今週のアメリカで最大の報道になっていたのは、ICE(移民関税執行局)による強行な移民狩りに対して、先週木曜からロサンジェルスで始まった
抗議活動のニュース。それに対してトランプ大統領がナショナル・ガード(州兵)を送り込んで制圧に乗り出したことから事態が悪化したのは周知の事実。
その陰で比較的あっさり報じられたのが、先週最大の報道であったトランプ氏とイーロン・マスクの確執が マスクの全面降伏で、元の鞘とは行かないものの、ほぼ関係修復に近い状態に至ったというニュース。
一時は、トランプ氏の名前がエプスティーンの捜査ファイルにあることを指摘し、トランプ氏の弾劾を求める一方で、新たな政党を打ち立てる宣言をしたマスクながらも、
今週半ばまでには発言の行き過ぎを謝罪。トランプ氏にひれ伏したことで、マスク支持者からは トランプ関税並みに方針を翻す様子が批判を浴びていたのだった。
今回の1件で、マスクは トランプ氏を支持するMAGA勢力からの信頼も失っているけれど、その一方で、これまで政府職員を解雇し続けたDOGEの若いエンジニアたちは、
マスクがDOGEを去って以来、その横柄な振舞いの後ろ盾を失っており、今度は自分達が”DOGEされる” と、解雇を恐れ始めた様子が伝えられるのだった。
先週木曜からロサンジェルスで起こったのがICE(移民関税執行局)に対する抗議活動。
事の発端は、「1日3000人の移民逮捕」を打ち出したホワイトハウス副首席補佐官 スティーブン・ミラーが 「移民達はホームデポやセブン・イレブンのパーキングに集まる」と語り、
ロサンジェルスのホームデポ店舗で大々的な日雇いの移民の逮捕を実施したこと。それに止まらず、LAダウンタウンのアパレル工場や、小規模な小売店、
ドーナツ・ショップ等でも、オーナーや店主への通達が一切無いまま移民狩りが行われ、しかも十分にトレーニングされていないICEエージェントが、
人権を無視した身柄拘束を行ったことから、市民が猛反発。
その日のうちに自然発生的にスタートしたのがICEへの抗議活動なのだった。
この移民狩りは、トランプ政権が選挙で訴えて来た犯罪者の逮捕ではなく、就労し、税金を払い、街や州の経済に貢献する移民に対して行われ、
連れ去られた移民の中には、雇い主をスポンサーにアメリカ滞在を合法化するための正式な手続きを済ませ、裁判所からの許可を待っていたケースも多く、
加えてヒスパニック系が多いエリアが集中的にターゲットにされたことも怒りを買って、抗議活動は徐々に拡大。
しかし中には 火炎瓶を投げたり、グーグル傘下の無人タクシー、ウェイモの車両に放火する暴力的な行為も見られ、
落書きを含む器物損壊、ストアを襲う窃盗等の便乗犯罪も起こったことから、これらを必要以上に大きく報じたのがFOXニュースを含む保守メディア。
本来ならLAPD(ロサンジェルス警察)が十分対応できる事態に対して当初2000人、最終的には4000人の武装した州兵、及び700人の海兵隊の出動を命じたのがトランプ大統領なのだった。
通常、州兵の出動を命じるのは州知事で、今回のケースでは民主党のカリフォルニア州知事、ガヴィン・ニューソン。しかしトランプ氏は緊急時の合衆国法典第10編第12406条を発動することで、
州兵を自分の権力下の連邦軍にしており、これは絆創膏で済む切り傷に、外科医が出頭して手術をするような大袈裟な状況。
案の定、それが市民の怒りを煽って 抗議活動はさらに拡大。ニューソン知事はトランプ政権を訴え、トランプ政権は罪状を明確にしないままニューソン逮捕を示唆する泥沼状態。
日に日に参加者を増やした抗議活動は、その大半がオーガナイズされた平和的なもの。メディアはそれを口頭でレポートするものの、
TVでもSNS上でも画像になるのはもっぱら取材陣にもゴム弾を打ち込む州兵や警官、彼等にツバを吐きかける抗議活動者など暴力的なシーンばかり。
結局のところ、武力行使で移民取り締まりを強化したいトランプ政権が意図した通りに 抗議活動が煽られた展開になっていたのだった。
今週のSNS上では、不法移民の親達がアメリカ生まれで米国市民である子供達と引き離され、ICE職員に連れ去られる悲痛な様子を捉えた何本ものビデオがヴァイラルになっていたけれど、
現在全米の移民弁護士のもとに寄せられているのが、中小企業経営者からの移民狩り対策の問い合わせ。たとえ不法移民を雇っていなかったとしても、
不当捜査を恐れて対策を講じる経営者は多く、そうなってしまうのは、三大ネットワークの1つ、CBSのキャスターがトランプ政権批判をした途端、ワシントンDCで経営しているレストランにICEの捜査が入ったというエピソードがあるため。
多くの職場で危惧されているのは、不法移民だけでなく、伴侶や家族が不法移民の従業員が出勤を控えてしまうことで、
移民という若い労働人口を大量に失うことは、ベビーブーマー世代が大量リタイアした現在、アメリカ経済の成長に長期的に影を落とすと危惧されること。
特に移民はAIでは代替出来ない 建設、医療、ホテルやレストランを含むサービス、製造、農林畜産業などの分野の肉体労働を低賃金で担っており、
彼等を失うことは中小企業にとっては、売り上げ、引いてはビジネスを失うこと。
経済関係者の間では、強制送還によって出て行く移民が増えることより、従来なら それでもアメリカにやって来ていた移民が 遂に来なくなることの方が問題視されているのだった。
今週、移民狩りは ネブラスカ州の食肉工場でも行われ、80人の移民が逮捕されているけれど、ネブラスカでは州を支える畜産業の70%の労働を担っていたのが不法移民。
今ではその移民が働き来ないことから牛肉生産量が著しく落ち込み、牛肉農家の倒産だけでなく、ネブラスカ州自体も倒産の危機に瀕している状態。
同様の手入れはカリフォルニアのいちご農場でも行われ、これが続けば食糧供給はもちろん、多くの製造業に大打撃を与えることから、アメリカが低成長時代に突入するのは必至。
一方、抗議活動は今週シカゴ、ニューヨーク、デンバー、ラスヴェガス等、全米各地に飛び火。トランプ氏の誕生日であり、大々的な軍事パレードが行れた6月14日には、全米で
「トランプ氏はアメリカの国王ではない」という意味合いを込めた「No Kings」という抗議活動が全米50州、2000以上のエリアでオーガナイズされたけれど、
実際にどんどん「トランプ王国化」しているのが現在のアメリカ。
国民の税金2500~4500万ドルを投じた軍事パレードはトランプ氏のエゴを満たすためのものと言われ、LAPDの警官が余っている状態で、それより遥かに費用が掛かる州兵をトランプ氏が送り込んだのも
絶対権力の誇示という声が大半。加えてトランプ氏はホワイトハウス内に巨大なボールルーム(社交宴会ホール)の建設を主張しており、国の負債を2兆ドル増やし、150万人の貧困層から健康保険を奪ってまで
実現しようとしている大型減税は、トランプ氏の家族や親族、友人を含むトップ0.1%の富豪だけが恩恵を受けるもの。
昨今のアメリカ国内のカオスも、その減税を含む財政案「Big Beautiful Bill」を可決するために、メディアや国民の関心をそらすための手段という声がアンチ・トランプ派の間では非常に多いのが実情。
最後に米国の州兵とは日本の自衛隊に近い存在で、自然災害が起こればその救援・復旧作業が重要な役割。
LAで国土安全省のビルを1000人以上の州兵が不要にガードしていた一方で、このところ毎週のように竜巻、雷、大雨、洪水を含む自然災害の大被害を受けているオクラホマ、ミズーリといった州には、
州兵が40人程度しか派遣されておらず、現地はトランプ支持者が多いレッドステーツながらも、そのことに不満をつのらせているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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