Jan 25 ~ Jan 31 2026

Melania, The Movie

映画「メラニア」公開で露呈する、第二期トランプ政権への国民感情


今週のアメリカで報道時間の大半を占めたのが、先週末のウィンター・ストーム以降続く大寒波の被害と、ミネアポリスで起こったICEによるアレックス・プレッティ殺害関連のニュース。 中でも凍結による停電、路上事故等の被害は深刻であったけれど、それが「Ice continue to cause serious threats (Iceが引き続き深刻な脅威を引き起こす)」等と報じられるので、 氷のアイスなのか移民取締局のアイスなのか紛らわしいと言われたのが今週。
アレックス・プレッティの事件を受けて、先週までミネソタ州知事、ティム・ウォルツと、ミネアポリス市長、ジェイコブ・フライを逮捕し刑務所送りにすると言っていたトランプ氏がトーンダウン。 上院議会はICEの体制を改めない限り、ICEを管轄する国土安全保障省(DHS)の資金源を握る歳出法案を通さない姿勢を見せ、 再び政府閉鎖の可能性が危惧されることになったのが今週末。 そのICEは、不法移民にはチケットが高額過ぎて購入不可能なスーパーボウルの警備に加えて、2月6日から行われる ミラノ・オリンピックでもヴァンス副大統領、ルビオ国務長官の警備として同行することが発表されたことで、国内外は猛反発。 問題のミネアポリスではノームDHS長官、アメリカ版ゲシュタポと言われたボルヴィーノ司令官が配置換えになったとはいえ、 ICEが令状無しにエクアドル大使館に踏み込むという国際法を犯す捜査を行い、事態が何も変わっていない様子を露呈していたのだった。



封切り日に1枚もチケットが売れない映画館も…


ミネアポリスでアレックス・プレッティが射殺された1月24日に、ホワイトハウスでブラックタイ・プレミアが行われたのがアマゾン&MGMグランドが製作し、 全米の1500の映画館で1月30日公開されたドキュメンタリー、「メラニア」。
トランプ氏の就任式までの20日間を捉えた104分のドキュメンタリーにアマゾンが支払ったのは、メラニア・トランプ夫人の報酬2800万ドルを含むライセンス契約料4000万ドル、 及びプロモーション費用3500万ドルの、合計7500万ドル。通常のドキュメンタリーの10倍以上の製作費、ドキュメンタリーのプロモーション費用としては史上最高額と言われる同作品には、 トレーラーが公開された昨年末の段階から批判とジョークが集まっていたのだった。
メラニア夫人は、プレッティ射殺とその猛反発のせいで、ドキュメンタリーについて特集メディアがFOXニュースに止まったことに腹を立ていたとのこと。 トランプ氏はホワイトハウス・プレミア直後、自らのSNSで「映画館は売り切れ続出中、急いでチケットを買うべき」と投稿したけれど、 今週SNSに溢れたのは、全米各地で1枚もチケットが売れていないシアターが多く、「カリフォルニアの大型映画館4軒では合計5枚しか チケットが売れていない」といった情報。今や映画チケットは、事前のオンライン予約で座席指定をして購入する時代。そのためチケット販売サイトに行けば、 一目瞭然なのが席の埋まり具合で、ごまかしが効かない時代。 映画が既に公開されている欧州でも「メラニア」の興行成績は全く振るわず、南アフリカは 公開3日前に国全体で放映をキャンセル。 公開前日の情報によれば、アメリカを含めた全世界で13枚しかチケットが売れていないとのことで、アメリカでもEU諸国でも映画ポスターへの落書き被害が相次いでいるとのこと。 業界アナリストは「この映画の興行成績は報道されないだろう。もしされた場合はRNC(共和党全国委員会)がトランプ夫妻の面目を保つ程度にチケットを買い漁った場合か、数字が操作された場合」と予測。
一方、メラニア夫人のプロモーション・ビデオと言える同作品に、「忌憚ないレビューを投稿した」というSNSユーザーは、それがサイトに削除されたとクレーム。 運営側に問合せたところ 「公開前の映画にネガティブ投稿をするのは営業妨害と見なされる」との通達を受けたというけれど、それでは映画評論家の仕事が成り立たないというもの。 チケット売上不振を伝えるSNSのコメント欄には、トランプ氏に平和賞を贈ったFIFAが、今度は 「メラニアのドキュメンタリーに最優秀作品賞を与えるだろう」といった皮肉や嫌味が飛び交っていたけれど、 メラニア夫人は トランプ氏の二期目就任以前から、NYのトランプ・タワーをメイン住居にしており、夫妻は別居状態。 そのNYでのドキュメンタリー撮影クルーの3分の2は、エンドロールのクレジットから自分の名前を削除するよう依頼したことも報じられているのだった。



ドキュメンタリー制作の本当の目的


ホワイトハウスでのブラックタイ・プレミアには、アップルCEOのティム・クック、アマゾンCEOのアンディ・ジャシー、AMDのCEO リサ・スー、ZOOMのCEO エリック・ユアン、 そして今週水曜にメラニアがオープニング・べルを鳴らした際に、その場を盛り上げようと痛々しい努力を見せたNY証券取引所社長のリン・マーティン等が出席。 この中で最も批判を浴びたのはティム・クックで、理由はスティーブ・ジョブスがスティーブ・ウォツニアックらと創設した時代からリベラル企業だったアップルが、 第二期トランプ政権誕生と共にそのポジションを180度転換させ、トランプ政権に多額の献金を行うようになっただけでなく、 アップルとは全く無関係のイベントにまでCEOが顔を出して媚び諂う様子を人々が嫌ったため。 しかしクックを擁護する人々は、「アップルは米国や世界の問題を解決する企業ではなく、株主の利益を最優先に考えて トランプ氏のご機嫌を取るのも仕事の1つ」という意見。
同様の見解は、たった1回のトランプ氏との会食で「メラニア」のドキュメンタリー制作を決めたアマゾン会長、ジェフ・ベゾスに対しても聞かれており、 アマゾンはトランプ氏への献金、映画「メラニア」製作以外にも、かつてトランプ氏が出演したリアリティTV「アプレンティス」のアマゾン・プライムでの公開に際し、 トランプ氏個人に支払ったのがストリーミング権料。しかしアマゾンは2022年にMGMを850億ドルで買収した際に、「アプレンティス」に関するすべての権利を所有していたので、 好んで支払ったとしか言えないのがストリーミング権料。 それによってアマゾンはバイデン政権下から問われてきた独禁法を逃れ、アマゾン傘下のAWSやブルー・オリジンが多額の政府コントラクトを獲得し、 ベゾス本人はビリオネア・タックス・ブレーク(税額免除)で個人所得が守れる訳で、払った金額の数十倍のリターンを得ている計算なのだった。

オラクルのラリー・エルソンにしても、トランプ氏への多額の献金により、先週シルバーレイク、MGXと共にアメリカのTikTok買収を成立させ、 その息子、デヴィッド・エルソンはトランプ政権の承認を得て、スカイダンスと合併したパラマウントのCEOに就任。合併承認と引き換えに、 パラマウントは傘下のCBSがトランプ氏に名誉棄損で訴えられていた裁判で、勝算が十分にも関わらず示談金1600万ドルをトランプ氏に支払って事態を収拾。 今ではCBSニュースは初のトランプ寄りメインストリート・メディアに生まれ変わったところ。
こうして企業や外国政府から大金が流れ込んだ結果、今週のNYタイムズによれば、トランプ氏個人が第二期政権の1年目に得た個人資産は14億ドル以上。 これはトランプ氏が79年間の生涯で築き上げた財産を上回る額(トランプ氏のビジネスは負債が多く、しかも6件の倒産がアリ)。 これにはトランプ・ジュニアがワシントンDCにオープンした会員制クラブによる収益、娘婿のジャレッド・クシュナーが中東の政府ファンドと進める買収等を含む、 トランプ・ファミリーが世界22カ国で進めるプロジェクト等は含まれていないとのこと。
要するにドキュメンタリー「メラニア」のチケットがたとえ1枚も売れなかったとしても、アマゾンとトランプ夫妻は 本来の目的を十分達成していると言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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