2025年4月25日、オーストラリア・パース近郊の自宅で41年の短い生涯に終止符を打ったのがヴァージニア・ジフリー(旧姓ロバーツ)。
ヴァージニアは、現在アメリカで再び大問題として物議を醸すジェフリー・エプスティーンの性的人身売買ネットワークを世界に告発した
最も有名なサバイバーであり、社会的批判を浴びながらも、ティーンエイジ時代に英国王室アンドリュー王子との関係を強要されたことを訴え、
最終的には損害賠償の示談を勝ち取った勇気ある存在。
彼女の存在無くしてはエプスティーン・スキャンダルは闇に葬られたと言われる重要な証人であり告発者。
しかし彼女が最初に声を上げた2011年当時、彼女を信じる人々はほぼ皆無で、
何度となく英国メディアに嘘つき扱いされ、中傷、隠蔽、脅迫を含む迫害や圧力を受けながらも闘い続けた存在。
そんな勇気ある彼女が自殺という形で生涯を終えたことは、特にエプスティーン・スキャンダルをフォローしてきた人々には
極めてショッキングに受け取られたこと。彼女の死去直後は、そのニュースを殆ど報じなかったのがアメリカのメインストリート・メディア。
しかしイーロン・マスクが6月上旬にトランプ氏とエプスティーンの深い関係を示唆するツイートを行い、7月に入ってボンディ司法長官が
エプスティーンがヴァージニアを含む少女達をあてがった「クライアント・リストは実は存在しない」という隠蔽に動いたことから、
人々の関心がエプスティーン・スキャンダルに注がれ、グーグル検索が1900%アップ。
その状況下でスポットが当たったのがバージニアの悲劇なのだった。
1983年8月9日、カリフォルニア州サクラメント生まれのヴァージニア・ジフリー(当時ロバーツ)は、
幼少期から虐待にさらされ、やがて里親制度で引き取られながらも、里親からも性的虐待を受け、その成長期は不安定かつ不幸なもの。
やがて2000年、当時17歳の彼女は ほぼホームレスで、トランプ大統領が所有するマー・ラゴのプライベート・クラブで、住み込みで 男性メンバーのためにスポーツ・マッサージをして生計を立てていたとのこと。
その時に出会ったのが ”エプスティーン・マダム”として知られ、ジェフリー・エプスティーンのセックス・トラフィキングをサポートしていたギレーヌ・マックスウェル。
若さとルックスの良さでヴァージニアに目を付けたマックスウェルにとって、恵まれない彼女のバックグラウンドは 何をさせても親が乗り出して来ることがない上に、生活のためなら何でもするしかないという渡りに舟の状態。
程無くヴァージニアは、 エプスティーンの「トラベル・マッサージ師」として雇われたけれど、本当の目的はエプスティーンと親しい著名な実力者のために性的接待を行わせるため。
ヴァージニアは、まずエプスティーン本人から性的虐待を受け、同時にマックスウェルから ”マッサージ”を含む性的レッスンを教え込まれ、
未成年時代に複数の著名人との関係を強要されたとのこと。そのうちの1人が他でもない英国王室、アンドリュー王子で、
ヴァージニアは6回に渡って関係を強要されたことを告白していたのだった。
アンドリュー王子は、1980年代にはポルノ女優とのロマンスの噂が流れるなど、女性関係が頻繁に取り沙汰されてきた存在。チャールズ3世よりルックスと人当たりが良かったことから、エリザベス女王のお気に入りで、
彼の不適切な異性関係は全てバッキンガム宮殿が揉み消してきた過去があるのだった。
そんなアンドリュー王子に対して2011年、英国のメディアを通じて未成年者性的虐待の告発をしたのがヴァージニア。
しかし当時の英国メディアは、英国王室の圧力もあって 彼女の言い分を虚偽と決めつけ、
面白半分に報じるゴシップ・メディアは 彼女のプライバシーが無くなる勢いで追いかけては、誹謗中傷を繰り返す報道体制。
しかしアメリカでは、2008年にエプスティーンがフロリダ州でセックス・トラフィッキングの罪で逮捕。この時は、当時のフロリダ州司法長官、アレクサンダー・アコスタが
彼の罪をセックス・トラフィッカーではなく、「少女達は売春婦で、その元締めをしただけ」という、本来ならあり得ない司法取引で減刑したことが 大きな物議を醸したことから、
エプスティーン・スキャンダルを追い掛けて来たマイアミ・ヘラルド紙、ニューヨーク・タイムズ紙のジャーナリストが ヴァージニアの主張をサポート。
2015年1月、ヴァージニアは宣誓供述書でアンドリュー王子の性的虐待を改めて告発。
同じく2015年には、ジェフリー・エプスティーンとギレーヌ・マックスウェルを相手取って名誉毀損訴訟を起こしており、
2019年にはBBCの番組で、更にアンドリュー王子による性的虐待の詳細を告発。
2021年8月には、ニューヨーク州の児童被害者法に基づき、アンドリュー王子を相手取った民事訴訟を起こしており、
この裁判でヴァージニアの弁護を担当したのが、アメリカで最も著名かつ、敏腕で知られる弁護士、デヴィッド・ボイス。
民事訴訟は2022年2月に示談が成立し、アンドリュー王子はヴァージニアに対して金額非公開の賠償金を支払っており、
後にアンドリュー王子が売却した不動産から、その額は1000万ドル前後と見積もられているのだった。
デヴィッド・ボイスがヴァージニアの弁護人を引き受けたのは、エプスティーン・スキャンダルへの注目度もさることながら、ヴァージニアが最もパブリシティを獲得する有名かつ、信憑性のある告発者であるためで、
特に彼女がアンドリュー王子と共に写ったスナップはエプスティーン・スキャンダルを象徴する画像。
さらにデヴィッド・ボイスにとって 彼女の弁護にメリットがあったのは、彼の天敵で、アメリカの法曹界の勢力図を彼と二分する大物弁護士、アラン・ダーショウィッツが エプスティーン・クライアント・リストに
名前が載るほど 事件に深く関わっているため。実際にダーショウィッツは、エプスティーンのプライベート・アイランドで、「少女ではなく、大人の女性からマッサージを受けた」と苦し紛れな言い訳をしているのだった。
そのダーショウィッツはトランプ氏の長年の弁護士でもあり、第一期政権下では弾劾裁判の弁護団の1人。
そして彼こそが2008年のフロリダ州の裁判でアコスタ司法長官に掛け合って、エプスティーンに有利な司法取引を纏めた張本人。
ちなみにアコスタ司法長官は、トランプ第一期政権で労働長官のポストに大抜擢されており、2019年のエプスティーンの逮捕を受けてそのポストを辞任しているのだった。
エプスティーン・スキャンダルがこれだけの注目を浴びる理由は、彼の弁護士やバッカー、交友関係だけでも世の中の著名人が名前を連ねていたためで、
大学中退の彼が有名私立高校で数学教師としてキャリアをスタートできたのは、第一期トランプ政権の司法長官、ビル・バーの父親の口利き。その後、表向きに投資家を名乗った彼の
最初の大口クライアントは、ヴィクトリアズ・シークレットを傘下に収めるリミテッド社の会長、レスリー・ウェクスナー。エプスティーンが少女達のリクルートにヴィクトリアズ・シークレットの存在を使っていたことはあまりにも有名。
また彼はトランプ大統領とも15年に渡る交友関係があり、クリントン大統領やナオミ・キャンベルも ”ロリータ・エクスプレス”の異名を取る
エプスティーンのプライベート・ジェットの搭乗リストに複数回名前が出る存在。 クリントンの娘、チェルシーの結婚式にはギレーン・マックスウェルが参列していたと言われ、
そのギレーンの父親は、イスラエル情報機関モサドと関りがある英国の新聞発行人。2010年以降はビル・ゲイツとの交友も深め、問題ある前科を持つエプスティーンとの交友関係はゲイツの離婚原因の1つになったほど。
これだけ世の中の権力者、著名人、富豪が関わるエプスティーン・スキャンダルを告発し、しかも一貫した主張を貫くのは普通の人間、特に20代の女性には不可能と言えるタスクなのだった。
中でもアンドリュー王子を相手取っての裁判に関しては、メディアに顔が利くバッキンガム宮殿広報が、アンドリュー王子とヴァージニアが写っている写真を合成写真だと主張。
ヴァージニアが王子と関係したと主張する日時の王子のアリバイを含む弁明を、アンドリュー王子本人がBBCとのインタビューで語ったけれど、
このインタビューは王子本人が事態の深刻さを認識せず、準備不足で臨んだことから大失敗。 逆に示談が成立する要因になっていたのだった。
一方、ヴァージニアは2015年にエプスティーンやマクスウェルを刑事・民事で訴え、被害の告発活動を行うために、非営利団体「Victims Refuse Silence」(後にSOAR)を設立。
エプスティーン・スキャンダル以外の性的虐待被害者の声を届けることにも貢献したけれど、
2020年以降は夫ロバート、3人の子供達と共に、オーストラリアのパース近郊に移住。
乗馬を楽しむなど、人生で初めて穏やかな日々を過ごしたのも束の間、夫婦関係は破綻し、離婚調停で苦しむ日々が始まったとのこと。
彼女のプライベートな日記によれば、その離婚理由は 夫による暴力的な支配・嫉妬、家庭内隔離、精神的虐待。
2025年1月には負傷した姿を「バス事故に遭った」と説明していたヴァージニアながら、実際は夫からの暴力だったという説が有力。
2月には3人の子供達の接触を制限され、精神的に追い詰められ、日記には「あなたたちの顔を見ない毎日で光が失われていく」と記されていたとのこと。
そして3月末には、乗車していた車がスクールバスに衝突され、SNSには腎不全で入院していると思しき自らの姿を公開。
その段階で「深刻な病により、余命が短い」ことを明らかにしていた彼女は、2025年4月25日、パース近郊の自宅で自殺を図ったとのこと。
幼年期の虐待、性的人身売買、その告発と、過酷な人生を送ったヴァージニアが、
幼い頃に性的、暴力的虐待を受けた多くの被害者同様、自分を虐待する夫と結ばれてしまったこと、
そしてメディアや世界的権力と闘い続けた彼女さえもが、最期に自ら死を選ぶほどに、虐待のトラウマが
生涯に渡って影を落とすことを改めて感じさせたのがヴァージニア死去のニュース。
エプスティーン・スキャンダルのようなセックス・トラフィッキングを 刑事的に徹底的に裁く必要性もさることながら、
虐待被害者支援の拡充とメンタルケアの重要性を改めて社会に問いかけたのが彼女の41年という短い人生。
彼女の個人な日記には、多数のエプスティーン・スキャンダルに関する記載があると言われ、
今後遺族が信頼できるメディアを選んで公開する可能性が示唆されているのだった。
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