今週はアメリカだけでなく、世界中がトランプ氏のグリーランド取得を巡るゴタゴタに振り回された印象。
反発するNATO諸国への10%の関税上乗せに対し、NATO諸国が”トレード・バズーカ”と呼ばれる応戦姿勢を見せたことで、
株式市場は大混乱。
スイスで行われていたワールド・エコノミック・フォーラム(WEF)では、カナダのカーニー首相が 「もはやワールド・リーダーとしての信頼を失ったアメリカに依存しない
新しい世界秩序の必要性」を宣言して スタンディング・オーベーションとなっていたのだった。
結局、先週のイラン侵攻に引き続いて、グリーンランドでもトーンダウンしたトランプ氏は、既に1951年にグリーンランド政府から保証されていた新たな基地建設、
レアアース採掘をロシアや中国にさせないことを条件に、米国民の80%が反対したグリーンランド取得は一段落を迎える気配。
しかしトランプ氏がWEFのスピーチでグリーンランドを「block of Ice(氷の破片)」と呼んだこと、アメリカがグリーンランドを所有したことが無いにも関わらず、
「第二次大戦後にアメリカがグリーンランドをデンマークに与えた」という史実と異なるトランプ氏の声明が猛反発を招き、現地の対トランプ感情は益々悪化。
トランプ政権関係者は、グリーンランド問題で勝利宣言をしていたけれど、それ以外の国内外で指摘されていたのは、
アメリカにとって 最も重要な同盟関係であるEU諸国とカナダとの繋がりが「10年掛けても修復不能なレベルにまで悪化した」という事実。
EU諸国とカナダは、ここへきて急速に中国との距離を縮めており、カーニー首相は年明け早々、カナダ首相として80年ぶりに中国を正式訪問。
中国産EVの輸入解禁と引き換えにカナダの液化天然ガス輸出拡大で合意したばかり。
その一方で、ブラック・ロックなどアメリカ国内の大手金融機関は、ドル建て資産の売却に動く様子が伝えられているのだった。
昨年末から報じられていたのが、高級百貨店のサックス・フィフス・アベニューを経営するサックス・グローバルが、会社更生法を申請し、事実上倒産への準備を始めていたニュース。
そのサックスがアメリカでチャプター11と呼ばれる会社更生法を正式に申請したのは1月14日のこと。
世界的に百貨店という業態が売り上げ不振に苦しむ近年、サックスも例外ではなく、2025年の売り上げは前年比で13%ダウン。
しかし売り上げ不振よりもサックスを倒産に追い込んだ要因は、2024年にNYの超高級デパート、バーグドルフ・グッドマンを傘下に収めるライバル、ニーマン・マーカスを27億ドルで買収したこと。
その際に抱えた巨額の負債により 資金繰りが困難になり、2025年12月30日に1億ドルを超える利息の支払が不渡りになっての倒産。
買収以来、多額の利息の支払いに追われていたサックスは、主要仕入れ先に対し3億3700万ドル以上の債務を負っており、
その中にはシャネルへの1億3600万ドル、グッチを傘下に収めるケリングへの2600万ドルの未払いが含まれているとのこと。
払いが悪ければ入荷する商品が減り、客足も減り、必然的に売り上げも下がる訳で、そんな抜け出せない悪循環に陥ったのが倒産へのプロセス。
サックスは不動産を売却し、バーグドルフ・グッドマン株式の一部売却など、資金調達を試みたものの、負債額があまりに大きいために焼石に水の状態。
ニーマン・マーカス買収は大失敗以外の何者でもなかったけれど、2024年当時はラグジュアリー市場におけるサックスの1人勝ちのお膳立てが整った印象を与えており、
だからこそアマゾン、セールス・フォースといったIT企業が 買収サポートのための多額の融資を行うと共に、
サックスに欠けていたオンライン・ショッピングのノウハウを与えることになったのだった。
サックスには会社更生のために、17億ドルの新たな融資パッケージが保証され、そのうちの4億ドルが既に投入されたことで、NY5番街に位置する
サックスのフラッグシップ、及びバーグドルフ・グッドマンを含む主要店舗の営業はそのまま継続。しかし全125店舗のうちの半分は閉店になる運びで、
新たな融資の担保になっているのが他ならぬ5番街のサックス旗艦店の不動産。
この店舗は、「サックス・オン・アマゾン」としてアマゾン・ドットコムでのオンライン販売を始めたサックスが
最大9億ドルの支払いをアマゾンに保証する担保として既に使われていたもの。しかし会社更生法が優先された結果、
アマゾンはサックスに投じた4億7500万ドルの融資担保を失った形になり、
借金地獄にあるサックスが奇跡的な経営を建て直しをしない限り、その全額を失うリスクに直面しているのだった。
かつてマンハッタンには2軒のバーニーズ、ロード&テイラー、ヘンリ・ベンデルを含む10店舗のデパートが存在していたけれど、
現在はメイシーズ、ブルーミングデールズ、サックス、ノードストローム、バーグドルフ・グッドマンの5店に加えて、
デパートと呼ぶには規模が小さいブルーミングデールズ・ソーホー店、ウォール街のプランタンがあるのみ。
半分が生き残っていられるのはマンハッタンという立地だからこそ。小売業界において百貨店は
「絶滅の危機に瀕した 時代遅れの恐竜」と呼ばれて久しい存在。
それでも「デパートは生き残るべき、存続を支えるべき」との声は多く、理由の1つはパンデミック以降、一流ブランドの直営ブティックがどんどん排他的になってきたため。
警備員が見た目で来店客を威嚇し、店内でのサービスも購入記録や見た目の豊かさで差が出るのは言うまでもないこと。
それに対してデパートは、一流ブランドのセクションでも店員がフレンドリー。気軽に商品を眺め、手に取り、試着することが出来る民主的な空間。
経済力に関わらず、昔ながらのショッピングが出来るのに加えて、今の時代に何も買わずに トイレが無料で使用出来る数少ない商業施設。
デパートの経営状態に街や人々の豊かさ、多様性、治安を含む社会の安定性が反映されるという見方は今も健在なのだった。
しかし今やマンハッタンのデパートは売り上げ獲得のためだけでなく、不動産開発業者、及びそれらにエンドレスで資金を投入するエクイティ・ファンドと闘わなければならない状況。
というのもデパートは全て交通の便が良い一等地にあることから、下層フロアに百貨店テナントを入れた超高層コンドミニアムへの建て替えを狙う業者が多いためで、
これまで何度も経営難を乗り越えて来たメーシーズも、数年前にマンハッタンの旗艦店の上にオフィスビルを建設する計画を必死に回避した歴史があるのだった。
マンハッタン59丁目にあるブルーミングデールズにしても、敷地だけは今もブルーミングデール家の信託会社が所有することで、再開発を制限している状況。
もしメーシーズが無くなれば、NYは独立記念日の花火大会もサンクスギヴィングのパレードも無くなってしまう訳で、2024年のホリデイ・シーズンには 既に経営難だったサックスが、それまで続けてきた外壁デコレーション(写真上左)を行わなかったことで、その真正面にそそり立つロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーのアトラクション・パワーが半減してしまったことはニューヨーカーなら誰もが認める事実。
要するにNY市にとってデパートを守るということは、街のキャラクターや景観、そして歴史や伝統を守ることでもあるのだった。
ところで、多額の負債による利息返済に追われて経営が破綻するというサックスのシナリオを辿りつつあるのが、現在38兆ドルの国債を抱えるアメリカ。
国民からの税金を利息の支払だけで使い切ってしまう状況が既に2年続いていると報じられるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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