そのためインド、フィリピン、アルゼンチンといった国々にオフショア拠点を構築し、ビザ問題を回避する戦略に益々拍車がかかると言われるのだった。



株式暴落よりもディスニーに打撃だったのは…


今週アメリカ国民の関心が最も集中したのは、チャーリー・カーク暗殺後に特に問題発言をした訳ではないのに、政府圧力を受けて番組停止処分を受けたABCのトークショー、「ジミー・キンメル・ライブ」が火曜日にカムバックを果たしたこと。
カーク暗殺後にキンメルが語ったのは「右翼は暗殺者が自分達とは無関係という立証に躍起になり、事件を反対勢力をやり込める政治的武器にしようとしている」というコメント。加えて トランプ氏がメディア記者に「カークの死後、どうしていますか?」と尋ねられ、質問の意味を介さず「誰もが(ホワイトハウスの)巨大ボールルームの建設を話題にしている」と返答したクリップを放映し、 呆れ顔を見せて笑いを誘っていたけれど、これだけでABCと親会社ディズニーが放映停止に踏み切ったことから、ディズニー株は暴落。ハリウッドでは俳優や映画監督等600人以上がディズニー関連の仕事拒否に署名。その直後に行われた映画プレミアでは、予定されていたジュエルと、サラ・マクラクランがパフォーマンスをボイコット。もちろん大々的な抗議デモも起こったけれど、ディズニーに最も打撃となったのはストリーミングのディズニー・プラスとHuluのキャンセルが相次いだことで、Googleでは「How To Cancel Disney+?」の検索数が1200%アップしたのだった。
またテッド・クルーズ上院議員や、MAGAインフルエンサーのベン・シャピーロ、ポッドキャスターのジョー・ローガン等、保守右派からも 「トランプ政権に迎合しない主張をキャンセルすることは言論の自由を脅かす」という反発意見が寄せられ、アメリカ国外のメディアやジャーナリストもキンメルをサポートしたことで、 ディズニーが番組停止を撤回。しかし、大型合併を控えて政府を敵に回せないシンジケートは番組配信を拒否したことから、ワシントンDC、オレゴンを含む23%の世帯で引き続き「ジミー・キンメル・ライブ」が放映されないままのカムバックになっていたのだった。
にも関わらず カムバック・エピソードは630万人の視聴者数を記録。17分に渡るキンメルのモノローグは ネット上であっという間に2500万回再生され、これは夜のトークショーとしては、メガ視聴率と言える数値。 しかしFCC(連邦通信委員会)は今後も反政府的発言への取り締まり強化を打ち出し、トランプ氏は「ABCは自分にキンメルの番組をキャンセルしたと通達した」として、ABCに対する訴訟を自らのSNSで示唆。
トランプ政権が プーチン政権下のロシア、ヴィクトル・オルバン政権下のハンガリーのように、メディアを完全に支配下に収めるのは、保守極右が描いた理想国家のブループリントにも含まれたシナリオであるだけに、 「ジミー・キンメル・ライブ」の復活は、言論の自由が守られる保証とは程遠い印象なのだった。



今年エヌビディアよりも株価が上昇した予想外のビジネスは…


今週ディズニー株と共に暴落したのが、鎮痛薬タイレノール製造元であるケンビューの株式。 これは米国内で年間10億ドルを売り上げるタイレノールの有効成分 アセトアミノフェンを妊婦が服用することで自閉症の子供が生まれるリスクをトランプ政権が警告したためだったけれど、 ケンビューはタイレノールと発達障害の関連付けと闘って来た歴史があり、昨年12月には連邦裁判所が アセトアミノフェンと発達障害の関連性を主張する訴訟を 「科学的根拠に乏しい」という理由で棄却。 それをわざわざ新たなデータや立証がないまま、事実として政府発表したのが 医療経験ゼロで健康保険庁長官に就任し、自分の子供にはワクチン接種をさせながら、アンチ・ワクチンを掲げるロバート・F・ケネディ・ジュニア。 そしてRFKジュニアと共にトランプ氏のプレスカンファレンスに同席したのが、下院議員に出馬して落選したTVドクターで、胡散臭いサプリメントを売りつけるための情報操作がバレて、 医療カンファレンスでの発言を2年間停止されたメメット・オズ。
アメリカには「この2人による医療アドバイスは信じられない」という国民は多いけれど、医療界とメディアの関心が集まったのは、何故このタイミングでトランプ政権がタイレノールを攻撃する必要があったのかということ。 そして今週、図ったようになタイミングで突如再浮上したのが、今から8年前、2017年のケンビューによる 「タイレノールの妊婦の服用は薦めない」というヴィンテージ・ツイート。 そのため、これを切り札に健康保険庁がケンビューへの多額のペナルティで利益を得ようとしている憶測が飛び交っていたのが今週末。

「タイレノールに関する政府発表を事前に知っていたら、インサイダー取引で大儲け出来た筈」と言われる中、株式市場は今月9月だけで約76億ドル相当のIPOが成立。これは2021年以降で最高の数字。 さらに今週にはエヌビディアがチャットGPTのオープンAIに1000億ドルの投資を発表。そのOpenAIは、ソフトバンク、オラクルと提携し、中国全土に5つのデータセンターを建設する計画を発表。またエヌビディアは中国のインターネット大手アリババとのパートナーシップも発表。アリババはAI投資額引き上げを発表したことで、株価が約4年ぶりの高値まで急騰。株式市場はAI一色という印象であるけれど、 2025年にエヌビディアより大きな上げ幅を見せているのが ”ビルダベア・ワークショップ” というぬいぐるみ会社の株。今年に入ってから株価は50%アップ、過去5年間では何と2000%の上昇を見せたビルダベアは、カスタムメイドのテディ・ベアがオーダーできるチェーンとして1990年代からショッピング・モール内で展開。 好業績のターニング・ポイントなったのは、ミレニアル以降の世代に対応しようと ポケモンやハロー・キティといったキャラクターと提携したのに加え、路面店や、クルーズシップ内に出店するなど、客足が減って閉鎖が相次ぐショッピング・モールに早くから見切りを付けたこと。 しかも世の中はLabubu/ラブブのメガヒットで、キダルト(Kids+Adultの略、大人が子供っぽいものを追求するトレンド)ブーム。ヤング・アダルトを中心に、大人がぬいぐるみや人形を買う時代背景もAI企業を凌ぐ好業績に 大きく影響しているのだった。
そのラブブを生産するポップマートCEO、王寧の純資産は 今年4月には僅か1日で16億ドル増えたことが伝えられたけれど、8月下旬の個人資産は約275億ドル。世界の長者番付にランクインしただけでなく、 フェイスブックの初期投資家で、トランプ政権を裏から牛耳るヴェンチャー・キャピタリスト、ピーター・ティールが30年以上かけて築いた富を、僅か1年足らずで達成したことで話題になっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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