今週のアメリカでは月曜にゼレンスキー大統領、及びEU首脳がホワイトハウスを訪れ、ウクライナ戦争に関する協議が行われたけれど、
その席でマイクがOnであると知らずにトランプ氏が語ったのが「プーチンは自分のために取引をするはず」という強気の見解。
しかし今週にはロシアによるウクライナ攻撃が更に激化。戦争を引き延ばし、和平交渉までにできる限りウクライナ領土を手中に収めようとするロシア軍が、
戦車にロシア国旗と共にアメリカ国旗をかざして走行する様子が見られていたのだった。
一方、先週から州軍が投入され、政府が警察権力を掌握したワシントンDCでは、その直後からレストラン予約のキャンセルが相次ぎ、
ビジネスが大打撃を受ける中、勃発したのがLAを上回る規模の抗議デモ。
住宅街に覆面車両で入り込んだICE(移民関税局)捜査官を大勢の住人が取り囲み、「マスクを外して、バッジを見せろ」と詰め寄る様子、州兵に警備されながらユニオン・ステーションを歩く
ヴァンス副大統領、へグセス防衛長官に市民が猛烈なブーイングを浴びせる様子等がSNSでヴァイラルになり、NYやLAよりアンチトランプ派が多いDC市民は完全な臨戦態勢。
そのトランプ大統領は、先週展示資料の見直しを通達したスミソニアン博物館だけでなく、全米の博物館に対して
奴隷制に関する資料の書き換えを要求。奴隷制がアメリカにもたらした国益を強調するようにと、事実上歴史の書き換えを指示したのだった。
2025年の現時点でラスベガスの観光客数は前年比で11%減少、総ヴィジター数も6%以上減っているけれど、
中でも深刻なのはラスヴェガス観光客の30%を占めていたカナダ人が、アメリカ旅行をボイコットしていること。
パンデミックが原因の不況から完全に立ち直っていなかったラスヴェガスは、現在危機的な衰退が報じられ、その背景にあるのは大企業による貪欲な経営姿勢なのだった。
ラスヴェガスはそもそも一般大衆をターゲットにギャンブルと娯楽を提供する観光地。
一部のハイローラーにVIP待遇を提供しながら、一般大衆にはホテル・ビュッフェの無料券、無料宿泊等、経営に影響しない少額特典を与えては、
その元を取って余りある利益を上げ、帰る際にも次回使える無料特典を与え、再訪のモチベーションを煽るのが伝統的なビジネス手法。
ヴェガスのリピーターは中西部のローワー・ミドル・クラスが非常に多く、彼等は必要以上の出費を強いられても、その頭の中は無料特典で自分達が得をした計算になっているのだった。
しかしパンデミック後のヴェガスでは、埋まらない客室の無料提供に1泊40ドル~80ドルの ”リゾート・フィー”が請求されるようになり、
自家用車を滞在ホテルに駐車する場合、1日30~50ドルの駐車料金が掛かるのは珍しくないこと。
これまでヴェガスの食の名物と言えば、各ホテルが巨大なダイニング・ルームで提供するビュッフェ。お値段は朝昼が20~30ドル、ディナーが50ドル前後。ギャンブルの負けと引き換えの無料クーポンも
多数発行され、味はさておき、バラエティ豊富な料理がお腹一杯食べられるのが大きなアトラクションになっていたのだった。
ところが今ではホテル・ビュッフェが激減し、あったとしてもブランチのみで、料金は50ドル以上+税金&チップ。
カジノでのギャンブルにしても、パンデミック前は最低掛け金が5ドル~10ドルのテーブルがあり、安いテーブルほど常に満席であったけれど、
現在では最低掛け金が25ドル~50ドルにアップ。
そんなテーブルに座るギャンブラーのお目当ては無料ドリンクを飲みながらのゲーム。
カジノでは来店客が酔っ払うと気が大きくなって掛け金を増やすので、無料で提供しても十分に元が取れるのがアルコール・ドリンク。
今もドリンクは無料ではあるものの、それを運ぶスタッフが大幅に削られた結果、ウェイトレスが来るまで20分、ドリンクを運んで戻って来るまでに更に20分。
その間のイライラで、一杯飲む前に負けが嵩むと言われる状況。
スタッフ削減はそれに止まらず、先週ヴェガス最古のカジノ、ゴールデンゲート・ホテル&カジノが発表したのが、
人間のテーブルディーラーが仕切るルーレットやカード・ゲームを廃止し、代わりに”ETG”の通称で呼ばれる”エレクトリック・テーブル・ゲーム”に置き換える経営大転換。
またヴェガスと言えば、コンサート含むエンターテイメントやショーのメッカでもあるけれど、かつては60~70ドルで楽しめたパフォーマンスのチケット価格は今や200~300ドルに跳ね上がっているのだった。
このように何から何までフィーが発生し、価格が高騰する背景にあるのは、ヴェガスが ”ストリップ”と呼ばれる目抜き通りに全てが集中する構造で、
そこで食事、ギャンブル、エンターテイメントを提供するホテルが、それぞれ名前こそ違ってもMGM、ハイアット、マリオット、ヒルトンといった大手チェーン傘下に属していること。
そのため大手が示し合わせたように価格を上げると、観光客は「それを払うしかない」訳で、競争原理が全く働いていないのだった。
こうした大手企業による消費者の囲い込みは、
経済不振で中小企業の生き残りが厳しいご時世には、全世界の様々のビジネス分野で進む現象になるのだった。
ラスヴェガスのボッタクリは、ヴェガスに行かなければ回避できるけれど、多くのアメリカ人にとってそうは行かないのが医療機関。
既に超高額で知られるアメリカの医療費は、1晩の入院で1万ドルは当たり前。医師と15分話したけで、何の検査も無しに ”初診料400ドル” は完全に想定内の御値段。
そんな多額の医療費にすっかり鈍化しているアメリカ人さえも驚かせているのが、医療行為を受けた後で不意打ちで請求書が送付されてくる「ファシリティ・フィー(医療施設料金)」。
NBCニュースによれば、腹痛で受診したミネソタ州の患者が後日請求されたのが400ドル、オハイオ州での耳鼻咽喉科診察の後に追加請求されたのが645ドル、
ニューハンプシャー州の泌尿器科医診察後に請求されたのが1000ドルのファシリティ・フィーで、全て事前通達無しの請求。
いずれの患者も、訪れたのは「医療施設料金」が発生するような機材が揃った大病院ではなく、小さな町中のクリニック。
にもかかわらずフィーが請求されたのは、中小クリニックが経営難から大手医療機関の傘下にどんどん統合されているため。
中小クリニックにとっては経営面だけでなく、重症患者を送り込むためにも大手医療機関との関りは極めて大切。
その結果、自宅近くの小規模クリニックで医療サービスを受けても、大手医療機関の施設使用料がチャージされるようになっているのだった。
中には右上のビジュアルのように、2891.24ドルの医療費に対して、1万4182.13ドルのファシリティ・フィーがチャージされる事態も起こっているけれど、
大手医療機関側は「質の高い医療の財源を確保し、救急外来を含む24時間365日体制のサービスを維持するためにファシリティ・フィーの請求は不可欠」と主張。
フィーは保険では賄われず、この新たな料金制度には未だ法規制が追い付いていないのだった。
こうして一般大衆が、言われるままに高額医療費と追加のフィーを支払うしかないのは ラスヴェガスの観光客と全く同じ状況。
ビジネスの世界で中小企業が淘汰され、社会からミドルクラスが消えて行けば、必然的に形成されるのが経済的強者が弱者から搾取する構造。
特に弱者がノーチョイスで払うしかない業界には、プライベート・エクイティ・ファンドが豊富な資金を投入して、大手による搾取の手助けをしながら
その利益ポーションを受け取る図式が出来上がっているのだった。
来週はレイバーデイのホリデイ・ウィークエンドにつき、このコラムは1週お休みをいただきます。次回は9月1週目の更新になります。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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