June 29 ~ July 5 2025

Political Earthquake from NYC
富の逆再分配法案で再び激化のトランプVS.マスク、アメリカ市民も強制送還!?


今週のアメリカは、金曜に建国記念日を控えていたとあってヴァケーション・モード。この夏最多の旅行者を記録していたけれど、 全米各地で猛暑、竜巻、大雨による洪水に加えて、空のダイヤが乱れるトラブルが起こっており、猛暑はヨーロッパも同様。 熱中症による死者を8人出しており、パリではエッフェル塔が熱くなり過ぎたために一時閉鎖を強いられたほど。
そんな今週大きく報じられたニュースの1つが、過去2ヵ月に渡って行われていたラッパーのショーン・ディディ・コムズの裁判の判決が下り、 彼が終身刑になる可能性があった性的人身売買、恐喝罪では無罪判決。それより軽い売春に関する2つの罪で有罪となったけれど、 これはコムズ側にとって勝利と言える判決。検察側が性的虐待被害者や男娼を含む34人の証人を喚問したのに対し、弁護側は1人も証人を立てず、コムズ本人も証言することは無く、 彼の虐待歴を認めながらも「ドメスティック・ヴァイオレンスはフェデラル・クライムではない」、「セックスパーティーはライフスタイルで犯罪ではない。参加も自発や合意に基づいていた」という主張で逃げ切った形。 検察側は最終段階で 陪審員の審議をシンプルにするために、本人が手を下していない誘拐、放火を含む容疑を取り下げたものの、この類の犯罪を有罪に導く難しさを感じさせたのがこの裁判。 しかし判事は弁護側が認めたコムズの暴力性を理由に、彼の保釈要求を退けており、刑が確定する10月まで拘留の継続を命じたのだった。



富の逆再分配法案の行方


今週、もう1つの大きな報道になっていたのが、第二期トランプ政権の政策の要となる BBBこと "Big Beautiful Bill"と呼ばれる税制予算案。
BBBに何が含まれているかといえば、既に約36兆ドルの負債を抱えるアメリカの借金が向こう10年間にさらに3.4兆ドル膨らみ、1700万人の貧困層が健康保険を失い、80万人の子供を含む320万人以上が食糧補助を失い、 医療や最先端技術、環境問題への取り組み予算が大幅に削られる一方で、移民を取り締まるICE(移民関税取締局)の予算だけが毎年膨れ上がって、最終的に現在の10倍以上になるというもの。 そして負債増加と出費削減で捻出された4兆ドル以上が大型減税に当てられるけれど、その恩恵を受けるのは超富裕層のみ。 ミドルクラスは物価上昇分との相殺で恩恵はゼロ。低所得者層はありとあらゆる補助が打ち切られて生活していけない状況。 通常なら裕福な側から貧困層にお金が流れる「富の再分配」が、歴史上初めて貧困層から富裕層に流れる「富の逆再分配」という形で起こるのがこの法案。
先週下院で2票差で可決されたBBBは、独立記念日までに上下院で修正案が可決されて大統領が署名するというデッドラインがトランプ氏によって設けられてたことから、今週はまず上院でスピード審議がスタート。 複数の修正によって共和党反対派を黙らせ、ヴァンス副大統領がタイブレークの票を投じて、ギリギリ可決したのが水曜のこと。その段階で「下院は修正前の法案が一度可決しているから問題ない」と高を括っていたのがトランプ氏とジョンソン共和党下院議長。ところが上院による修正を嫌う共和党議員と、民主党全員が反対に回った結果、木曜午前3時過ぎにまさかの否決。審議と投票をホワイトハウスで見守っていたトランプ氏は、 その間も自らのソーシャル・メディアを通じて、賛成票を渋る議員に脅迫まがいの圧力や罵倒を繰り広げる執念を見せていたのだった。
にも関わらず共和党のごく一部が反対票を投じる原動力になったのがイーロン・マスク。 今週に入ってから、マスクはX上でBBBに猛反対するツイートを繰り広げており、トランプ氏との確執が再燃。 結局7月3日午後に予算案は可決されたものの、トランプ氏とマスクの間には今後にしこりを残した形になったのだった。



イーロン・マスクさえ国外追放のターゲットになる!?


そもそもトランプ氏とマスクの関係が拗れたのも、マスクがBBBに猛反対したのがきっかけ。 その後のマスクの謝罪で、一時関係が修復したかのように思われたものの、今週マスクは「BBBを可決した議員は来年の中間選挙で絶対に敗れる、負けさせる」と宣言。 予算案に反対票を投じたことで トランプ氏に対立候補を立てられた議員をサポートする意向も表明。
腹を立てたトランプ氏は自らのSNSに 「マスクほど政府の援助を得ている人間は居ない、彼の政府コントラクトを全てキャンセルしたら、大幅な出費削減が出来て、 マスクは南アフリカに帰るしかない」と投稿。それに止まらずDOGEにスペースXやテスラの政府プロジェクトを閉鎖させるとも宣言。 さらには市民権獲得前に学生ヴィザで違法にビジネスをしていたマスクに対し、強制送還を示唆する脅しもかけており、これを受けてテスラ株は大暴落。 例によってその後マスクは態度を軟化させ、トランプ氏のイスラエル政策を賞賛。過激なツイートを削除していたのだった。
そんな今週にはフロリダ州に「アリゲーター・アルカトラス」というニックネームが付いた新たな不法移民拘留施設がオープン。 トランプ氏が視察に訪れたけれど、これは野生のアリゲーターやパイソンが生息する沼地の真ん中に施設を設けることで、アルカトラス同様に脱獄不可能な 留置所になるというもの。しかし地元民は環境への悪影響等を理由に猛反対。 しかもベッドが置いてあるだけの簡易施設は3000人の収容で、年間コストは4億5000万ドル。収容者1人につき1晩245ドル。 バイデン政権が移民の収容にホテルを当てがったことを猛批判した割にはそれよりも高額。
今後フロリダやテキサスに同様の施設がどんどん建設されるけれど、現在収容されている移民の約70%は犯罪歴の無い労働者で、選挙公約で強制送還を謳った移民とは異なる人々。 しかしそれがいつの間にか「不法で入国したこと自体が犯罪」という基準に書き替わっており、現在のスタンダードでは就労ビザなしにビジネスを行ったマスクも強制送還があり得る状況。
司法省は今週、米国市民でも犯罪者は市民権剥奪の上、強制送還の対象とする意向を明らかにしており、凶悪犯罪者と共にそのターゲットに含まれているのが反政府勢力。 そのためマスク同様に強制送還のターゲットとして名前が挙がっていたのが、NY市長予備選挙でまさかの大勝利を収めた民主党若手のゾーラン・マムダニ(33歳)。 トランプ氏は、11月の本選でイスラム教徒である彼が当選した場合、NY市には政府助成金を一切支払わないと宣言。共和党は、オバマ氏以来の民主党センセーションと言われる マムダニを必要以上に警戒しており、既に共和党議員からは「マムダニがテロ支援を目的に市民権を取得した可能性がないかを調査するべき」と、 火のないところに煙を立てようという依頼が司法省に提出されているけれど、この議員がインド系イスラム教のマムダニをアラブ系と勘違いしているのは明白なのだった。
そのマムダニは、「もし市長に当選したら、ICEによる誘拐同然の覆面逮捕を禁止する」と宣言。ICEにとっても最も排除したい人物に名乗りを上げているけれど、 現行法では、マムダニやマスクのように他国で生まれ、”Naturarization/ナチュラリゼーション(帰化)”によってアメリカ国籍を取得したした人々に対しては、 政府がそれを取り消すことが可能。 現在アメリカには4620万人の移民が居り、2022年段階で帰化しているのは そのうちの53%に当たる2450万人。過去10年間に帰化した移民は790万人で、 逆に市民権が剥奪されたのは1990年~2017年までの28年間で305人、年間平均11人。この数は第一期トランプ政権下で、オバマ政権の2倍になったことが指摘されているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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