Oct 12 ~ Oct 17 2025

Pros & Cons of AI?
SNSに蔓延する生成AI悪戯&嫌がらせ、
増えるAI勝訴…、AIは現代社会の毒か薬か?



今週のアメリカでは、週明けにイスラエルの人質釈放の様子が大きく報じられたけれど、その多くは過去2年間、地下施設に監禁されていたため、 眼が自然光に慣れるまでサングラスを着用する生活。しかし釈放直後に、停戦条件で武力放棄に合意した筈のハマスが公開銃殺刑を敢行したことから、 「中東に平和が訪れたと喜ぶのは時期尚早」との懸念が高まっていたのだった。
アメリカ国内は政府のシャットダウンが3週間目に突入。先週金曜には政府職員4000人が解雇されたけれど、この措置は今週裁判所が却下。 無給、減給で政府職員が家賃や自動車ローンの支払いに苦しむ中、報じられたのが経済危機を瀕するアルゼンチンに公的資金400億ドルを投じて救済するトランプ政権の意向。 先週には、トランプ氏に約4億ドルのボーイング747-8新型機を大統領専用機として贈ったカタールの空軍施設を、 アメリカのアイダホ州に建設するというあり得ない合意が発表されたばかりで、トランプ政権の”アメリカ・ファースト”を信じて居たMAGA勢力はこれらの外国優遇に猛反発。 そのカタール政府はこの春に、首都ドーハ北部の一等地をトランプ・ブランドの高級ゴルフ・リゾート建設に提供しており、 その開発を担当するのはサウジアラビアのダール・グローバルとカタール政府所有の企業、カタール・ディアール。
さらに今週には、エジプトで開催されたガザ和平に関する首脳会合に出席していたインドネシアのプラボウォ大統領が、トランプ氏に「エリック(トランプ氏の次男)に会えるか」と打診し、 その後「それならドン・ジュニア(トランプ氏の長男)と…」 と語る様子がマイクに拾われており、 アンチトランプ派は、「また他国のトップがトランプ・エンタープライズに賄賂ビジネスを持ちかけている」との疑いを向けていたのだった。



生成AIによる悪質な嫌がらせ&プランクが止まらない


先週のこのコラムで、人間と競合する初のAI女優、ティリー・ノーウッドについて書いたけれど、 今や生成AIを駆使して、ディープ・フェイク映像をクリエイトするのは一般人もこぞってやっていること。 それに対して抗議声明を発表したのが、2014年に63歳で死去した俳優 ロビン・ウィリアムスの娘で、女優兼映画監督のゼルダ・ウィリアムズ。
というのもTikTok上にロビン・ウィリアムスのディープ・フェイク画像が溢れ、それを彼女に送り付ける人々が後を絶たないためで、 「送られてきた動画は一切見ていません。良識があるのならこんなことはやめて下さい。父はそんなことは望んでいません。 現存したものを過剰加工した醜いリサイクルは『未来のテクノロジー』ではありません」と怒りを露わにしていたのだった。
ロビン・ウィリアムスに止まらず、セレブリティのディープ・フェイク画像は政治メッセージ、詐欺広告、アダルト・コンテンツ等に蔓延しており、 今年1月にはカニエ・ウェストの反ユダヤ発言に抗議するユダヤ人セレブリティの動画が拡散されたけれど、 それに登場したスカーレット・ヨハンソン、ドレイク、アダム・サンドラーは全てAI生成によるディープ・フェイク。 当初はそれがフェイクだと見分けがつかなかったことから 混乱を巻き起こしていたのだった。
そんな中、ジェネレーションZを中心にTikTokでヴァイラルになったのが、不審者の家宅侵入の様子をAI生成して、親や家族に送り付けるプランク(悪戯)。 「帰宅したらホームレスと思しき男性がソファで眠っていた」というものから、「ドアの外に不審者が居座っている」などストーリーは様々で、 それにリアルなフェイク映像を添えて送付することで、友人や家族がパニックに陥る様子を楽しむという悪趣味な悪戯。 それが原因の警察通報が急増したことから、メディアを通じた警告が行われたけれど、こうした問題は生成AIが原因ではなく、 「悪質な嫌がらせや悪戯を平気で行い、それを楽しむ人間性にある」との指摘が聞かれる一方で、その背景には 「生成AIを自在に使いこなす自分を誰かにアピールしたい」という稚拙な人間心理があると見られているのだった。



今、アメリカで増えるAI勝訴に弁護士が…


その一方で今、訴訟社会 アメリカで急増しているのが、弁護士を使わずAIによって裁判を闘い、勝利を収める人々。 アメリカの都市部では弁護士のコンサルタント料は1時間500ドル以上。 裁判を闘うには判例のリサーチ等、書類作成等、手間がかかる作業が付き物であるけれど、それをあっという間に無料でやってのけるのがAI。 「人間の弁護士で負けた裁判の控訴をAIで行ったら勝訴した」というケースも多く、 チャットGPTを始めとするAIを駆使して裁判に臨むのは、弁護士費用が高過ぎて払えない、もしくは自分の意を汲んで仕事をしてくれる弁護士が探せないという人々。
NBCニュースでは、地方自治体からの不当な罰金と闘う71歳の女性を取材していたけれど、 この女性も第一審で人間の弁護士を雇って敗訴し、それ以上弁護費用が払えないことから、チャットGPTを使って控訴したところ 勝訴を勝ち取ったケース。
そんなAI弁護士の問題と言われるのが ハルシネーション(幻覚)。AIハルシネーションとは、AIが不正確な情報を真実として生成する現象のことで、 裁判の場合、AIが実存しない判例をでっち上げて訴訟要旨を作成するケースが多いとのこと。数か月前には その捏造に気付いた裁判官が、チャットGPTを使用した弁護士に 罰金を科した事例も報告されているのだった。
またAIハルシネーションによって、AIが訴えられたケースもあり、2023年にチャットGPTは あるラジオ・パーソナリティの横領疑惑を主張。 しかしそれはAIハルシネーションによる捏造で、そのパーソナリティはOpenAIを相手取って名誉棄損の裁判を起こしていたのだった。
前述のNBCニュースが取り上げた女性は、チャットGPTが製作したドラフトを 別のAIで検証することでハルシネーションを防いだと語っていたけれど、 これに対して人間の弁護士は「AIモデルは現実世界を経験していないので、情報と事実の的確な照らし合わせは不可能。統計的な確率の判断しかできない」と主張。 人間弁護士のアドバンテージを訴えているけれど、 AIは数ヵ月ごとに能力が倍増し、2027〜28年には AIが別のAIを構築する進化を遂げる見込み。したがって、そのアドバンテージも長くは続かないと見る声が多いのだった。
2025年に入ってからは、スタンフォード大学がAI設計によるウイルス作成に成功。AIが生物兵器を作ることも可能になり、 核兵器や原子力といった人類の脅威となり得るもう1つのカテゴリーでも人間以上の知識や情報を蓄えているとのこと。 このままAIが進化を続けると、AIの制御や監視は もはや人間には不可能で、正義と良心を教え込んだAIに一任せざるを得なくなる一方で、 企業の重要任務や経営判断もAIが担うようになるため、現在、保険会社が導入に向けて動き始めたのが、 AIの重大故障、大規模誤送金、差別採用、誤情報の大規模拡散、ハッキング被害等をカバーする"AI保険"。
AI保険への加入がニューノーマルになると、企業側はAI導入で節約した人件費を多額の保険料で奪われることになり、 AIが社会の毒にも薬にもなる”諸刃の剣”状態は、今後も姿、形を変えてエスカレートすることが見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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