July 6 ~ July 12 2025

The Curse of Jeffrey Epstein?
エプスティーン問題とその隠蔽がMAGA支持基盤を揺るがす事態に…


今週のアメリカは、建国記念日からテキサス州を襲った大雨による大洪水のニュースが連日報じられていたけれど、その後大雨はニューメキシコ州、ノースキャロライナ州でも家屋がそのまま流されるような大被害をもたらし、 テキサスの死者は120人、行方不明者は170人を上回る惨事。当初はイーロン・マスク率いるDOGEがナショナル・ウェザー・サービスの人員と予算を大幅に削減したことが批判されたけれど、 後に問題視されたのが国土安全保障省長官、クリスティ・ノームが救援部隊出動と支援金を意図的に3日間遅らせた事実。
実際に現地では週明けの時点で、被災者が「支援物資も食糧も何も無い」と絶望と怒りをSNSで露わにしていたけれど、 国土安全保障省傘下のFEMA(災害対策局)のスタッフによれば、「10万ドルを超える支援は全てノームの署名が必要」という新たなルールが設けられており、 コストカットのために救助と救援物資の双方が遅れるようにデザインされているとのこと。 そして本来ならテキサスで救出作業や瓦礫の撤去を行うべきナショナル・ガードや国土安全省のスタッフが、 今週も不必要に居座り続けたのがロサンジェルス。 中でもほぼ無人のマッカーサー・パークに騎馬兵を含む軍隊が集結し、スパニック系移民が多い周辺エリアに無言の圧力を掛けた光景はSNS上で大批判を浴びていたのだった。
2025年は春先から相次ぐ大型の竜巻被害、大雨洪水、そして先週末からはロサンジェルスで大規模な山火事も起こっているけれど、 トランプ氏が署名した新たな財政案では災害対策費が大幅に削られ、FEMAは今年のハリケーン・シーズンの終焉を待って トランプ氏が閉鎖を宣言。逆に政府のどの部門よりも予算額が大幅にアップしたのが 今やアメリカ市民まで国外に強制送還するICE(移民関税局)なのだった。



MAGAから浮上した隠蔽疑惑


今週は、トランプ氏が提示した関税交渉のデッドラインを7月9日に控えていたとあって、関税問題もメインストリート・メディアでは報じられていたけれど、 SNS上、及びアメリカ国民の関心が集中していたのが、 セックス・トラフィッカーでNYの留置所で2019年に自殺を遂げたことになっているジェフリー・エプスティーン問題。 具体的には、彼から未成年の少女をあてがわれていた世界の要人リストを巡る物議。
昨年の大統領選前にFOXニュースとのインタビューに応じたトランプ氏が、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺、9・11のテロに関する捜査ファイルの公開を2つ返事で約束した後、 極めて歯切れの悪いトーンで渋々応じたのがエプスティーン・ファイルの公開。 トランプ氏就任直後の2月には、パム・ボンディ司法長官が 同じくFoxニュースでのインタビューで 「エプスティーン・ファイルはレビューのために私のデスクの上にある」と公開間近であることを宣言。 その直後には、インターネット上でエプスティーン関連の陰謀説を唱え続けたインフレンサー達をホワイトハウスに招待。「エプスティーン捜査ファイル、フェイズ1」という分厚いバインダーを配布して話題を集めたのだった。 ところがその内容は既に報じられた情報だけという期待外れのもの。 「エプスティーン・ファイルにはトランプの名前が何度も登場するのだから、全容が公開されることは無い」と主張するリベラル派からの 批判を交わしながら彼等が待っていたのがフェイズ2の公開。
それから4カ月が経過した6月上旬、トランプ氏と決別したイーロン・マスクがツイートで匂わせたのがトランプ氏とエプスティーンの深い関り。 とは言っても これは新情報ではなく、トランプ氏とエプスティーンの約15年に渡る交友関係、エプスティーンがマー・ラゴを少女のリクルートに使っていたこと、 トランプ氏がエプスティーンを”ナイスガイ”と語り、彼の少女好きを語っていたことはあまりにも有名。 またトランプ氏はエプスティーンのプライベート・ジェット搭乗記録から、裁判記録まで、ありとあらゆるエプスティーン・リストに名を連ねていることはリベラル派の間では周知の事実。 しかしマスクのツイートによって、エプスティーン問題に再び大きな関心が集まったのは紛れもない事実で、デイリー・ビーストは エプスティーン自身がトランプ氏について語っている未公開音声テープを公開。彼がアトランティック・シティのカジノに遊びに行く際には、当時現地にカジノを所有していたトランプ氏に声を掛け、優遇されていた様子が明かされていたのだった。
そんな中、司法省が発表したのが「ジェフリー・エプスティーンは少女をあてがう要人のリストなどは作っていなかった」という公式発表。 しかしエプスティーンが全く金融業界で名前が知れず、どうやって投資をしているのかが誰にも分からない状態で、6000万ドルの資産を残す程度に裕福だった要因と言われるのが、 2000人にも上る世界の要人と少女達が関係する様子をビデオに収め、その守秘義務を守りながら少女達を提供し続けるという行為の見返りに受け取っていた多額の資金。 現在拘留中で、エプスティーンのセックス・トラフィッキングをサポートした ギレーン・マックスウェルは、 英国の新聞発行人でイスラエル情報機関モサドと深く関わるロバード・マックスウェルの娘で、モサドがエプスティーン・リストを有益に使っていたという噂もあるほど。 今さら そのリストが存在しないというのは あまりに筋が通らない言い分。
しかもエプスティーン問題でFBIを猛批判し、「リストが公開されないのは都合が悪い人間の名前が載っているから」と言いながらFBI長官に就任したキャッシュ・パテル、及び 「エプスティーン問題で食べて来た」といっても過言ではないSNSインフルエンサーで、FBI副長官に就任したばかりのダン・ボンジーノが、共に「要人リストは何処へ行った」というかつての主張を翻して、 「リストは存在しなかった」という立場に転じたのも不自然と言われる中、 司法省はエプスティーンが自殺を図った夜の留置所の11時間にも及ぶセキュリティ映像を公開。これによって彼の死因が自殺であることを立証しようとしていたけれど、 そこから約1分間の映像が消えていたことが指摘され、ボンディ司法長官は、「日付が変わる同じ時間帯に、一時的に映像が中断される」と弁明。 ところがビデオを専門家が検証した結果、映像がカメラから直接取り込まれたものではなく、エディティング・ソフトウェアで処理されていた痕跡が見つかったことから、 熱烈なトランプ支持者で知られるローラ・ルーマー、ロザンヌ・バー、マージョリー・テイラー・グリーンといった言える顔ぶれが そのカバーアップ、すなわち隠蔽疑惑を指摘。 金曜には前述のパテルFBI長官、ボンジーノ副長官が、隠蔽を巡ってボンディ司法長官と口論になり、辞意をほのめかしたことが報じられていたのだった。



陰謀説ベースの支持基盤


現時点では、批判の矛先が集中しているのはボンディ司法長官で、彼女を解雇すべきとの声がトランプ支持者から上がっているけれど、 エプスティーン問題は、ディープステート(陰の暗躍政府)、Qアノンの陰謀説を掲げるキリスト教保守右派が トランプ支持基盤を固めた根幹と言えるもの。 アメリカの犯罪データでは青少年性的虐待の加害者の67%が保守右派でありながら、その保守右派が最も嫌うのが小児性愛犯罪。
Qアノンの陰謀説では、「民主党リベラル派や悪徳IT企業のCEOが悪魔儀式をして、青少年に性的虐待を働き、その生き血を飲んでいる」とされていたけれど、 これは当時リベラル派一色だったシリコン・ヴァレーのITエグゼクティブやベンチャー・キャピタリスト達が、若者から血漿の提供を受ける若返り法を始めたニュースを書き換えたストーリー。 トランプ氏がヒラリー・クリントンと大統領選挙を戦っていた2016年には、ワシントンDCのピザ店の地下室でヒラリー・クリントンが子供を性的虐待して、悪魔儀式をして生き血を飲もうとしていると 信じ込んだ男性が 怒りと正義感に駆られて自動小銃を持って押し入る事件が起こっており、田舎町の敬虔なキリスト教信者には洗脳力抜群だったのがQアノン陰謀説。
その陰謀説にトランプ氏と共に救世主として登場していたのが1999年に飛行機事故で死去したJFKジュニア。 死んだと見せかけていた彼が、トランプ氏から大統領の座を受け継ぐために2021年11月3日、父親が暗殺されたダラスに姿を見せるという説を信じた人々が、 この日に時間も沿道に立ち尽くした様子は、半ば笑い話として報じられたニュース。
一部にはトランプ氏がロバート・F・ケネディJr を政府閣僚の座と引き換えに 味方に引き入れたのも 「Qアノン陰謀説に登場したJFKジュニアは、実はRFKジュニアだった」ということで、 再びQアノンを盛り上げ、大統領選を有利に闘うためだったという説もあり、そのRFKジュニアはディープステート陰謀論者でもあるのだった。

現在トランプ政権による エプスティーン問題隠蔽を大きく取り沙汰しているのは、トランプ氏の支持基盤であるキリスト教保守右派。 今週、エプスティーン問題について尋ねられたトランプ氏は、「あれから何年経ったと思っているんだ。アメリカが(関税で)歴史的な利益を上げ、 (テキサスで)大災難が起こっている時に未だあんな奴のことを話題にするのか」と怒りを露わにしていたけれど、MAGA勢力が怒りと関心を抱いているのはエプスティーン本人ではなく、 彼の手引きで少女達に性的虐待行為を続け、一向に罪に問われない要人達に対してであり、その悪人達に裁きをもたらしてくれるとMAGAが信じて疑わなかったのがトランプ氏。 それだけにMAGAにとっては、関税や移民問題よりも、遥かに感情レベルを揺さぶられるのがエプスティーン問題。
今週にはイーロン・マスクが “Bannon is in the Epstein files”とツイートし、第一期トランプ政権下で首席戦略官を務め、 現在は極右ポッドキャストで世論を扇動するスティーブ・バノンにまで、エプスティーン問題の矛先を向けたことから、 そのバノンまでもがエプスティーン関連の捜査資料公開、および特別検察官による犯罪に関与した人物の特定を要求。
この問題を軽視するのは、トランプ政権にとっては命取りになりかねない状況。そもそもMAGA勢力がエプスティーン・リストに期待していたのは、クリントン、オバマといった前大統領やジョージ・ソロスといった民主党リベラル派の政治家や富豪の名前が公開され、その悪事が白日の下にさらされることであったけれど、今週MAGAインフルエンサーが語り始めたのが 「”ディープステートを打ち負かせ”と謳っていた 側も実はディープステートだった?」との疑惑。
逆にリベラル派の間からは「エプスティーン問題がこれほどまでにMAGA基盤を揺るがすスイートスポットだったとは…」と驚く声も聞かれていたのだった。

次週は、執筆者のバースデー・ウィークなので、勝手ながら1週お休みをいただきます。 次回更新は7月4週目となります。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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