今週はアメリカのみならず、全世界が金曜のトランプVSプーチン会談に注目していたけれど、
NYポストのような右寄りメディアさえも報じたのが、プーチン大統領が停戦と引き換えに「戦争中にロシアが併合を試みた地域からのウクライナ軍の撤退」を求めたのを、
トランプ政権がロシアに派遣した特使、スティーブ・ウィトコフが誤解し、 「プーチン大統領が前線からの撤退と凍結を提案した」と欧州諸国に通達していたニュース。
この誤解は欧州メディアによって指摘され、アメリカが恥をさらす結果になったけれど、トランプ氏と個人的に親しい元不動産業者のウィトコフは国際外交未経験。
しかもその通訳は元KGB職員であったことが伝えられるのだった。
さらに今週物議を醸していたのが、トランプ氏がワシントンDCを犯罪多発地域と宣言して、週明けから800人の州兵を送り込み、LAに次いで地元の警察権力を政府が乗っ取る動きに出たこと。
しかしワシントンDCの犯罪率は過去30年で最低レベル。そのためLAに続いて、今週にはワシントンDCでも大々的な抗議活動が起こっていたけれど、
トランプ政権が次に州兵を送り込むと言われるのがLA、DCと並んでアンチトランプ派が多いNYとシカゴ。
ところで今のご時世は 人々が疑問点をAIに尋ねるのが常。あるXユーザーが XのAIチャットボット ”Grok/グロック” にDCにおける犯罪の実態を尋ねたところ、
その回答は「ワシントンD.C.の暴力犯罪は2025年の年初来26%減少。過去30年間で最低を記録しています」とメディア報道と同じ内容。
別のユーザーが「ワシントンD.C.で最も悪名高い犯罪者は誰か?」と尋ねたところ、グロックは
「有罪判決の数と知名度に基づいて判断すると、最も悪名高い犯罪者はドナルド・トランプ大統領です。
彼はNY州で34件の重罪で有罪判決を受け、2025年1月にその判決が確定しました」と回答。
これがあっという間にヴァイラルになっていたのだった。
先週からアメリカで物議を醸してきたのが、予想をかなり下回った7月の雇用統計に腹を立てたトランプ氏が「政権に不利になるようにデータ改ざんをした」として、
証拠の提示無しに労働統計局長を解雇。後任として2021年1月6日の議会乱入にも加担した ”名ばかりの経済学者”、EJアントーニを指名し、早速彼がバイデン政権下の雇用統計を下方修正したこと。
トランプ氏は第一期政権中に事実と異なる発言を3万回以上行った公式記録が残っているけれど、第二期政権で行われているのは、
その事実認定のベースとなるデータやセオリーごと書き換えるための組織解体。 認識された科学的知見や政府データを軽視・削除する一方で、独立機関や専門家を排除し、
政策や政権に不都合な情報、データを徹底的に消し去っているのだった。
気象科学分野では温室効果ガスの危険性を否定し、長年続く観測や異常気象追跡の研究を停止。
国勢調査においては不法移民のデータを除外し、貧困層に関する詳細調査を廃止。国勢調査部の人員も大幅カット。
マイノリティ人種やジェンダー関連の政府情報も大々的に削除され、トランスジェンダー関連のデータベースはネガティブ情報に修正されたとのこと。
さらには監察官、連邦準備制度、保健当局、裁判所などの独立性を脅かし、意見の異なる職員や専門家を解任・降格。
政権に批判的な判決を出した裁判官、政府に反論を唱える高官も徹底的に排除、迫害しているのが現在で、
イエスマンと恣意的に操作された統計で固められつつあるのが第二期トランプ政権。
この様子は、ヴェネズエラのチャベス政権後期からマドゥロ政権にかけて行われた独立機関廃止と言論統制、統計や情報の操作・非公開と酷似すると言われるもの。
ヴェネズエラの場合、その被害は自国の経済危機と人道危機であったけれど、世界各国が経済政策の指針にする米国経済データが恣意的に操作されるのは、世界的経済危機のリスクを招くもの。
しかし世界的大恐慌で通貨崩壊が起これば、逆に資産を増やしても不思議ではないのがトランプ・ファミリー。
昨年の大統領選挙直後から、トランプ家がクリプトカレンシーのビジネスだけで築いた資産は、最低でも150億ドル、一部メディアでは450億ドルと言われ、
しかもクリプト界の大物ビリオネアの少なくとも3人が司法省に訴追され、その全員が望んでいるのがトランプ氏による恩赦。
そんな彼等がトランプ・コインを買い支えるなど、記録を残さずしてトランプ・ファミリーのクリプト・ビジネスに多額の資金を注ぎ込んでおり、
クリプトコイン ”トロン”の設立者、ジャスティン・サンが既にトランプ・コインに1億ドル以上注ぎ込んでいるのは周知の事実。
同様の”献金”はフォード等の大企業やパキスタン政府も行っているけれど、トランプ家のクリプト・ビジネス、World Liberty Financial/ワールド・リバティ・ファイナンシャルの
共同設立者は、前述のプーチン大統領の意向を勘違いしたスティーブ・ウィトコフの息子、ザック・ウィトコフなのだった。
第二期トランプ政権の圧力がメディア、教育、カルチャーにも及んでいるのは、過去数ヵ月の名門大学への介入や大手メディアに対する執拗な訴訟にも現れているけれど、
トランプ政権は現在、スミソニアン博物館の展示資料についても、120日以内に「分裂を煽る、あるいはイデオロギーに基づく言葉の撤回」、すなわち政権の意に沿う表現への書き換えを要求している真最中。
アメリカのアート&カルチャーの最高峰、ケネディ・センターもドナルド・トランプ・センター、メラニア・トランプ・オペラハウスに改名するため議会が動いている真最中で、今年のケネディ・センターの名誉賞は全員トランプ氏による選出。
ホワイトハウスの敷地内には、9月から2億ドルを投じて836平方メートルの巨大なボールルームの建設が始まるけれど、歴代7人の大統領がホストした晩餐会はレーガン氏が54回、次のブッシュ氏が24回、クリントン氏が28回、ジョージ・W・ブッシュとオバマ氏が共に12回、任期の半分以上がパンデミックだったバイデン氏は5回。ボールルーム建設に踏み切ったトランプ氏は第1期政権下での晩餐会が2回、第2期政権に入ってからはゼロ。過去45年間に合計137回しか行われなかった晩餐会のために建設されるのがホワイトハウスのストラクチャーを激変させる巨大ボールルーム。
7月には、かつて芝生と植え込みが美しかったホワイトハウスのローズ・ガーデンが、リノベーションによって石が敷き詰められたチープなパティオに変貌を遂げているのだった。(写真上左側)
先週からはホワイトハウス見学者ルートのメインスポットに飾られていたオバマ大統領の肖像画が、目立たない場所に撤去され、
代わりに飾られたのが、2024年の暗殺未遂直後のトランプ氏を描いたポートレート。
ちなみにホワイトハウスの歴代大統領肖像画は、任期中の時代背景等を考慮してデザインされたアメリカの歴史を象徴するもので、
オバマ氏の肖像画のバックグラウンドが真っ白なのは、米国史上初の黒人大統領を生み出した時代に国民の1人1人が自由に思いを巡らせるように意図されたもの。
それが、トランプ氏のフレグランス・パッケージにも使われたイメージの絵画、それもホワイトハウス独特の壁のストラクチャーを完全に無視したサイズのものに替わったことは、
自由の国アメリカが 確実に独裁社会に向かう様子を感じさせているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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