Aug 4 ~ Aug 10 2025

Popular Culture & Politics in US
政治で二分された米国だから起こる!? ポップカルチャー大物議



今週のアメリカは引き続きエプスティーン疑惑、関税問題、山火事、悪天候等が大きく報じられていたけれど、 大きなニュースに隠れてあまり報道されないのが移民、及びVISA関連のニュース。いつの間にかアメリカのVISAを申請する場合、 一律250ドルがチャージされることになり、結婚によるグリーンカード申請が複雑かつ、難しく、時間を要するようになったのが8月1日から。 現時点で22~29%と言われるグリーンカード目的の偽装結婚による申請を防ぐため、面接は二段階で、カップルで回答が食い違ったり、身元調査の問題が発覚した場合は 詐欺対策課による面接になるとのこと。 担当官は申請者に日常的に証拠請求を発動し、12ヶ月分以上の共同財務状況、納税記録、公共料金請求書、生命保険証書、共有ストリーミングやライドシェアのアカウントの スクリーンショット等の婚姻証拠を要求するようだけれど、昨今ではICE(移民関税取締局)が、そんなVISAの申請手続きやインタビューのために移民局を訪れた移民の身柄をその場で拘束して 収容所送りにするケースが急増中なのだった。
また新たな大統領令によって、不法移民の両親から生まれた子供、一時ビザでの米国滞在者の子供は、米国内で生まれても市民権を与えない方針に切り換わることから、 現行法では米国出生証明書が市民権の証明と見なされ、親はその提示によって子供のパスポート、社会保障番号、連邦政府の給付が受けられたけれど、 新たな法案では、両親が適格なステータスを持たない場合、子供に市民権を認める連邦政府の文書は発行されないとのこと。 そして親が子供のパスポート、社会保障番号、または連邦政府の給付を受けるには、子供の出生証明書に加えて、少なくとも片親の市民権、または適格な移民ステータスの証明が必要。
移民にとっては何を申請するにも、ペーパーワークが複雑化していくのだった。



シドニー・スウィーニーのジーンズ広告の大物議


今週、アメリカのメディア&ソーシャル・メディアで大物議を醸していたのが、人気の若手女優で、 次のボンドガールとも噂されるシドニー・スウィーニー(27歳)を起用したアメリカン・イーグルのジーンズの広告。
"Sydney Sweeney has great jeans"というスローガンの広告が問題視されたのは、プロモーション動画で シドニーが語った 「遺伝子(Genes/ジーンズ)は親から子へと受け継がれ、髪の色、性格、さらには目の色といった特徴を 決定します。私のジーンズはブルーです」というナレーション。 これは遺伝子(ジーンズ)とデニムのジーンズという同音異語を引っかけて、青い目の遺伝子を持つ彼女が ブルージーンズをプロモートするというコンセプト。
しかし今のアメリカは、政治思想で国が二分される カルチャー・センシティブなご時世とあって、瞬時に巻き起こったのが 「アメリカン・イーグルの広告は白人遺伝子を讃える優生学、ブロンド&ブルー・アイという西洋の美のスタンダードを助長するメッセージ。特定人種の優位性を謳ったナチスのプロパガンダに通じる」という批判。 そしてこの火に油を注いだのが保守右派メディアで、「シドニー・スウィーニーはフロリダ州で共和党員として登録されている」と報道。 でもこれは彼女の母親の誕生日パーティーのスナップにMAGAハットを被る参加者が写っていただけの話で、当時「トランプ支持者なのか?」とファンに攻められたシドニーは、「母の誕生祝いに不条理な政治憶測を持ち込まないでほしい」と反論していたのだった。
それでも「シドニー共和党員説」は保守右派の間で山火事のように広がり、彼女が射撃練習をしている2019年のビデオが突如ヴァイラルになったことで、 本人の意志表示無しで共和党員に決めつけられてしまったのがシドニー。それを受けてヴァンス副大統領を始めとする共和党政治家が、 珍しくハリウッドの人気者が自分達の側についたと思い込み、「美女が素晴らしい ”ジーンズ” をプロモートして何が悪い」と広告の支持を表明。 さらにはトランプ大統領までもが コメントを求められた際、右寄りメディアの記者が「シドニー・スウィーニーは共和党員で登録されている」と一言添えたことから、 「それは知らなかったが、教えてくれてよかった。シドニー・スウィーニー氏が共和党員なら、彼女の広告は素晴らしいと思う」とコメント。 ジーンズの広告コピーが、一国の大統領を巻き込む政治&人種論争に発展してしまったのだった。
この類の茶番ネタが大好きなFOXニュースのキャスターは、「シドニー・スウィーニーはバロン・トランプと結婚するべきだ。そうすれば遺伝子の上でも理想的な保守右派のパワー・カップルが誕生する」と言い出す始末であったけれど、 お陰でアメリカン・イーグルの株価は20%上昇。この騒ぎは、2週間前に物議を醸したコールドプレイのコンサートのキスカムがきっかけで発覚したアストロノマー社CEOアンディ・バイロンと人事エグゼクティブ、クリスティン・キャボットの不倫には及ばないものの、広告効果は製作費の15~25倍と言われるもの。
そのアストロノマー社は、騒ぎの直後からSNS上で 「皆さんが 現在抱いている関心事についてお答えします」という動画広告を展開。いかにもCEOの浮気や、社内コンプライアンスについて説明するように見せかけて、同社の業務やサービスについて宣伝するという、真面目な ”肩透かしパロディ”と言える広告。 しかも動画のパーソナリティとして、同社CEOの不倫を指摘したコールドプレイのクリス・マーティンの元妻、女優のグウィネス・パルトローを起用するという粋なキャスティングがされていたのだった。



トークショー・キャンセルが垣間見せた大手メディアの限界


政治とポップカルチャーが切り離せないアメリカでは、政治思想や政治意図が絡んだポップ・カルチャーの方が 政策や法案より国民感情を大きく揺さぶるのは容易に想像がつくところ。
7月半ばに民主党リベラル派、無党派層を猛然と怒らせたのがCBSの夜のトークショー、”Late Show/レイト・ショー”が2026年5月を最後に終了する発表。 CBSは、昨年の大統領選挙の直前に報道番組「60ミニッツ」が放映したカマラ・ハリスのインタビューが 「ハリス有利に編集されていた」として、トランプ氏から20億ドルの損害賠償訴訟を起こされており、 番組側が「放映時間内に収めるための通常の編集作業しかしていない」と闘う気満々だったにも関わらず、CBSはトランプ氏に1600万ドルを支払って示談が成立。 その理由は親会社のパラマウントがスカイダンス社との合併を控えており、つい最近合併を承認した連邦通信委員会の判断がトランプ氏の一存に掛かっていたため。
そのことをアンチ・トランプで知られる「レイト・ショー」のホスト、スティーブン・コーベルが 「賠償金と言う名の賄賂」と キッパリ公言したことから、その週末に決定したのが「レイト・ショー」のキャンセル。 一部では「レイト・ショー」キャンセルもトランプ氏への”賄賂”に含まれていたとの憶測も聞かれており、 案の定、コーベルを毛嫌いしていたトランプ氏は自らのSNSでCBSの決断を大絶賛。 コーベルについても「番組の視聴率よりローレベルな才能の持主」と罵倒したのだった。
しかし実際には「レイト・ショー」はNo.1の視聴率で、収録が行われる NYのエド・サリバン・シアターは観光名所。 猛反発した視聴者は、CBSを「独裁者に屈した」と批判し、同社の重要な収入源であるストリーミング・サービスのサブスクリプションを相次いでキャンセル。 CBS本社ビル前では抗議活動を、エド・サリバン・シアター前では「レイト・ショー」、及びスティーブン・コーベルを サポートする活動が大々的に行われたのだった。
トランプ氏は、同様に自分に批判的なABCのトークショー・ホスト、ジミー・キンメルやNBCのジミー・ファロンに対しても「次はお前の番だ」とSNSを通じて脅しをかけたけれど、 大手メディアがトランプ政権になびく反動で進んでいるのが、大手を追い出されたジャーナリストやキャスター、パーソナリティが独立したポッドキャストやストリーミングを通じて コンテンツを配信する傾向。実際にトランプ氏のメインストリーム・メディアへの圧力は、 ブロックチェーンを基盤とした次世代の分散型インターネット、Web3のプロジェクトをスピーディーに推し進めると見られるもの。 Web3の進化と拡大が意味するのは、地上波TVはもちろん、YouTubeやフェイスブックといったありとあらゆる中央集権型のプラットフォームへの依存が無くなることで、 今は影響力絶大のSNSも そう遠くない将来には消滅するビジネスに数えられているのだった。
一方、「クビにされると決まったからには怖い物無し」の状態になったスティーブン・コーベルは、そのトランプ批判にシャープさを増したことで、さらなる高視聴率に繋がっているのが現在。 そもそもアメリカの夜のトークショーは、NBCが1962年に「ジョニー・カーソン・ショー」をスタートして以来、スマートなポリティカル・ジョークで 国民の政治関心を高めながら、 政権不満のガス抜きも担っており、カルチャーやエンターテイメントだけでなく、政治的にも極めて重要な役割を担う存在。
それだけに世論の猛反発は、「レイト・ショー」の打ち切りが迫るに連れて、更に高まって行くことが見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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