今週のアメリカで最大の報道になったのは、イスラエルVS.イラン戦争のニュースであったけれど、
それと共に大報道になっていたのが、先週土曜日にミネソタ州選出の民主党下院議員 メリッサ・ホートマンと夫が自宅で 警官を装った男に射殺されたニュース。
男はその少し前に 同じくミネソタ州選出上院議員ジョン・ホフマン宅で、彼と妻に対して複数回発砲しており、幸い2人は命は取り留めたものの、容疑者は逃走中。
事件直後から繰り広げられたのが、FOXニュースを始めとする極右メディアとSNSインフルエンサーが、容疑者を民主党支持のアンチトランプ派に仕立て上げようとする動きであったけれど、
捜査で明らかになった容疑者は、キリスト教福音派政治団体に所属する 熱心なトランプ支持者、ヴァンス・ボールター(57歳)。
そのためリベラル・メディア&インフルエンサーがその火消報道に追われる一幕が見られたけれど、ボールダーの犯行は計画的なもので、ターゲット・リストに名前を連ねていたのは10人以上の民主党政治家以外に、
妊娠中絶クリニックの関係者。犯行から6日が経過しても一向に行方が掴めないことから、
州警察は誰かがボールダーの逃亡をサポートしていると見ており、その人物にも同様に罪を問うことを警告していたのだった。
ミネソタ州議員暗殺が起こった土曜日には、全米50州2100以上の市町村で「No King」と銘打ったトランプ氏に対する抗議活動が行われ、
時を同じくして行われたアメリカ軍250周年とトランプ氏のバースデー・セレブレーションを兼ねた軍事パレードは、観衆が少なく、行進する兵士にもやる気がなく、
トランプ氏さえ居眠りをしていた様子は世界中で報じられた通り。
週明けにはそんなアメリカ軍を擁護するコメントが各方面から寄せられ、その中には「米軍には北朝鮮やロシアのようにセレモニアル・マーチのトレーニングを受けた部隊が存在しない」という声があったけれど、
パレードに参加した兵士達は、農務省のオフィス・ビルディングを宿舎としてあてがわれ、シャワーもなく、床で眠るという劣悪待遇。さらには兵士の間でも、その前の週からカリフォルニアで起こっていた抗議活動に
州兵を送り込み、自国民を武力で制圧したトランプ政権への反発があったようで、
そんな内情を知る現役、退役軍人の間からは「あのダラダラした行進は、トランプ大統領に対する兵士達のサイレント・プロテストだった」という指摘も聞かれていたのだった。
ちなみに、トランプ氏がLAに不必要に州兵を送り込んだことで掛かった費用は1億3400万ドル、そして不必要に行われたパレードの費用は4500万ドル。
そんな国防予算垂れ流し状態の中、今週アメリカ国民とメディアの関心が集中したのがイスラエルVS.イラン戦争にアメリカ軍が加担するか、否か。
イスラエルがこのタイミングで攻撃を仕掛けたのは、イランと核開発条約の交渉に入っていたアメリカが それを締結してからでは攻撃が仕掛けられないと判断したためと言われ、
そのせいで今週カナダで行われたG7ミーティングでは、ウクライナのゼレンスキー大統領が招待されていたものの、話題はイスラエルVS.イラン戦争に集中。
世界中がアメリカの動向を見守る中、肝心のトランプ大統領が頻繁にその主張を翻すことから
アメリカのみならず 世界中のメディア、及びトランプ支持母体であるMAGA勢力も翻弄されていたのが今週。
市民が非難ラッシュを繰り広げていたイランでは、多くのATMで現金が卸せないサイバー攻撃にも見舞われており、
サイバー・セキュリティ専門家は、アメリカが参戦した場合、イラクが同様の攻撃を仕掛け、それによって米国経済や医療現場、航空システム等に大打撃を与える可能性を
示唆。 参戦リスクが多額の軍事費用、中東に駐留する4万人の米軍兵や米軍基地の安全に止まらないことを警告していたのだった。
結局、「決断までに2週間の猶予を設ける」と語って、時間稼ぎをしたように見せかけたトランプ氏は、6月21日土曜日、米国東部時間午後10時にアメリカ軍がイランの3か所の核施設の攻撃に成功したと
事後報告。この空爆は、民主党上院情報委員会メンバーにさえ事前通達をしないまま行われたもので、
民主党は議会承認なしに戦争に踏み切ったトランプ氏を弾劾する意向を示した一方で、参戦反対派からはサイバー攻撃を含む報復攻撃を危惧する声が聞かれていたのだった。
今週明けには第一期トランプ政権アドバイザー、スティーブ・バノンと元FOXニュース・キャスターで、熱烈なトランプ支持者のタッカー・カールソンが
それぞれのポッドキャストで語ったのが、「この戦争に加担すればトランプ氏は大統領の地位を失いかねない」という参戦反対の意見。
同様の参戦反対はトゥルシー・ギャバード国家情報長官も、核兵器のリスクを遠回しに訴えるSNSビデオで発信。盲目的なトランプ支持で知られる
ジョージア州選出の下院議員マージョリー・テイラー・グリーン等、MAGA勢力の中核と言えた存在が参戦にネガティブな意見を示したのが今週。
そんな反対派は、後に徐々にトーンダウンしており、表向きにはトランプ氏の判断に従うという形で足並みを揃えた印象。
しかし トランプ氏を支持した国民にとっては 大統領選の二大公約が破られようとしている状況。
その1つ目は不法移民強制送還で、トランプ政権は騒ぎが大きいだけ、さほど移民追い出しの成果を上げておらず、
今のペースでは2012年のオバマ政権下で強制送還された43万人の約半分のペース。
しかも農業、サービス業のセクターから 「長年の優秀な労働者を失ったら、経営が成り立たない」というロビー活動を受けて、先週末には 農場、ホテル、レストラン等で
移民逮捕を見送る方針を打ち出したことから、MAGA勢力は大激怒。 バックラッシュを受けたトランプ氏は その方針を撤回したとは言え、関税政策同様、またそれが翻るという見方が有力。
その一方で、一部のトランプ支持者はICEによる非情なまでの移民狩りに異論を唱えているのだった。
そんな形で移民問題への信頼が薄れて来たタイミングで、「高額で不必要な外国の戦争には関わらない」という2つ目の公約を覆したのがトランプ氏。
支持者の間では「これはイスラエルが勝手に始めた無益な戦争」という意見が多く、「アメリカ・ファーストはどうした?」という声も聞かれたけれど、
トランプ氏は「アメリカ・ファーストを最初に謳ったのは自分だ。(実際には1916年の選挙運動中のウッドロウ・ウィルソン大統領)
アメリカ・ファーストの解釈は自分が決める」と強気のリアクション。
無責任なMAGA支持者の中には、「アメリカ軍のみが持つ 地下60メートルで爆発を起こせる最新のバンカー・バスターの威力を
試す絶好の機会」と、興味本位でイランの巨大バンカーへの攻撃を望む声もあったけれど、実際のところがイスラエル政府が強く望んでいたのがそのバンカー・バスターの使用。
イスラエル国内では、汚職の罪でアンチが多かったネタニアフ首相が、国内支持層をがっちり固めつつあるけれど、
アメリカはMAGA勢力がイラン攻撃で真二つに分裂している真最中。 民主党・リベラル派はもちろん、中東情勢を理解する有識者、
ロシアのプーチン大統領に至るまでがアメリカ参戦には反対の立場であったけれど、トランプ氏にストップを掛けられる人物が存在していないのが現政権。
さらには、米国史上最年長で大統領に就任したトランプ氏のスピーチが昨今支離滅裂で、ホワイトハウスが就任演説以外を
全てアーカイブから外したこと、トランプ氏の考えが以前より纏まらない様子が伝えられることから、そのトランプ氏がこれからも世界情勢を左右する戦争の
決断を下すこと、さらには米軍の核兵器発射ボタンを押せる唯一の人物であることを危惧する声がアンチ派の間で聞かれ始めているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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