Dec 21 ~ Dec 27 2025
Year 2025 Was...
大統領令&恩赦連発、関税、移民狩り、言論統制…、
僅か11カ月のディストピア化のキーポイント
2025年も残すところ僅かになった今週も 報道が集中したのが、2025年に最もヘッドラインを飾ったエプスティーン・ファイル公開のニュース。
法的期日を過ぎて新たなファイルを公開した司法省は、「100万を超えるファイルが新たに見つかり、全文公開にはさらに2~3週間を要する」と発表。
既に公開されているファイルは、「被害者保護」と称して必要以上に文面が塗り潰されており、各方面からウォーターゲイト事件以来の政府による隠ぺい工作との批判が集まったのが今週。
またエプスティーンからの性被害が最初に訴えられた1996年に何故FBIが適切な対応をしなかったのか、
ヴィクトリアズ・シークレットの親会社会長 レスリー・ウェクスナーを含む、セックス・トラフィッキングに加担した10人の政財界の大物の存在、
そして1000人に及ぶ少女達のセックス・トラフィッキングの恩恵を受けていた世界のVIPの名前等、これまでのファイル公開では肝心なことが一切明らかになっていないのがエプスティーン・スキャンダル。
ファイル内容とFBIパテル長官、ボンディ司法長官の議会証言の食い違いも指摘される中、今週には司法省のXアカウントがホワイトハウスによって更新されるという珍事も発生。
第二期トランプ政権下では司法が、政権の言いなりで、三権分立が完全に崩れている様子を露呈していたのだった。
アメリカをディストピア化した10のキーポイント
2025年は生成AIが普及し、AIレイオフで若い世代の失業率がアップ。オゼンピックに代表されるGLP-1ドラッグ等もメディアで高頻度で話題になっていたけれど、
1月20日に第二期トランプ政権がスタートしてからのアメリカでは、国民の毎日の生活に政権関連の報道が深く入り込み、デモクラシーからオートクラシーへのシフト、
自由の国アメリカがファシズム、ディストピアに向かって急ピッチで動いたのは周知の事実。そのためインフレによる生活苦もさることながら、
保守、リベラルを問わず政権絡みの様々なストレスを国民が感じていたと言われる年。
トランプ政権が僅か11カ月でオートクラシー、ディストピア化を実現した10のキーポイントは以下の通り。
- イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)による政府職員大量解雇と政府機関弱体化:
政府予算2兆ドルの節約を掲げながら、社会未経験の20代ハッカー・チームが2025年春先から無差別に行ったのが政府職員大量解雇。
その結果、原子力を含む政府の必要部門からも専門職が解雇され、再雇用のための余分な費用が度々発生。
またバイデン政権下で打ち切られたコントラクトをDOGEの成果に加えたり、3桁増しの額の成果を謳う様子がメディアに暴かれ、予定より8ヵ月早く閉鎖したのがDOGE。
しかし確実に政府は弱体化し、中でも世界的に批判を浴びたのはUSAIDの閉鎖。2024年には政府予算の僅か0.4%で 世界の人道支援の40%を賄ったUSAIDは、ケネディ大統領が設立して以来、
アメリカが世界のリーダーとして君臨する重要な役割を担った存在。トランプ氏の腹心、スージー・ワイルズ補佐官でさえ「良い仕事をしていたのに」と惜しんだUSAIDが真っ先に閉鎖されたのは、イーロン・マスクのスペースX傘下、スターリンクによるウクライナへのインターネット・サービス打ち切りについて捜査していたため。マスクは他にもテスラやスペースX、ニューラリンクなどの自分の企業に捜査、訴訟をしていた部署を徹底的に攻撃。
それとは別にピーター・ティール率いるデータ分析企業パランティール社とマスクは、DOGEの職権を使って これまで民間企業からはアンタッチャブルだった 国税局、社会保障省、移民局等のデータベースの一括入手と統合を実現。
本来の裏目的を確実に果たしたと言われる中、トランプ政権下での政府出費は昨年を上回る結果になっているのだった。
- 恩赦連発:
第二期政権下でトランプ氏が与えた恩赦は11カ月間に2000件以上。 就任式ファンド、トランプ・ライブラリー建設ファンド等への多額の寄付や献金、ビジネス・ディールと引き換えと見られる恩赦も多く、「金持なら罪は帳消し」と言われたのが2025年。これにより犯罪とは無関係の超富裕層の間でも高まったのが特権意識。またトランプ政権閣僚が法を恐れずに好き勝手が出来るのもトランプ氏の恩赦を見込んでの事で、つい最近ではラッパーのニッキー・ミナージュが、夫を含む複数の家族の恩赦を目的にトランプ支持に鞍替え。それによりSNSフォロワーを100万人以上失っているのだった。
- 大統領令連発:
2025年1月20日の大統領就任以降、12月22日までの11カ月に、トランプ氏は225件の大統領令、56件の覚書、114件の宣言に署名。その殆どは、極右シンクタンクでトランプ第二期政権のブループリントを製作した団体、プロジェクト25が書いたものと言われ、トランプ氏は何にサインしているかを把握していないケースが多々あったとのこと。これは「一度に沢山の事を進めれば、情報が処理しきれず、反対や抗議を起こせない」という戦略に基づいており、それが見事に功を奏していたのだった。
- トランプ関税:
4月2日に国別関税率を一方的に発表し、世界各国に脅しをかけたのがトランプ氏。しかし延期や税率改定が相次ぎ、TACO(Trump Always Chickens Out/トランプはいつも怖気ずく)という言葉が誕生。
トランプ氏は関税収入を3兆ドルと謳い、その成果を強調。しかしその額は誇張で、物価高という形でトランプ関税を支払っているのはアメリカ国民。多くのトランプ支持者は、未だに関税を払うのが諸外国と信じており、ニュースIQの低さを露呈しているのだった。
- 利益相反、高額ギフト(賄賂)、政府私物化:
海外政府ファンド絡みの資金と結びついたトランプ・ファミリー・ビジネスが、現在22カ国で巨大開発プロジェクトを行う中、カタールからのボーイング機を含む、これまでならあり得ない多額のギフトや寄付を米国大統領として受け取っているのがトランプ氏。
その一方で、ホワイトハウスのイースト・ウィング解体&ボールルーム建設やケネディ・センター改名など、法的プロセスを無視した政府施設の私物化があっという間に進行。NFLワシントン・コマンダースが新たにロバート・F・ケネディ・スタジアム跡地に37億ドルを投じて建設するスタジアムにも自分の名前を付けるように要求。
そのトランプ氏は第二期政権で 4日に1回ペースでゴルフをしており、その都度 1分間の飛行に3000ドルが掛かるエアフォース・ワンで移動。セキュリティを含む全スタッフ滞在費を含む多額の費用を
自分が経営するカントリー・クラブに税金から支払う結果、第二期政権でのゴルフ代は第一期政権の2倍に当たる3億ドルになる見込み。さらにはトランプ氏がゴルフのライダーズ・カップに姿を見せるのに掛かった税金は1700万ドル。今年のスーパーボウルでの現職大統領としての初観戦には400~2000万ドルが掛かっており、大統領というより国王として遊興費を湯水のように使っているのだった。
- ICEによる移民狩り:
第二期トランプ政権で当初支持率が高かった政策が不法移民対策。ICE(移民取締局)は、これまで手入れが禁じられていた教会や学校でも移民狩りを行うだけでなく、移民局にグリーンカード面接にやって来た移民の身柄を拘束する非道ぶり。元米軍の韓国系アメリカ人が、住んだこともない韓国に強制送還されるなど、例えアメリカ国籍でも移民と見なせば身柄を拘束するのがICEで、被害に遭ったアメリカ国籍者は200人以上。覆面カーで現れ、顔をマスクで隠し、IDを提示しないだけでなく、正式なトレーニングを受けていない捜査官が 警告ナシにいきなり武器を行使する有り様。
ICEによる捜査を恐れた移民が仕事に来なくなった農園、工場等は経営難に追い込まれており、年末のアンケート調査では行き過ぎた移民政策に反発する国民が過半数超え。
移民を嫌う保守派の間でも、ICEの行為を巡っては意見が分かれ始めているのだった。
- メディア言論統制:
第二期政権で着実に進んだのがメディアに対する言論統制。就任直後からABC、CBSを相手取って訴訟を起こしたトランプ氏は、それぞれから1600万ドルの示談金を獲得。特にCBSは親会社パラマウントがトランプ政権の承認を必要とする合併を控え、勝てる裁判に敢えて示談金を支払っており、それをCBSの夜のトークショー・ホストでアンチ・トランプ派のスティーブン・コーベルが「賄賂だ」とジョークにしたことで、彼の番組のキャンセルが決定。合併成立後のパラマウントCEOには、オラクルCEOのラリー・エルソンの息子、デヴィッド・エルソンが就任。トランプ支持のエルソン家の影響で、今後CBSは「トランプ・フレンドリーなメインストリート・メディア」として運営されることから、有能なジャーナリストが離れ始めているのだった。
またチャーリー・カーク死去の際には、問題発言をした訳でもないABCのトークショー・ホストでアンチ・トランプ派のジミー・キンメルの番組が一時キャンセルに追い込まれたものの、これにはアメリカ国民だけでなく、世界中から批判が殺到。ABCの親会社ディズニーのストリーミングのキャンセルに歯止めが掛からず、約1週間後に番組が復活。
しかしトランプ政権からのメディア圧力は激しくなる一方で、同様に激化しているのがトランプ氏のレポーターへの罵倒。ブルームバーグの女性記者に
「Quiet Piggy / 黙れ、ブタ」と言った様子はニュースになったほど。また気に入らない質問が寄せられる度に「どこのメディアだ?」と尋ね、プレスパスの取り消しを匂わせるのは
キャロライン・レヴィット報道官も行う常套手段。政権圧力は、2025年にフォロワーを激増させたリベラル派のSNSインフルエンサーにも向けられており、これにはグーグルがYouTubeアルゴリズムで政権の妨害工作に加担していると指摘されるのだった。
- 国内への軍隊派兵:
「各都市の治安維持のため、ICE職員やその施設を抗議活動から守る目的」を謳って、本来なら自国民に対して武器を向けてはならない米軍(州兵)が、
カリフォルニアやワシントンDCに派兵される異常事態が起こったのが2025年。これは市民戦争勃発に向けての準備、アンチによる抗議運動をねじ伏せる手段と言われるのだった。
- 司法省、FRBへの権限拡大:
司法省がFBIと共にエプスティーン・ファイルの隠蔽に動いた一方で、トランプ氏は自分を前科者にしたレティシア・ジェームスNY司法長官、ジェームス・コーミ―元FBI長官、第一期政権の国防アドバイザーで後に自分に反旗を翻したジョン・ボルトンらに対し、リベンジ訴追をするよう司法省に指示。すなわち法の力で自分の敵を葬る動きに出ており、ボルトンは起訴に漕ぎつけたものの、コーミーに対してはトランプ氏任命の連邦検事が証拠不十分で立件を拒否。彼を解雇したトランプ氏は、替わりに元ミス・ユニヴァースのコロラド州代表で、一度も訴追を担当したことが無いトランプ氏個人の弁護士、
リンジー・ハリガン(36歳)を大役に抜擢。しかし経験も実力も無いハリガンには そもそも連邦検事の資格が無く、大陪審の書類を書き換える不正が判事にバレる情けなさ。
トランプ政権下で悪事の片棒を担がされては、今後のキャリアに響くとあって、司法省からは有能な人材がどんどん流出。トランプ氏に解雇されたケースを含めると、トランプ政権下で司法省を去った人材は例年の3倍に当たる2900人を記録。
一方、2025年にFRBパウエル議長に対して公定歩合引き下げの圧力を掛け続けたのがトランプ氏。2026年5月で任期終了となるパウエル氏の後任は、トランプ氏の意向通りに公定歩合を引き下げるYESマンであるのが最低必要条件なのだった。
- OBBB(One Big Beautiful Bill):
トランプ政権の経済政策の柱であり、貧富の格差拡大(低所得者層の弱体化)のためにデザインされたのがこの予算案。
国防予算の拡大、トップ1%への大型減税盛り込まれる反面、食糧補助や健康保険補助を打ち切る弱者切り捨てが行われ、しかも国の負債を倍増させる予算案。イーロン・マスクが、トランプ政権を離れたのはこの予算案を批判したため。同案を巡って米国政府が42日間という史上最長の閉鎖に追い込まれたのは周知の事実で、2026年1月にも同様の政府閉鎖の可能性があるのだった。
トランプ第一期と第二期政権の違いは、第二期政権ではトランプ氏に盲目的にロイヤルな全くの素人が政府機関のトップに就任していることで、FOXニュースから20人以上が政権入りしているのはそれを立証する事実。
その結果、国防から外交まで、過去に無い劣化が起こっているのが現政権。特にアンチ・ワクチン派のロバート・F・ケネディが健康福祉局長官に就任して以来、アメリカでは 一時撲滅が宣言された ”はしか” が20年ぶりにブレークアウト。12月にはサウス・キャロライナで学級閉鎖が起こる事態。また11月には百日咳のブレークアウトも報告され、今年はインフルエンザも猛威を振るっている真最中。
しかし秋口まで「向かう所敵ナシ」のように思われたトランプ政権も、ここへきて減速中。 逆に10月には全米50州の3000箇所で行われたアンチ・トランプ派による「No King」抗議活動に、米国人口の2%が参加。史上最大のデモとなっており、翌月、11月の選挙では民主党のブルー・ウェイブが圧勝。共和党では来年の中間選挙出馬を取り辞めて、引退表明をする議員が続出中。
トランプ氏を支持するMAGA勢力もエプスティーン問題やイスラエルへの支持を巡って意見が分かれる中、
アルゼンチンに経済援助を約束するなど、スローガンだけに終わっている”アメリカ・ファースト”に反発する声、
”No New Wars”を公約しながら、ヴェネズエラやコロンビア、そしてクリスマスの日にナイジェリアを攻撃するなど、複数の国に対し戦争を仕掛ける様子にも不満の声が上がっており、
以前ほど足並みが揃わなくなっているのだった。
世論調査で第一期政権時代に築いた自らの最低支持率を更新中のトランプ氏であるけれど、第二期政権の仕掛け人達が達成しようとしているのは、そんな弱者の声が全く無意味の
オートクラシーであり全体主義。
そのアメリカの2026年は6月11日から7月19日までカナダ、メキシコと共にサッカー・ワールドカップの共同開催を控え、大会期間中の7月4日にはアメリカ建国250周年を迎えるとあって、
通常ならこうしたイベントは愛国心を高める方向に動くもの。
果たして2026年には益々その方向に動くのか、それとも過去11カ月に突如大きく右側に動いたアメリカで揺り戻しが起こるかは時のみぞ知る状況なのだった。
次週のこのコーナーはお休みをいただきます。次回は1月10日の更新となります。素晴らしい2026年をお迎えくださいませ。
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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。
Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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