Feb 9 ~ Feb 14 2026

SaaSpocalyps is Happening

今、AIや株式と無縁の人でも知っておくべきSaaSポカリプス


先週日曜のスーパーボウルはハーフタイム・ショーに話題が集中していたものの、広告業界では「AIボウル」と呼ばれ、30秒枠が平均800万ドルで販売された66のCMスポットのうち、15がAI関連。 その中に含まれていたのが2026年に株式公開が予定されているOpenAIやAnthropic/アンソロピックに加えて、Genspark/ジェンスパーク や Base44といったAIスタートアップ。 この状況はウォールストリートでは不吉のサインだと捉えられており、過去にテクノロジー企業がスーパーボウルCMにインパクトをもたらしたケースと言えば、 まず2000年。この時は「ドットコム・ボウル」と呼ばれ、インターネット企業が10以上の広告スポットを占め、その数カ月後にはドットコム・バブルが崩壊。多くの広告企業が追い込まれたのが閉鎖や廃業。
そして2022年のスーパーボウルは コインベース、FTX、クリプト・ドットコム等の暗号通貨企業が総額5,400万ドルをCMに費やす「クリプト・ボウル」となったけれど、年末までにFTXは破産、Coinbaseの株価は暴落。 「特定の業界が、世界で最も高額な広告スポットを独占する状況は、買いのシグナルではなく、次に何かが起こることを示唆している」と、ベテラン投資家は分析するのだった。
そのクリプト業界は法規制緩和と優遇を求めて、2024年の大統領選で 業界として最高額をトランプ氏に寄付。トランプ氏のクリプト・ベンチャーは、 僅か1年でトランプ氏の生涯収入を超える利益をもたらしたけれど、先週の大暴落で第二期トランプ政権下での上昇幅を全て失ったのがビットコイン。 これまでビットコインへの巨額投資で本業より稼いできたソフトウェア企業、マイクロ・ストラテジーは先週124億ドルの四半期損失を報告。 世界初のビットコイン・ビリオネアになったウィンクルボス兄弟が設立した暗号資産取引所Geminiは、同じく先週200人の解雇、及び米国とシンガポールを除く全てのオフィス閉鎖を発表。 ウィンクルボス兄弟は、ハーバード大在学中にフェイスブックのアイデアを盗まれたとマーク・ザッカーバーグを訴え、映画「ソーシャル・ネットワーク」にも登場した双子兄弟。 ザッカーバーグからの賠償金をビットコインに投資したエピソードは有名。彼等はトランプ氏からの優遇を得るためにホワイトハウスのボールルーム建設に多額の寄付をしているのだった。
しかしクリプト業界では、昨年後半から「トランプ氏への支援は間違いだった」と考えを改めるインフルエンサー&投資家が急増中。歴史上初めて民間から生まれた”People's Money”が、 目先の利益に捉われた業界上層部の判断で、本来進むべき軌道から外れたことを嘆く声が多いのだった。



”労働の終わり”の始まり


過去6ヵ月で大きく値崩れを見せていたソフトウェア企業の株価が、先週さらなる大暴落を見せたけれど、これは現在ウォールストリートで「SaaSpocalypse/サースポカリプス」と呼ばれる現象。 「SaaSpocalypse」は、”SaaS (Software as a Service / サブスクライブ・ソフトウェア)”と”Apocalypse (黙示録/終末)” を合わせた造語。 要するにソフトウェアを通じたサービスを提供してきた企業の終焉を予感させる市場の動きを指す言葉。
事実、過去12ヵ月でフォトショップで知られるAdobe/アドビの株価は36%下落、一時飛ぶ鳥を落とす勢いだったSalesforce/セールスフォースの株価は43%、Hubspot/ハブスポットの株価は69%がそれぞれ下落。 デザイン&コラボ・ソフトのFigma/フィグマに至っては、2025年8月のIPO時の最高値122ドルから82%下落。 では何故今、サースポカリプスが起こっているかと言えば、AIがそれらの存在価値を脅かしているため。
先週の大暴落の要因となったのは AI ”Claude/クロード” で知られるアンソロピック社が法律と金融のプラグインをリリースしたこと。 その優秀さは 遂にエントリー・レベルの人間の仕事をAIが完全に取って替わる時代、労働というコンセプトの”終わりの始まり”を市場に実感させるショックウェイブとなり、 ソフトウェア株と金融サービス株に約3,000億ドルの損失をもたらしたのだった。 サースポカリプスを引き起こす懸念材料は、大きく分けると以下の2点。

SaaS企業の筆頭、セールスフォースは2025年2月に1000人、同年9月にも4000人のレイオフに続いて、今週も約1000人のレイオフを発表。CEOのマーク・ベニオフは、同社のAIボット ”Agentforce/エージェントフォース”が多様なタスクを処理するようになり、人間によるサポートの必要性が減少していることが解雇の理由と説明。しかし世の中が現在向かっているのは、これまでセールスフォースを使っていた企業が アンソロピックのAIを安価に導入することで、セールスフォースのサービス自体が必要でなくなる時代。
例えば大手弁護士事務所がこれまで利用してきた法曹専門のアプリは毎月のサブスクリプション・フィーが約5000ドル。しかし新しくクロードに加わった機能を使えば、 毎月200ドルで同等のサービスが得られるとのこと。 今回のクロードのアップグレードは、業界では「ソフトウェアが迎えたYouTubeモーメント」、すなわち「TVに替わる存在になりつつあるYouTubeが登場した時のようなインパクト」と評する声が聞かれるほど 軽視出来ないもの。そしてAIは、YouTubeがTVを超えるより 遥かにスピーディーにソフトウェアを骨抜きにすると予測され、その影響力はソフトウェアだけに止まるはずはないのだった。



AI進化で経済は回らない!?


AI関連企業のエグゼクティブはサースポカリプスを深刻には捉えていないようで、エヌビディアのCEOジェンセン・フアンを筆頭に 「AIがソフトウェア企業に取って代わるというのは最も非論理的な考え」と楽観的な見解。 これが本音なのか、AIに向けられる世の中のバックラッシュを避けるためなのかは不明であるけど、昨年までとは打って変わって投資家の間で不安材料になっているのがAIへの過剰投資。
例えば先週アマゾンが前四半期業績と共に発表したのが、2026年度の2千億ドルもの設備投資計画で、その大部分はAI関連。 アマゾンは好業績だったにも関わらず、発表後の株価は7.5%下落しており、同様に好業績を上げながら AIへの過剰投資が懸念された株価下落はマイクロソフト、グーグル親会社のアルファベットでも起こっていたこと。 2025年であれば、AI導入で大量解雇を行い、浮いた人件費を更にAIに投資をすることが市場で好感され、レイオフをしても株価が上がっていたのは記憶に新しいところ。 しかしアマゾン、アルファベット、マイクロソフト、メタの4社だけで2026年中に6500億ドルをデータセンターや、電力施設を含むAI投資に注ぎ込むのは、もはや株主や経済専門家からは リスキーと見なされる行為なのだった。
理由は、AIの導入と進化による効率化ばかりが先走りして、AIが社会がもたらすベネフィットについては明確なビジョンが示されていないこと。 AIが進化する中で、これまでの多額投資がどういう形で莫大なリターンをもたらすかは誰にも説明できないのだった。 このまま AI導入で節約された人件費が、更なるAI投資に回され、開発競争だけが激化すれば、 AIは現実社会とは無関係な進化を遂げ、そのプロセスで多くの人々が仕事と経済力、消費力を失い、地方自治体は税収を失い、老朽化した道路や橋を含むインフラ整備は進まず、社会全体が衰退して行く のがその末路。
既にアメリカでは消費の約40%を担っているのがトップ10%の富裕層。その中心はブーマー世代で、トランプ氏とそのお取り巻きがそのままアメリカの富裕層のデモグラフィック。 若い世代やスモール・ビジネス、ミドルクラス以下は、貯金を切り崩したり、借金をしながら必要最低限の消費をしているのが現状。 トランプ関税によって繁栄するはずだった製造業は逆に衰退し、2025年に7万人が失業。製造業は昨年給与も減少した数少ないセクターの1つ。 逆に唯一拡大しているのは高齢化社会を反映した医療分野で、これは景気や消費といった経済のダイナミックスとは無関係のエリア。 2025年には対日本円以外ではドル安に転じ、世界的に旅行ブームが続いていたにも関わらず、トランプ政権の移民政策や関税に反発した海外からの旅行者が激減した影響で、 旅行業界は700億ドルを失っている計算。
景気・経済の原動力となるセクターに全くエネルギーが感じられず、貧富の差だけが大きくなるのは独裁主義国家の経済であるけれど、 今のアメリカはまさにそこに向かっており、AIがそれに拍車を掛けているのだった。

来週、再来週は、筆者旅行中につき、このコラムをお休みいたします。次回更新は3月7日の予定です。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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