今週のアメリカでは、ICE(移民取締り局)によるミネアポリスでの女性射殺事件を巡る大々的な抗議活動と、
それを暴力的に抑圧するICEが イランの反政府デモ取り締まりと見紛うような光景を展開。
そのイランに米軍派兵をSNSで宣言していたトランプ氏は、カタール、サウジアラビアを含む湾岸諸国やイスラエルからの要請を受けて勢いがトーンダウン。背景にはイラン側が”我々の狙撃者は的を外さない”と暗殺を示唆した事もあると
言われる中、今週トランプ氏が熱くなったのはグリーンランド取得。「アメリカが鉱物資源が豊富なグリーンランドを支配しなければ、ロシアや中国に取られる」とその理由はいつの間にか国防から資源にシフト。
木曜日には「NATO加盟国アメリカが、NATO加盟国のデンマークの領土を奪うことは容認で出来ない」と、仏独軍がグリーンランド入りし、スウェーデン、ノルウェイ、そしてデンマークと共同軍事演習を行ったことから、
トランプ氏はNATO脱退をほのめかしており、プーチン大統領が泣いて喜ぶNATO崩壊のシナリオが着々と進んでいるのだった。
引き続きトランプ氏はコロンビア、キューバ、メキシコ、ニカラグア、パナマ、シリア、ナイジェリアにも侵攻の脅しを掛けており、
ヴェネズエラについては、先週末にホワイトハウスで 石油業界エグゼクティブを集めた、1000億ドルの投資を募る緊急会合を開催。
しかし現地は今もギャングが石油採掘施設を仕切り、マドゥーロ政権時代と全く同じ体制。
過去にヴェネズエラ政府に2度も採掘施設を乗っ取られたエクソンのエグゼクティブは「現状ではアンインベスタブル(投資不可能)」発言。「ヴェネズエラの石油は液体ではなく、
ドロドロで、吸い上げには高額でメンテナンス費用が掛かる大規模施設が必要。以前の原油生産ペースに達するには、何年と何十億ドルが掛かるか分からない」
と現実的な見解を述べたことから、腹を立てたトランプ氏は「エクソン抜きでヴェネズエラの石油開発プロジェクトを進める」とまでメディアに語っているのだった。
アンケート調査によれば、アメリカ国民の約80%が「最低1回は視聴した」と回答しているのが1月7日水曜日にミネソタ州で、ICE(移民取り締まり局)エージェントのジョナサン・ロスがホンダ・パイロットを運転する3児の母親、
レネー・ニコル・グッド(アメリカ国民、37歳)の頭部を3発撃ち抜いて射殺した事件。
事件直後は、その瞬間を捉えた決定的映像に乏しく、支持政党によって”正当防衛”、”殺人”に世論が分かれたのがこの事件。
しかしロス本人のボディ・カム映像、全3発の発砲を的確に捕えたスローモーション・ビデオ等が公開され、世論が被害者擁護に大きく動いた途端、FBIは現地警察を捜査から排除。
被害者のレネー・ニコル・グッドと左翼グループの紐づけ捜査、及び現場に居たレネー・ニコル・グッドのレズビアン・パートナー訴追に向けた粗探し捜査に動き、通常なら警官でもICEエージェントでも、人命が奪われた発砲で必ず行われる事実関係調査を
行わないと発表。ワシントンDCとミネソタ州の司法省では、被害者側への訴追を拒否した敏腕連邦検察官、合計12人が辞任するという異常事態が発生していたのだった。
またFBIはレネー・ニコル・グッドを射殺した直後に「F#*kin' Bitch」と暴言吐き、現場を普通に歩いていたジョナサン・ロスが、「ニコル・グッドの車両に激突され、内臓出血をしていた」と発表。
これには即座に信憑性を疑う声が上がっていたのだった。
一方、国民からの批判と 現地ミネソタでの抗議活動が急速にエスカレートしたのを受け、「ICEエージェントの捜査は全て免責。エージェントに暴言を吐く、捜査をスマートフォンで撮影する等の行為は違法」と
語り、ICEに1件1件民家を周り、住民のステータス確認を命じたのがヴァンス副大統領。
実際には警官、兵士、ICEエージェント等の法執行機関も過剰暴力、越権行為、違法行為で訴追され、逆にエージェントに対しては、暴言を吐いても、スマートフォンで撮影しても罪に問われないのが米国の法律。
個人宅や私有地に捜査官が令状無しに立ち入れないことは、合衆国憲法修正第4条で定められたアメリカ国民なら誰もが知る常識。
しかし今週更に数を増したICEは、法律よりもヴァンスの無責任発言に従って、その狂暴性は益々エスカレート。
中でも国民を怒らせているのは 抗議活動をする市民に対し、「お前らは未だ学んでいないのか?」と、「逆らえば、射殺されても文句は言えない」という「Obey or die (服従か、死か?)」の態度で振舞っていること。
ICEエージェントは半自動小銃、複数のハンドガン、ペッパー・スプレー、催涙弾、テイザー、ナイフ、そして車のガラスを割るガジェットが標準武装で、
今や市民の人権を無視して窓ガラスを割るのはICEの常套手段。さらには身柄拘束中にICEエージェントにアイフォンを奪われたティーンエイジャーは、「自分のアイフォンが勝手に売却されていた」と証言。
今週には運転中にICEに行く手を阻まれた女性が「自分には障害があり、病院に行かなければならない」と必死で説明するも、数人のエージェントがシートベルトをナイフで切断してまで女性を車外に引きずり出し、
後ろ手に手錠を掛けて、生け捕りにした獲物のように運ぶ姿が国民の猛反発を招いており(写真上左)、
SNS上では ICEを”21世紀のゲシュタポ”と呼ぶ声、「ICE(アイス)とISIS(アイシス)の違いが分からない」とテロ組織呼ばわりする声も聞かれているのだった。
2025年には、トランプ政権下での不法移民取締りを強化するために、DHS(国土安全保障省)がICEエージェントを1万2000人増員したけれど、そのプロモーション費用は何と1億ドル。
DHSがICEエージェントに求めるのは 「銃規制に反対し、UFC等の格闘技を好み、軍隊に深い関心や興味を抱き、愛国的・保守的なポッドキャストを聴いている人物」。
しかし若い世代が「もし父親がICEエージェントだったら絶縁する」とSNSに投稿するほど ICEは国民から嫌われており、集まって来る志願者はもっぱら「肥満やドラッグ使用、精神疾患など身体資格を満たしていない」、「犯罪歴がある」ような人々。そこでDHSが提示したのが以下のあり得ない好条件。
・ 新規職員採用ボーナスとして5万ドルの支給(採用奨励金を受けるには、5年間の勤務契約が必要)
・ 連邦政府保証付き学生ローン返済補助金、最大6万ドルの支給
・ 残業手当は最大25%増し
・ 特別退職金制度
・ 高額年収(学歴、経験を問わず、年収20万ドルであることを現役ICEエージェントが非公式に証言)
ここまでの好条件が提示されれば 優秀な人材が集まったかと言えば、半分以上がオープン・ブック・テスト(正解が書いてあるテキスト・ブックを見ながらの筆記試験)で落第点という知的レベルの低さで、驚くべきはその中から採用者が出ていること。
更にはバックグラウンド・チェックを行わない方針に切り替えたことで、前科者が含まれているのが現在のICE。
一時はDHSがもっと有能な人材を集めようと、リタイアした警官や軍人に 「退職金を受け取りながらでも勤務が出来る」という絶好の条件を提示したけれど、応募はほぼ皆無であったとのこと。
では具体的にどんな人々が2025年にICEエージェントに採用されたかと言えば、プラウド・ボーイズ、オース・キーパー等の極右武装グループのメンバーや、
アメリカで ”Jan6er/ジャン・シクサー” と呼ばれる2021年1月6日の議会乱入に参加して前科が付き、トランプ氏に恩赦された人々。
皮肉交じりの言葉を掛けだけでレネー・ニコル・グッドが射殺されたように、ICEが女性に対して容赦なく暴力的なのは、
こうした極右保守がアメリカでは最も女性に嫌われる男性像であるためで、その暴力性の背景には女性への怒りや劣等感があるとも指摘されるのだった。
教官も不足しているICEは 採用者のほぼ全員がガン・オーナーであることから、簡略的なトレーニングで現場に送り出されており、
法律や人権に関する知識や常識は皆無。感情のコントロールが出来ない上に、経験不足で、自分がICEエージェントになったことで 権力と免責を手に入れたと勘違いしているケースは非常に多いと言われるのだった。
ICE上層部も 「昨今のエージェントの暴力性には責任を負いかねる」と危惧し始めている一方で、比較的まともなエージェントは
暴力的なエージェントとの身柄拘束や、留置所での移民に対する拷問まがいの扱いを拒み始めていることから、現在DHSが目論んでいるのは 「トランプ氏を盲目的に支持し、
抗議活動や批判を物ともせず、暴力行為でも正義と信じて遂行できる民間人を 緊急時対策エージェントとして起用する」という常軌を逸した計画。
ナチス・ドイツは、銃殺刑を続ける兵士の精神状態悪化を受けて ガス室を考案したけれど、アメリカも次に何が起こるかは全く予想できないのが現状なのだった。
ミネソタ州の一連の出来事は、海外のSNSでも大きな反発を招いており、ワールドカップ・ボイコットという通常ならあり得ない呼び掛けが広がっているけれど、
そうなる一因はICEのNo.1ターゲットが、サッカーに熱いヒスパニック系移民であるため。
今週にはメキシコ人がICEの収容所で死亡したのを受けて、ワールドカップを共同開催するメキシコ政府が正式に捜査に入ったばかり。
さらに今週には2028年カリフォルニア五輪のチケット購入抽選の受付がスタートしたけれど、五輪開催についても複雑なリアクションが見られているのだった。
渦中のミネソタ州では1月23日金曜日に ”Day of the Truth and Freedom”と名付けた、通学、ショッピング、仕事を含む全ての経済活動をストップするエコノミー・ボイコットが予定されており、
これには州内の様々な組合が既に同調しているとのこと。
SNS上では抗議活動だけではどうにもならない現状を打破するために、「このボイコットをナショナル・レベルで行うべき」との声が拡散されつつあるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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