June 22 ~ June 28 2025

Political Earthquake from NYC
"NY市長予備選の大番狂わせがポリティカル・アースクウェイクと言われる理由"


今週のアメリカはニューヨークを含む中部、北東部の1億3000万人が猛暑に見舞われ、その異常な暑さは一部エリアで停電をもたらし、死者を出しただけでなく、 ハイウェイ・ブリッジは車の走行が危険なほどオーバーヒート。そのため一時交通を遮断し、消防による放水が行われる異例の措置が見られたのだった。
その一方でイスラエルVS.イランの停戦を引っ下げてオランダで行われたNATOサミットに出席したトランプ大統領は、沿道の市民から歓迎ではなく、ブーイングで迎えられたけれど、 先週土曜日の空爆ダメージについては政府の見解と国防省情報局の分析結果が異なり、それ以上に不明なのがイランが核施設にストックしていたウラニウムの行方。 「状況によっては、現時点の停戦はイランにダメージ回復の時間を与えるだけ」と、空爆擁護派の軍事専門家の指摘も聞かれる中、 トランプ政権は国防省のダメージ分析をフェイクと否定しながらも、CNN、NYタイムズといったメディアにそれを漏洩した内部関係者を刑事訴追すると宣言しているのだった。



共和党が歓迎、民主党が有権者の真意を突き付けられた ”まさかの大番狂わせ”


ニューヨークが近年最悪の猛暑に見舞われた6月24日火曜日に行われたのが、11月のNY市長選挙の民主党候補を決める予備選。 11人が立候補し、下馬評でトップを走っていたのは4年前にセクハラ容疑を否定しながらも州知事の座を追われたアンドリュー・クォモ。 予想に反してクォモと一騎打ちになるまで支持を伸ばしたのは、無名の州議会議員で ”民主党の社会主義者”を自称するゾーラン・マムダビ。 ウガンダ生まれでインド人の両親を持つマムダビは イスラム教徒で、元ラッパーという異色経歴を持つプログレッシブ派。
この2人の対決は、現在 民主党を真二つに分裂させている勢力闘いを象徴するもので、 67歳のクォモをバックアップしていたのは、民主党エスタブリッシュメントと呼ばれる高齢の重鎮勢力、及びウォールストリートの金融大手や大企業。 選挙直前のタイミングを狙ってクリントン元大統領が支持表明をしたことからも分かる通り、民主党内では穏健派と呼ばれ、共和党と迎合する金権主義が指摘される勢力。
一方のマムダビは現在33歳。彼を推していたのはNY選出の民主党の若手スター、AOCことアレクザンドリア・オカジオ・コルテスや民主党を離れてインディペンデントになったバーニー・サンダース。 企業スポンサーやロビーストはゼロで、選挙資金は100%個人による小口の寄付。メディア・フォーカスも得られない中、SNSと熱心な遊説というグラスルーツ・キャンペーンで支持を拡大した存在。 その結果、44%の票を獲得し、政界に激震が走る「まさかの大番狂わせ」で当選を果たしたのがマムダビなのだった。

彼が訴えたのはハウジング・コストのダウン、公共バスの無料化、市民全員をカバーする健康保険、そして戦争に税金を一切使わない政策。 NYでは貧富の差が開く中、富裕層が隣接ユニットを買い取って住居を拡張したことで、10万の住宅が失われており、 ただでさえ高額なレントを更なる高騰に導いていたのだった。
ブルーステート、ニューヨークの中にあって、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタッテン・アイランドの5ボローで構成されるNY市は、 330万人が民主党支持者、110万人が無党派層、そして共和党支持者は55万8000人で、言うまでもなく民主党・リベラル派が圧倒的多数を占める街。 11月の本選でマムダビが闘うのは、現職で元民主党のエリック・アダムス。 汚職容疑の訴追を控えていたアダムスは、トランプ政権と訴追取り消しを条件に、不法移民取り締まりを含む政策への協力に合意したと言われ、 共和党の敏腕検事が次々とアダムスの訴追取り消しに抗議して辞職したのが春先のこと。
民主党に居場所がなくなったアダムスは、4月の時点で無党派での再選出馬を表明しており、今回敗れたクォモも 無党派で出馬する可能性が無きにしもあらずと言われるのだった。



Pelple First, Not Profit


アメリカの政治家は民主・共和を問わず、イスラエルを重んじるのが建て前。それを立証するかのように、 アメリカが毎年イスラエルに支払う助成金は40億ドル。1日当たり約1100万ドル、国民1人当たり410ドルを支給している計算。 そのイスラエルは大学の授業料が無料、人工妊娠中絶を含む社会医療制度も無料。イーロン・マスクのDOGEが一切手を付けることなく、野放しにしたのがこの出費。
特にユダヤ系が多いニューヨークでは イスラエル擁護を打ち出すのは 選挙戦を闘う絶対必要条件と見なされ、実際に選挙前に行われたディベートでは 候補者ほぼ全員が 「市長当選後は真っ先にイスラエルに出向く」と回答。そんな中、「自分はイスラエル・ファーストじゃない、NYファーストだから何処にも行かない」と宣言したマムダビは、ディベートのホストから「敵対的」のレッテルを貼られたけれど、 これに対してはその直後からSNSで若い世代が猛反発。 また「Pelple First, Not Profit」と、富裕層優遇政治に反旗を翻したことも マムダビが若い世代から大きな支持を得た要因になっていたのだった。
今回のNY市長予備選結果は 民主党に危機感を抱かせ、共和党を喜ばせたと言われるけれど、共和党がトランプ氏のような70代でも、20代の若手議員でも、全く同じキリスト教保守右派の主張をするのに対し、 民主党は若い世代が弱肉強食のキャピタリズムを否定。 「受け入れられ易い妥協点を模索する政治」を進める上の世代とは対立傾向が顕著。 そのため今回の結果により、民主党支持者が新しい世代による新しい政治を望んでいることが立証されたのは、民主党上層部にとっては赤信号。 とは言っても旧世代の代表格、ビル・クリントンとて 1992年の大統領選では 民主党新世代のリーダーとして46歳にして、米国史上最年少の大統領となり、当時としては極めてプログレッシブな政策を掲げていたのだった。
逆に共和党がマムダビ勝利を歓迎した理由の1つは、まさかイスラム教徒がユダヤ系が多いNY市長になれるとは思っていないことが1つ。 加えて民主党を「イスラム教寄り」と位置づけ、中間選挙を有利に闘えると判断したためで、 さらにはクォモの負け戦に数百万ドルを投じたコーポレート・スポンサーが、彼の不人気ぶりを悟って、本選ではトランプ政権の息が掛かったアダムスをバックアップすると思われるのも明るいニュース。 しかしアダムスは、自らの最低支持率を更新中の不人気ぶりなのだった。

本選のXファクターと言えるのは、NYのユダヤ系がハマスは敵視しても、ガザ地区の住人のためにイスラエルに対する停戦要求のデモに加わるなど、同じユダヤでもグローバリストで、ネタニアフ首相を犯罪者と見なす声が多いこと。 その一方で、マムダビはスピーチが上手く、頭もシャープで温厚。イスラム教徒のイメージを覆すと言われるチャーミングな笑顔の持主で、共和党メディアでさえ「有権者を見事に騙している」と皮肉を込めた賞賛をしている人物。 またアメリカ人の間ではアラブ系のイスラム教徒とインド系のイスラム教徒では、後者の方が過激なイメージが無く、好感度が高めであることは否定できないのだった。
NY市長選挙は日本で言う東京都知事選、もしくはそれ以上の政治インパクトを持つもので、地方選挙として軽視出来ない存在。 その証拠にトランプ大統領も マムダビ当選を受けて 「ついに民主党は一線を越えた。完全な共産主義者の狂人、ゾーラン・マムダビが民主党予備選で勝利し、市長選への道を歩み始めた」とSNSに投稿。 とは言っても、マムダビが支持率を伸ばし始めてからの保守メディアによる彼への猛攻撃が、有権者を駆り立てたと指摘されており、 トランプ氏によるバッシングは むしろマムダビにとって追い風。
危機感を感じたMAGA勢力は、マムダビを国外に強制送還する運動を始めたとも報じられ、 2026年の中間選挙を占う意味でも 11月のNY市長選挙が全米の大注目を集めることは確実視されるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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